東京恋愛専科〜いろいろ大変だよな〜

「どうして、新一がいるの?」
 蘭はオレの顔を見て言う。
 目線が同じくらいだ…。
「父さんと、母さんがけんかしたから…ここに避難してきた。おじさんいなくって…おばさんがいたからココに少しいていい?って聞いたら良いって言われて…。でおばさんもすぐに出かけちゃったんだよ」
 オレの言葉に蘭はフーンと言う。
 いつもより…子供っぽい。
「新一、泊まっていくの?」
「わからねぇ。喧嘩、多分終わりそうにねぇしな」
 蘭の言葉にオレはそう言う。
 思いだした…。小さいころの事だ。
 父さんと母さんが大げんかして…いつもの他愛もない母さんのやきもちだったわけだけど、父さんが朝帰りをして大問題になって大げんかして…オレはその余波を受けるのが嫌で蘭の家に避難しに来たんだ。
 博士の所って言うのもあったけど、母さんが泣きついて来るのは目に見えてたから…。
「今日ね、お父さんいないの。お母さんは仕事だって言ってた。だから、新一がいてくれると…いいなぁ」
「おばさんがいても良いって言ったら平気だぜ」
「ホント?じゃあお母さんに聞いてみるね。でも、お母さん何時に帰ってくるのかな」
「さぁ…どうなんだろ…。結構…慌ててたから?」
 で…それからどうしたんだっけ…。
 そうだ、おばさんが、依頼主と急な接見で…オレと蘭だけになったんだ。
 夕飯はおばさんが作りに戻ったのかな?
 あんまし上手くなかったけどな。
 で、蘭と風呂に入って。
 一緒に蘭の部屋で寝て……そうそう雷が怖いって蘭が騒いでたっけ…。
 電気消す、消さないでも騒いで。
 そう言えば、蘭の奴、電気消して眠れなかったんだよな。
 蘭のところで暮らしてたときは蘭の部屋の電気は小さい非常灯はついてたし、でも今平気だよな。
 何でだ?
 あぁ、オレがいるからか。
 やっぱオレがいないときは電気消してないのか?
 そうだろな。
 …ん?
 人が近付く気配が感じる。
「ん…らん」
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
 オレが寝ているのに気付いたのか蘭の手には毛布があった。
「別に…平気。そろそろおきようかなって思ってたところだから…」
「新一、少し疲れてるのよ。もう少し寝てたら?」
 咎めるように言いながら蘭は、オレに毛布を掛ける。
「それも…そうだな」
 そんな蘭をオレは抱き寄せる。
「ちょ、ちょっと新一!!」
「いいじゃん、蘭も一緒に寝ようよ」
「もーーーー」
 そうやって怒りながらも蘭はおとなしくオレの腕の中にいる。
「出かけるって約束だよ」
「どうせ映画の試写会だろ」
 そう、父さんが書いた本の映画の試写会だ。
「だったら急がないと。新一、おじさんの代理でしょ?舞台挨拶しなくちゃならいんでしょ」
「オレだけじゃないぜ舞台に立たなくちゃならねーの」
 オレの言葉に蘭は不思議そうにする。
「オメェもだぜ」
「なんで?」
「父さんの代理はオレと蘭なの」
「わたしも…でなくちゃダメなの?」
 蘭の言葉にオレはうなずく。
「オレの日本にいる条件…なんだよ」
「え?」
「父さんの代理を務めることそれがオレが蘭と日本で暮らせることの条件。父さんから出された…。なんてね、蘭はでなくても大丈夫だぜ。どうせ園子の奴が席を用意してるはずだから」
「園子?」
「気がつかなかったのか?その映画会社、鈴木財閥傘下の映画会社だよ」
 オレの言葉に蘭は思いだす。
「ともかく、試写会までは時間がある。もう少しこうしてたい」
 そう言って蘭の髪に顔をうずめる。
 シャンプーの匂いが鼻腔をくすぐる。
「試写会は7時。6時にココをでれば問題ない。まだ2時だぜ。ゆっくりしてようよ」
「しょうがないなぁ…」
 蘭はそう言っておとなしくする。
 たまにはこんな時間もいいよな。
 そう小さな声でささやくと蘭は小さくうなずいて…眠ってしまった。
 少しはゆっくりとしよう。
 …時間に間に合えばいいけど…。
 目覚まし掛けとかないとな。
 蘭には…あの服着せよう。
 どうせ試写会の後は園子の家でパーティーらしいから。
 しっかし夜遅いパーティーになりそうだぜ。

