球技大会 前編 君に逢う為に生まれた〜We Love The Earth〜

 6月に入り、3年になって初めての校内のイベントが待ちかまえていた。
 そう、球技大会。
 今年の球技大会は運動部委員長が男子はバスケと宣言したため、今回男女とも球技大会三年生の部はバスケットボールになった。
「残念ね、今回は新一君の勇姿が見れなくってさ」
 と、園子が言う。
「勇姿って?」
「だって、毎年毎年、男子はサッカーじゃない。今年もサッカーだったら新一君の巧みなボールさばきが見れたのにねぇ」
 それはそうなんだけどね……。
 でもね、でもね、それはそれでいいんだけどね。
「きゃーーーーーーーーー工藤君かっこいい!!!蘭、工藤君かっこいいよ」
 これよ、これ!
 新一のファン!
 一応うちのクラスにもいるの、新一ファンって言うのは。
 でも、他のクラスにはもっといるのよ。
「これ以上、新一君ファンを増やしたくないって訳か」
「え、そうなの?蘭」
 窓際に行き新一がサッカーをしているところを見ていると園子の言葉にクラスの女の子達が反応する。
「そう言うわけじゃないよ……」
 そう言うわけじゃないって言いながらもなんかね……。
 その日の放課後、昇降口で園子が言った。
「すっごいわねーあんた達のげた箱の中」
 あんた達って言うのはわたしと新一のこと。
「……どうするの持って帰るの?蘭、新一君」
 大量のラブレターを前に園子は言う。
 そのラブレターは園子が呆気に取られているわたしと新一を放って置いてげた箱から出したのだ。
「って二つともまとめちまったら意味ねーだろ」
「そりゃ、そうだ。でこれどうすんの?」
「いらねー」
 園子の言葉に新一はきっぱりと答える。
「ホントにいらないの?」
「いらねーよ」
 私の問いに新一はぶっきらぼうに答える。
「だって、新一前はファンレターもらって喜んでたじゃない」
「前はまえ、今は今」
 そう言って新一は大量のラブレターをごみ箱に持っていこうとする。
「ちょ、ちょっと新一、学校で捨てるの?」
「まずい?」
 まずいっていうか。
 くれた人が気を悪くすると思うし……。
「大丈夫だよ」
 そう新一は言いながら大量のラブレターをごみ箱に捨てた。
 でも、それが、このことが原因(と言うわけじゃないかも知れないけど)でとんでもないことがわたしの身に振りかかるとは新一もわたしも全然思っていなかった。
 球技大会本番当日
 女子は順調に勝ち進んでいった。
 もちろん、男子も順調に。
 男子決勝戦の時、学年全体が体育館に集まっていた。
 決勝戦はずーっと補欠でいるって騒いでいた新一がスタメンで出されている。
 得点係は園子&志保さん。
 わたしは園子の隣で試合模様を眺めていた。
「ほら、蘭応援してあげなさいよ」
「いいよぉ、私が応援しなくても」
 新一がボールを持つたびに
「きゃーーーーーーーーーーーー、工藤君!!頑張って!!!」
「工藤君かっこいーーーーーーーーーーーーー」
 とあちらこちらから声援が上がる。
「そんなこと言わないで。蘭が応援するのが一番いいんだよ」
 分かったわよ。
 園子の言葉に私は声を出して応援する。
「新一、頑張って!!!」
「頑張ったら、蘭がご褒美くれるって」
 そ、園子!!
