Twinkle Night 私だけの魔法使い

 泣きながら青子はオレのところに来る。
「どうしたんだよ…あおこ」
 そう言っても青子は横に首を振るだけ。
 遠くに見えてる同じ組の奴等が申し訳なさそうにオレの方を見てる。
 まさかあいつらっ。
「てめぇら、あおこのことなかすんじゃねぇよっ」
「げっくろばがおこったぁ」
 そう言って逃げていくあいつらを追いかけようと思ったけど、追いかけていくことが出来なかった。
 青子がオレの制服をギュッと握っていたからだ。
「…あおこ…だいじょうぶか?」
「うん…」
「あいつらなにしたんだ?」
 そう聞くと青子は恥ずかしそうにうつむく。
 何でうつむいてるんだ?
「あおこ?」
「あっいたあおこちゃん。だいじょうぶ?」
 同じ組の女の子が俺達の方にやって来る。
「あおこがないたりゆうしってるの?」
「そう、ひどいんだよ。あいつらねわたしたちのスカートめくったの」
 と、その女の子は言う。
 わたし達って言うと青子のもか?
「うん」
 あいつらーーーーーーーーーー!!!!
 青子のスカートめくっていいのはオレだけなんだぞ!!!
「あいつらこんどやったらぜってーゆるせねぇ!!!」
 そうオレは叫んだ。

