本庁刑事恋物語太陽と海とサンバと君と僕と

 今日私佐藤美和子は非番だった。
 職業は警視庁捜査1課強行犯3係の刑事。
 で、本日は久しぶりの非番。
 ホントは…家でのんびりしてたかったんだけど……、刑事という職業柄、次の非番がいつだか分からなかったりするから…。
 一つの事件担当したら…休みもあったもんじゃなくって……。
 その貴重な休みをやらなきゃならないことと、やりたいことに二つに分けて行動した。
 幸い、昨日は早く帰れたから早く寝て今日は朝早くから起きてやらなきゃならないこと…つまり家のことをした。
 掃除、洗濯が主なこと。
 一応、綺麗にはしてる。
 一応、洗濯してる。
 ただ、綺麗にはしてても、いつかはぐちゃぐちゃになっていくもので…、ほら、週休二日じゃないのよ、刑事って。
 国家公務員なのに。
 まぁ、国民の安全を守るために……って言うのが前提にあるから無理なのだろうけど。
 だから散らかった部屋の掃除をする。
 で、洗濯。
 一応、全自動で乾燥機つきの物。
 いつもは乾燥機に全部ほうり投げる。
 けど、今日は天気もいいから外に干す。
 ここは痴漢とか下着ドロとかが登ってこられない4階ですので、一応は安全よ。
 後、フェイクの監視カメラなんかもつけちゃったりしてぇ。
 これって結構効くのよねぇ。
 隠してるつもりで見えるようなところにおいておくの。
 そうするととられないって由美が教えてくれたのよねぇ。
 で、午後は買い物!!
 行きたかったのよ。
 買い物にぃ。
 もう全然いけなかったのよ!!
 この1ヶ月。
 辛かった……。
 ストレス解消になるのに。
「買い物依存症にはならいでね、美和子」
 って、由美に言われそうだけど、それは大丈夫よ。
 私、カードは持たない主義なんだから。
 欲しい洋服あったのよ。
 欲しい靴あったのよ。
 欲しいバックあったのよ。
 欲しいアクセサリーあったのよ。
 はぁ、それもこれも、全然自供しない犯人が悪いんだぁ!!!!!!!!!!
 なんて、思ってても仕方ないわね。
 さ、買い物行こうっと。

 はぁ……。
 何で、忘れちゃってたんだろ。
「高木君、僕のブランド物のジャケット貸してあげるよ」
「すいません、白鳥さん」
 オレは白鳥さんに借りたジャケットを羽織りながらそんなことを思っていた。
 オレ、高木ワタルは本日非番……のハズだった。
 ところが、昨日署内に忘れ物をしたことを家に着いてから思いだしたのだ。
 明日行けばいい。
 そう思ったのが運の尽きだった。
 警視庁のオレのデスクに行くとその忘れていたものはきちんとあった。
 あってよかった。
 そう思って持ってきたかばんにしまったときだった。
「高木君、どうしているんだい?今日は非番じゃなかったのかい?」
「非番なんですけど…忘れ物をしたのを昨日思いだしまして…取りに来たんですよ」
 とオレは目暮警部の言葉にそう応える。
「そうかね、ちょうどいい」
 丁度いい?
 何がだ?
「どうかしたんですか?」
「ONOデパートで殺人事件があった。他の者は他の事件で出払っている。高木君、ついてきたまえ」
 嘘だろーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!
 今日、非番なのに……。
「後、工藤君に連絡頼む」
「は、ハイ…」
 で、オレは今日夜勤だった白鳥警部のジャケットをひとまず借りて、現場に向かうことになった。
 非番だからラフな格好である。
 とりあえず、ジャケットを着れば何とかなるだろう……。
 そう思いながら自分の机の引き出しに入れてある手錠をとりだす。
 せっかくの非番なのにな……。
「しっかりしなさいよ、高木君」
 警視庁をでるオレに後ろから声がかかる。
 声の調子が佐藤さんににていた。
 振り向くと…交通課の由美さんだった。
「何?なんか残念そうな顔してない?」
「してないですよぉ」
「分かった、美和子だと思ったんでしょう。残念ね、今日、美和子は非番よ」
 そう言って由美さんはニッコリと微笑む。
 そのくらい知ってる。
 だって昨日。
「あら、高木君明日休みなの?私も休みなのよ」
 って言ってたんだから…。
「そのくらい知ってますよ」
「…ってあれ?今日高木君も非番じゃなかったの?」
「非番だったんですけど……。忘れ物取りに来たら警部に捕まってしまいまして…」
「あら…ま、頑張ってね」
「ハイ」
 由美さんはオレを励ますかのように見送る。
 あれ?
 何で、由美さんオレが非番だって事知ってたんだろう?
 謎だ。
 ともかく、行かなくては。

