前哨 君に逢う為に生まれた〜We Love The Earth〜

「でもな、青子。怪盗って言うのは鮮やかに獲物を盗み出す、創造的な芸術家だけど…探偵はその跡を見て難癖つける、ただの批評家にしかすぎねーんだぜ?」

 このセリフを聞いたとき頭の中が真っ白になった。
 目の前のこいつが黒羽快斗と名乗った男がどうしてあの怪盗キッドと同じセリフをはくんだ?
 コナンの時に初めて会った怪盗キッドのセリフをどうしてこいつは知っているんだ?
 目の前のオレに似た顔の男…黒羽快斗は静かに微笑んでいる。
「胸くそ悪いやっちゃなぁ、それじゃああんたは犯罪を肯定しているようにしか聞こえへんわ」
 その黒羽の言葉に服部らしい反論をする。
「だけど、オレの言ってることは正論だと思うぜ」
 正論だと?
 と言うことは……こいつがキッドなのか。
「快斗って……キッドの肩もつよね。青子、そんな快斗嫌い」
「青子ーーーーー嫌いなんて言うなよぉー」
 そう言いながら黒羽はオレの方をちらっと見る。
 挑戦的な微笑み。
 間違いない、こいつが怪盗キッドだ。
「新一?どうしたの?」
「…何でもないよ、蘭」
 蘭が急にオレに声を掛ける。
 ふつふつと、コナンの時を思い出す。
 こいつが(蘭に)したこと!!!!
「青子ちゃん、君の言ったこと受けてもいいよ」
「え?!もしかして怪盗キッドを捕まえるってこと?」
「あぁ、あいつにはちょっとした因縁があるからな」
 蘭のこと二度も眠らせやがって!!
 忘れたとは言わせねーぞ!!
「青子、そろそろいくぞ」
「えぇ、もうちょっと話してよぉよ」
 オレのにらんだ顔に黒羽はこのばにいられなくなったのか移動しようとした。
「黒羽!」
 そう言ってオレは黒羽を呼び止める。
「快斗、だよ新一。またお前には逢えそうな気がするな」
 そう言って快斗はオレに挑戦的な微笑みを向ける。
 そう、まるでキッドの様に。
「あぁ、快斗。オメーにはまた会えそうな気がするぜ」
 テメーからの挑戦状、確かに受け取ったぜ。
 その後オレ達は蘭と和葉ちゃんの要望により観覧車へ乗る。
 もちろん、オレは蘭と乗る。
「新一……さっきどうしたの???」
「さっきって?」
 蘭の言いたいことは分かってる。
 快斗のセリフを聞いてオレが黙ったことだろう。
「黒羽君が…探偵は怪盗の盗んだ後を見て文句つける批評家だって言ったこと……」
 やっぱりな。
 聞かれると思った。
 オレはあれを聞いて動揺した。
 目の前にいる男がキッドと同じセリフはくんだからな。
 おかげでオレのあの時のプライドボロボロだ。
 その後立ち直ったけど。
「……新一???」
 蘭が心配そうにオレの顔を見る。
「なんだよ、蘭」
「何か、新一……事件見つけたって顔してる!!」
 へ???
 な、何でそうなんだよ!
「あ、図星でしょう。もぉ新一ってばすぐそうなんだから」
 そう言って蘭は怒りだす。
 だーーーーーーーーーーーっ、もうキッドは後回しだ。
 今は蘭の機嫌を取るのが先決!
 せっかくの二人きりの密室だし、利用しない手はない!
「蘭、おこんなよ」
「怒ってないわよ!」
 ふぅ、声で怒ってるの分かるっつーの。
 しゃーねーなぁ。
 オレは立ち上がり、蘭の隣に座る。
「ちょ、新一、どうしてこっちに座るのよぉ」
 蘭はそう言いながら立ち上がろうとする。
 その抗議の声を無視し、オレは蘭の腕を引きオレの腕の中に収める。
「ちょ、ちょっとぉ」
「暴れんじゃねーよ。しらねーぞ、止まったって」
「うそ」
「マジ」
 オレの言葉に蘭はようやくおとなしくなる。
 夕方の観覧車の窓から見える風景が慌ただしかった一日を思い出す。
