暗くなるまでまって〜君に逢うために生まれた 番外編〜

「もう、どうしてそうやって先に行っちゃうわけ?」
 そう言って蘭はオレの腕に自分の両腕を絡ませてくる。
 いきなりのことに、慌てながらも口から出るのは憎まれ口。
「オメェが歩くの遅いだけだろ」
「そう言う言い方しなくても良いじゃないのよ!!」
 案の定蘭は怒る。
「わたしの事さんざん方向音痴ってからかったの新一でしょ?そのわたしを放っておいて先に行かないでよ」
 蘭の声は怒っているのに…少しだけ悲しそうなのは…オレが何も言わなかったせいだろう。
 オレが何も言わなかったから蘭はおいてきぼりを食らった…そう思っている。
「ワリィ。ちゃんと、はぐれないようにつかまってろよ」
「ウン」
 オレの言葉に蘭はそううなずいた。

 ここはトロピカルランド。
 蘭と二人きりでくるのはあの日以来だ。
 オレは強引に今日、トロピカルランドに蘭を誘った。
 最初は…蘭がぽつりと
「トロピカルランドに行きたいな……」
 と呟いたのが最初だとしても…。
 その言葉に本の一瞬表情を変えたオレに
「ごめんね…」
 と泣きそうに言った蘭。
 だから、オレは蘭を強引にさそった。
 確かに、トロピカルランドは出来れば避けて通りたいところだ。
 けれど、蘭が好きなところなんだよな……。
 服部達や、快斗達と行くときはホントに楽しそうだ。
 あちこちまわってるし、オレを引っ張り回すし…。
 けど…ミステリーコースターだけは……避けてたな…。
「オマエ、ねぇちゃんに償っとる感じやな」
 服部にふいに言われた。
「償い?」
「そうや、オマエとしては側におったとしても、ねーちゃんとしては側におらんかったとも同じや……。蘭ねーちゃんが好きなことやって……許し…を請うてるような気がすんねん……。償いって言うより、そっちの方があっとるな…」
 蘭の側から…めったなことに離れないオレを見て服部はそう思ったらしい。
「バーロォ……。んなんじゃねーよ。オレが蘭の喜ぶ顔が見たいだけだよ。昔っからオレは蘭が喜ぶ事ぜーんぶやってたの。ワリィけど、オレは蘭の好きなもの。全部知ってんだぜ」
「さよか、言うたオレがアホやったわ」
 と服部は呆れたようにオレにいった。
 そう、オレは蘭が喜ぶ顔が見たかった。
 ただ…それだけなんだ。
 あの時、それが崩れるなんて思いもよらなかった。
 それが、蘭の一番好きなトロピカルランドで……。
 ……………。
 起きてしまったことをとやかく言ってもしょうがない。
 オレはあのことからいろいろ学んだことがあった。
 一つは「言いたいことはさっさと言え!!」
 だ。
「そこやないやろっ」
 ………服部の突っ込みが聞こえそうだ。
 ともかく、いろいろ学んだ。
 とりあえず、今日は蘭とトロピカルランドでデートだ!!!