 ONOデパート
 久しぶりにデパートに来たわね。
 だいたい買い物には滅多にこれないし…、良い機会だわ、いろいろ見て歩こうっと。
 あっこれ欲しかった服だぁ。
 これ、欲しかったバックぅ。
 欲しかった靴がない…。
 はぁ、買っても着てくとこないのよねぇ。
 由美がうらやましい。
「来週、某企業の営業マンとコンパなのぉ!!」
 って楽しそうに言ってたなぁ。
 私もコンパに参加したーい!!!!
「佐藤さん?」
 ふと声を掛けられる。
「あら、蘭ちゃん」
 そう、蘭ちゃんだった。
 いつもは隣にいるはずの人物がいない…。
「今日は、お休みですか?佐藤さん」
「そうなの。蘭ちゃんは一人?」
 そう聞くと蘭ちゃんはちょっとだけ目を伏せる。
 まさか…ねぇ。
 嫌な予感が頭をよぎる。
「ホントは新一が一緒だったんですけど…。事件……らしくって……」
 と蘭ちゃんは遠慮がちに言う。
 あぁ、やっぱり。
「ごめんね、蘭ちゃん。いつもいつも、呼びだしかけちゃって」
 ものすごく申し訳なくなる。
 情けなくもなる。
「ホント…ごめんね」
「そんな、佐藤さんが悪いわけじゃないですよ」
 って蘭ちゃんは私に言う。
「でもね」
「佐藤さん、悪いのは、推理バカの新一です!!」
 推理バカって……。
「大バカ推理介なんですよ。新一は」
 大バカ推理の介って……。
「言うわね、蘭ちゃんも自分の彼氏なのに」
「当然です!!!」
 蘭ちゃんはいつ見ても明るく振る舞っている。
 私達にそして、工藤君に心配掛けないように。
「しっかりしてますよね」
 捜査1課強行犯3係全員の感想。
 だから申し訳ない。
 私はそう思ってしまう。
「悪いのは工藤君でもないわ。事件を起こす…犯人がいけないのよ!!!」
「そうですね」
「そうよ。犯罪がなければ警察なんて必要のない組織、なんだから」
 でも…犯罪が起こってしまう。
 はぁ…辛いわ。
「蘭ちゃん、嫌なこと忘れるために買い物つきあって」
「わたしでよければ」
「もちろんよ」
 蘭ちゃんは、私の申し出に快く受けてくれる。
 よし、こうなったら買い物よ!!!!!
「佐藤さん、一つ聞きたいことあるんですけど良いですか?」
「何?蘭ちゃん」
 洋服を選んでいる最中にふと蘭ちゃんは聞いてくる。
「佐藤さんって好きな人いるんですか?」
「えっ、やだ、蘭ちゃんったら何言うかと思ったらもう」
「だって…いつ見ても明るくって華やかじゃないですか」
「そんなことないわよ」
 そう言いながらもついあいつのことを思い浮かべてしまう。
「ホントはいるんじゃないんですか?」
「えぇっ?」
 蘭ちゃんは興味津々に聞いてくる。
 参ったなぁ…なんて言って誤魔化そう。
 でも、誤魔化せそうにないわよね。
「まぁ、いないわけじゃないんだけどね…」
「どんな人ですか」
「えぇどんな人って……。ちょっと…情けないんだけど……でも、なかなか頼りになる感じの…人……かな?なんてね」
 でも、気になってるって感じだし…。
 まだ、好きだとか…そう言う感じじゃないのよねぇ。
 どうしてるかな…。
 確か…今日は…非番、だったわよね。