「快斗君のマジックってさぁ、青子絡みの時しか見てないよね」
 いきなり、恵子に言われる。
「それってどういう意味?」
「あのね、他のクラスの女の子がね、快斗君にマジック見せてって頼んだんだって。でも、断られたんだって」
「そうなの?快斗って断るの?」
 青子の言葉に恵子はうなずく。
「あっさりと断られたって聞いたよ」
 ふぅーん。
「だからね、噂になってるの。快斗君のマジックって青子のためだけなんじゃないの?」
 って。
 青子の為だけのマジック?
「そう、現に今、青子って快斗君と付き合ってるわけでしょう?余計にそう言われてるんだわ」
 恵子はそう青子にむかって言う。
「でね、モノは相談なんだけどね……」
 そう言って恵子はトップスのケーキを目の前に置いて言う。
「青子から頼んでくれない?青子が頼めば快斗君絶対マジック見せてくれるから」
「そうかな?」
「そうだよ。青子のマジシャンじゃないの?」
「やだぁ、恵子ったら。青子のって訳じゃないよぉ」
「付き合ってるんでしょ?」
「う…うんそうだけど…ね」
「大丈夫だってば。ね」
 そう言って恵子はにっこりと笑う。
 ふぅ、困ったなぁ。
 快斗って青子のためにしか使ってないのかなぁ?
 あんまり分かんないんだけど。
 恵子に頼まれたのが昼休みの時…。
 で、タイミングがとれなくって結局放課後になってしまった。
「快斗…、マジック見せて?」
 放課後になってすぐ、おそるおそる快斗に聞いて見る。
「何で?」
 快斗からの返事はそれ。
「な、なんでって…言われても」
 思わず、ちらっと恵子の方を見てしまう。
 当の恵子は興味津々、期待度100%の顔をしてこっちを見ている。
 ふぅ、恵子が『青子が快斗君に頼んだら見せてくれる』って言ったから…なんて言えないよぉ。
「青子は快斗君の特別なんだから」
 なんて言われてその気になって…。
 特別だって思われてる(廻から見ればの話)青子が頼めば見せてくれるよ……。
 そう周りは言う。
 あの後、他のクラスの女の子とかにも頼まれてしまった。
 恵子が青子に言うことを知ってたみたいで……。
 半ば強制されるように青子は快斗に聞くしかなかったのだ。
 そんなの嫌だよぉ、なんて言えるはずもなく……。
 でも、快斗から帰ってきた言葉は周りの期待に反して
「何で?」
 だった。
「何で、青子?」
 もう一度快斗に聞き返される。
「あ、…ん…いいの、ごめんね快斗」
 そう言って青子はその場から逃げるように帰っていった。
 昇降口で靴に履き替えた頃…恵子がやって来た。
「青子、ごめんね。なんか快斗君との雰囲気変なふうにしちゃって」
「恵子、別に変になった訳じゃないよ。青子の方こそ、ごめんね期待に沿えなくて…」
 そう言って青子は昇降口を出た。
 どうして、快斗はあの時「何で?」って聞いたんだろぉ。
『嫌だ』とか『いいよ』とか言われればまだそれなりの対処は出きた。
 断られれば何とかしてやってもらおうと頼むことだって出きたし、オーケーならば滞りなくその場で『黒羽快斗のマジックショー』が見れただろう。
 ……でもその方が良かったの???
 そう思った瞬間、考え始めてしまった。
 本当に『黒羽快斗のマジックショー』をみんなに見て欲しかったの???
「快斗君って青子絡みの時しかマジック見せてくれないんだよね」
 そう言った恵子の言葉に喜んだ自分がいたことを今更ながらに気付いた。
 青子のためだけのマジック。
 快斗のマジックは凄く上手い。
 それをみんなに見てもらいたいって言うのは昔から思っていた。
 と同時に青子が落ち込んでいたりするときに見せてくれるマジックを…他の人には使わないで欲しい………どこかでそう思っている自分がいた。
 でも、それは青子の我が侭にしか過ぎない。
 分かってる。
 分かってるんだよ。
 でもね…他の女の子にも青子と同じように接して欲しくない……。
 我が侭だよね。
 分かってるんだけど…嫌…だよぉ…。
「ただいまぁ…」
 って言ってもお父さん、仕事だからいないんだよね。
「ん?青子お帰り」
 と思ったらお父さんがいた。
「お父さん、今日は早いんだね」
「そう言うわけではないんだ。また怪盗キッドからの予告状がでて、それの準備をしなくちゃならなくなってしまったんだ」
 そう言ってお父さんは泊まる準備をしている。
「じゃあ、今日…青子一人なんだね」
「ん?青子?」
 寂しいなって思ってつい口からぽろりとこぼれ落ちる。
 それをお父さんに聞かれてしまった。
「あっ何でも無いの。お父さん、お仕事頑張ってね。怪盗キッド絶対に捕まえられるといいね」
「あっあぁ。…青子、じゃあ、儂は行ってくるからな。ちゃんと戸締まりするんだぞ。分かってるな」
「ウン。行ってらっしゃい」
 そう言った青子に、お父さんは心配しながらも、仕事に向かっていく…。
「…ふぇ…」
 すごく…寂しくなって…泣きだしそうになる。
 さっきの快斗の「何で」って聞き返したあの、表情を思いだして泣きたくなる。
 …多分、青子は快斗の特別じゃないんだよ。
 青子は、快斗と付きあってるけど、快斗は青子の特別だけど、青子は快斗の特別じゃないんだよ…。
 きっと…。

「あ、…ん…いいの、ごめんね快斗」
「おっオイ青子っ」
 青子は、逃げる様にオレが止める声も聞かず教室から逃げ出す。
「えぇ、何で見せてくれないの?」
 そう言って非難の声を上げる女子多数。
 青子が、昼休みからオレに何か言いたそうにしている事に気付いていた。
 理由は…くだらないことだろうと思ってた。
 放課後、青子に言われた。
「快斗?マジック…見せてくれない?」
 と突然、脈略もなく言ってきた。
 青子がそう言うのはだいたい理由があるのは分かってた。
 お祭り好きって言うよりアニバ女だからクリスマスはもちろんのこと、誰かの誕生日から始まって、文化祭、体育祭、遠足とありとあらゆる時に青子は言ってくる。
 だから理由もなくって言うのは珍しくって
「何で?」
 と聞き返した。
 普通だったら、
「今日は誰かさん(この誰かさんには人名が入る)が誕生日でしょ?」
 そう言うんだけど……。
「なんで…って…」
 と言った。
 で分かった。
 誰かに頼まれたんだって。
「快斗君、どうして青子に見せて上げなかったの?」
 荷物をとりに戻ってきた恵子がオレに話しかける。
「って言うか、恵子、オメェ青子に何言ったんだ?」
「何って……快斗君にマジック見せてもらえるように頼んでって……青子に」
「んなもん…直接言いにこいよ」
「だって頼んだけど、断られたコたくさんいるんだけど」
 そう言って廊下にたまっている女子に恵子は視線をうつす。
 あぁ、なんか言ってきたコがいっぱいいるわ。
 そうだ、思いだした。
 マジック見たいから見せてって言ってきた女の子達だ。
 なんかぞろぞろとやって来たからきっと埒が明かなくなるって思って断ったんだっけ…。
「……オレ…用事思いだしたから、帰るわ」
 何か言うのも面倒くさくなってオレは教室をでる。
 なんか…青子泣きそうな顔してたよな…。
 今日…逢いに行ける余裕あっかな…。
 明日、仕事だから準備してぇんだよな…。
 時間…あるかな…。
 その時だった。
 携帯がなる。
 着信は…中森警部。
 なんで…警部から?
 警部の番号は知ってるけどっ。
 何で、警部がオレに?
『快斗くんかな?』
「ハイ、こんにちは」
 警部からの電話にオレは意味がわからなく分けもなく心臓がはね上がる。
 オレがキッドだってばれたんだろうか?
 そんなわけ…ねぇよな。
『ちょっと…今日時間あるかな?』
 と警部の言葉は続いていった。

