同棲への道 8:きっと だから ずっと いつも 君に逢う為に生まれた〜We Love The Earth〜

 新大阪の駅で新幹線を待っているのはオレと蘭だけ。
 今待っているのは始発の新幹線。
 昨日の夜、蘭の母親に明日帰るという電話を掛けたら、朝一で帰ってこいと言われたからだ。
 ここまでは服部の家からタクシーで来た。
 新大阪の駅まで見送ると服部は騒いでいたが、服部家の玄関先まででいいと断った。
「蘭…、怖くない?」
「何が?」
「家に帰ること、だよ。不安じゃねーの?」
 とオレが聞くと蘭はうつむきながら言う。
「…不安…だよ。許してもらえるか、認めてもらえるか…って……。でも、新一がいれば大丈夫かなって……思ったら結構不安じゃなくなってるの」
「そうだな、オレも蘭が側にいれば何でも出来そうな気がするんだ」
「ホント?」
「まぁな、今までだってそれでやって来たわけだしな……」
「そっか……」
 そう言って蘭はオレにもたれ掛かる。
「何とかなるよ。ダメだったときはそんときだしな」
「うん」
 すべり込むように入ってきた新幹線にオレと蘭は、乗り込み一路東京へと向かったのだった。

〜蘭:毛利探偵事務所〜
 家に帰ると玄関の鍵はしまっていた。
 もちろん、事務所の方も。
 まだ、朝早いし寝ているのかな。
 そう思い家の方の扉を開けてみるとお父さんの靴はなかった。
 お父さんどこに行っちゃったんだろぉ。
 徹夜で麻雀してるのかなぁ…。
 そんなこと…ないよね。
 まさか……。
 その時食卓の上にメモが乗っているのに気がつく。
『蘭へ 小五郎は私の所にいます。帰ってきたら家の方じゃなくって携帯の方に電話ちょうだい。英理』
 お母さんからのメモだった。
 お父さん……お母さんの所にいるんだぁ。
 わぁ、もとに戻るのかなぁ……。
 そんなこと考えている場合じゃないのに、期待してしまう。
 お母さんとお父さん仲良くして欲しいな……。
「…蘭。何やってんだ?」
 突然聞こえてきた声にわたしは驚く。
 そして、その声がしたほうに向かう。
「し、新一、どうしたの?家に帰ったんじゃないの?」
 玄関に寄り掛かるように立っていた新一にわたしは聞く。
「帰ったよ……」
 どこか歯切れ悪そうに新一は言う。
「どうしたの?」
「あの二人が…帰ってきたんだ」
「あの二人って?」
 わたしの質問に嫌な顔をしながら答える。
「オレの親。帰ってきたんだよ。電話したの一昨日だぜ。そしたら即行帰ってきやがった…であの二人の相手してるの疲れたから、蘭の所に来たわけ」
 と疲れている表情で新一は言う。
「……ったく。まだ結婚じゃねーっつってんのにあのお祭り夫婦は結婚だって喜びやがってよぉ……」
 け…結婚……。
 その言葉を聞いた途端、顔が赤くなってしまった。
 結婚…だなんて……。
 やだぁ、なんか照れちゃう。
「同棲って言ったはずなんだけどなぁ……。ところで蘭、おっちゃんは?」
 新一の言葉に我に返る。
「お父さんは、お母さんの所…電話しなくちゃ。帰ってから電話してってお母さんの書き置きがあったの」
 そう言いながらわたしはお母さんのケータイに電話をかける。
「ハイ、妃です」
「お母さん、わたし」
「蘭……なのね」
「うん。お母さん…今帰ってきたの」
 お母さんの声に少しほっとしながら私は答える。
「心配したのよ」
「ごめんなさい」
 お母さんの声に、わたしは素直に謝る。
「蘭、午後から、新一君の家に行く予定になっているけど、大丈夫よね?」
「どうして?」
 突然のお母さんの言葉にわたしは驚く。
「あなた達、同棲したいんでしょ?あなたのことおねがいするためによ。有希子達も帰ってきてるんだし」
「……お母さん、新一のお母さんに逢ったの?」
