大きな屋敷のその中に不思議な扉があって、そこは開けちゃいけないって言われたの。
ココに来て1年はまだたってないけれど…いろいろなこと分かってるつもりだよ。
いつまでも子供扱いはしないで欲しいなぁって思っても、どう考えたって向こうの方がうんと生きてるのは話してても分かる。
これからずーっと一緒って言われて。
それがどのくらい『ずーっと』なんて分からないの。
ただ、気の遠くなるぐらい『ずーっと』の事なんだろうなとは…思うけれど。
それでも、一緒にいられることはスゴく幸せなんだと思う。
「じゃあ、私はこの辺で帰るわね」
庭先でお茶をしている時、不意にシェリーさんは言う。
「えっシェリーさん帰っちゃうの?快斗が帰ってくるまでいればいいのに…」
「ごめんなさいね。これから用事があるのよ」
そう言って赤毛の死神…シェリーさんは寂しそうに微笑む。
「いいよ。用事があるなら仕方ないよね。シェリーさん、博士によろしくね」
「えぇ。伝えておくわ」
そう言ってシェリーさんは背にある大鎌を取り出し冥界への扉を開く。
「そう、言い忘れるところだったたけれど、『あの扉』は開けてはだめよ。キッドからも言われてると思うけど」
シェリーさんはその扉がある方に顔を向けながら青子に言う。
「でも、どうして?」
「知らない方がいいわ。あなたは知らない方が幸せよ」
何故か、いたずらっ子の様に微笑んでシェリーさんは冥界へと帰っていった。
ホント、なんだろう。
快斗も絶対開けるなっていったし。
今日に限って蘭ちゃんや和葉ちゃんの二人も遊びに来てくれない(青子はまだ一人で外に出してもらえない)。
木陰に座って、快斗の帰りを待つ。
いつ帰ってくるのかな。
早く帰ってくるって言ったよ。
「やっべ〜〜〜〜遅刻しちまう!!!!」
突然、青子の目の前をウサギ?が走り去る。
片手に懐中時計を見ながら、そのウサギは快斗が開けてはいけないと言った『あの扉』に向かっていく。
「快斗?」
一瞬だけ、青子の目に入った顔が快斗に見えた。
「待って、快斗!!どこに行くの?」
青子は、ウサギ(の格好をしている快斗)?を追い掛ける。
「ちょっと、どこに行くの?」
そのウサギ?に話しかけてもウサギ?は駆けるだけで青子に何も言ってくれない?
あれ?
なんか、ウサギって言うよりも、タキシード来てウサ耳つけてる人だよ!!
快斗のいつもの出で立ち(白タキシード)じゃなくって黒いタキシード着てる。
じゃ、じゃあ、あれって快斗じゃないの?
でも、顔は快斗だったよ…。
…新一くん?
あぁ、でも新一くんは快斗の家には来ないよ。
むーじゃあ、やっぱり快斗?
ともかく、追い掛けよう!!!!
そのウサギ?の耳をつけた人は扉を開けようとする。
「げぇ、なんでこんなに重いんだよっ!!!」
「青子も手伝うっっ」
重そうな扉(ホントに重い)を青子はそのウサギ?の耳をつけた人(長いから『ウサギ?な人』でいいやもう)と一緒に開ける。
「開いたっっ」
「ふぅ…、ってやべ!?ーもうこんな時間!!!!!!」
『ウサギ?な人』は懐中時計を見て叫び扉の向こうに体を滑り込ませる。
「待って!!!!」
『ウサギ?な人』な人からはぐれないように青子も扉の向こうに入った瞬間
「えっっ?!!!!」
落ちた。
「えええええええええええええええええええええええええええええええええ?!」
これって…なんか…『不思議の国のアリス』みたいじゃない?
ウサギを追い掛けて穴の中へと落ちるアリス。
『ウサギ?な人』を追い掛けて扉の向こうの穴の中へと落ちる青子。
…なんで青子『ウサギ?な人』を追い掛けてるんだろう?!
落ちてる最中、青子は何故かそんなことを一瞬考えた。
『不思議の国のアリス』って次どうなるんだっけ…。
なんか不思議なクスリを飲んで…大きくなったり小さくなったりするのはいつだっけ?
お茶をのむのはいつだっけ?
チェシャ猫が出てくるのは?
ハンプティー=ダンプティーにあうのは鏡の国だっけ?
それとも、不思議の国?
ハートの女王様はいつ逢うんだっけ…。
いろんな事考えてて気がついたら森の中に倒れていた。
???
ココ…どこ?
快斗と住んでいる大きな屋敷の庭にはこんな森はない。
屋敷の外にはあるけれど…いつもオオカミの声とかして、青子一人では入ったことがない…。
暗いし。
でも、この森は明るいよね。
屋敷の側じゃないの?