 今日はトロピカルランド。
 新一とデート中。
 新一が戻ってから初めてのトロピカルランド。
 ホント言うと二人きりじゃ怖くて……来れなかった。
 でも、新一ってば強引よねぇ。
 急に
「明日ッ、明日行こう」
 なんて。
 まぁ、それは良いんだけど。
 デ、今はわたしは夢とおとぎの島のお城の展望台でトロピカルランドを望遠鏡で観察中なんだ。
 そう、あの時とおんなじコースをめぐってるの…。
 あの時と同じコースを…と言ったのはわたし?
 それとも新一?
 どっちだか分からないけれど…ともかくあの日と同じコースをめぐってる。
 あの時も…こうやって望遠鏡覗いてたわね。
 なんて思ってたら
「ねぇ、君。かわいーね。俺達と遊ばない?」
 いかにもナンパ目的の二人の男の子から声をかけられた。
「一人じゃないんで…」
 って言うよりも先に、
「あ、友達も一緒なんでしょ?だからさその娘と一緒にさぁ。俺達と遊ぼうよ」
 とその、声をかけた人はわたしの連れを、女の子と限定している。
「友達じゃなくって、彼氏なんですけど」
 って言うよりも先に腕をつかまれた。
 ちょっとぉ、人の話聞きなさいよぉ!!
 と見ず知らずの人に強く言えるはずもなく、
「何、するんですか?わたし彼氏を待ってるんです!!!」
 と最後まで言う前に
「その娘は後から見つけてさぁ先に俺達と」
 と強引にわたしをその展望台から連れ出そうとする。
 もう、人の話聞いてよぉ!!
「待って下さい。わたし、彼氏を待ってるんです!!!」
 その場所から連れ出されそうになったときわたしはやっと邪魔されずに言葉を吐いた。
 けれど、
「え?まじ?じゃあ、ますますほっとけないなぁ。そんな彼氏ほっといて俺達と遊ぼうよ」
「お断りします!!!」
 と引かない軟派な人にそう断言したときだった。
「蘭!!!!」
「新一…」
 そう新一がやっとどこに行ってたのか?なんだけど戻ってきたのだ。
「蘭、大丈夫か?」
「大丈夫じゃないわよぉっ。もうあんたって人は肝心なときにいないんだからぁ」
「ワリィ」
 わたしと新一の会話を遮るように軟派な人は新一をにらみつける。
「なんだよ、テメェは」
「それは、こっちのセリフだよ。その女から離れてくんない?」
 と言いながら新一はわたしの手から軟派な人の手を払いのける。
「ワリィけど、コレ、オレのだから」
 そう言って新一は射すくめるような視線で軟派な人達をにらみつけながらわたしの腕を引く。
「蘭、行くぞ」
「行くぞって…どこ?」
 間抜けにも聞いたわたしに新一は時計を指さし不敵に微笑む。
 時計?
 自分の時計を見ると…3時ちょっと前。
 そっか…。
 理由がわかってわたしはニッコリと新一に微笑みかけた。
 行き先は科学と宇宙の島の広場。
「なんとか間に合ったな」
「そうだね」
「ん?蘭、そろそろだぜ」
 新一の言葉にわたしは時計をみると10秒前。
「10.9.8.7.6.5.4.3.2.1!!!」
 一緒のカウントダウン。
 そして0になった瞬間水が勢いよく立ち上がった。
 外側からわたしたちを囲むように立ち上がる噴水。
 二時間おきになる噴水を新一はあの時もわたしに見せてくれた。
「さっきはゴメンね」
「バーロォ。あやまんじゃねぇよ。オレの方こそ、ゴメンな。オメェのこと一人にしちまってよ」
「良いよ。それは許してあげる」
 そう言ってわたしは微笑み空に浮かんだ虹を眺める。
「蘭」
「何?」
 不意に呼ばれ顔を向けると…新一の視線とぶつかる。
 …深い深い青い海…グランブルー…の色の新一の瞳…。
 この瞳は上手にわたしの心を溶かしていく。
 次の瞬間、軽いキス…そして甘やかな深いキス。
 ちょ…っとまって…。
 甘やかな深いキスに一瞬我を忘れそうになったけど、ここ密閉空間じゃないのよぉ!!
 噴水が、おきている時間は約1分。
 もうそろそろ1分経つのよぉ!!
 わたしは新一を手で押す。
「な、なんだよぉ」
「なんだよじゃないわよぉ。ココ、外なんだからね!!」
「外だッつったって見えねぇよ!!」
「そろそろ噴水が終わるわよ!!」
 そう言いあっている間に噴水は終わってしまった。
「チェ…つまんねーの」
 そう言って新一は子供見たいに膨れた。
「もう、そう言わないの。行くわよ、次に!!」
 そうして、わたしは新一をその場から引っ張りだした。
 次の目的地……。
 そう、今回のメインの場所……ミステリーコースターへと…やって来た。
 建物の目の前で立ち止まってしまったわたし達。
 あの時のこと、ふと思いだしてしまって…先に進めないのはわたし?
 それとも新一?
 ともかく、その場から動けなかった。
「蘭…、大丈夫?」
 新一が心配そうにわたしの顔をのぞき込む。
 わたしのこと…心配してるの?
 新一は平気なの?
「オレは…平気だよ。蘭がいるもんな」
 わたしの心の中を見透かすようにいったその言葉にわたしは照れてしまいうつむいてしまった。
「蘭、どうする?行く?」
「ウン」
 そうよね、新一がいてくれるんだもん。
 大丈夫よね。
 よし、思いっきり堪能しよう!!!
 不安で一杯だったけど無事に、なんとかミステリーコースターを克服出来た。
 今回何にもなくて良かったぁ。
 そう思った。