「逢うも逢わないも、有希子は帰ってきたら必ず電話してくるのよ。愚痴とのろけをかねてね」
 お母さんはそう言ってため息をつく。
「ともかく、準備しておいてね。蘭、今新一君はいるの?」
「新一?いるよ。変わったほうが良い?」
「えぇ、変わってくれる」
 お母さんの言葉を受けわたしは新一に受話器を渡す。
『新一君ね。午後から私達家族でそちらの家お邪魔しても良いかしら?有希子達かえってるわよね』
「ハイ、かえってますけど……今日の午後からですか?」
『えぇそうよ、有希子達の日本滞在の期間は短いんでしょ』
「そうですけど……」
『だったら早めに逢ったほうが良いわ。』
「じゃあ伝えておきます」
『よろしくね。それから蘭に伝えておいて、今からそっちに戻るからって』
「ハイ」
 新一はそう言って電話を切る。
「お母さん何だって?」
「今からこっちに戻ってくるって……」
「新一、午後から新一の家に行くって聞いた?」
「あぁ、まあな。ともかくオレは一旦帰って母さん達に言ってくるから」
「うん…」
 新一の言葉にわたしは小さくうなずく。
「蘭……安心しろよ。大丈夫だって、全部うまく行く…。うまくいかせて見せるから」
 新一が私を安心させるように言う。
「大丈夫……よね」
「あぁ、大丈夫だ。じゃあな」
 そう言って新一は家に帰っていった。
「蘭、ただいま」
「お母さん。……お帰りなさい」
 玄関の方でお母さんの声がした。
「お母さん、お父さんは?」
「事務所の方にいるわよ。蘭、まずは謝っていらっしゃい」
「……でも……」
「でもじゃないでしょ。あなた心配かけさせたのよ。わかってるの蘭」
「わかった。謝ってくるね」
 事務所に行くとお父さんはいつも座っている指定席でたばこをふかしていた……。
「お父さん……心配かけてごめんなさい」
「蘭…」
「……何、お父さん」
「何でもねー」
 そう言ってお父さんは今吸っているたばこを灰皿に押し付けた後また新しいたばこを吸いだした。
 わたしはその場にいづらくなったので自宅の方に戻る。
「蘭、お昼ご飯を食べたら新一君の家に行くから、準備しなさい」
 お母さんの言葉にうなずく。
 けど……お父さんは許してくれたのかな?
「ねぇ、お母さん、お父さんは許してくれたの?」
 不安になって聞いてみる。
「……そうね……」
 そう言ってお母さんは少し微笑んだだけだった。

 午後になって新一の家に向かう。
 玄関では新一のお母さんがわたし達を迎え、リビングに通してくれる。
 リビングでは新一と、彼のお父さんが本を読んでいた。
「新一、トリックと犯人わかったか?」
「あのなぁ……まだそこまで進んでねーよ」
「おかしいなぁ、ヒントは出しているはずなんだよ。まだまだ洞察力がたらないな」
 そう言って新一のお父さんは顔を上げ、わたし達が入ってきたことをみとめる。
「いやぁいらっしゃい。英理さん、毛利君久しぶりだね。蘭ちゃんも元気だったかい」
「息子相手に、推理クイズか?」
「ハハハハ、昔は君相手だったね」
 お父さんと新一のお父さんとで話しが盛り上がる。
 何となく緊張して、台所に向かうと新一のお母さんがコーヒーを出す準備をしていた。
「あ、手伝います」
「あら、蘭ちゃん。じゃあ、おねがいしちゃおうかな。これ、持っていってくれる?」
「あハイ」
 新一のお母さんにコーヒーサーバーを渡される。
「じゃあ、行きましょうか」
 新一のお母さんは人数分のコーヒーカップをお盆に乗せリビングに向かった。
 リビングでは、向かい合わせに両家族が座る。
 ………緊張して、顔を上げることが出来ない。
「すこし……新一と二人きりにさせてくれないか……」
 談笑していたお父さんが新一のお父さんに言う。
「構わないさ。新一も言いたいことがあるなら全て言った方がいい。では、我々は違う部屋に行きましょうか…」
