君に逢うために生まれた〜番外編:宮野さんの恋愛3・ホントの所〜
 突然、宮野さんに呼びだされる。
 呼びだされる理由があまりわからない。
 多分、新一のことなんだろうなと予想は立てていた。
「何、宮野さん」
「私、工藤君の事が好きだったわ…」
 突然の告白。
 好きだった……。
 新一のことが好きだった……。
 言わないで欲しかった。
 気付かなければ良かったと思っていたのにどうしてあなたはわたしに教えるの?
「今は……」
「今はどうも思ってないわ。踏ん切りがついたからあなたに言ったまでよ……」
 踏ん切りって何?
「安心して、私は彼のこと研究対象としか思ってないから……」
 宮野さんが新一を好きだった。
 新一がコナン君だったとき側にいた人……。
 最初にあったときに感じなかった歳の差に今更ながらに恐怖を覚える。
 新一がコナン君だったとき、彼女は灰原哀として存在していた。
 何も感じたくなかった、何も知りたくなかった。
 言わないで、あなたが好きだったことなんて言わないで。
 それを聞いたのがその日の午前中だった。
 新一は気付いているの?知っているの。
「ふぅ…」
 昼休みについため息をついてしまう。
「何ため息ついてんだよ」
 屋上で新一とお昼ご飯。
「ちょっとね」
「ちょっとねって顔してーよ」
 新一はわたしの顔を見てそう言う。
「何があった?言ってみろって」
「何でもないよ」
 新一に悟られないように努めて明るく言う。
 新一には関係ないって言いたいけれど……。
 関係なくないから……。
 でも、聞きたくないのよ。
 哀ちゃんの……宮野さんの……知ってた……?
 なんて……。
「らーん、どぉしたんんだよぉ」
 気がつくと新一の顔が目の前にある。
「ちょ、ちょ、ちょっと新一。近付きすぎよぉ」
「だって、しゃーねぇだろぉ、さっきっからオメーのこと呼んでんのによぉ。ぼけーっとしちゃってさぁ。全然オレの話聞いてねぇじゃん」
「どうせ、新一のことだからホームズがどうのこうのって言うことでしょ」
 何となく憎まれ口を聞いてしまう。
 本当に言いたいことは別のことなのに……。
 新一には、他の女のコなんかに気をまわして欲しくないの。
「蘭、何でオレの話はいっつもホームズだけなんだよぉ。今日は違うって、ほら、来週からゴールデンウィークだろ。ホントはいやなんだけど、服部達が泊まりにくんだよ。で、快斗達もとまるーって言いだしてよぉ………」
「和葉ちゃんと、青子ちゃんから聞いたよ」
「で、蘭も泊まりにくるんだろ」
 新一の言葉に驚く。
 え、……いつの間に泊まることに?
「てっきり和葉ちゃんと青子ちゃんはわたしのうちだと思ってたけど……」
「何か、蘭。あの家に、男三人だけでいろと、しかも、関西人&怪盗付で。オレは蘭がいなきゃいやだ」
 と突然甘えたふうに言いだす。
 な、何で急に甘えだすのよぉ。
「せっかく、服部達もうまくいったんだしさ、な、蘭イイだろぉ」
「しょ、しょうがないわねぇ」
 もぉ、なんだか分からなくなったじゃないのよぉ。

「工藤君、話たいことがあるの」
「なんだよ、宮野」
 放課後、職員室から戻って来たわたしの耳に飛び込んできた二人の会話。
 その様子を見ると、教室内には二人だけと言うことが分かる。
 話って何。
 新一に話しって何?
 過去にも、「私、あなたが好きなの」と言う告白シーンは何度も聞いて来た。
 でも、今回は訳が違う。
 相手はあの宮野さん。
 新一が、コナン君だったと言うことを知っていて、そして新一の側にいた人。
「話ってなんだよ」
「私の気持ち…の事よ」
 宮野さんの気持ちなんか知らないで!
