「ただ今」
そう言って玄関の扉を開ける。
「おじゃましまーす」
オレの後を幼なじみがついてくる。
足下に目を映すと見慣れない靴が一足。
「誰か来てるんだね」
「そうみてぇだな」
彼女の言葉にオレはそう答えた。
「快斗お帰り。青子ちゃんもいらっしゃい」
今の方から母さんが顔を見せる。
「今、千崎のおじさんがいらっしゃってるのよ」
千崎のおじさん。
オヤジの知り合いのおじさんだ。
オヤジのショーにちょくちょく顔を見せに来ていたおじさんは、青子とも知り合いだったりする。
「お久しぶりです、おじさん」
「快斗君、久しぶりだね。見ないうちにずいぶん大きくなったね」
「っておじさん、あうのは10年振りですよ」
「ハハハハ、後ろにいるのは青子ちゃんかい?」
「ハイ、千崎のおじさん、お久しぶりです」
そう挨拶してオレと青子はオレの部屋に上がる。
「千崎のおじさんにあうの久しぶりだったな」
「おじさまの…お葬式いらいになるの?快斗も」
青子の言葉にオレは静かに頷いた。
「父さんが仕事で、警部も仕事だったとき、よく父さんのショーに連れてってもらったよな」
「うん…青子、覚えてる。千崎のおじさんっておじさまの助手見たいなのやってなかったっけ」
「うん、やってたな。そう言えば…」
思いだす。
オヤジのショーの時の事を。
「快斗っずるいっっ」
家にかえってきてから数分後、オレと青子はゲームをしていた。
今、話題のレーシングゲーム。
「青子、シルビアがいいっっ。快斗ばっかりシルビアでっずるいっ」
「180の方がはえぇだろっ」
「やだやだやだやだっ青子シルビアが良いのっ」
「じゃあ、車体変更する?」
「するっっ」
青子の強固な意見と共にもう一度車体選択の場面からやり直す。
「快斗は何にするの?」
「オレ?青子がシルビアだろ?じゃあ、オレは180な」
「うん」
そしてマニュアルかオートマの設定を決め、レースが始まる。
ちなみにオレはマニュアル、青子はオートマ。
「あっ」
青子の小さな叫び。
オレが操作する180が青子の操作するシルビアを軽く抜き去ったからだ。
「ずるいっ」
「何でだよっ」
「快斗もオートマでやらないんだもんっっ」
「じゃあ、青子がマニュアルでやれよ」
「そんな、青子マニュアルなんて無理だよっ」
言い合いは続く。
よく、友達には
「高校生にもなってゲームで本気になって喧嘩できるのお前らぐらいじゃねぇの?普通次の日口聞かなくなるまで喧嘩しねぇぞ」
と言われる。
確かに、その通りかもしれないけどっ。
オレにだって譲れない(笑)モノがあるんだよ!!
「あぁ、負けちゃったっ。快斗、もう一回やるわよっっ」
「何度やってもアホ子ちゃんは勝てませんよ」
「何よぉバ快斗!!対等に戦ってないじゃないのよっ」
「ハンデだぜ?」
そう青子に言ったときだった。
「相変わらずねぇ」
そう言って母さんが部屋の扉を開ける。
「相変わらずってなんだよ」
「フフフ。相変わらず仲がいいって言うこと。ねぇ、快斗、ちょっといい?」
「ん?」
母さんの突然の言葉にオレは訝しがる。
なんだ?
「…青子、おうち帰ります」
千崎のおじさんまでオレの部屋にやって来た雰囲気に青子は帰ろうとする。
「まって、青子ちゃんにもいて欲しいの」
ますます、怪しい。
母さんはオレに何を言うつもりなんだ?
「快斗、あなたマジックキングダムにでるつもりない?」
「マジックキングダム?」
耳慣れない言葉に首をかしげる。
「マジックキングダムってなんですか?」
「世界マジック大会の別名だよ」
青子の質問に千崎のおじさんはニッコリと答える。
世界マジック大会ねぇ……?!
