闇夜の怪盗 対決 君に逢う為に生まれた〜We Love The Earth〜

 キッドから予告状が来た。
 もちろんオレはその暗号を解読した。
 簡単に。
「工藤君、君が来てくれると助かるんだがね」
 久しぶりに警視庁に行くと中森警部がオレを呼び止めこういった。
 確か青子ちゃんのお父さんだったはず……。
 蘭によく似ている女の子…。
 そして、その隣には快斗がいた。
 そう、怪盗キッド…。
 奴はオレに来るように言っているんだろうか……。
 そんな気がして仕方ない。
「また事件のこと考えてるんでしょう」
「蘭、ごめん」
「何で謝るの?新一が事件のこと考えてるのっていつものことじゃない」
 蘭がオレの部屋でそう言う。
 確かに合ってるのでオレは反論できない。
「で、今日は何ナノ?」
「キッドからの予告状」
「とうとう来たんだ……」
 蘭の言葉に一瞬悩む。
 とうとう来たってどういうことだ?
「青子ちゃんが言ってたじゃない。キッド捕まえてって。行くんでしょう探偵さん」
「まぁな。逃走経路はわかってるし、キッドを捕まえることぐらい訳ないさ」
 オレは軽く蘭に言う。
 そう分かっている。
 オレが知りたいのは何故快斗はオレに自分は怪盗キッドだと言うことをにおわせるようなことを言ったのかと言うことだ。

 どうしてわたしここに居るんだろう。
 怪盗キッドが見たくて、新一に内緒で杯戸ホテルにまで来てしまった。
 キッドフリークの園子が言うには怪盗キッドは屋上に行くのが好きらしい。
 見たいの、そう思った。
 単純かな?
 違う、一度、会った人だから。
 わたしが大好きな人と同じ目を持ったキッド。
 つらそうに目を伏せるのが好きだった。
 それ見て、ドキドキしている自分がいた。
 ……おかしいかな。
 でも、どこかで気がついていたの。
 同じ人なんだって。
 必死になって自分のことを隠していた彼と2度しか対面していない怪盗キッドの瞳が同じだった。
 何かを必死になって隠している。
 しかも大切な人に。
「あなたには手荒なマネはしたくないんですよ、お嬢さん。わたしの想い人に似ていらっしゃるから……」
 そう言ったキッド。
 一度だけ、キッドはの素顔をわたしは見てしまった。
「内緒にしていただけませんか?あなたの想い人にも、あなたの父親にも」
「どうして?」
「苦しいから……。本当はあなたに知られたくなかった。わたしの想い人に似ているあなたには……」
 キッドはそう言う。
「いつまでも隠すことは出来ないんじゃないの?」
 わたしの言葉にキッドは穏やかな表情のまま言う。
「そうですか?でもあいつは隠してますよ」
「あいつ?」
「ハイ」
「わたしの知ってる人」
「そうですね」
 わたしはその時知ってしまったのかも知れない。
 分かってしまったのかも知れない。
 キッドがそう簡単に秘密を話すはずはない。
 でも、それが自分への言葉だったら…。
 彼はわたしをあの娘と想って言ったのなら……。
 今ならそう感じることが出来る。
 キッド、あなたは彼女に言うのね。
 だから、新一にあんなこと言ったんだよね。