〜おまけ:工藤優作書き下ろし映画試写会〜
 試写会会場
「遅い、蘭、新一君」
 会場の目の前には園子が待ちかまえていた。
「もう、来ないかと思って心配しちゃったじゃないのよ!!」
「新一が悪いのよ。新一が!!」
 そう言って蘭はオレの方をにらむ。
 確かに…それが正しいので否定は出来ない。
 一応…出かける前にはおきれるように目覚まし掛けといた。
 きちんとなった。
 でも…腕の中に蘭がいたから…なんかいたずらしたくなって……。
 つい…。
「つい…何よ」
「つい…目覚ましを止めて……そのまま2度寝」
「二度寝ねぇ…しないでよ!!試写会で挨拶するんでしょ!!もう、分かってるの?叔父様怒ってらっしゃるわよ」
 園子はそう言ってオレ達を控え室まで連れていく。
「お、おい…父さん来てるのかよ」
「当たり前でしょ、叔父様の本は今回映画用の書き下ろしなんでしょ?叔父様がナイトバロンの正体を公表するって言う噂があるんだから」
「どっちみちしねぇよ…あのオチだって知ってるし」
「わたしだって観たわよ。プレ試写。でも観てないマスコミとかがうるさいの!!ともかく新一君、蘭、あなた達二人にも舞台に立ってもらう可能性高いわよ!!」
 園子の言葉にオレと蘭は驚く。
「どういう意味だよ、父さんは蘭を舞台挨拶には立たせないって言ってたんだぜ。それなのに…」
「気がつかなかったの?あのホンの探偵と彼女のモデル新一君と蘭よ」
 嘘だろ…。
 確かに…オレが父さんに話したことには似ていた。
 別に快斗のことを言ったわけじゃない。
 ただ、怪盗キッドに蘭が連れ去られそうになったとは言ったけど…。
 言ったというより言わされたって言うほうが正しい…。
「ホントにでなくちゃダメなの?」
「さぁ…でも、叔父様もわかってらっしゃると思うわよ。蘭と新一君を同じ舞台に立たせるわけにはいかないって…。立たせたら最後…全てマスコミにばれるって。そうなったら鈴木財閥の力だけじゃ押さえきれない…」
「そうだよね…」
 不安そうにする蘭を連れてオレと園子は控え室に入った。
「新一、元気だったか?」
「新ちゃん、元気?」
 出番直前の広い控え室には出演俳優及び監督に混ざって父さんと母さんがいた。
「なんで母さんまでいるんだよ!!!」
「優作の妻ですもの当然でしょ」
 そう言って母さんは屈託ない微笑みをオレに向ける。
「蘭ちゃんも元気?」
「ハイ」
 蘭は母さんの言葉にぎこちなくうなずく。
 舞台挨拶立たなくちゃならいかも知れないって言う不安でいっぱいなんだろうな…。
「父さん、舞台にオレも行かなきゃダメか?」
 蘭の心を受け、オレは父さんに質問する。
「でなくても構わないさ。そう言うわけにも行かないだろ。新一は貴賓席で蘭君と園子君と共に見ていると良い」
 そう言って父さんは相変わらず隙のない微笑みを見せる。
 ホッと一安心をし蘭を見ると蘭もほっとしたようだった。
「じゃあ、オレは蘭達と客席で見てるから…舞台上から呼ぶんじゃねぇぞ」
 オレの言葉に父さんはうなずいた。
 その後オレ達は客席の方に向かう。
「ホッとしたぁ」
「ホント。一時はどうなるかと思ったわよねぇ」
 蘭と園子がほっとした表情で言う。
「脅かしだろ。来るのが遅いからって」
「ばれた?」
 案の定、園子はおどける。
 園子もグルだったらしい
「あったりめぇだろ。あの男がそんなバカなことするかよ。母さんと結婚したことでマスコミに追っかけられて海外に逃亡してるんだ。マスコミの怖さは身にしみて分かってるはずだろうしな」
 オレも…人づてにしか聞かない。
 父さんと母さんが結婚したときさんざんマスコミに追いかけられたことを。
 母さんは賞という賞を総なめにした女優だったし、父さんは父さんで新進気鋭の推理小説家として脚光を浴びていたし…。
 探偵になり掛けの頃オレも口の悪い雑誌にさんざん言われた。
 あの母さんをさらった小説家の息子と。
 まぁ、さすがに探偵として認められるようになってからはそれはなくなったけど。
 第一、蘭を舞台に立たせたら…スカウトがきそうで怖い。
 ナンパされ率は高いし、街角でスカウトにも何度かあってるらしいし、まぁ、蘭の女優かアイドルって言うのも見てみたいけど…、やだ!!
「ともかく映画楽しもう。脚本読んだけど、おもしろそうだったよ。ナイトバロンが猪狩くんで探偵が木野くんなんだよね」
「その彼女がアンアンなんだよ!!猪狩くんのナイトバロンもかっこいいんだけどぉ、木野くんの探偵具合がめちゃくちゃカッコイイのぉ!!」
「ホントォ?すっごい楽しみぃ」
 なにミーハーしてんだよ。
 そうやっているうちに試写会は始まった。
 ナイトバロンシリーズ映画用書き下ろし。
 探偵対ナイトバロン。
 舞台挨拶での木野隆哉と猪狩悠吾の挨拶では女の子の歓声が凄かった。
 映画の出来はなかなかだったんじゃないのかな?
 単なるアイドルがでている映画ではなく本格的な推理物として展開されていたし。
 さすが書き下ろし。
 映画公開と同時に出版される書き下ろした小説もきっとベストセラーになるだろうし、映画はこの季節でトップの興業成績になるだろうな。
 打ち上げと称したパーティーも大にぎわいになるだろう。
 業界関係がたくさんくるんだろうなぁ……。
 まずい、蘭の格好。
 これじゃスカウトされるかも。
 母さんのクローゼットに入っていた、ブランド物のすらっとしたワンピース。
「コレ、蘭ちゃんに着せてあげてね」
 って母さんが送ってくる。
 考えてなかったぁ!!!
「…一、新一!聞いてるの?」
「え…何が?」
「もぉ聞いてない!映画おもしろかったねって言ってるの」
「あ、あぁそうだな」
 とりあえず…どうすっかなぁ。
 まぁ、そうそうに引き上げれば…問題ないか。
 と、言うわけでオレ達は打ち上げ会場である園子の家に向かったのだ。
 だが家に帰れたのは日を越してから。
 父さん達に捕まって…早めに家に帰ることが出来なかったのは言うまでもない。

*あとがき*
タイトルは小沢健二の歌から。


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