へっ?
マジックの大会?
「オレがでるのか?」
「そう、でてみない?」
「な、何でいきなり」
「だって盗一君との約束なんですもの」
母さんはオレの質問にあっさりと答える。
「おじさまとの約束?」
「そう、盗一君とね、快斗が大きくなってもまだマジックをやっているのなら、大きな大会にだすのも良いんじゃないかって」
勝手に決めるなよ。
そりゃあ、大勢の観客の前にでるのは気持ちいだろう。
いや、絶対に気持ちい。
何度かやった。
学校の文化祭の時に体育館を使って、青子司会のマジックショーが開かれた。
あまり寄りつかないような時間でありながら、体育館中は超満員。
あの時浴びた拍手の衝撃は…感動した。
が…オレは怪盗キッドだ。
学校と言う身内の中だけで、マジックショーを開くのだから、別にオレが怪盗キッドだろうが構わなかった。
が……、外にでると違う。
オレは怪盗キッドという黒羽快斗なのだ。
「どうだい?焦らせるつもりはないよ。じっくりと考えると良いだろう」
そう言って千崎のおじさんは帰っていく。
「母さん…本気でオレに、大会に出ろっていってるの?」
「うん、わたしは本気よ。快斗はいやなの?青子ちゃんだって見たいわよね」
母さんは青子に意見を求めている。
「青子ですか?青子は……」
一回オレを見てそして
「青子も、見たいです」
とのたまった。
何でだよ。
「母さん、オレは怪盗キッドなんだぜ?泥棒なんだよ?それなのに、オレがそんな大会に出ても良いのかよ…」
「盗一君も…怪盗キッドだったのよ。世界中で公演してたのよ。世界中の人々を魅了したのよ……。怪盗キッドで世界中にファンをもつマジシャン黒羽盗一だったのよ。母さんはそんな盗一君を誇りに思ってるんだけど」
母さんはオレの部屋にある父さんのパネルを見ながら言う。
「快斗…快斗は父さんをどう思ってる?」
そう一言、オレに投げ掛けて母さんはオレの部屋を出ていく。
オレは…父さんを誇りに思ってる…。
けど…。
「青子ね…快斗の舞台見てみたいよ。あぁちょっと違うかな?快斗のマジックを世界中の人に見せたい…かな?学校でね、快斗のマジック見てみんなものスゴク嬉しそうだったじゃない?だからね、世界中の人が快斗のマジックでよろこんだら凄いなって思ったの…。ちょっとさびしいけどね…」
青子はそう呟く。
あの時の賞賛は浴びたい。
「許してくれるのかな?」
小さく呟いた言葉に青子は驚きオレを抱き締める。
「青子?」
「快斗のマジックは…快斗なんだよ…青子、間違ったこと言ってる?許すもなにもないよ。快斗のマジックはみんなが感動する。青子、みんなに感動してもらいたいんだよ。大丈夫、みんな許してくれるよ。快斗のことケチつける人がいたら青子が許さないんだからっ」
青子の強められた腕の力にオレは小さく頷いた。
ダメだと思ってた。
オレには一生かなわないハズの夢。
でも…それを叶えさせてくれようとしてくれる人がいる。
なら、オレはその期待に答えたい。
母さんにつげると母さんはニッコリと微笑んで頷いた。
あれから二日、今日はマジックキングダム日本予選当日。
いきなり日本本選日だ。
マジックキングダム…。
マジックの世界大会。
この大会で優勝したものは名のあるマジシャンが多い。
日本では父さんはそうだし、故九十九元康氏、そして、故木之下吉郎氏のみだ。
この大会の日本予選は何度かに別れていて、今日がこの日本代表の本選日。