…どうしよう。
青子一人で屋敷の外に出ちゃったよ。
『落ちた』感覚は覚えてたから、一応『上』を見上げてみる。
当然のごとく、木々の葉が生い茂っていてその『何か』を見つけることは出来なかった。
どうしよう。
夢?
アリスって確か夢だったんだよねぇ…。
じゃあ、これも夢?
にしては…現実感がありすぎるし…。
と、ここまで考えてはたと思い出した。
青子が…今までいた所は『魔界』だと言うことを。
と言うことは、もしかすると、『魔界』から別の世界へと来てしまったことになる。
そうだよね。
だとすれば、快斗やシェリーさんが『あの扉』の向こうに行ってはだめと言った理由も分かる。
だったらどうすれば戻れるの?
やっぱりあの『ウサギ?な人』を探すしかないよね。
そう考えて青子はともかく『ウサギ?な人』を探すことにした。
でも、どこにいるんだろう?
「ウサギなら向こうに行ったぞ」
足下から誰かが声をかけてくる。
「誰?」
下を見ても姿が見えない。
「青子に教えてくれたの誰?」
探しても足下の花は揺れるだけ。
「早く行かないと見失ってパーティーに遅れるわよ」
静かな落ち着いた声が聞こえる。
聞き慣れた声。
「その声はシェリーさん?ごめんなさい…青子、『あの扉』の中に入って」
「早く行くんじゃ」
また違う人の声が聞こえる。
シェリーさんがいる訳じゃないの?
「教えてくれてありがと」
青子は姿が見えない人?に向かってお礼を言ってから『ウサギ?な人』が向かった方角へと行く。
少し歩くといいにおいがしてくる。
紅茶の香り。
そう思った瞬間、家が現れてその前にテーブルセットが現れた。
何?
「あ、どこ行くん?よかったらお茶でも飲んでいかへん?いい紅茶の葉が手にはいったんよ。オレンジペコとかセイロンティーとかローズティーとかアップルミントとかロイヤルティーとか。あと、おいしいスコーンも焼いたんよ。これがチョコチップが入っててこれはハニースコーン。これはシナモンで…」
そして青子にそう話しかけたのは紅茶セットを持った和葉ちゃん…。
「別に急がんと平気やろ?お茶してこ?」
「うん」
和葉ちゃんに進められるまま青子は椅子につく。
座ったのを見計らって和葉ちゃんは綺麗なティーカップを青子の前に置き、ティーポットから紅茶を注ぐ。
綺麗な色の紅茶がカップに注がれるのをじっと見ていたらかごのお皿からフヨフヨとスコーンが一つ飛んでいき、まるで食べられているかのようにそのスコーンは青子の見ている前で消えていく。
「かっ和葉ちゃんっスコーンが!!!???」
青子の言葉に和葉ちゃんはスコーンの方を見、おもむろにティーポットのふたをその場に投げつけた。
「いってー!!!!何するんや!!!お前!!」
「それは、あたしのセリフや!!!!大切なお客様の為に作ったスコーンを盗み食いするなアホ!!!」
和葉ちゃんの言葉の後に出てきたのは猫の耳と尻尾としましまの服を着た平次君。
「んなもん減るもんやないし一つぐらい食ってもえぇやんか」
「アホっ減ってるやろ?ココに12個あたし焼いてきたんやで!!現に11個になってるやないのぉっ」
「別にいつもの事やないか。オレが食うなんてなぁ、気にすんなや」
「気にするな言うなアホっっ。いつもいつも食べてて気にしないわけないやんかっ」
……いつまで続くんだろぉ。
「ねぇ、青子ぉ、そろそろ行きたいんだけど」
「だいたいなぁ、食われたないんやったら庭先でお茶なんてするなアホ!!」
「アホはあんたやっ。ティータイム言うたら庭先って決まってんねんで!!」
青子の話聞いてくれない…。
どうしよぉ。
いつもだったら聞いてくれるのに。
「あのねッ、青子、『ウサギ?な人』探してるのっ。こっちの方来たって言うんだけど、知らない?」
青子の言葉に、二人は止り、青子を見る。
「『ウサギ?な人』?」
「そう、」
「あぁ『ウサギ?な人』やったらこの道まっすぐ行ったお城に向かったんとちがう?」
「お城でパーティーがあるから多分間違いないと思うで。あいつ、いつも城のパーティーには出とるし。早よ、行った方がえぇで、パーティーの時間になってしもうたら城の中に入られへんからな」
「ありがとう」
お礼を言ってお城へと向かう。
薄暗い森の中、ふと、快斗の事を考える。
快斗…心配してるかな…。
…怒ってるかな。
…怒ってるよね、勝手に扉の中に入っちゃったんだもん。
ごめんね、快斗。
ごめんなさい…。
でも、今は落ち込んでいる場合じゃない。
『ウサギ?な人』に逢ってどうやって戻るか教えてもらわないとっ。
お城から閉め出される前につくために青子は走り始めた。
どのくらい、走ったんだろう。
開けてきた木々の間からお城が見える。
すぐ側っっ。
トランペットの響く音が聞こえる。
森が開け、道の両脇を守るように衛兵が立っている。
『不思議の国のアリス』だと、トランプの衛兵何だけど…普通な…でもトランプの模様が入った服を着ている衛兵達。
なんだかホントに『不思議の国のアリス』に似てるね。
「お前、名を何という」
門のところで門兵に呼び止められる。
「えっあ…レディだよ」
思わず、名前を言いそうになる。
魔界では知らない人には名前を言っちゃだめなんだって。
理由は呪いをかけられるから。
それを予防するために、青子は快斗から『レディ』と言う名前を付けてもらった。
快斗を『キッド』と言うのと一緒。
そう言えば…和葉ちゃんと平次君に似てる人に『青子』って言っちゃったけど…大丈夫だよね。
うん…うん!!