 他の女の子の気持ちなんか知らないでいて。
「お前の気持ち?って何?」
 わたしの気持ちにはお構いなしに、新一は宮野さんに聞く。
「私があなたのことをどう思っているか」
「オレのこと?」
「そうよ」
 お願い、知らせないで。
 聞かないで。
 他の女の子の告白シーンを見ても聞いてもココまではならなかった。
 何故かどこかで安心していた。
 大丈夫だってどこかで思ってた。
 でも……宮野志保、彼女だけは違う。
 いやなの、新一が他の女の子……宮野さん……に心を揺り動かされるのが。
「私、あなたのことが好きだったの」
 少しの沈黙の後、宮野さんは新一に言う。
 その真剣な彼女の声に新一は言葉を止めた。
 ……い……や……。
「オメー…でも人を好きになることあるんだな」
「どういう意味よ、それは」
「いや、別に変な意味じゃねーよ」
 何を…言うの…。
「たださ、オメーもやっぱり感情表に出すときあるんだなぁって思っただけだよ」
「そう、あなたは感情表に出し過ぎじゃないの?探偵失格だと思うけど」
「オレは推理するときは表に出してねぇよ」
「そうね」
 そんなに、仲良くしゃべらないで……。
「で、私の気持ちをしった感想は?」
 言わないで。
 聞かないで。
「オメーの気持ちはさぁ、嬉しいけどよぉ……」
「蘭、何やってるの?」
 突然、クラスの女の子に呼ばれる。
「え、な、何って……。今から帰ろうと思ったの。じゃあね」
 そう言ってわたしはその場を逃げるように立ち去った。
 もうダメ。
 聞きたくなかった。
 女の子の告白を断る常套の文句だとしても。
 聞きたくなかった。
 新一の言葉から、彼女に向かってのセリフとして。
 新一にとっての彼女は何?
 新一にとってわたしはなに?
 どんどん、嫌な考えが頭をもたげてくる。
 不安、恐怖、負の…ネガティブな感情がどんどんわたしを支配していく。
 わたしだけを見ていて欲しいの。
 他の女の子なんか見ないで。

 突然、蘭の声が教室の外で聞こえる。
 蘭がいたのか。
 これじゃ宮野の告白聞いてたかもしれねー。
 教室から出ようとするオレを宮野は止める。
「まって、私、続き聞いてないわよ」
「はぁ、言わなくたって分かってるだろ。オレが一番大切なのは蘭以外にいねーんだよ。蘭以外には感じねぇしな」
「はっきり言ってくれるわね」
「当然だろ。オメーにも新しい奴いるんだろ。そう言うやつがさ」
 そう言ったオレの言葉に宮野は柄にもなく頬を染める。
 マジかよぉ……。
「じゃあオレは行くからな」
 そう言うオレに宮野はもう一度呼び止める
「ちょっとまって」
「今度はなんだよ!!!」
「……彼女に謝っておいて」
 突然の宮野の言葉に驚く。
「何をだよ」
「私、あなたが好きだったって言うこと彼女に言ったのよ」
 はぁぁぁぁぁぁぁぁ?!
 蘭に宮野がオレのことを好きだったって事を言っただと?
 何て事をしてくれるんだ。
「おめー、普通は言わねーぞそう言うこと」
「いいじゃない、もうすんだことなんだから……」
「そう言う問題じゃない!!!…宮野、それ言ったのいつだよ」
 オレの言葉に宮野はしれっと答える。
「今日の午前中よ」
 と。
 だからかぁ、お昼食ってたときの蘭の様子がおかしかったのは………。
 言わねーはずだよ。
 はぁ。
 ともかくオレはまだ何か言いたそうな宮野を降りきって蘭の後を追っていった。
 とりあえず、蘭の家に向かう。
「おっちゃん、蘭はいるか?」
「まだ、帰ってねーぞ」
「そうか」
「オイ、新一。蘭に何かしたのか?」
「してねーよ」
 おっちゃんの追及を降りきり蘭を探すことにする。
 オレの家にいるかも知れない。
 そう思って家に帰ってみるが蘭はいない。
 ったく、蘭の奴どこにいるんだよ。
 宮野の告白がなかったらオレは蘭と一緒に帰ってるはずだったんだぞぉ!!!