この本選はアメリカで行われる本大会同様に観客を入れホールで執り行われる。
で、何故、オレが突然本選に出れるのかというと千崎のおじさんは実は現マジック協会の会長で…おじさんの口聞き出られる様になったのだ。
「君が、黒羽盗一氏の忘れ形見なのかい?」
受け付けの順番を待っていると声をかけてくれる人がいた。
「あぁ、真田一三さんですよね。快斗ぉ、人気実力ともナンバーワンの天才マジシャン真田一三さんだよっ」
とオレに付き添っている青子が言う。
知ってるよ…。
ブラックスターの時オレに変装した奴だよ。
「天才マジシャンと呼ばれた黒羽盗一さんは僕のあこがれでね。君のマジックが楽しみだよ」
そう言って奴はその場を立ち去る。
「千崎さんのおじさんが言ってたんだけどね、真田一三さんってシードなんだって、だから快斗と一緒に本選からなんだよ」
青子は真田一三の後ろ姿を見ながらそう言った。
控え室。
マジックをやる直前というのは神経を使うので…控え室には個人個人に別れていた。
ガラにもなく緊張する。
「快斗?大丈夫…」
青子がオレの緊張を察する。
「大丈夫だよ」
そう言葉を紡いだときだった。
「快斗、応援しに来たぜ」
「快斗くん大丈夫ぶ??」
「快斗君緊張しとる?」
「しとるに決まっとるやろ?」
といつもの4人が入ってきた。
新一と蘭ちゃんと平と和葉ちゃん。
オレのマジック大会出演を聞きつけて、わざわざやって来たらしい。
青子が言ったんだな。
「な、何しに来たんだよっ」
「応援しに来たに決まってんだろ?」
と新一はオレの言葉に意地が悪そうな顔で言う。
「あのなぁ、出てけよぉ!!!マジックする前は神経使うこと知ってんだろ?」
「よぉ言うなぁ、緊張する仕事の前には青子ねぇちゃんの所にいっとたんのやろ?青子ねーちゃんがおるんやから平気とちゃうか?」
それと今じゃ状況が違うだろうが!!!
「ともかく頑張れよっ最前列で見させてもらうから」
そう言って悪魔のような4人(正確には新一と平)は出ていった。
「何しに来たんだよっ」
「でも、快斗の緊張解けたよ」
青子はオレの手を握って言う。
確かに、さっきまで震えていた手が今は落ち着きを見せている。
「大丈夫。大丈夫だよ、快斗。青子がついてるからねっ。ところで快斗…青子どこにいたらいい?客席に行っても平気?」
と青子。
「オレの手が届く所にいて…。舞台袖にいてくれる?」
「いいの?」
青子の言葉にオレは頷いた。
「エントリナンバー5。黒羽快斗」
アナウンスに呼ばれオレは舞台上に向かう。
衣装は白いタキシードに白い蝶ネクタイ。
「キッドにしたら?」
なんて言われたけど、そんなこと出来るはずねぇだろって。
スポットライトの光がオレを照らす。
周りは何も見えない。
が、人の気配を感じる。
オレのマジックを待っているあの気配。
「Ladies and Gentlemen!! It's showe time!!」
声をあげ呪文を唱える。
そうして一気に観客を引き込む。
オレのマジックに観客は一喜一憂をする。
気持ちい。
改めて感じる。
この舞台でマジックをすることの気持ち良さ。
「ラストでないのが残念かな」
マジックを続けながら、ふと心で呟く。
千崎のおじさんがいくら日本マジック協会の会長だと言っても、飛び入りで参加したような格好のオレをラストに持っていけるはずがなかった。
それでも、オレはここに来た人が満足できるようなマジックを披露しなくてはならない。
満足?