 そうして、お父さんと新一の二人きりの会話が…始った。

〜小五郎&新一〜
 リビングにはオレとおっちゃんの二人きりになっていた。
 オレの目の前のおっちゃんは家に来て、本日5本目のたばこに手をかける。
「新ちゃん、これ新しいの入れたからね」
 そう言って、母さんがコーヒーを持ってきておっちゃんとオレの目の前に置き、砂糖壺とクリーム入れをおいてリビングから出ていく。
 砂糖を一杯入れコーヒーを一口飲むが、緊張のためか味を感じない。
 おっちゃんはと言うと砂糖を三杯入れ、クリームまで……入れる。
 そして、一口のみ一息入れた。
 ……甘そぉ。
 オレの頭によぎったのはそれ。
 緊張のあまりオレはいつものおっちゃんの様子とかなり違っているのに気がつかなかった。
「新一……」
 最初に口を開いたのはおっちゃんだった。
「オメーずっと蘭の側にいたんだよな……」
 独り言の様に言うおっちゃんの言葉に意味がわからずオレは呆然とする。
「何で、言わなかったんだ。自分の正体を」
 そこまで言われて、オレは納得した。
 おっちゃんが差しているのはコナンであったことだ。
「何で、自分がコナンは工藤新一だ……って言わなかった……」
「言ったら…信じてもらえましたか」
 おっちゃんは何か考え事をしてるかのように自分で吐き出した紫煙の行方を見つめる。
「さぁな……。ただ、オメーがコナンだったって事には気付いてたから信じたのかも知れねーな」
 おっちゃんまで気付いていた。
 その事に驚愕した。
「新一…、なんで言わなかった。自分がそういう目に合ってるって」
 おっちゃんの言葉にオレのムネが突かれる。
「言って、分かってもらえるなら…言ってました…。言って信じてもらえるなら、言ってました。言って……蘭を守れるのなら…オレは言ってました」
 そう、分かってもらいたい、信じて欲しいよりも何よりも、蘭を守れるなら、オレは工藤新一だと言って蘭を組織から守れるなら…オレは、言っていただろう。
 でも、実際はそれが出来なかった。
 言っても、分かってもらえない、信じてもらえない。
 何よりも、蘭を…守れない…。
「いつ……江戸川コナンが工藤新一だと知ったんですか?」
「聞いたのは大阪のボウズたちがこっちに何日か泊まる前だ…そうそう、K薬品が爆破された事件が合っただろう。あの頃優作にな……」
 K薬品会社。
 組織のつながりのあった大阪にある薬品会社。
 ある日その薬品会社が大規模な爆発事故に見舞われた。
 組織とつながりのあったその会社は何らかのトラブルが原因で組織に潰されたのだ。
 それを大阪府警本部長にすべてを話し協力を要請した関係で、インターポールに知り合いがいる父さんに連絡が行って……。
 それから何日か後…父さんと母さんは日本に帰ってきた……。
 多分、その頃だったんだろう。
「今まで、騙して、居候していて申し訳ないと思っています。でも、これだけは信じて下さい。蘭の側にいたかったんです。…蘭をそのせいで泣かしてしまっていたけれど、でも、側にいなかったら蘭の気持ちなんて少しも…分からなかった。そしてオレは、蘭を守りたかったんです。」
 オレは蘭を守りたかった。
 蘭の側にいたかった。
 父さん達がオレを迎えに来たときそのまま海外へ行くということも考えられた。
 蘭が…蘭という存在がオレの中に無かったのなら…。
 蘭がただの知り合いだったのなら……。
 蘭の涙を知らなければ、蘭の寂しそうな顔を知らなければ、オレは海外に行っていたかもしれない。
 だが、オレは知ってしまった。
 蘭の気持ちも。
 だからオレは海外に逃げるということはしたくなかった。
 すべて解決させ、もとに戻り、蘭に告白する。
 蘭の気持ちがオレにあることを知り、それで分かって安心して、期待させる言葉で蘭を縛りつけ、何度もオレへの気持ちを確認させ…。