 せっかく朝の蘭と二人っきりの甘い時間から夕方には観覧車乗ってる。
 まぁ、蘭と二人っきりだからいいけど。
「何かきれいだね……」
「何が?」
「風景。夕方って寂しいけど好きだな」
「黄昏時…妖怪が出やすい時間だって」
「やだ、ホント?」
「ホント。実際はもう少し遅くなってから位かな。太陽が沈むか沈まないかあたりの暗いときを黄昏時って言うんだよ。人の顔が見分けつかないから妖怪とかお化けに出会っても分からない時間なんだって別名逢魔が時。お化けと逢うとき」
 オレの言葉に蘭はちょっと怖がる。
 ホント怖がりなんだからな。
「怖がりだよな、蘭って」
「しょうがないでしょう、怖いんだから」
 そんな蘭を見てもっとからかいたくなる。
「夜になったらどうすんだよ。夜なんて妖怪が彷徨してるんだぜ」
「うそ」
「昔の話だよ。今みたいに電気がなかった平安時代とかの話し」
「そうやってすぐからかうんだから」
 そう言って蘭はすねる。
「新一……」
 蘭は不安そうな声でオレを呼ぶ。
「何?蘭」
「居なくならないでね」
「あったりめーだろ、何不安がってんだよ」
「だって……」
 トラウマ……になってんだろうな。
 オレが居なくなったこと。
 蘭は人一倍さびしがり屋だ。
 両親の別居で蘭は一人になることが多くなった。
 それでも頑張ってこられたのはオレがいたからだと思う。
 自負とかじゃなくって蘭に直接言われたから、そうなんだろう。
 でも、オレが突然居なくなって(オレ的にはそばにいたとしても)蘭にはオレがまた突然どっかに行ってしまうと言う不安はぬぐいきれないのかも知れない。
 ……これだったら無理にでも蘭に言っておくべきだったんじゃないだろうか。
 コナンの時にも思ったことを改めて感じる。
「いなくならねーよ。どんな姿になったとしても必ずオメーの側に居るし、オメーの所に戻ってくる。今まででもそうだったし、これからもそうだ。それだけは変わんねーよ」
「……何でも教えてくれないとダメだよ」
 コナンだったってこと言わなかったことか……。
 騙して、嘘ついて、さんざん欺いて、蘭の気持ち踏みにじって……、踏みにじってるつもりはなかったけれど、蘭にしてみたら、オレはうそつきだよな。
「何でもって言うのは無理だよ蘭。でも、オレはオレだってことは言うよ。オメーのこと不安にはさせない」
「本当に?」
「あたりめーだろ?さんざん嘘ついたりしてきたけど、オメーにはもう嘘なんて尽きたくねーよ」
「ホントに?」
 蘭はまっすぐな瞳でオレを見つめる。
「蘭、嘘つかないって言ってんのに嘘言ってどうするんだよ」
「そうだよね、ごめんね」
 そう言って蘭はオレのムネに顔を預けた。
 
 ずっと側に居る。
 ずっと側に居たい。
 それはオレの願い、そして君の願いでもある。
 多分、それは、きっと、ずっと、変わらない。
 きっと…じゃない。
 絶対にずっと変わらない。
 ずっと……。

おまけ
「今日は、工藤のところに泊まってもええよな?」
 服部の言葉に目が点になる。
 冗談だろう!!!
 せっかく探偵事務所に行っておっちゃんはまだ帰ってこない様子を見て蘭はもう一泊するって言うのに!!!。
 なんで大阪二人組(っていうか服部!!!!!)は泊まるって言いだすんだよぉ。
 せっかく蘭と二日目の甘い二人っきりの夜のはずなのに……。
 くっそーーーーーーーーーーーーーーー!!!
 服部、後で覚えてろよ。

*あとがき*
トロピカルランド3部作のラスト。


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