球技大会の数日後の事だった。
放課後、教室からでて蘭と共に階段を下りる。
いつもは蘭は手すりの方にしているんだがその日だけは、違っていた。
園子が一緒にいて蘭を挟むようにして歩いていたからだ。
園子が一歩前に出て歩く。
「でね、蘭。駅ビルの中にかわいーお菓子屋さんが出来たのよ」
「ホント園子。今度そこに行こうよ」
「あら、蘭から誘ってくれるなんて珍しいわね。いいのダンナのこと放ってても」
「いいの。たまにはいいよね新一」
そう言って蘭はオレの方を見る。
ちょっとは園子の「ダンナ」に反論しろよ…。
と思いながら、蘭の問い掛けにオレは答える。
「いいよ、蘭」
「ホントに?」
「あぁ」
オレの言葉に園子は喜ぶ。
「やったぁ。新一君、蘭を借りるわよ。行くわよ、蘭」
そう言って園子は蘭の腕を掴み引っ張ろうとする。
オイオイオイ、誰も今日はいいなんて言ってねーぞ。
「って今日行くの?」
「ダメ?」
「今日は……新一と……」
そ、今日はオレとデートだよ。
「つまんないのぉ。しょうがないなぁ、じゃあ、新一君、おわびに新一君のおごりでケーキ食べ放題に行こう」
オイ、何でそうなんだよ!!!
「あら、いいわね。その時は私も呼んでくれるんでしょう?鈴木さん」
「もちろんよ、宮野さん」
宮野と園子はすっかり意気投合していく。
止めてくれーーーーー!!!!
「あのなぁ!!!」
そう、オレが二人に反論したときだった。
時間帯が悪かった。
下校時間。
一番人が多くなる時間帯。
確かに蘭からちょっと目を離した。
あの時感じた何かがどうもぬぐいきれなくて蘭から目を離すことはしなかった。
だが……。
「えっ」
蘭の驚いた声。
蘭を見るとそのからだが前のめりに倒れそうになる。
「蘭!!!」
園子が叫ぶ。
「蘭」
そう言ってオレは咄嗟に階段の手すりを掴み蘭の身体を片手で支える。
「ふぅー、間一髪。蘭、大丈夫か?」
何とか間に合い、蘭に声を掛ける。
「蘭、大丈夫」
園子が蘭に近寄り蘭の身体をまっすぐにする。
「蘭さん、顔が青いわよ」
宮野の言葉にオレは体勢を戻しながら蘭の顔を見る。
確かに青い。
「蘭、何が合った」
「何でもない、大丈夫だから…」
蘭は力なくそう答える。
「蘭、それが何でもない、大丈夫って言う顔か?オレを誰だと思ってんだよ。探偵だぜ、オメーが突き落とされそうになったことぐらいオメーの顔を見れば分かる」
蘭の顔を見て気がつく。
蘭は誰かに突き落とされそうになった。
しかも、このオレが見ている目の前で…。
「工藤君、冷静になりなさい。ココで騒いでいても仕方ないわよ」
宮野が冷静な声でオレに言う。
「新一、大丈夫だから」
強情にも蘭は言う。
大丈夫って言う顔してねーんだよ……。
「蘭、ちょっと保健室で休んでろ…」
そう言ってオレは蘭を促した。
「私、工藤君のこと好きですから、毛利さんには負けませんから」
そう言い放った強気な女の子。
ショートカットで高校入学してたときから新一を見ていたと言う。
そんなこと、昼休みに言われたからかな、その時、わたしはぼーっとしてたの。
園子、わたし、志保さん。
わたし達はいろんな新一を知っている。
園子とは小学校の時からずーっと一緒だった。
もちろん新一も。
園子と新一と三人で遊ぶことだって結構合ったし、新一のことを園子に相談したりもしていた。
新一も何となく園子に突っ込まれて言ったこと何度か合ったらしい。
園子にも聞いたし、新一にも聞いた。
で、志保さんは………新一がコナン君だった時……を知っている人。
新一と同じように薬を飲んで小さくなった人。
ある日言われたっけ……。
「私、工藤君のこと好きだったわ……」
って。
それ聞いたとき怖かった。
「今は?」
「今はなんとも思ってないわ。今は研究対象」
って志保さんは言ったけれど、その事を聞いたときは怖かった。
怖くてしょうがなくって、その日は無理やり新一の家に泊まってしまったのだ。
不安で、怖くなって、自分ではそれが取り除けなくって、だから、どうしようもなくって、新一にその不安を取り除いてもらうために。