「よし、入れっ」
青子を上から下まで見回した後、その人は青子を中に通す。
でも…ホントに『ウサギ?な人』はこのお城のパーティーに出てるのかなぁ…。
考えてる暇ないよね。
『ウサギ?な人』、探さないと。
でもぉ、何故か青子は人の波に押されてお城の大広間にやってきてしまった。
『ウサギ?な人』…どこにいるのぉ?
「女王様のおな〜り〜」
衛兵の声の後、壮大な音楽が演奏され女王様らしき人が入ってくる。
そしてその女王様の後をついてきたのは『ウサギ?な人』!!!
「いたっ」
思わず、声を上げる。
演奏が終了した直後だったために、青子の声は広間中に響いた。
広間中の人々の目という目が青子に集まる。
ど、どうしよぉ。
『ウサギ?な人』の方をみるとその隣の女王様が衛兵と話している。
……嫌な予感。
もしかしてぇ、青子を捕まえようとしてるのかなぁ…。
絶対そうだっ。
どうしよぉ。
青子、どうしたらいいか分からないよ。
「娘、女王陛下がお呼びだっっ」
そう言うと衛兵は青子の腕を引いて歩かされる。
つれてこられたのは女王様の前。
所々にハートを模した物がドレスから何から何まで飾られていた。
アリスで言う…ハートの女王様…かな?
そしたら、…青子死刑?
そんなぁ…。
「あなたの名前は?」
透明感のある高い柔らかな声…。
女王様をみると、そこにいたのは蘭ちゃん。
「レディって言うの」
「そぉ」
綺麗に微笑む女王様はやっぱり蘭ちゃんに似ていた。
「レディ、あなたはどうしてココに?」
「あお……っっレディね、ここに『ウサギ?な人』の後を追ったら迷い込んじゃって…、…『ウサギ?な人』に逢えば家に帰れると思って…それで、ココに『ウサギ?な人』が向かったって聞いて…お願い、私、家に帰りたいの」
青子の言葉に周りの人たちがざわめき出す。
言っちゃいけなかったのかな?
女王様は衛兵と話し、衛兵はその場から離れた、『ウサギ?な人』の方へと向かいつれてくる。
『ウサギ?な人』は最初に見たイメージ通り快斗にそっくりだった。
「…どうしたのレディ?彼に話が逢ったんじゃないの?」
ぼうっとしている青子に女王様が話しかける。
その言葉に我に返り、青子は『ウサギ?な人』に話しかけた。
「ねぇ、あなた、わたしが住んでいる屋敷の庭走ってたよね。わたし、どうしても家に帰らなくちゃならいの…キッドの事だもの…心配している…。だって、わたし、屋敷の外に出たことないんだもの」
青子の言葉に女王様と『ウサギ?な人』は見合う。
「知らない?」
「申し訳ないけれど…知らないわ」
『ウサギ?な人』は女王様の言葉に同意してうなずく。
「だってあなたが通ってきたんでしょ?レディとキッドの住んでいる屋敷の庭を」
そう言っても『ウサギ?な人』と女王様は首を傾げるばかりでらちが明かない。
「わりぃな。確かに、あんたの言うとおり、オレは屋敷の庭を通ってるけど…時間の方ばっかり気になってて、周りの景色とかどこ通ってるとかあんま気にしねぇんだ」
「だから、時々、タキシードがドロはねで汚れてるの?」
「あぁ」
…そんなぁ…、そしたら青子、家に帰れない。
…キッドにも逢えないの?