満足だけじゃたりない。
満足じゃ…ちょっと物足りないけど、満足したかな?ってとられる。
物足りないと感じさせない、そんなマジックを披露しなくてはならない。
最後の出し物を始める。
オレはたくさん白い鳩を出し、飛ばし始める。
そのたくさんの鳩は場内を埋め尽くし始める。
観客はその鳩をなにがおきるのかと不思議そうに眺めている。
「ワン…ツー…スリー!!!」
オレの掛け声でその鳩は一瞬にして花びらへと変え客席、そして舞台上に降り注ぐ。
次の瞬間割れんばかりの拍手が場内に響き渡ったのだ。
衝撃だった。
オレのマジックに会場内の人が感動した瞬間を目の当たりにした。
オレは静かに礼をして舞台袖に下がる。
「快斗っ」
舞台袖ではちゃんと青子が待っていてくれた。
青子の腕を引き抱き締める。
「快斗っっ」
「すっげー緊張したっっ。オレ…最初どうなるかと思った。スポットライトがさぁ舞台にスゲー当たってて……。観客席全然見えねぇの…。一瞬誰もいねぇのかなって考えちゃってさぁ…気配探したよ」
「快斗ぼっちゃま、よっぽど緊張なされたんですなぁ」
聞きなれた声にビックリしてオレは青子から離れる。
「寺井ちゃんいつの間にっ」
「快斗ぼっちゃまの晴れ姿ですから、こうやって見守るのは当然の事でございます」
あっそ…。
オレは寺井ちゃんの言葉を軽く流し楽屋に戻ってきた。
その間、寺井ちゃんの口から出るのは何故かお説教。
マジックであそこはそうじゃないほうがいいとかポーカーフェイスは最後まで崩さないようにとか、マジックが終わった後に放心しないとか…。
分かってんだよぉ。
分かってること言わないでくれ頼むから。
審査結果は後日発表されることになった。
千崎のおじさんの話しだと、かなり難航しているらしい。
「これじゃなんのためにホール押さえてるのかわからねぇな」
帰り際新一が呟いた言葉にオレは頷いたが、それでも良かった。
とりあえず、今は少し落ち着きたい。
それから数週間後の事だ。
大阪から帰ってきたオレは母さんにキッドは終わりと告げ夏休みをぼーっとすごしていた時だった。
いつもの用に青子がオレの部屋に遊びにきて青子と学校の宿題やら、ゲームやらと勤しんでいた。
「快斗っ。ハイこれね。後、これは青子ちゃんの分」
といきなりオレの部屋にやって来てパスポートを手渡す。
モチロン、青子にもだ。
「…って母さんいきなりなんだよっ」
「おめでとう快斗っ。マジックキングダムに出場が決定したわよ!!!。ゲームなんてやってないで練習をやったやった」
「えっって事は快斗、日本代表に選ばれたんですか?」
「そうよ、青子ちゃんその通りよっっ。千崎さんからさっき電話があってね正式に決定したんですって!!!」
母さんは青子の言葉に興奮気味に答える。
「正式に決定…って母さんっ正式にって、ある程度決まってたって事かよ」
「そうよ、ホントはね、あの会場で快斗が出場ですって言っても良かったんですって。でも、快斗って途中参加でしょ?他の出場者が納得いかないだろうって言ってね」
だろうな…。
だいたい予想は立てていた。
だからオレは無理なんだと思ってた。
「割れんばかりの拍手。あれで本決まりだったそうよ。観客を飽きさせず最後まで引きつける能力はなかなか難しい…て。快斗ってば楽々にそれを決めちゃうんだから」
そう言って母さんは日取りをオレに伝える。
何故、青子のパスポートもあるかというと…青子も近いところで見たいだろうからと言うことからだった。
オレとしては青子はいてくれたほうが嬉しい。
青子がオレに力をくれるような気がするから。