って、今は関係ないね。
「私、毛利さんより工藤君のこと好きになったとき早いですよ」
なんて、軽く言われる。
私が新一を好きになったの…いつだろう。
小学校の時はもう好きだったから…その前かな。
それより早いなんて言う。
新一のこと知らないんだ…。
ってそう思った。
だいたい新一のこと知っている人は幼なじみのわたしがいることを知っている。
……なんか自慢みたい。
でも、彼女の強気な態度がわたしは気になっていてその手には気がつかなかったのだ。
押された。
その瞬間、身体が倒れる。
「蘭!!!」
園子が叫ぶのが聞こえる。
「蘭」
新一の声がする。
そう思った瞬間、新一の腕に私は支えられた。
「ふぅー、間一髪。蘭、大丈夫か?」
心配そうに新一は私の方に顔を向ける。
「蘭、大丈夫」
園子がわたしに近づきの身体をまっすぐにする。
「蘭さん、顔が青いわよ」
志保さんがそう言う。
青い……そうかも知れない。
誰かの殺意に気付いた感覚。
「蘭、何が合った」
「何でもない、大丈夫だから…」
新一の問いに私は答える。
新一の心配そうな顔見たくないから。
「蘭、それが何でもない、大丈夫って言う顔か?オレを誰だと思ってんだよ。探偵だぜ、オメーが突き落とされそうになったことぐらいオメーの顔を見れば分かる」
そう言って新一は叫ぶ。
心配掛けてしまった。
新一には心配掛けたくなかったのに…。
「工藤君、冷静になりなさい。ココで騒いでいても仕方ないわよ」
志保さんが冷静な声で新一に言う。
「新一、大丈夫だから」
わたしはそう新一に告げる。
その時あの子がわたしの目の前を進んでいた。
わたしと目が合った瞬間……笑っていた。
怖い。
「蘭、ちょっと保健室で休んでろ…」
「新一はどうするの?」
「ちょっと調べものする。園子、蘭を頼む」
そう言って新一は行ってしまった。
「で、原因はなんだと思ってるの?」
オレの後をついてきながら宮野は言う。
「だいたい想像はつくし、犯人の目星もだいたいある。まぁ、オレのファンか、蘭のファンのどっちかだろうな」
「あら、自信あるのね」
「普通そうだろ、学校で狙われるとしたら、彼氏彼女のことが好きなやつって」
だから、腹が立つ。
何でわざわざ蘭をケガさせようとするんだ?
球技大会の時も蘭のこと突き飛ばしてねんざさせた。
オレの視線からは死角になっていたから確実なことは言えないけれど。
まず、オレの方を開ける。
「あの時試合していたクラスの娘は3人いるわね」
蘭の変わりに試合に出た宮野が言う。
三人、設楽由美子、相原佳織、三井綾子の三人。
「面識ある?工藤君」
特にない。
その後、蘭のげた箱を開け、中を確認する。
「大胆に彼女のげた箱開けるのね」
「わりーのかよ」
「別に」
だったら、いちいち突っ込むなっつーの。
中は特に問題はなかった。
大量に入っているラブレター以外には……。
しかし、今どきラブレターを出すやつがいるとわな……。
目に留まったのは次の三人。
藤堂秀二、姫宮透也、石川雄二。
この三人は後半クラスのトップ(別名ナンパ王)の連中じゃねーか。
こんなやつらまで蘭に手紙出してるのか!!!!
このオレがいるっつうのに。
「あら、あなたの威嚇は無駄みたいね」
「うるせー」
だから、いちいち突っ込むなっつーの。
「藤堂秀二と相原佳織は付き合ってるわよ、新一君」
後ろからのぞき込むように園子は言う。
「って、何でオメーがここにいるんだよ」
「保健室に新出先生がいるから先生にまかせちゃったのよ。新出先生ってば蘭ねらいよねぇ」
「園子!!!!何でオメー蘭の側にいねーんだよ」
「いいじゃないの」
「良くない」
よくねーよ。
新出のやろうと蘭を二人っきりにさせるわけにはいかなーーーい。
「わ、私が保健室に行くわ」
宮野が言葉少なに保健室に向かう。
「なんだ宮野のやつ?」
「こりゃ、噂はホントかな?」
園子が走り去る宮野の後ろ姿を身ながら言う。
「なんだよ園子」
「宮野女史、新出先生とのおつきあいの噂」
マジで?
