君といるために乗り越えること 君に逢う為に生まれた〜We Love The Earth〜

 次の日、いつものように蘭が迎えに来る。
 学校の行き帰りは蘭の家の前を通るんだけど……、蘭が言うには
「だって…またどっか行っちゃうのやだし…それにね、少しでも新一と一緒に歩いてたいし……それに……」
 って小さな声でしかも電話してるときに言われた。
 本人は聞こえてないだろうと思っているみたいだけど、はっきり聞かせてもらった。
 それを聞いてオレは次の日の朝蘭の顔がなかなか見れなくて困った、記憶がある。
 あんなこと言われたら照れるじゃねーか。
「ねぇ、新一。昨日の高木さんから呼ばれたのってなんだったの?やっぱり事件だったの?」
「まぁね、ちょっと複雑だったらしくってさ…」
 蘭に嘘をつく。
 ………って言うか言えねぇよな……今はまだ。
 その内に言う。
 絶対に。
 今はまだごめん。
「……紫の上は、葡萄染にやあらむ、色濃き小袿、薄蘇芳の細長に、御髪のたまれるほど、こちたくゆるるかに……」
 5時間目の古文の時間。
 源氏物語の原文を読んでいるときだった。
 一瞬胸が苦しくなる。
「ドキン!!!」
 感じ覚えのある心臓の鼓動。
 お、オイ。
 まてよ……。
 これってあれじゃねーの……。
「新一?」
 蘭がオレの様子に気がつく。
 体中が熱い……。
 間違いなくあの発作だ。
 ……もしかするとオレ、コナンに戻っちまうのか……。
 じょ、冗談だろ……。
「工藤?」
 古文の先生の声がする。
 動悸が激しくなるせいで体中の力が抜けていき、その場には立っていられなくなる。
 崩れ落ちるように座り込んだオレに蘭が聞く。
「新一、大丈夫なの?」
「…ら…ん、…だい…じょう………」
「新一、新一ーーーーーーーーーー!!!」
 蘭に大丈夫と告げる瞬間オレは意識を失った。