「はぁ、いつも申し訳ない」
 とオレは隣にいる人物に声を掛ける。
 オレは、事件現場であるONOデパートの6階に向かっている。
「いや、高木刑事が悪いわけじゃないですよ」
 とは言いながらも声は沈んでいる。
 多分…いや、絶対にデートだったハズ。
 呼びだす回数がこの頃多くて、彼女と遊びに行ってないんだろう。
 それでなくても遊びたい盛りの年。
 事件に借り出されたくはないはずだ。
「高木刑事こそ、ホントは非番だったんじゃないんですか?」
 ふと彼、工藤君に言われる。
「どうして…そう思ったんだい?」
 まぁ、彼程の観察力があれば、それは見抜けるだろうとは思いながらもやはり不思議に思って聞いてみる。
「そのジャケットですよ。高木刑事の趣味じゃないなって何となくですけど思ったんで」
「その通りだよ。このジャケットは僕のじゃないんだ、白鳥さんのなんだよ。ホントは非番だったんだけどね…、署に忘れ物しちゃって……取りに行ったらコノ有り様。参ったよ」
「お互い、ついてないですね」
 工藤君の言葉にオレは大きくうなずく。
 オレは本来ならば非番で工藤君は本来ならばデートだったのに、事件に邪魔されて…。
「でも、仕方ないよ。事件なんだから」
 ホントは事件なんてあって欲しくない。
 ついついそう思ってしまう。
 当然の事なんだけど。
「そう言えば、高木刑事」
「なんだい、工藤君」
 突然、工藤君がオレに質問をする。
「ふと、思ったんですけど…、佐藤刑事には告白したんですか?」
「え"っ?」
 い、い、い、いきなりっ!
 な、な、な、な、な、な、な、何を!!
「もしかして、まだなんですか?」
「と、当然だろう。そんなこと言える訳ないじゃないかぁ」
 こんな情けないオレなんて佐藤さんには似合わないよ…。
 そう思いながらも隣に白鳥さんとかがいる構図を考えるとショックを受けてしまうんだよなぁ。
 佐藤さんの隣にいるのはオレなら…いいなぁと思う。
 でも、佐藤さん人気だからなぁ。
 競争率高いし…。
「そう思っているのは…高木刑事だけじゃないんですか?」
 そう言って工藤君はニッコリ微笑んだ。
 現場近くにつくと遠くに警察の塊が見えた。
「あそこの様ですね」
「そうだね」
 とオレ達が向かおうとしたときだった。
「高木君?」
「新一?」
 その声がしたほうを見ると…佐藤さんと蘭さんだった……。

 6階の食器売り場で私達が観ていたときだった。
 見知った監察官が遠くの方で何かをやっていることに気がついた。
「トメさんだわ…」
 って事はここの階が現場なのぉ?
「あそこの様ですね」
「そうだね」
 聞きなれた声が聞こえる。
 顔を向けると高木君!!!と工藤君。
 何で高木君がいるの?
 今日、非番じゃなかったの?
「高木君、今日非番じゃなかったの?」
 私が声を掛けると高木君はびっくりして私の方を見る。
「えぇ、まぁ非番だったんですけど…。ちょっと署の方に行って帰ろうとしたら…目暮警部に捕まってしまって…。それでこんなことに…」
「そのジャケット…白鳥君のじゃない?高木君、そのブランドの物、着ないじゃない」
 いつもと違和感のあるジャケットに目を向けながらわたしは高木君に言う。
「え、まぁ、実はそうなんです。現場に行くのにさすがにコノラフな格好じゃまずいかなと思って……白鳥さんが貸してくれたんです」
 そう言って高木君はうつむく。
「全く、鈍くさいわねぇ。なんのために警視庁なんか行ったの?」
「ちょっと忘れ物をして…」
 そう言って乾いた笑いをする。
「ともかく、今は事件よ。早く行きなさい」
 追い立てるように私は現場に向かわせた。
「蘭ちゃん、携帯電話持ってる?」
「えぇ、持ってますけど…」
「貸してくれない?ちょっと掛けたいところがあるのよ」
 わたしの言葉に蘭ちゃんは携帯を貸してくれる。
 場所は警視庁捜査1課強行犯3係に今いるであろうと思われる人物。
 お願いだから、出てよ。
「ハイ」
「千葉君?」
 いて欲しいと思っていた人物はちゃんといてくれた。
「佐藤さんですか?」
「そうよ、お願いがあるの頼んじゃってもいい?」
「構いませんよ。なんですか?」
「あのね、高木君の机の上にある高木君の私物をONOデパートの6階まで持ってきて欲しいの」
「あぁ、これですね……。あれっ?高木さんって今日非番じゃなかったんですか?」
 千葉君はわたしの言葉に不思議がる。
 無理もないわよね。
 非番の人間の荷物があるんだもの。
「高木君、部屋に忘れ物したらしいの。で、とりに行ったら…、目暮警部に捕まったんですって」
「ついてないですね、高木さん」
「そうね。ともかくよろしくね、千葉君」
「ハイ」
 よし、これでよし。
 携帯を蘭ちゃんに返しわたしは現場の方を見つめる。
 わたしは高木君と事件ではほとんど組まない。
 工藤君の事で始めて組んだ。
 組む前は…頼りなさ気で、お人よしで、ドジりやすくて、ハラハラさせて、放っとけない…可愛い弟みたいに思っていた。
 でも、組んで初めて分かった。
 頼りになった。
 不安になったとき、高木君が励ましてくれた。
 落ち込みそうになったとき高木君がちゃんと笑っていてくれた。
 自分だって辛いはずなのに…。
 高木君にはお礼を言っても言いきれないわ。
「高木さん、頼もしくなったって新一言ってましたよ」
「え?や、やだ蘭ちゃんったら、急にどうしたの?」
 焦る私をみて蘭ちゃんはクスクス笑っている。
 参ったわ。
 高木君の事、考えてるのばれちゃったかしら?
 そうこうしているうちに、事件は解決していった。
「佐藤さん、持ってきましたよ」
「千葉君、ご苦労様」
 いいタイミングで千葉君がやってくる。
「ごめんね、千葉君頼んじゃって」
「いえ、別に大丈夫ですよ」
「じゃあ、高木君と替わってきてね。多分もう事件は解決してるから…あとは連行よ。あ、それから、高木君の荷物。署に戻して欲しいんだけど良い?」
「荷物ですか?」
「そ、手錠と、白鳥君のジャケット」
 と千葉君と会話していると高木君と工藤君がやってきた。
「高木君、事件解決したのかしら?」
「ハイ、解決しました。工藤君のおかげです。ホントに」
「そんなことないですよ。高木さんが解決の糸口を見つけてくれたから事件が解決したようなものですよ」
 と工藤君はさわやかに笑う。
「ごめんね、せっかくのところ邪魔しちゃって。警察関係者全員に変わって謝るわ」
「大丈夫ですよ、とりあえず。じゃあ、オレ達はこれで。蘭、行くよ」
「ウン、佐藤さん。また買い物しましょうね」
 そう言って蘭ちゃんと工藤君はその場から離れていった。
「そう言えば、高木君、犯人は?」
「ハイ、応援の人が来まして、僕の代わりに連れて言ってくれるそうです。事情聴取は目暮警部がなされるそうですけど…」
「あ、オレと一緒に来たんですよ。応援の刑事が」
 高木君の言葉に千葉君はそう付け加える。
「そうだったんだ…。じゃあ、千葉君、お願いね」
「あ、ハイ。高木さん、この後は帰っても良いそうなんで荷物持ってきましたよ。で、ジャケット、白鳥さんに返しておきますよ」
「ありがとう、千葉君。悪いね」
「いやいや」
 そう言って、千葉君は署の方に戻っていく。
「さんざんだったわね高木君」
「ホントですよ。参りました」
 そう言って高木君は頭を掻く。
「高木君」
「なんですか?」
 ふと名前を呼んだ私に高木君は振り向く。
「この後、暇?」