 早めの夕飯。
 そして、早めのお風呂。
 そして、早めにベッドに入る。
 理由は…考えたくないから。
 青子は快斗のこと好きだよっ。
 快斗も青子のこと好きだっていってくれた。
 けど…不安になる。
 やだな…快斗の気持ちがわかる前より不安だよ…。
「……かいとぉ…逢いたいよぉ」
「んな声出してんじゃねぇよっ。ったく青子はお子様だな」
 ん???????????????????????
 なんで…快斗の声がするの?
「青子、布団に潜ってねぇで、顔出してみ?」
 その声にしぶしぶ従うと快斗が青子のことを見ていた。
「なっ何で快斗がいるのぉ?!!!どうやって入ってきたのぉ」
「どうやてって………警部に会ったんだよ。青子が寂しがってるから、青子のことよろしくって頼まれたんだよっ」
 そう言いながら快斗は青子の布団に潜り込んできた。
「ちょっ…快斗っなんで布団に入るのよぉ」
「いいじゃん」
 と快斗はニッコリ笑って青子のことを抱き締める。
「青子、なんでさっき引いたんだ?」
「さっきって?」
「教室で、マジック見せてってオレに言ったろ?その後オレが何でって聞いたときだよ。いつものオメェだったらさぁ、いろいろ理由つけてオレにマジックさせるじゃん…」
 快斗の言う通り。
 いつもの青子だったら、そうしてた。
「……なんか…嫌だったの…」
 快斗に背を向けながら青子は呟く。
「何が?」
「…青子、わがままだよね。…みんなに快斗のマジック見せてあげたいって思ってるのに…青子だけにマジック見せて欲しいって思っちゃうんだよ…。…だから…」
「オメェ誤解してる」
 そう言って快斗は起き上がる。
「誤解?」
「オレが…マジックをやるホントの理由。…だよっ!!」
 その瞬間、部屋中にシャボン玉が広がる。
 そしてたくさんの花びらが降ってきた。
「オマエがさ…元気ないとき、オヤジがマジック見せて元気づけてただろ?オマエってさオヤジのマジック見るとすぐに元気になるんだよな。だから悔しくってさ…。オヤジにマジック教えろって何度もねだったんだぜ」
「……?」
「つまりさぁ。ワン・トゥー・スリー!!」
 部屋中に待っていた花びらが突然、大きな花束になる。
「オレが見せて喜んでもらいたいって思ってるのは…青子しかいないんだぜ。だから今までだってオマエが頼んだのは全部見せてるだろ?」
 そう言いながら快斗は青子を起き上がらせ、大きな花束を青子に渡してくれる。
「快斗…それって本気にとっちゃっていいの?」
「何が?」
「青子は…特別だって」
「バッバーロ。んなことわざわざ聞くなよ」
 そう言って快斗は顔を赤くする。
 なーんか悩んでたのがウソみたい。
「なーに笑ってんだよ」
「ん?快斗っ」
「あんだよ」
「大好きっ」
 そう言って快斗に抱きついた。
「青子?」
「快斗、今日泊まってくんだよね」
「え…まぁ…一応そのつもりだけど…」
 快斗は言葉を濁しながら答える。
 どっちみち快斗は泊まってくって事だよね。
「ウン、お休みっ」
 そう言って青子は快斗に抱きついたまま目を閉じる。
 だって…快斗と離れたくなかったんだもん。
 だから…お休み。