「確か今月の頭ぐらいからそう言う話し出てるわねぇ」
しんじらんねー。
あの宮野がねぇ。
「それよりなんか分かったの?新一君」
「いや、全然わかんねーよ」
「さすがの名探偵も分からないか。では、園子さんが君が持っているラブレターの書いた主がどういう人物か教えてあげましょう。男子の情報より、女子の情報ってね」
園子は言う。
「まず、藤堂秀二と相原佳織は付き合ってるって言ったわよね。で、姫宮透也は蘭の裏ファンクラブの会長って言う噂。設楽由美子は新一君の大ファン。石川雄二は設楽由美子が好きらしくって、三井綾子は石川雄二が好きらしいわよ。設楽由美子ってあんまり言い噂聞かないけれど、三井綾子は性格良好の成績優秀者」
その時、ショートカットの女の子がやってくる。
「あ、工藤君。始めまして。私相原佳織って言います。工藤君、毛利さんケガしたそうですね?大丈夫ですか」
相原佳織。
オレのげた箱にラブレターらしきものを入れたやつ。
「工藤君、私の手紙読んでくれた?」
「いや…まだだけど…」
そう答えたとき藤堂秀二がやって来た。
「佳織、何やってんだよ。ん?工藤じゃねーか、可愛い彼女はどうしたんだい?」
「彼女?毛利さんのこと?」
「そうだよ、だから工藤はお前のもんにはならないって言ったじゃん」
「ひどーーーい、そんなことないよね。工藤君」
は???????
どうしてそう言うことになるんだ?
「工藤君が私のものになったら毛利さんはあんたのものになるじゃないの」
だから、どうしてそう言うことになるんだよ!!!!
「じゃあ、工藤君またね」
「じゃあまたな」
呆気に取られているオレと園子を無視するかのように二人は消えていった。
「園子、あの二人付き合ってるんじゃねーのか?」
「んー別名カップル殺しの二人組。って言うのを聞いたことが……」
カップル殺しねぇ。
あきれてものが言えねーや。
「そう言えば……聞いたことあるわよ。昔、彼等二人に壊されたカップルの話し」
「新一どうしたの?」
保健室に来た新一は浮かない顔をしていた。
「何か気にかかることでもあったの?」
そう聞いても新一はただ心配するなって言うばかり。
一緒に戻って来た園子も青い顔をしている。
「ねぇ、どうしたの?」
「何でもないわよ蘭」
そう言って園子は誤魔化しそそくさと帰ってしまった。
「新一、教えてよ」
帰る道すがら私は新一に聞く。
「蘭、オレの側にいろよ」
突然新一は言う。
「な、何?急に。わたしはいつも新一の側にいるよ」
「そう言う意味じゃなくてよぉ……」
そう言って新一はうつむく。
「何?新一」
「オレの側から離れるなって事だよ」
新一の真剣な表情に思わず緊張してしまう。
「どういうこと?」
新一はわたしの問いには答えずに、わたしの腕を引いて歩いていた。
「毛利さん、……君が呼んでるけど」
昼休み、蘭は呼びだされる。
相手はわかっている。
「宮野、頼む」
「はいはい、人使いが荒いわね。まさか、これを使うとは思わなかったけれど」
そう言って宮野はポケットの中から探偵バッジを取りだす。
「じゃあ、行ってくるわね」
そう行って宮野は蘭達の後を追う。
「新一君、動き出したわよ」
見張っていた園子がオレに言う。
「サンキュ。園子」
「解決したら、ケーキ食べ放題ね」
わーってるよ。
廊下に出ると目的の人物はオレを見つける。
その時、宮野からの交信。
「ハイ」
「彼女達、屋上よ。なるべく早くしたほうがいいわよ。何か合ってからじゃ遅いんだからね」
蘭達の様子を窺っている宮野が言う。
わーってるよ。
屋上へ近付く階段のところでオレは待ち伏せした。
「工藤君、どうしてここにいるの?」
「あのさ、こんなくだらねーことやめねーか?相原」
「くだらないことってどういうこと?」
「聞いたぜ、あんた達二人のこと、カップル崩しって言いながらカップルの彼女を傷つけて崩すんだってな。あきれてものが言えねーぜ」
そう、園子から聞いたかなりくだらない話し。
話しを聞いてぞっとしたね。
そんなくだらねーことで蘭がケガさせられたんだ。
「そんなに彼女が大切なんだ?ただの高校に入ってからのクラスメートなんでしょ?わたし工藤君のこと入学の時から見てたんだけどな。今年に入って毛利さんと付き合うなんてね、ちょっとびっくり」
……ってこいつ、オレと蘭が幼なじみって言うのしらねーんじゃ……。
その可能性かなり高い。
なんか……ばからしくなってきた。
「わりぃ、相原。オレと蘭のこと崩そうと思うんだったらもうちょっとオレと蘭の関係調べてからにしてくれ。わりぃけどオレ、お前と付き合う気サラサラないから」
そう言い放ちオレは宮野に交信する。
「あら、解決したの?」
「あぁ、あまりのくだらなさにちょっと力が抜けた」
「だったら、こっちに早く来たほうがいいわよ。彼女ちょっとピンチだから」
「分かってるよ」
そう言ってオレは宮野の隣に立つ。
「サンキュな宮野」
「礼より、蘭さんの方に行きなさい」
「わーってるよ」
宮野に探偵バッチを返し、オレは二人の方に向かった。
「毛利さん、藤堂君が呼んでるけど」
そう言われて廊下まで行くと、この前わたしに「負けないから宣言」をした相原さんの彼氏である藤堂くんがいた。
「何、藤堂君?」
「ココじゃなんだからちょっと屋上まで来てくれない?」
「え、でも……。」
「な、いいじゃん」
そう行って無理やり藤堂君がわたしの手を引っ張っていく。
新一の方を見ると新一は気付いてない。
新一のバカー!!!