「で、本大会はどこでやるんですか?」
肝心な事を青子が聞いてくれる。
「ん?そんなの決まってるじゃない。ショービジネスの本場ラスベガスよ!!!」
そう、母さんはニッコリと微笑んだ。
ラスベガス。
ショービジネスの本場。
毎夜たくさんの金が動く街。
そして…眠ることない街。
アメリカの中央部に位置するネバダ州の一都市。
周りを砂漠に囲まれているせいか気候は砂漠型。
つまり温度は高いが湿度は低く。
昼まは熱いが夜は涼しいといった典型的な砂漠の気候だ。
そのショービジネスの本場でマジックキングダム世界大会が執り行われるという。
「身体いたい…」
「ホンマや」
「…何でオメェら全然飛行機の中で座ったっきりなんだよ。うごかねぇといたくなるのは当然だろ?」
「んな事言うたかて海外は初めてやねんからしゃあないやろっ」
「だからってなぁ」
平と新一が喧嘩している。
何故か新一達もいる。
「新一のねお父さんがね、快斗君が出場するんだったら来たら良いってチケット送ってくれたの。おじさま達もくるんだよ」
と蘭ちゃんが飛行機に乗る前に説明してくれたけど…納得いかねぇ。
ともかくオレ達は宿泊先のホテルへと向かった。
マジックの世界大会。
大会はラスベガス内にある高級ホテルで執り行われる。
ショービジネスの本場だけあってショーの為のホールは完全設備がされている。
さて、マジックはイリュージョンだけじゃない。
テーブルだって存在する。
初日の種目はクローズアップ。
いわゆるテーブルマジックだ。
オレはクローズアップも得意だが、今回はイリュージョンマジックで登録してある。
「凄いねぇ快斗。これってどうなるの?」
と水色のキャミソールのドレスを着ている青子がオレに向かって言う。
大会と言っても見に来る人にはマジックショー。
海外のマジックショーはほとんど正装が多い。
と言うことで、青子もオレも正装をしている。
オレはモチロン白のスーツ。
「うわぁ、凄い。凄いね快斗」
と目の前で繰り広げられているテーブルマジックに青子はすっかり魅了されている。
なんかムカツクっっ。
「んなもん、オレが後で見せてやるよ。じっと立ち止まってないで次行くぞ」
「もーっ」
オレの言葉を不満に思ったのか青子は顔を膨らます。
「んーもうちょっと見てたかったんだけどぉ」
ったくぅ…しゃーねぇなぁー。
「青子、ちょいちょい」
手招きし青子をオレの握りこぶしに集中させる。
「ワン・ツー・スリー!!」
そうしてぱっと広げると一輪の花が現れる。
「これをお嬢さんに。満足していただけましたか?」
そう言ってオレは青子に花を手渡す。
「っっもー快斗ってばぁっっっ」
まんざらでもなさそうな青子の顔。
「青子、機嫌直した?」
「しょうがないから直してあげるっ。快斗、青子先に行っちゃうよ」
そう言って青子はオレよりも先に歩いていく。
何とか機嫌直った見てぇだな。
極度の緊張も程よい緊張に変わる。
次の日はイリュージョンマジックだ。
当日、オレは控え室で精神統一をしていた。
側にいる青子がオレの方を少しだけ不安そうに見ている。
「似合うわね、その衣装」
母さんが入ってきて早々言う。
オレの衣装は父さんと同じ衣装。
シルクハットに白いタキシード。
これは…父さんの舞台衣装だ。
「母さん…客席にいたんじゃなかったのかよ…」
「快斗のことが心配で見にきたのよ。快斗、しっかりやりなさい。盗一君に負けないくらいね。まぁ、快斗は盗一君には勝てないだろうけど」
と母さんはのたまう。
オレを励ましに来たんじゃないのかよ!!