「おい…青子?!」
 オレの声に…青子は答えない。
 確かに…青子は寝つきがいい。
 だからといってこのままはねぇだろぉ?
 勘弁してくれよ…。
 もしかして…いや…もしかしなくても、またお預けか?
 冗談だろぉ?
「あおこー…。まじで寝ちまったのかよ?」
 そう言っても青子からは寝息しか聞こえない。
 仕方ねぇ…。
 今夜も諦めるしか無いわけね。
 ともかくオレは青子の隣でおとなしく眠ることにした。
 熟睡できないのは覚悟だっ。
 けど…明日、仕事、上手く行くかな?
 不安だ……。

「あおこ、なくなよ」
 そう言っても青子は泣きやまない。
「あおこちゃん、もうだいじょうぶだから、なきやみなよ」
 同じ組の子が言っても青子は泣きやまない。
 幼稚園の隅でオレと組の子達は青子を泣きやませようと必死になっていた。
「もう、あおこちゃんのこといじめないでっていったからだいじょうぶだよ」
「そういってもやるもん」
 そう言って青子はみんなを困らせるように言う。
「だけど、やくそくしたよ。もう、あおこちゃんのことなかさないって」
 と組のリーダーの子が言っても駄目だった。
 その時ちょうどあそびの時間が終わる鐘が鳴る。
「あ、かねなちゃったよ。あおこちゃんいこう」
 そう誘っても青子は動かない。
「あおこちゃんっ」
「あぁ、さきいきってていいよ。オレがあおこといるから。せんせいにいっておいてよ」
「……わかった、みんないこ?」
 そうしてオレと青子だけになる。
「あおこ…だいじょうぶか?」
 そう聞いたオレに青子は頷く。
「もう、へやにもどれる?」
 青子は首を横に振る。
「もどりたくない…か…じゃあいてやるよ」
「かいとは…もどってもいいよ。せんせいにおこられるよ?」
「オメェはいいのかよ」
「あおこはいいの」
 そう言って青子はその場に座り込み顔を伏せる。
「あおこ、みてろよ」
 顔を伏せた青子の顔を上げさせるようにいいオレはオヤジから教わったばかりのマジックを披露する。
「うわぁ、すごーい」
 マジックを見せると青子の顔が晴れ渡っていく。
「かいと、それあたらしいやつ?」
「あぁ、オヤジからおそわったばかりのマジックだぜ」
 そう言ってマジックを青子に披露しながらオレは青子の顔を見る。
 晴れ渡っていく青子の顔。
 そしてその後に見せる満面の笑顔。
 何度、オレはこの笑顔に魅了されているんだろう。
 オレは青子の笑顔が好きだ。
 この笑顔見るためだったら、マジック、いっぱいオヤジに教わらないと。
「かいと、おじさんのマジックもすごいけど、やっぱり、かいとのマジックもすごいね」
「ったりめーだろっ。あおこ、オレとオヤジどっちがすごい?」
「んーいまは、かいとかな」
「いまだけ?」
「だって、かいとはおじさんとちがっていぢわるなんだもん」
 っ痛いところをつかれた。
「でも、あおこはかいとのマジックがいちばんすきだよ」
「ホントか?」
「ウン」
 それだけで…幸せになれる。
 青子にオレのことが好きだって言われたみたいで…。
「これからもあおこにマジックいっぱいみせてやるからな」
「ホント?」
「ホントだぜ」
「やくそくだよ」
「ヤクソクっ」

*あとがき*
快青がつき合い始めたころの話。
完ぺきなピュアな、まじりっけなしのまじ快小説。


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