「この後、暇?」
 突然、佐藤さんの言葉に戸惑う。
 千葉君が帰り際、
「佐藤さんを誘ってみたらどうですか?」
 と言われて、そのタイミングを伺っていたから余計に戸惑ってしまう。
「ねぇ、暇?」
「え?えぇ、まぁ暇ですけど」
「だったら、食事にでも行かない?」
 突然の佐藤さんからの誘い。
 ま、まさか。
 佐藤さんから誘ってもらえるとは…。
 思っても見なかった…。
「嫌なの?」
「イヤなんてそんなとんでもない。ご一緒させていただきます!!」
「よし。どこに行く?」
「佐藤さんと一緒なら、どこへでも!!」
 ハハハ…つい言ってしまった。
「あら、嬉しいこと言ってくれるわね。今回はおごっちゃう!!」
 佐藤さんはにっこりほほえみながら言う。
「そ、そんな悪いですよ。佐藤さん」
「気にしないで、行くわよ、高木君!!」
 そう言って佐藤さんはすたすたと先に行く。
「ま、待って下さいよ、佐藤さん!!」
 仕方なしにオレは佐藤さんの後を追っていった。
 さんざんな一日だと思ってたけど……。
 まぁ、佐藤さんと食事ができるから良いか。

*あとがき*

高木×美和子よ。
初、高木×美和子小説。
うんうん。
最後にデートも入れられた。
新一×蘭もだしたぞ!!
タイトルは本庁刑事恋物語〜太陽と海とサンバと君と僕〜とだ!!
…ふざけてるよな、このタイトル………。
知ってる人しか知らないこのサブタイトル。
でも、使うぞ!!!
知ってる人いるのかな?
いたら、ホントにメール求む!!!

と言うのが、以前にのせていたときのあとがき。
高木×美和子が残ったのは、あの『太陽と海とサンバと君と僕と』を知っていると言ったあなたのおかげ。
いやぁ、驚きました。
そりゃあ、知ってる人はいるだろうよ。