 何もなくて良かった。
 正直な感想である。
 毎度のごとく事件に遭遇しやすいオレとしてはホントに安心出来た。
 あたりもすっかり暗くなったころオレは蘭と共に観覧車に乗る。
「夜の観覧車もいいね」
「だろ?あん時もさあんなことさえなければ観覧車に乗ってたんだぜ」
「そうなの?」
 蘭の言葉にオレは頷く。
 今日のトロピカルランドのデートコースはあの時考えに考えたコースをそのままなぞっていた。
 蘭は気付いてるかな?
 あの時と同じコースをたどっていることを。
「新一」
「ん?」
 隣に座っている蘭に不意に呼ばれる
「今日は、ありがとう。トロピカルランドに連れてきてくれて」
「礼を言うほどのもんじゃねぇよ。楽しかったな」
「ウン」
 嬉しそうに微笑む蘭を見て、オレはやっぱり蘭と一緒にトロピカルランドに来て正解だったと言うことが分かった。
 時計を見るともうすぐで7時…。
 観覧車も丁度いい高さになった時、三連発の花火が目の前に現れた。
「うわぁ、花火」
 蘭が目の前ではじまった花火に歓声をあげる。
「7時だもんな。観覧車から見る花火ってのも悪くねぇだろ」
 オレの言葉に蘭は嬉しそうに頷いた後、思ってもみないことを言った。
「でも、新一ってホント、トロピカルランド詳しいよね」
 へ?
「でも、何でそんなに詳しいの?」
「そ…それは」
 思わず口ごもる。
 言ってねぇな…。
 蘭を喜ばしたいがためだけに、トロピカルランドを研究した……なんて……。
 言えない……。
「何で?」
「そ……それは……」
 なおも、理由を知りたがるオレに蘭はしつこく聞きだす。
「ねぇ何で?…分かった!!!!テレビの、トロピカルランドマニア選手権に出るためでしょう!!」
「違う!!!」
「じゃあ、教えてよ」
 …………。
 正直に…言わなきゃダメか?
 蘭はオレの方じっと興味津々の顔で見てるし。
「……蘭の……喜ぶ顔が……見たかったから……いろいろ……調べてたら…こんなに詳しくなっちまったんだよ……」
 うわぁ、マジで恥ずかしー。
「…あ…ありがとう」
 恥ずかしそうに蘭がうつむいた。
 そんな蘭につい、意地悪したくなるのは…オレの悪い癖なんだろうか。
「蘭」
「何?」
 オレの方を向いた蘭にオレはキスをする。
「新一?」
「さっきの続き」
 そう言うと蘭は顔を赤らめた。
「新一…」
「何?」
 もう一度かさねた口唇を離した後、蘭は潤んだ瞳でオレを見つめ言葉を紡ぐ。
「大好きよ、新一」
 え……。
「だから、また二人でこようね」
 その言葉に頷いたオレに、蘭はオレに寄り掛かったのだった。

〜おまけ〜
「ねぇ、コレからどこか行かない?」
「へ?」
 わたしの言葉に新一は面食らう。
 何か変なこと言った?
 どうせ明日も休みなんだし…って思ったから言っただけなんだけど。
「コレからって…どこって?」
「それは新一が決めて」
「あのなぁ…」
「何?」
 何か言いたげな新一にわたしは立ち止まる
「じゃあとりあえず」
「とりあえず?」
「飯でも食いにいくか」
 そう言った新一に思わず笑ってしまう。
「なーんだよ」
「そうね、でその後は」
 そう言ったわたしを見て新一は不敵に微笑む。
 な…何?
「オレにまかせるんだろ?」
「う…うん」
 なんかいやな予感。
「じゃ、秘密」
 そう言って新一は不敵な笑みを浮かべたまま何も教えてくれない。
 どこだろう。
 今一不安だけど、新一と一緒なら…いいよね。

*あとがき*
以前に頂いたイラストが元。タイトルは映画から


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