 園子の言葉が聞こえたのか新一はわたしの方を見る。
 そして、不敵な笑顔を私に向けたのだ。
 いやーな予感がわたしの中を走る。
「何か、思いついたわねあやつ」
 園子が言った瞬間ボールが新一の手に渡る。
 そして、新一はそのままジャンプしボールを放った。
 ボールは新一の手から弧を描くようにリングに向かう。
「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
「すっげーーーーーーーーーー」
 歓声とどよめきがあたりに響く。
「すっごーい、新一君スリーポイントシュートよ。蘭」
 い、言わなくても分かるわよ…。
 カッコイイと思って見ほれちゃったんだから。
 さらっと何でもやってのける新一が少しムカツク。
「絶対、あのシュートは蘭のためにやったのよ」
 だから余計に腹が立つ。
 シュートする前にあの不敵な意地悪そうな笑顔がわたしの方に向けられていたから。
 それに、そんな新一に見ほれてしまったわたしにも。
「やるわね彼も」
 志保さんがからかうように言う。
「工藤、速攻!!」
 クラスメートの言葉で新一にボールが渡る。
 一瞬、わたしの方を見てニヤッと笑い、そして、二度のドリブル後ボールをもって走り豪快にダンクシュートを決める。
「すっげー」
「かぁっこいーーーーーーーーーーーー。工藤くーん!!」
 声援とどよめきと歓声が混じる。
「工藤君のファン増えたわね」
「蘭、どうするのライバルたくさんよ」
 ライバルって言われても………。
「あ、そうかライバルじゃないわね。新一君は蘭一筋だし、蘭もそうだもんねぇ」
 と園子は言う。
 新一が豪快にダンクシュート&スリーポイントシュートをやったため、相手チームは毒気を抜かれたのかうちのクラスが男子は優勝した。
「蘭、見てたか?」
 うれしそうに新一がやってくる。
 顔には満面の笑をたたえて。
 その顔につられてわたしまで微笑んでしまう。
「見てたに決まってるでしょ。誰よ、ボールをとった後わたしの方を見た人は」
「あ、やっぱ分かったか」
「分かるわよ」
「で、どうだった?感想」
 にっこりと微笑む新一にわたしは恥ずかしくなってうつむいてしまう。

「カッコ良かったよ、新一」
 恥ずかしそうにうつむいていた癖に急に顔をあげにっこりと微笑みながら蘭は言った。
 その笑顔にオレは思わず照れてしまった。
 バーロ…反則だろ、その笑顔は…。
「じゃあ、行ってくるね」
 そう言って蘭は女子の決勝に向かう。
「オメーはいかねーのかよ」
「私は補欠だから関係ないのよ」
「ちなみにわたしはバスケ部のため得点係でーす」
 オレの言葉に宮野&園子は答える。
「新一君、ココ特等席よ。蘭がいい感じで見れるんだから」
 そう言って園子はオレのことをからかう。
「毛利さーん」
 と、図太い声が聞こえる。
 な、なんだよ。
 声のするほうを見るとたくさんの男が蘭の方を見ている。
 オイオイオイオイ、あれなんなんだよ。
「あ、毛利蘭かくれファンクラブの連中じゃない」
 と、園子が言う。
 園子、今何て言った?
「毛利蘭かくれファンクラブ。蘭のファンクラブよ、非公認のね」
 ハーーーーーーーーーーーーーーーーーーー?
 蘭のファンクラブだとぉ!!!
 誰の許可とってそんなのやってるんだよ!!!!