無理やり屋上まで連れてこられる。
「で、何?」
「ラブレター読んでくれた?」
「ラブレター…?」
「そ」
……ラブレターは捨ててるから読んでない。
なんて言えないわね。
「ごめんなさい。あんまり読まないことにしてるから……」
「工藤がいるから?」
「う、うん」
「だったらさぁオレと付き合わない?」
は?
藤堂君の突然の言葉にわたしは面食らう。
付き合わないってどういうこと?
「藤堂君には相原さんがいるじゃないの」
「佳織?カンケーないよ。あいつはねぇ、工藤なんて止めてさぁオレと付き合おうよ」
そう行って藤堂君はわたしに顔を寄せてくる。
「な、何するの?わたし、新一以外の人と付き合う気ないから」
「えぇ?いいじゃん。君だったら二股、三股ぐらい簡単にできるよ」
こ、この人本気で言ってるの?
やめてよねぇ。
頭来たのでケリぐらい入れようかと思った瞬間だった。
「てめぇ、人の女に何するんだよ」
新一がやって来て藤堂君を一発ぶん殴る。
「新一ぃ」
新一の方に行くと新一は優しく抱き締めてくれる。
「いい加減頭きてんだよ。藤堂、蘭が大けがしたらテメーどうするつもりだったんだよ」
え?どういうこと。
「こいつだよ、蘭のことを階段で突き飛ばした野郎は…。カップル崩しだかなんだかしらねーけどよぉ、蘭にケガさせようとしたオメーだけは許せねぇんだよ」
そう言って新一はわたしを背中に回し、藤堂君に向かって言う。
「大体なんだよ、彼女にケガさせて、オメーは彼女を看病するだぁ!頭わりぃんじゃねーの。そんなバカみてーな事で蘭がケガしそうになったとはな。蘭がねんざしたときの犯人は相原佳織だよ。あまりのばからしさに目まいがしてくるよ」
新一はそう言ってため息をつく。
「あ、そうそうカップルを崩そうとするんだったら、もう少しその二人のこと研究することだな。オメーら、オレ達のこと知らなすぎ」
「どういうことだよ。工藤」
「オレと蘭、何年一緒にいると思う?」
「たかだか二、三年だろ」
そう言った藤堂君の言葉に新一はあきれ返る。
「はぁ、やっぱり知らなすぎ。オレ蘭と一緒に…蘭今年で何年?14年ぐらい?」
「うん」
「と、言うわけだ。じゃあな、藤堂。蘭、教室に戻るぞ」
新一の言葉に藤堂君はうなだれる。
「ねぇ、ホントに知らなかったの?藤堂君と相原さん。わたしと新一が幼なじみだって言うこと」
「みてーだな」
新一はつまらなそうに言う。
「蘭、この先どのくらいオメーと一緒にいるんだろうな」
「いきなりどうしたの?」
「なんか14年側にいると思ったらさぁ、この先どのくらい蘭と一緒にいるんだろうって考えて……多分きっと何十年ってなるんだろうなって……」
え………、それって……。
「蘭、ほら早くしないと置いてくぞ」
立ち止まったわたしに新一はテレ隠しに言う。
何となく分かった。
多分、そう言うことだよね。
わたし、ずっと新一の側にいるからね。