 オレはオレのエゴで蘭を縛りつけていた。
 それでも……蘭の側にいたかった。
 工藤新一としてはいられない分、江戸川コナンとして蘭の近くで蘭を見ていたかった。
 決して触れることは出来なくても……。
『ホントのこと言うとね。コナン君がね私に新一への気持ちを確認するたびに…安心してたの。どうして言ってくれないの?どうしてわたしには教えてくれないの?わたしじゃ新一の支えになれないの?わたしは新一の重荷?………そんなことよく考えて、不安になってコナン君に意味深なこと言って慌てさせて………ずるいよねわたし』
 そう蘭がそう言ったときオレは思った。
 …蘭を幸せにする。世界中の誰よりも。
 蘭にもう二度とあの時のような思いはさせない。
 蘭には幸せでいて欲しい。
「そんな、顔するな」
 声と同時に手が頭の上に乗せられ乱暴になでられる。
「そんな、つらそうな顔するな。見てるこっちまでつらくなる」
 そう言っておっちゃんはその手をコーヒーカップにもっていきコーヒーを一口飲む。
「昔(コナンになる前)と変わったな…。大人…になってきたって言うんかな。昔は何でも知ってる生意気な態度だったが……。人の痛みを知ったせいか?いい顔になってきた。まぁ、17.8のガキに言うセリフじゃねーな。新一、探偵になるのか?」
「今のところは…そう考えています」
「…そうか……」
 オレの言葉におっちゃんは静かに上を見上げる。
「蘭を…悲しませるようなことはするなよ」
 おっちゃんの言葉にオレは目を見張る。
「蘭のこと、世界中の誰よりも幸せにしろ。オレは……あいつのこと……そうしてやれなかったがな…蘭を英理のようにするんじゃねーぞ」
 その言葉にオレは力強くうなずいた。

〜有希子&蘭〜
「蘭ちゃん、今まで新ちゃんの事ありがとうね。それから、これからも新ちゃんのことよろしくね」
 新一のお母さんの部屋で突然わたしは新一のお母さんに言われる。
「ハイ…」
 新一のお母さんがいれてくれた紅茶を味わいながらわたしはうなずく。
「でね蘭ちゃん、お願い事があるんだけど」
「お願いですか?」
「そう、お願い事」
 そのお願い事の内容が検討つかないでいるわたしに新一のお母さんは言う。
「蘭ちゃん、新ちゃんを幸せにしてあげて。これが私からのお願い事よ」
「新一を幸せに…」
 そう繰り返した私に新一のお母さんは静かにうなずく。
「そう、新ちゃんはね、蘭ちゃんの事を幸せにしたいずっとそう思ってるの。小さいころから今までもずーっと。蘭ちゃんが幸せなら新ちゃんは幸せなの。蘭ちゃん、新ちゃんが幸せなら蘭ちゃんは幸せ?」
「ハイ」
 その新一のお母さんの言葉にわたしは素直にうなずく。
 そう、新一の幸せはわたしの幸せ……。
 どこかでそう思っていた。
「良かった…。蘭ちゃんと新ちゃん二人で幸せになってね。絶対に幸せになれるわよ」
「……ありがとうございます」
「他人行儀な言い方やめて。蘭ちゃんは娘なんだから」
 む、娘???
「そうよ、娘よ。新ちゃんと結婚するんだもの」
 新一のお母さんの言葉にわたしは顔が赤くなるのがわかる。
 新一と結婚……。
 なんかすごいドキドキしちゃう。
「新ちゃんね、昔ね、蘭ちゃんには世界で一番白いウェディングドレスを着せるんだって言ってたのよ」
「くっだらねー事言ってんじゃねーよ!!!」
 突然新一が部屋に入ってくる。
「あら、ホントのことでしょ?新ちゃん」
「……うっせーなぁ」
 新一は新一のお母さんの言葉に憎まれ口をたたく。
「全く、新ちゃんは素直じゃないんだから。ちゃんと小五郎さんに言ったの?新一がコナンちゃんだったって……」
 と新一のお母さんが言うと
「………知ってたよ。オレが江戸川コナンだったってな」
 と新一は言う。
 ………知っていた???