父さんに勝てないってわざわざ言いに来るなよ。
「快斗、誤解してるでしょ。わたしにとっての世界一のマジシャンは盗一君なんだもん。快斗に盗一君には勝って欲しくないわ。なんてね。見てる人はどう思うか分からないわよ。盗一君の大ファンの人だっているのかもしれない。快斗、その盗一君のファンの人を虜にしちゃうぐらいのマジックを見せてごらんなさい」
母さん…。
「盗一君はわたしにとって一番の人だもの。じゃあ、母さんは客席で見てるからね。青子ちゃん、快斗のことよろしくね」
「ハイっ」
母さんはうれしそうに楽屋を出ていった。
「おばさまの気持ち…青子わかる。どんなに凄い人がいても青子にとってやっぱり快斗のマジックが一番なんだもんね…。快斗、しっかりね」
「あぁ、ワーってるよ」
青子の言葉にオレはそう答える。
「快斗ぼっちゃま…時間でございます」
寺井ちゃんがオレを呼びにやって来た。
「わかった…あっ寺井ちゃん」
オレは寺井ちゃんの所に向かい小声であることを告げる。
オレの言葉に寺井ちゃんはしっかりと頷く。
「よっし、じゃ行きますか」
快斗の後に着き舞台袖まで青子と寺井さんは進む。
舞台袖から客席を覗くと当然の事ながら満員。
「なんか…青子緊張しちゃう」
「オメェが緊張してどうするんだよ。じゃあ、見ててくれよ」
快斗の言葉に青子は頷きそれを見て快斗は舞台上に飛び出す。
そして日本公演の最初の時と同じく
「Ladies and Gentlemen!! It's showe time!!」
と声をあげた。
次々と繰り広げられる快斗のマジック。
一番始めにあったときを思いだす。
青子、快斗のこと魔法使いだと思ってた。
だって何もないところからきれいな花が出てきたんだよ。
そんな夢みたいなこと青子体験したの初めてだったんだもん。
その時からだったんだ…。
快斗のマジックのファンになったのって。
みんなに快斗のマジック見せたくないって思ったときもあった。
それは青子の我が侭で…でも、やっぱり快斗のマジックをいろんな人に見て欲しかった。
青子が感動したあの瞬間をみんなにも知って欲しかったんだ。
だから今凄い幸せなのかもしれない。
世界中で放映されるこのマジックの大会。
世界中の人が黒羽快斗と言う人物のマジックをみて感動してくれるかもしれないんだよ。
凄いよねっっ。
マジックも終盤。
「青子さん」
快斗のマジックに見惚れていた青子に寺井さんがそっと話しかける。
「最後に快斗ぼっちゃまが演じるマジックは盗一様から受け継いだものです。それを青子さんに手伝って戴きたいのですがよろしいですか?」
「青子が?…でも青子出来ないよ」
「良いんです。この寺井が言った通りに動いていただければよろしいんですから」
寺井さんの言葉に頷く。
ラスト直前、日本大会のラストに出したマジックを披露する。
鳩を会場一杯に飛ばし快斗の合図と共に花びらに変わるあのマジック。
花びらが会場一杯に舞い落ちた時のことだった。
「ワン・ツー・スリー!!!」
その声と共に舞台上から今まで自分に注目している観客の目から花びらに注目させるかのようにシルクハットの中からもたくさんの花びらを飛ばしていた快斗の姿が消える。
快斗がいなくなっちゃった…。
「青子さん、今ですよ。良いですね」
寺井さんの合図を受けわたしは一枚の布をもって舞台上に上がる。
舞台にあるのは鍵のかかるガラスケースが一つ。
その目の前で青子は客席に向かって一つお辞儀をする。
ガラスケースの鍵は四つ。
その鍵が開くか開かないかを確認する。
そのガラスケースは本当に透明なのかも観客に確認させる。
そうして青子は全ての確認が終わった後一枚の白い布をガラスケースにかける。
快斗がココに現れることはわかってるけど…ガラスケースだよ。
どうやって快斗はココに入るの?