「新一、新一、しっかりして」
 声をかけてみても新一は微動だにしない。
「とりあえず、工藤君を保健室に運ぶぞ」
 古文の先生が新一を保健室にまで連れていく。
「わたしも行きます」
 そう言ってわたしは保健室に先生とともに向かった。
 保健室のベッドで静かに眠っている新一を見てわたしは少し不安になった。
「毛利さん、工藤君は倒れることは多いのかい?」
 新出先生が聞く。
「いえ……そんなわけはないです」
 何を言っているのか自分でもわからなくなる。
 新一が言ってた。
「発作が起きてコナンに戻る可能性もある」って。
 この前トロピカルランドに行ったとき新一に言われた。
「そのときは…ごめんな」
 つらそうに新一が言ったのが凄く心に残っている。
 ごめんな……なんて言わないで。
 どんなに姿は変わってもあなたじゃないの。
 コナン君=新一。
 どんなになっても、何があってもわたしはあなたの側にいる。
 あなたが帰ってきたとき決めたのよ。
「蘭さん、工藤君の様子はどう?」
 休み時間に入って宮野さんがやって来た。
「志保さん……。まだ、目が覚めないわ」
「…そうみたいね。また、来るわ」
 そっけなく宮野さんは教室へと戻っていった。
「毛利さん、君も教室に行ったほうがいいんじゃないのかい?」
「……いえ、まだここにいます。次の時間はホームルームだから……。新出先生こそ何か用事があるんじゃないですか?」
「はい。じゃあ毛利さん、僕は職員室にいますので、何かあった場合は呼んで下さい」
 そう言って新出先生は保健室から出ていく。
「新一……わたしなにがあってもあなたの側にいるから……だから新一もいなくならないで」
 新一の胸に顔を乗せながらわたしは言う。
「バーロォ、いなくならねーって言ってるだろ、いつも」
 不意に頭に乗せられた手と優しい声が聞こえる。
「新一、気がついたの」
「あぁ…。わりぃな、蘭心配かけて……」
「心配かけて……なんていつものことでしょ。これからは心配させる要因、少しは減らしてよね」
「わーってるよ」
 新一は満面に笑をたたえて言う。
「今、何時間目?」
「6時間目だよ」
 新一の言葉に応える。
「そっか……1時間位は寝てたって所かな」
「…そんなになるんだ……。気がつかなかった」
 新一が心配でどうしようもなくって、自分の事に対処できなかった。
「気がつかなかったって……。蘭は授業は?」
「そんなこと、関係ないでしょ。それに心配しなくても大丈夫、この時間自習だから」
「そっか……」
 そう言って新一は起き上がる。
「大丈夫なの?起き上がっても」
「まあな……」
 そう言って新一はわたしの頬に手を添える。
「蘭、心配かけてごめん」
「んん、そんなことないよ」
 新一はそのの言葉に少し微笑んでわたしを抱き寄せる。
「……蘭…この前屋上ので言ったこともう少し、待っててくれねーか…」
「待ってくれないかってどのくらい?」
「オレが…自信つくぐらい」
 新一が自信つくぐらい???
 いつも自信満々な新一が今、自信がないことってなんだろう。
「それってどういうこと?」
 新一の顔を見ながら聞くと、新一は顔を横に向け顔を赤くしている。
 な、何?
 何ナノ?
「あのな、蘭。今はまだ言えないんだけど、絶対、蘭にいつかは言いたいことなんだよ、お前だけに」
 わたしだけに、いつかは言いたいこと?
 今はまだ言えないって……。
 え、何?
 分かんないよ。
「分かんないよ、新一」
「頼む、蘭、今は聞かないでくれ」
 そう言いながら新一はますます顔を赤くする。
「何?ヒントだけ教えてよ」
「………ダメ!」
 少しの沈黙の後に新一はすっぱりと言う。
「どうしてよ」
「だから、今は聞くなって言ってるだろ」
 ダメだ。
 絶対に言ってくれそうにない。
 しょうがないなぁ、ココは折れるしかないか。
「分かったわよ」
 そう言ってわたしは新一の胸に頭を預けた。