 お父さんが?新一がコナン君だったって知ってたの?
「…正確に言えば気付いていた……ってところ…かな」
 新一の言葉にわたしは驚く。
 お父さんが知っていた。
 新一とコナン君が同一人物だって……。
「……で…新ちゃん小五郎さんは許してくれたの?」
 新一のお母さんの声に新一は顔を赤くしてうなずいたのだった。

〜英理&優作〜
「これで書類はすべてかな?」
 優作は書斎の机の前に座ってその目の前にいる英理に向かって言う。
「えぇ、そうよ。でも、本当にいいの?新一君に権利をすべて移行させてしまっても」
 机の上にある書類をまとめながら英理は優作に向かって言う。
「あぁ、構わないよ。今後、日本に帰ることは合っても、暮らすと言うことはまず無いだろうね。まぁ、あるとすれば余生を過ごす……と言う可能性だが……。そしたら東京ではなく、田舎の方にでも行くだろうな」
「あら、そうなの?」
「まあね、オレの興味は既に東京に無いんだよ。飽くなき探求を満たすための物はね」
 そう言いながら優作はたばこをふかす。
「あら、相変わらず、好奇心があるのね」
「毛利君ほどじゃ無いさ……」
「そう…かしら…」
 英理は、優作の言葉に視線を書類に落とす……。
「私にはそうは思えないわ。彼が刑事をやめた理由も…。何故探偵なんてやっているのかも……」
「…………君を……君と蘭君を守るためだよ。英理さん」
 少しの沈黙の後、優作は英理に向かって言う。
「優作さん?どういう意味?」
 優作の言葉に英理は顔を上げる。
 自分と娘を守る為…と言う言葉に意味が英理にはわからなかったからだ。
「あるとき…、彼はとある事件をおいかけていた……。まだ、彼が目暮警部とコンビを組む前の話しだよ……。詳しいことは聞いてないのだが……その事件の時彼は命を狙われたんだ。そして、その事件の犯人と思われる人物は、君と蘭君の命までも狙い始めた。…仕方なく、捜査本部は毛利小五郎を捜査から外し、彼が捜査に乗り出さないようにと目暮警部の下につけたらしい………」
「そんなことが…合ったの?」
「聞いてなかったのかい?まぁ、毛利君はめったに他人に事件のことは漏らさないからね…」
「どうして言ってくれなかったのかしら……あの人は……」
 視線を落としたままの英理は呟く。
「君に…負担をかけたくは無かったんじゃないのかな?君は弁護士になりたてだったろうしね……」
 英理は優作に言われたころの自分を思いだす……。
 司法試験に現役で合格し、それでもまだ弁護士ではなく…、司法修士生としてとある弁護士事務所に所属していた頃……。
「優作さん…、あの人が刑事をやめたのもその事件が理由なんですか?」
「間違いなくね……。……捜査から外されても彼は一人で調べていたらしいから……」
 優作の言葉に英理は涙をこらえるかのように上を見上げる…。
「蘭を……尊敬するわ……。私は、あの人の行動に我慢が出来なくて側から離れてしまった……。でも、あのこは……違うわ。ずっと…信じて…新一君を待っていた……。あの娘には…幸せになってもらいたい。私の分も…」
「そうだね、蘭君と新一には幸せになってもらいたい…。だが、君だって……幸せになれるよ…。今からだって遅くないはずだ。毛利君のところに帰るのは……」
 優作の言葉に英理はうつむき、呟くように言う。
「私、許してもらえるのかしら……」
「何故?」
「だって…勝手に出てきたのよ。小五郎が勝手に出てった私を許してくれるはずが無いわ」
「許してくれるさ」
 優作の言葉に英理は顔を上げる。
「本当に?」
「もちろんだとも、それに毛利君だって君のことを待っているはずだ」
「そうね……。蘭が…いなくなったらあの人一人じゃ生きていけないものね…」
 そう言って英理は憂いの無くなった顔で微笑んだ。

〜新一×蘭:その後〜
 父さん達がアメリカに帰って2日……。
 明日、蘭が越してくる………。
 荷物は…そんなに無いはずだけれど……。
 問題は蘭はどこの部屋に寝るか……だ……。
 それを考えると顔がにやけて………じゃなくって悩んでしまう。
 蘭はどこの部屋がいいのか?