布をかけてからどのくらいの時間がかかったんだろう。
実際の時間にしたらほんの一瞬なのかもしれない。
でも青子はその時間の中でいろんなこと考えていた。
一番考えてたのは、青子の段取り間違ってないよねっっ。
って事。
だって青子が段取り間違ったら快斗が一位じゃなくなっちゃうかもしれないんだよ。
そんなのやだっっ。
だから青子は寺井さんに言われたことを何度も何度も確認しながら行ったんだから大丈夫よね。
その考えていたときだった。
『コンコン』
ガラスケースからノックがする。
ガラスケースの側にはマイクがあるから、当然ながらマイクはこのガラスケースから聞こえるノックらしきものを捕らえる。
『コンコン』
もう一度聞こえる。
観客席がその音にざわめく。
青子もドキドキする。
『コンコン』
もう一度鳴らされた音に青子は布を取り外すと…ガラスケースの中には快斗がいた。
黒子となった寺井さんが青子に鍵をわたしにやって来て青子はその鍵を受け取りガラスケースの鍵を開ける。
鍵を開け蓋を開けると快斗は飛び出してきた。
舞台中央に青子を引っ張って客席に挨拶をした。
一瞬静まり返った場内。
次の瞬間にはたくさんの拍手。
人々は席から立ち上がって快斗に拍手をする。
「すっげースタンディングオベーションって始めてみた」
快斗は青子に小さく囁いたのだった。
大会の結果…。
「おめでとう黒羽君」
オレと同じくイリュージョン部門の日本代表に真田一三さんがオレに向かって言う。
そう…オレが史上最年少でマジックキングダム世界大会に優勝してしまったのだ。
その事実がまだ信じられずオレは呆けていた。
ちなみに今は日本チームの打ち上げの会場。
「快斗、良かったじゃん。優勝できて」
「快斗君、おめでとう。すっごく感動したよっっ」
打ち上げの会場にはモチロン新一と蘭ちゃん。
そして
「ホンマ…お前は凄いやっちゃなぁ」
「当たり前やん。改めて言うこととちゃうやんか」
「アホ、こう言うのは何度言うてもえぇんやっ」
平と和葉ちゃん。
当然だけど、青子と母さんもいる。
「おめでとう快斗君。君のマジックを初めて見せてもらったけれど、盗一君のマジックを少しだけ思いだしたよ。そして新しいマジックを見せてくれてありがとう。今後の君の活躍を期待しているよ」
とオレに言ってくれた世界的推理小説家の工藤優作。
そう新一の両親もいた。
今後か…考えても見なかったな…。
「快斗君、今後の事なんだがね」
と千崎のおじさんがやって来る。
「今後どうするかね。日本に帰ったら、華々しく凱旋公演するかい?これで君もマジシャンの仲間入りだよ」
「おじさん…ちょっと良いですか…」
少し人のわから離れたところでオレは千崎のおじさんに言う。
「おじさん…オレまだデビューって言うかそう言う公演とかしないようにしようかなって思ってます。確かに…今回この名のある大会で優勝出来ましたけど…おじさんの口聞きで日本大会の本選に出れたようなものだから…少し考えたいんだ…。別にマジックはやめるつもりはないから…」
そうオレはおじさんに告げる。
まだ心のどこかで突き刺さっている…『怪盗キッド』の影。
これがオレの中で消化されないかぎり…表の舞台に立つことは難しいだろうなってそう思うんだ…。
「快斗、凱旋公演だけしようよ。せっかくおじさんが言ってるんだよ。もったいないよ…」
オレの側に居た青子はそう言って俯く。
「もったいないって……。じゃあ、おじさんこうしてくれませんか。凱旋公演はします。他の公演とかは…少し待って欲しいんです」
「良いだろう。じゃあ、君のお母さんにも伝えないとな」
おじさんはそう言いながら母さんを探す。
その時気がついた。
母さんの姿が見えないことに…。