「分かったわよ、でも後で絶対に言ってよね」
 そう言って蘭は満面に笑をたたえて言う。
 言えるわけがないよ。
 まだ…さ……。
 六時間目の授業の終了の鐘が鳴る。
 それと同時に宮野が教室にやって来た。
「あら、お邪魔だったかしら」
 人が入ってきたのでぱっと離れたオレ達二人をみて宮野は半ばからかうように言う。
「あのなぁ(入ってきて言うなよ)、でなんなんだよ」
「工藤君に、朗報よ」
「オレに?」
「そ、コナンに戻らないならあなたにもう発作は襲ってこないわ」
 宮野の言葉にオレは目が点になる。
 どういうことだ?
「一度発作が来て元に(子供に)戻ったら、即入院!でも、戻らなかったら安心していいって言われたわ。あら、あなた先生に言われなかったかしら?」
 そう言えば……一度発作が起こるかも知れないから気をつけてって言われたような気がする。
 あの時オレは……色々考えていてあんまり頭に入ってなかったような気がする……。
「ともかくこれでとりあえずは安心して大丈夫よ。工藤君、高校生らしい節度ある行動をね」
 ……なんなんだよ、節度ある行動をって。
「蘭、新一君、かばん持ってきてあげたわよ。もう宮野さんってば先行っちゃうんだから」
「ごめんなさい、鈴木さん」
 園子はオレと蘭のかばんを持って保健室にやって来た。
「せっかく持ってきた園子様にお礼でも言いなさいよね。あ、そう言えばこの前約束したケーキセットまだおごってもらってないわよ。ケーキ屋さん。今から行こう」
 突然、園子はおごりの話しを持ち出す。
 こっちはもう、忘れてもらったもんだと思ってたのに!!
「って、オイ。いつの間にケーキセットをおごるって言う話しになってんだよ」
 それ言ったのは蘭だけだろう。
「あら、ちゃんと蘭と相談して決めたんだけど。ねぇ、蘭」
「そうだよ、新一。ケーキセットおごってね」
「じゃあ、私もおごってもらおうかしら」
 宮野までがおごられようと狙い始める。
 じょ、冗談じゃねーぞ……。
 オレは今この窮地を抜け出す策をあれこれめぐり始める。
 やっぱ、ココは仮病か?
 蘭に心配かけさせるようなことではあるが…。
 それが一番いい。
 蘭の事だから側にいてくれるだろうし、何より園子&宮野を排除(笑)出来る。
 よし、その手で行こう。
 とりあえず、おもむろに倒れ込む。
「新一?」
 蘭、ごめん。
 と心の中で謝りながらオレは言葉を吐く。
「わりぃ、蘭。なんかまだ身体の方が言うこと効かねーんだ」
「うそ、大丈夫なの?」
 案の定、蘭は心配する。
 かなり良心が咎めるが…ケーキを3人分おごらされるよりはましだ。
 まぁ、蘭の分はいいだろう。
 百歩譲って今まで迷惑かけた分のお礼として園子におごるのもいいだろう。
 だが、宮野だけは納得いかん。
 いくら江戸川コナンから工藤新一に戻れたのが宮野のおかげだとしてもだ!!!
「まぁ、なんとかな。で、ケーキ屋さん行くんだろ」
「ダメだよ、新一。また、新一が倒れてもしたら、わたし……」
「大丈夫だって言うのオメーも聞いたろ。心配すんなって…」
「そんなこと言ったって無理だよ」
 まぁ、当然のことか。
 さんざん心配かけさせてんだからな………。
「仕方ないわねぇ、今日のところは蘭に免じてあきらめてあげるけど、今度は必ずおごってよね。宮野さん、この二人のラブラブに当てられてる場合じゃないわ。さっさと帰りましょ」
「そうね」
 そう言って園子&宮野は保健室から出ていく。
 ふーやっとあきらめてくれたかあの二人。
「大丈夫?新一」
「あ?あぁ、大丈夫。蘭、帰るぞ」
 そう言ってオレはベッドからおり、蘭と一緒に家に帰ってきた。
 とりあえず、3人分のケーキをおごらされると言う事態は避けられたから、まぁ、良かったかな。

 わたしは新一の家に泊まることにした。
 だって、心配だったんだもん。
 いくらね、大丈夫だって言われたって心配なのよ。
「で、おっちゃんには何て言うんだよ」
 夕飯の支度をしている最中に新一に言われる。
「素直に新一の家に泊まるって言うわよ」
「っておっちゃんが怒るだろう」
 分かってるわよ、お父さんが怒るのは目に見えてる。
 新一の何気ない言い方にわたしは頭にき始めていた。
「何?わたしがいるのは迷惑だって言いたいわけ?」
「誰もんなこと言ってねーだろ」
 新一はふてくされたように言う。
「……心配なの……心配しちゃダメ?」
「わーったよ。しらねーぞ、おっちゃんに色々言われても」
 と新一が言う。
「大丈夫だよ、多分」
「ったく……」
 とりあえず、お父さんに電話する。
「お父さん、今日わたし、新一の家に泊まるね」
「なんでだ?」
「…新一今日学校で倒れたの…だから心配で…」
「新一が倒れた?」
 突然お父さんはわたしが思ってみなかったことを言う。
 倒れたことがお父さんにはなんか影響するのかなぁ…。
「う、うん」
「で、新一の具合はどうなんだ?」
「とりあえず、大丈夫見たい。でも…心配だから…」
「そうか、分かった」
 そう言ってお父さんは電話を切る。
 ???
 なんでだろ。
 怒ってないのかな?
 いいのかな?
「どうだったおっちゃん」
「なんか怒ってないみたい」
「怒ってない?」
「うん」
 新一はお父さんの様子に不思議がる。
「なんでだろう」
「さぁ」
 ホントなんでだろう。
 わたしも新一も何故お父さんが怒ってないのか全く検討がつかなかった。
 ただ、その疑問が解けるのはかなり後のことになってからなんだけれど…。

*あとがき*
君と居るためにの後編、乗り越えること。


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