 母さんは
「あら、新ちゃんと一緒の部屋でいいんじゃないの?だったら私と優作が使ってた部屋でもいいわよ」
 と言うし父さんもそれに同意する。
 はぁ、長かった……な。
 蘭と一緒に暮らせるようになるまで。
 まぁ、コナンの時だって一緒に暮らしてはいたが…、おっちゃんと子供という体が邪魔をしていた……。
 だが、今度は違う。
 蘭と完ぺきな同棲!!!
 二人っきり。
 ちょっとでも蘭がいないと落ち着かない。
 気持ちを落ち着かせるためベランダで眠るための酒を一杯飲んでるが……。
 …とても酔えそうにはならねぇな……。
 まぁ、酒一杯で酔っぱらう工藤新一様じゃねーけどな。
「〜君に逢う為に生まれた 愛するために生まれた we love the earth いつか二人だけのgood vibretion 思い出はいらない 君と離れられない we love the earth 夜に 見つけだすよ stay with me tongiht〜(着メロ:we love the earth:song by TM NETWORK)
 蘭からだ!!!!
「もしもし、蘭?」
『どうしたの?新一……』
 蘭の優しい心地いい声が携帯の受話器から聞こえる。
「どうしたんだよ、こんな時間に…」
『新一こそどうしたの?出たとき凄い慌ててたみたいだけど…』
「まさか、電話があるとは思わなかったんだよ……。夜も遅いし…明日は…大変だぜ、早く寝ないと」
『うん…そうなんだけどね…何か眠れなくって……。お母さんがね帰ってくるって言ってた。…お母さんと暮らせないのは寂しいな……』
「じゃあ、やめる?」
 寂しそうに言う蘭にオレはそう告げる。
 蘭は母親と暮らしたがっていた。
 母親と暮らしてなかった今までいろんなことが合った。
 おっちゃんに話せないことだってあって…、オレが聞いても…上手いこと言えなくって結局母さんに助けをもらったことだって合った…。
『バカ……それとこれとは別よ。……お母さんとお父さんが仲良くしてくれればいいの。新一の家とわたしの家って全然近いじゃない。新一と別れたとき簡単に帰れるんだもん』
「……オイオイ…本気で……いってんのかよ」
 蘭の言葉に血の気が引いていくのがわかる。
『クス…冗談よ。…知ってるでしょ?わたし、新一以外の人は好きになれないって……』
 そう言って蘭はクスクスと笑いだす。
 ったく、冗談も程々にしろよなぁ。
 オレはマジで焦ったんだぞ。
『あ、そうだ。新一聞いた?明日青子ちゃん達と和葉ちゃん達もこっちに来るって』
 達………?
「……達って言うのは蘭、もしかしてセットで来るってことか?一人ひとりじゃなくって」
『うん。服部君と和葉ちゃんと、青子ちゃんと快斗君がわたしの引っ越しの手伝いに来てくれるの』
 ……またかよぉ。
 また、オレはあいつらに邪魔されるのかよぉ。
「まさかその後泊まるなんて言いださねーだろうなぁ」
『さぁ、そこまでは聞いてないけど……嫌?』
「あったりめーだろ!!!蘭が家出したときオレはさんざん邪魔されたんだぞ!!!」
 今思いだしても腹が立つ。
 だいたい、なんなんだよ、あの二人は。
 オレの邪魔して楽しいのか??
『服部君とか快斗君とかいても楽しいよ』
「オレは楽しくない」
 邪魔するだけ邪魔するあいつらは嫌いだ!!!
 邪魔しなければいいけどな。
『大丈夫だよ、服部君も快斗君もわかってくれるよ』
 蘭の言葉にオレはしぶしぶうなずく。
 わかってくれるのか?
 オレの中で少しの疑問を残したまま蘭との電話を終了したのだった。

*あとがき*
優作と英理の会話がお気に入り。英理さん、工藤家顧問弁護士設定は当サイト全般設定。


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