「もしよかったら、ココにいたら?なかなか帰ってこないこの人の代わりの話し相手になって欲しいの」
「えっ」
突然の女王様の申し出。
「あぁ、その方がオレとしても安心だぜ。オメェは護衛もつけないで、森まで遊びにいくからな」
「もぉ、そんな言い方しなくてもいいじゃないっ」
女王様と『ウサギ?な人』は楽しそうに話す。
そんなのだめ。
青子はキッドの側がいい。
「どう…?」
青子に、女王様が問い掛ける。
その時だった。
窓が閉まっている広間内に一陣の風が吹いたのは。
「何だ?」
『ウサギ?な人』が警戒した瞬間、青子の上に影がかかる。
そのシルエットはシルクハットに…マント…。
振り向いて、上を見上げるとそこには…。
「レディ、迎えにあがりました」
キッドがいた。
「いい度胸じゃねぇか。どうやってこの屋敷に入った?この屋敷のセキュリティーはそう簡単には破れないはずだ」
「そうだったけ?悪いが、このオレにはそんなセキュリティーは無駄なんでね」
『ウサギ?な人』の言葉に応戦しながらキッドは優雅に青子の隣に舞い降りる。
「これはこれは女王陛下、ご機嫌麗しゅう」
そう言ってキッドは女王様の手を取り恭しくその手に口付ける。
「ですが、感心しませんね、人の物を欲しがるとは。このレディは私の物。誰にも触れさせるつもりないんです。レディ、おいで」
呼ばれ青子はキッドの側に向かう。
側に行った青子の腰をさらうように抱きかかえる。
「では、この辺で失礼させて頂きます。ご機嫌よう」
シニカルに微笑みながらキッドはマントを翻し、その場に煙幕を張った。
「…青子」
名前を呼ぶ声が聞こえる。
いつの間にかつむっていた目を開けると、キッドが青子をのぞき込んでいた。
「…キッド…?」
「快斗で平気。もう家に着いてるから」
その言葉にあたりを見渡すと、見慣れた庭の景色。
屋敷の庭の風景だと気付く。
「快斗……怒ってる?」
青子の言葉に快斗はむすっとした顔を見せうなずく。
「ごめん…ごめんなさい…。なんの言い訳もしないよ。悪いの、青子だもん」
「怒ってねぇよ。めちゃくちゃ…心配したんだぜ」
そう言って快斗は青子を抱きしめていた腕の力を強める。
「帰ってきたら青子の気配がない。あの扉は開いてる。マジで焦った。見つからなかったらどうしようって本気で思った」
「ごめん」
「いいんだよ…。青子が悪い訳じゃないから」
そこで、一つ疑問がわく。
あの扉って…結局、何だったんだろう。
「快斗、あの扉は一体何なの?あそこって結局どこだったの?」
「ん〜」
快斗は言いにくそうな顔をした後、意を決して青子に言う。
「あれは、『がらくた入れ』なんだ」
「エッ?」
が…、がらくた入れーーーーーーーー??
うそぉ、じゃあ、あの『ウサギ?な人』って何?
あの『ウサギ?な人』は外にいたよ。
「…………ってだけじゃ説明つかねぇよなやっぱ…」
「当たり前でしょっ。青子はねぇ、あの『ウサギ?な人』を追ってあの扉の中に入っちゃったのよ」
「うん、分かってる。オレも入ったことがあるから」
え?
快斗も入ったことがある?
「実は、オレあの扉、2度目なんだ」
2度目?
快斗はその時のことを思い出しながら青子に言う。
「前はさオレが小さい頃で、オヤジにだめってって言われてたんだけど…入ってさ…。で、遊んでたら、オヤジに見つかって強制帰還。オヤジの話じゃ、『別の領域』ってわけじゃならしいんだけど、下手したら2度と出られなくなる所だったんだと。だから…青子が入ったって分かった時、めちゃくちゃ焦った」
「ごめんね…。青子もね、帰れなかったらどうしよぉってずっと思ってたんだ」
「そっか。さて、そろそろいい頃だし戻るか」
ふと何かを思いだしたかのように快斗は言う。
いい頃ってどういう事何だろう。
「新一達がさ、パーティーしようって。今、地上はハロウィンだろ?」
「じゃあ、ハロウィンパーティーってとこ?」
「ま、そう言うことかな?」
そう言って快斗は青子を促す。
快斗、心配かけてごめんね。
でも、今のところパーティーはちょっといいかな…。
だって…帰れなくって快斗にもう逢えなかったらどうしようってずっと思ってたから今は快斗と一緒にいたいな…なんてね。
って快斗に言ったら…快斗のことだもん、何しでかすか分からないから、ちょっとだけ内緒ね。
そして、珍しく歌から取ったのではないタイトル。
もぉ、ほとんど使い尽くしたよぉ(T−T)。