「だからかくれファンクラブなのよ。知らないのぉ?どっかの誰かさんが怖くって表立ってファンクラ活動出来ないから水面下で行動してるんだって」
 何だって……。
 蘭のかくれファンクラブがあるなんて。
 このオレが、常に蘭の側にいるっていうのに。
「だから、蘭の非公認のファンクラブ何だってばぁ」
 園子はオレの怒りを解くかのように必死に言う。
「なぁーんで園子がそんなこと知ってるんだよ」
「しらないの、あんたと蘭ぐらいだし……。あんた達二人にはばれないようにって言う噂なの。新一君が知ったらありとあらゆる手段を使ってファンクラブを潰そうとするからって」
「て、もう遅いわね。工藤君、知ってしまったんですもの」
 宮野と園子の言葉はオレの耳に入っていない。
 どうやって潰そうか考え始めていたから。
「きゃー、蘭かっこいい」
 歓声があたりに響く。
 蘭がシュートを決めたのだ。
「新一君、今の見てた」
「あたりめーだろ」
「潰すこと考えてても、彼女のシュートはきちんと見てるのね」
 あのなぁ。
 宮野の言葉にあきれてくる。
 まぁ、ホントのことだけどよぉ……。
 はぁ、からかうのもいい加減にして欲しいよな。
 一瞬、何かを感じた。
 試合中のコート上。
 何か違和感とも言えない何かがあった。
 その瞬間、
「きゃあ」
 蘭の小さな悲鳴。
 どうやら転んだらしい。
 だが、蘭の様子がおかしい。
 試合が中断され、審判をやっている先生が蘭の側に行くと同時にオレは蘭の側に駆け寄った。
「蘭、どうしたんだよ」
「なんか、ねんざしたみたい」
 と蘭は足首を押さえる。
「これじゃ試合は無理だね」
 蘭は詰まらなそうに言う。
「仕方ないだろ。先生、蘭を保健室に連れていきますんで」
 そう言ってオレは蘭を横抱きに抱える。
「ちょ、ちょっと新一歩けるわよ」
「ダメ」
 蘭の言葉にオレはすぱっと断る。
「なんでよ」
「何でも」
 蘭の質問にオレは答えない。
 こんな公衆の面前で答えられるようなしろもんじゃない。
「新一君の独占欲のせいよね」
 後ろから園子が答える。
 ぐぁ!
 言うんじゃねーよ園子!!!
「え、………」
 そう言うと蘭は顔を赤くする。
 顔赤くするなよ。
 こっちまで……調子……狂う。
 蘭を横抱きにしたまま保健室に入ると新出のやろうはいなかった。
 蘭をイスに座らせ靴をぬがし洗面器に浸した水に足首を冷やす。
「足、大丈夫か?」
「ちょっと、痛い」
「ちょっと待ってて」
 そう言ってオレは薬品棚にある包帯と湿布を取りだす。
 そして、水から出した蘭の足をタオルで拭き湿布を貼り付け、包帯を巻く。
「ごめんね、新一」
「何、謝ってんだよ」
「だって、迷惑かけちゃったみたいで…」
「バーロ…何言ってんだよ。そんなこと気にする必要ねーって言ってるだろ。オレは迷惑って全然思ってねーんだから」
 包帯を巻き終えた足を下ろしながらオレは蘭に言う。
「でも、ごめんね。でありがとう新一」
 蘭は、謝りながらも礼を言う。
 礼も言わなくても構わないのにな。
 だけど、保健室に横抱きにして連れてきたのは正解だったな。
 あの場にいた野郎どもの顔を見たか!!!
 呆気に取られてたよなぁ。
 これで、蘭が誰のモノか分かったんじゃねーか?
「新一、なんかいいことあったの?」
 蘭がオレの顔をのぞき込む。
 何でいいこと合ったって思ったんだ?
「な、なんでだよ」
「顔が笑ってるよ」
 顔が笑ってる???
 確かににやけてるかも知れねー。
 あのあっけにとられている連中の顔を思いだしたら。
 にやけてしまう。
 まずい、蘭が見つめてる。
「そ、それはだな」
「うん」
 なんて誤魔化そう。
「何?」
 無邪気に見つめている蘭を見るとどうも何かしたくなる。
「つまり、こういうことだよ」
 そう言ってオレは蘭にキスをした。
「ちょ、ちょっと保健室だよ」
「だからだよ。誰もいねーんだし」
「……………バカ………」
 オイオイ、バカはねーだろ。
 そう思いながらも蘭を抱き締める。
「な、何で抱き締めるのよぉ。誰か来たらどうするの?」
「誰もこねーよ。どうせ」
 そ、誰も来ない。
 多分な。
 この時はまだオレは分かっていなかった。
 蘭に何か合ったということを。
 いや、気付いてはいたのだがそれが何ナノか分からなかったのだ。
 保健室でのそんなオレ達をあざ笑うかのように事件が起こるとはさしものオレも分からなかった。

*あとがき*
球技大会、前編です。
新一にダンクシュートスリーポイントシュートがさせたくってバスケットボールにした。


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