「快斗君、あなたのお母さんならちょっと出掛けるって行って出ているわよ。すぐに戻って来るって言ってたから心配しなくても平気よ、ね、優作」
母さんを探しているオレに新一の両親はそう言った。
輝く夜空から白い影が彼女を包み込むように舞い降りてきた。
「こんばんわ、お嬢さん。お久しぶりですね」
「盗一君っっ。驚かさないでよっ」
「申し訳ありません」
「ホントにそう思ってる」
「もちろん」
彼女の言葉に苦笑しながら盗一は答える。
「盗一君にあうのは久しぶりね」
「そうかな?2ヶ月ぶりだと思うんだけど…」
「ちょっと待って」
盗一の言葉を彼女は遮る。
「何?」
「それって盗一君から見たわたしと快斗でしょ!!!!わたしからしたら1年と3ヶ月ぶりなのよ!!ずるいっっ。また覗いてたんでしょ。わたしがどんなに盗一君に逢いたかったか知ってるでしょう!!!」
黙って彼女の話を盗一は彼女を腕の中にしまいながら聞いている。
「ホントに薄情なんだからっ盗一君って……」
「スッキリした?」
突然静かになった彼女に盗一は静かに問い掛ける。
「……ムカツクっっ」
「クククッ」
盗一は彼女の呟きと相反する彼女の行動に笑いだす。
「なにがおかしいのよっ」
「だってムカツクって言っておきながら腕を回すのはどうかと」
「かっ関係ないでしょっっ」
「そうだね…快斗のマジック見たよ」
話題は二人の息子の快斗の話に移っていく。
「どうだった?」
「まだまだかな…なんて言ったら快斗に悪いな。成長したなとでも言っておこうかな」
盗一の言葉に彼女は静かに微笑む。
眼下に見える夜景が輝きをますなか二人はただじっと静かに抱きあっている。
「盗一君」
「なに?」
「やっぱり…まだダメなの?」
彼女の言葉に盗一は静かに頷く。
「わたし…盗一君と一緒にいたいよ。我が侭だって事ぐらい…わかってるつもりだけど…やっぱり居たいの。ごめんね…、我が侭言って」
「済まない…」
涙を落とし始めた彼女に盗一はそう言う以外になかった。
「……盗一君」
「…ん?」
「時々は逢いに来て…」
彼女は言葉を紡ぐ。
「毎週なんて言わないわ。毎月なんても言わない…1年に4回……半年に1回でいいから…盗一君に逢いたい…」
「……」
盗一は彼女の言葉に抱き締める腕に力を込める。
「ごめん…無理よね。ごめんなさい…」
「違う……違うんだ…」
「どういう意味?」
「まだ…逢いたいと思ってくれている君に感謝したいんだ」
盗一は抱き締める腕をもう一度強める。
強く離れないように強く。
「半年に1度でいいのかい?」
「えっ?盗一君」
「ずっと一緒に居たいけれどそれはかなわないから3ヶ月に一度君に逢いに来る。僕だって…君に逢いたいんだ…」
盗一の言葉に彼女は声を震わす。
「夢みたい…」
「どうして?」
「だって盗一君が逢いに来てくれるんでしょ。わたし幸せよ。ずっと待ってるから」
彼女は盗一の胸でそう呟いた。
風が鳴き白い影は姿を消す。
「母さん…ここにいたのかよ。探したじゃねぇか」
「快斗…ごめんね」
彼女は振り向き探しに来た快斗にニッコリと微笑む。
「母さん?」
「快斗、マジックキングダム大会優勝おめでとう。盗一君も喜んでるわよ。ところで、主役がココに居ちゃまずいでしょ。早く戻るわよ」
「あ…あぁ」
彼女の様子に訝しながらも快斗は母親である彼女に背を押され屋上を後にしたのだった。
数ヶ月後、彼女が盗一と逢ったのはまた別の話し。
やっぱり、キングダムの最後の脱出?転移マジックは不満。
良い案が浮かばなくって…。
一応、青山先生&快斗のBD記念小説だった話。
一番のお気に入りは盗一さんとお母さんの会話。
アニメで盗一さんが出てくるとしたら池田秀一さんがいいなぁなんて考えてたら、池田秀一さんでちゃうし…。
でもホント盗一さん誰にするつもりだろうアニメスタッフ。