 園子を呼びだしている可能性もあるので、園子に聞いて見るが、ホントに知らないようだった。
 時間は6時近い。
 あたりはすっかり暗くなっている。
 ともかくもう一度探偵事務所に戻ってみる。
 蘭がいるかも知れないからだ。
 事務所の明かりはついていたが、予想に反して自宅の方の電気はついていなかった。
「おっちゃん、蘭は帰ってねぇか?」
「帰ってないぞ。新一、蘭に何かしたのか!?」
「してねぇーって言ってるだろ」
「新一、年長者に向かってその口の聞き方はねぇだろ」
「だーっ今はそう言う問題じゃねぇだろ。蘭は本当にいないのかよ」
「いない。ともかくオレは今から出かける」
 そう言っておっちゃんは出かける準備を始める。
「な、なんでだよ、蘭がまだ帰ってねーのに」
「オメーがいるんだろ。ともかく、蘭はオメーに任す。いいな」
 そう言っておっちゃんは出かけていった。
 かなりおしゃれをして。
 これは、英理さんか沖野ヨーコのコンサートだな。
 こんな事してる場合じゃねぇ。
 ともかく蘭をさがさねーと。
 どこに行ったんだよ、蘭。
 携帯は電源を切ってるみたいで繋がらない。
 蘭……、どこにいったんだよぉ。
 ったく、宮野のやつ余計な事を言いやがって。
 家の前まで来たとき異変を感じる。
 何故か、リビングの電気がついている。
 なんでだ……?
 まさか、……。
 急いで家に入りリビングに来ると蘭がソファで寝ていた。
 顔は泣いていたのか涙で濡れていて少しだけはれぼったかった。
 そんな蘭を腕に抱いてオレはソファに座る。
 蘭、不安になったのか?
 宮野の告白を聞いて……。
 そんな必要は全然ねーのにな…。
 オレが思ってるのは蘭以外にいないのにな……。
「……蘭、オレが好きなのはオメーだけだよ……」

 耳元でささやかれた言葉。
 これは夢なのかな?
 学校帰り、わたしはまっすぐ帰るのが嫌で、町中をぶらぶら歩いていた。
 頭の中をめぐるのは宮野さんと新一のこと。
 新一は宮野さんの事どう思っているの?
 好き……なんて言わないで。
 わたし以外の人にすきだなんて言わないで。
 わたし以外の人を触れないで。
 わたし以外の人を見つめないで。
 わたし以外の人を………。
 これは怖いほどの独占欲。
 新一以外の人には働かない。
 働かせる必要なんて全くない。
 新一しかいらない。
 新一しか欲しくない。
 こんなわたしを新一は知らない。
 独占欲強すぎるわたしを新一は知らない。
 今までそんなことなかったから。
 確かに、今まで新一がされた告白は数知れなかった。
 小学校4年生の頃から始って、ひどくなり始めたのが中学になってサッカー部に入っていきなりレギュラーをとったころ……。
 そして、探偵になってからそれはますますひどくなった。
 ミーハーなのが多かったけれど……。
 それでも、平気だった。
 でも、宮野さんだけは違う。
 わたしが知らない新一を知っている人。
 わたしの知らない新一を見ていた人……。
 それがあったから……わたしは家に帰って一人になりたくなかった。
 だから、わたしは新一の家に上がり込んだ。
 あの人の目が怖くて、あの人の感情が怖くて、不安でになってしまったのだ。
 そして、自分の中で今持て余している怖いほどの独占欲。
 これを新一に解消して欲しくなった。
 目を覚ますと、新一がわたしを見つめていた。
「……しん…いち?」
 寝ぼけた頭の中でどうして新一がわたしを見つめているのか分からなかった。
「珍しいな、熟睡したオメーが目を覚ますなんてさ。帰るのか?」
 新一は優しく笑って言う。
 そして、少しだけ寂しそうに最後の言葉を付け加えた。
「……新一、夕飯食べた?」
 新一の言葉に答えず、わたしは夕飯の事を聞く。
「そう言えば、まだ食ってねぇなぁ。蘭、何が食べたい?」
「え……」
「作ってやるよ」
「いいよ。わたしが作る」
「オレが作るよ」
 断固して譲らない新一にわたしはしぶしぶ折れる。
 ホントは何かしていたかった。
 けど、この場は黙って新一の言うことを聞くことにした。
 そして、夕飯も終わり後片づけが終わった新一はソファに座っているわたしの元へやって来る。
「蘭、大丈夫か?」
「何が?あ、そうだ新一、わたしお風呂に入っちゃうね」
 そう新一の言葉をかわし、わたしは新一の側からすり抜ける。
 今、わたしの感情はかなりヤバイ。
 あまりの独占欲の強さに、新一を壊してしまいそうな気がしたのだ。
 そんなことない。
 頭の中で叫んでいても、独占欲という感情が邪魔をしてネガティブを連れてくるのだ。
 お風呂から出て、わたしは新一が貸してくれているパジャマに身を包み新一の部屋に行く。
 さっきまで、新一が帰ってくる1時間前までわたしはこの部屋にいた。
 新一に包まれているような気がして安心出来たのだ。
「蘭、ったく。さっきっからちょろちょろしてどうしたんだよ」
 新一がそう言いながらはいって来た。
「新一、今日、泊まっていっていい?」
「はぁ、蘭、男の家に来て、男のベッドに寝ころびながら言うセリフじゃねーよ。さそってんのか?」
「そう、誘ってるの」
 そう言ったわたしの言葉に新一はため息をつく。
「やっぱ全然大丈夫じゃねーみたいだな」
 そう言って新一はわたしを抱き起こしその腕の中に収める。
「どういう意味?」
「宮野に言われたこと気にしてんだろ?」
 新一はズバリそう言う。
「でも、安心しろよ。オレが好きなのは蘭、オメーだけだ。蘭以外のやつなんか好きなんてなれねぇよ。だから安心しろ」
「ホントに?」
「バーロォ、んなことで嘘なんかつくかよ。蘭、オメーはどうなんだよ」
 そう言って新一はわたしの顔をのぞき込む。
 その新一のすべてを見透かすグランブルーの深い青の瞳に捕らわれて目まいがしてしまう。
 わたしが好きなのは…
「新一だけだよ。新一以外の人なんて好きになんかなれない。新一以外欲しくない」
 独占欲。
「蘭……」
「他の女の人なんて見ないで、他の女の人に触れないで、わたし以外の人に心動かされる新一を見たくない。わたしだけのモノでいて」
 凶悪なほどの独占欲。
 やきもちは妬いた。 
 でも、こんなに自分が独占欲が強いなんて思わなかった。
「蘭……オレは、オメーだけのモノだよ」
「うそ……」
 小さい声で言った新一の言葉に目を見張る。
「オレは、昔っからオメーにだけしか反応しないの。気付かなかったのか今まで」
 そんなの分かる訳ないじゃない。
「ったく、気付けよ……。って無理か……。いわねーとわかんねーもんな」
 そう言って新一はわたしを抱き締める。
「そのかわり、蘭……オメーはオレのモノだからな」
「新一?」
「だろ、オレは蘭のもの。で、蘭はオレのもの」
 顔を上げたわたしに新一はキスをする。
「新一……そう言うもの?」
「そう言うものなの。忘れんじゃねーぞ」
 そう言って新一はシニカルな微笑みをわたしに向ける。
 勝てないなぁ……新一には。
 不安になった気持ち全部解消しちゃうんだもん。
 明日っからのゴールデンウィーク楽しく過ごせそうな気がしてきた。
 新一のおかげだね。
「蘭、泊まってくんだろ」
「そう言ったでしょ」
「ハイ、そう聞きました」
「何度も言わせないでよ」
「ハイハイ」

 次の日の朝
 隣では蘭が熟睡していた。
 無邪気な寝顔だよな。
 昨日さんざんオレを驚かせたセリフを言った同一人物には見えねぇよ。
 蘭、オメーのこと不安にさせて悪かったな……。
 オレは蘭のモノ。
 そのかわり蘭はオレのもの。
 忘れんじゃねーぞ。
「くどーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー遊びに来たでぇ」
「平次、今何時やと思うとんの?朝の9時やで、朝の九時。そんなに叫ばんとき。ったく、何が悲しくて始発乗っていかなアカンかったわけ?もうちょっとゆっくりしても良かったやんか!」
「しゃーないやんか、工藤に逢いたかったんやから」
「平次、ちょっとまって。アタシと工藤君、どっちが大切なんや!!」
「そりゃ、くど……か、和葉、お前に決まっとるやないか」
「ホンマか?」
「ホンマやって」
「しらじらしぃわ」
 聞きなれたと言うより聞きたくない関西弁の応酬が玄関前で繰り広げられる。
 玄関前ではた迷惑な喧嘩をやめてくれぇ。
 ほっとくか???
 それとも出るか?
 そうだ、絶対、この部屋防音にしてやる!!!
 決めた。
 そうすれば、邪魔されねーですむな。
 くっそーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
 なんであいつら(特に服部)は邪魔するんだよ!!!!
*あとがき*
宮野さんの恋愛の番外編。
「君に逢うために生まれた」の平次×和葉告白後と球技大会の後ぐらい。


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