 杯戸ホテルの最上階の展示室に世界最大のサードニックスであるオレンジハピネスがおいてある。
「工藤君、君が暗号をといてくれたおかげでオレンジハピネスは守ることが出来るよ、ありがとう」
「中森警部、まだ礼を言うのは早いですよ。今からキッドが来る時間までそう長くはありません。気をつけないと、すでにキッドは忍び込んでるのかもしれませんからね」
 オレの言葉に中森警部は表情を引き締める。
「もちろんだとも、さぁ、どこからでも掛かってこい!!!!」
 予告の時間は近付いてきている。
 落ち着かない。
「工藤君、どうしてメガネなんて掛けているんだね」
「ちょっと目が悪いんですよ」
 中森警部にメガネをかけていることを聞かれる。
 大うそだ。
 目なんてちっとも悪くない。
 これは対キッド用のメガネ。
 阿笠博士に作ってもらった特殊メガネ。
 コナンの時の変装用メガネがこんなことに役立つとは……。
「工藤探偵、目が悪かったんですか?」
 そう聞こえたかと想った途端、いきなり会場の電気が消える。
 展示室は四方が壁なため完ぺきな暗やみだ。
「怪盗キッド、そう思えるか?」
「残念ながらとてもそう思えません」
「その通り。これは暗視スコープなんだよ。阿笠博士に作ってもらったんだ。暗やみに乗じて盗みを謀るお前を捕まえるためにな」
 オレの方からはっきりと怪盗キッドの姿が見える。
 中森警部達はまだ暗やみに目がなれていないらしい。
 暗やみに目がなれたとしても完ぺきな暗やみだ。
 早々見えるもんじゃないだろう。
「なるほど、さすがですね。でも、これではどうですか?」
 そう言ってキッドは煙幕を張る。
 普通、密閉された空間で煙幕はるか???
「うわーーーーーーー」
「パニックを起こすなーー」
「煙りだーーーーーーーー!!」
 突然の煙にパニック状態となる。
 当然だろう、暗やみに加え、煙を感じ取ったらパニックになるのは当然だ。
 しかも、密閉空間!!
「もう少し考えろよなぁ!」
「考えていますよ、中森警部。それではご機嫌よう!!!」
 換気扇が煙を吸い取り、電気が復旧するころ、キッドは逃げ出していた。
「しまった!!!キッドめ」
「落ち着いて下さい、中森警部。奴の逃走経路はわかっています。奴の逃走経路は、杯戸ホテルの屋上から、東都デパート、日売テレビそして、米花シティホテルのどれかを通るはずです、一番怪しいのは東都デパートですが、人の多い日売テレビも外せないでしょう」
 オレは、キッドが考えている逃走経路を中森警部に話す。
「工藤君、君ならば日売テレビと東都デパートどっちを選ぶかね」
「そうですねぇ、外の状況から彼は選ぶので…どちらとも言えません。後は中森警部の長年の勘によるとおもいます、ちょっとボクは屋上に行きます」
「何故かね……」
「何か……気になることがありまして…」
「屋上にいるというのかね」
「いえ……それはないと想います。では」
 虫の知らせ……と言うのだろうか…。
 オレは何かを感じていた。

 仕事を終え逃走経路確保の為に屋上に向かう。
 参ったね、新一が暗視スコープなんて掛けてるなんて思わないじゃん。
 卑怯だよ、あいつは。
 屋上につくと人の気配に気がつく。
 屋上の手すりに寄り掛かり長い髪をたなびかせ、天にかかる琥珀色の月を眺めていた。
 青子……?。
 一瞬、青子に見えた。
 でも、青子がここに居るはずがない。
 青子は、東都デパートの屋上にいるはずだ。
 じゃあ、彼女は……あいつの彼女か……。
 何故こんなところに居るんだろう。
 警戒させるわけにはいかないのであいつの変装を施す。
「蘭…」
「新一?」
「どうしてここに?」
 そして、新一を演じる。
「……キッドに会いたくて……」
 オレに会いたくて…?
 どういう意味だ?
「キッドがね、次の仕事の時に想い人の魔法を解きますって予告状くれたの、だから心配で……」
 どうしてオレが心配なんだ?
「どうして心配してるんだ?」
「言ったら側にいられなくなるかも知れないよって」
 側にいられなくなる?
「新一が言わなかったのは、その理由でしょう?コナンであるのを知られたくない。だから言わなかったんでしょう。組織に狙われるからって言うのも合ったとおもうけど……。言ってそばからいなくなるのなら…言わないで欲しい…。そう思ったのあの時」
 彼女は寂しそうに空を見上げながら言う。
 言っても後悔。
 言わなくても後悔。
 新一は言わないで今まで居た。
 でも、彼女は知っていた。
 江戸川コナンは工藤新一だということを。
 それを隠すことはどのくらい苦痛だったんだろうか。
 青子も同じ苦しみを抱いているのだろうか……。
 青子……。
「え………」
 抱き締めていた。
 青子に似ているあいつの彼女を。
 青子と同じ瞳でオレを見つめる彼女を……。
「誰???」
「へ……」
 彼女の声に驚く。
「…あなた、誰?新一じゃないわね」
 な、なに?
 どういうことだ。
 変装は完ぺきだ!!!
 見破られるはずがない。
「……あなた……キッドね」
 完ぺきに見破られてる。
「何故、分かったんですか?お嬢さん。種明かし、していただきたいのですが……」
 彼女を腕から外し、キッドの扮装で問い掛ける。
「何となく、新一じゃないような気がした。んーん、何となくじゃないね、絶対かな。でも自信持っていいよ。他の人だったら分からないから」
 そう言って彼女はうれしそうに微笑む。
「参りました。あなたには、さすが工藤探偵の側に居るだけはある」
「そう言う問題じゃないと思うんだけど……。好きな人のことだったら分かるでしょう。あれと一緒」
 彼女は優しく微笑む。
「……キッド、いいの?」
 静かな沈黙の後に彼女は言う。
「……ハイ。魔法はいつか解けるものです。工藤探偵があなたに掛けた魔法は彼が解きました。わたしが彼女に掛けた魔法はわたしが解くものです」
 青子に似ている瞳で彼女はまっすぐにオレを見つめる。
「似てるね、やっぱり」
「誰とですか?」
 彼女の言葉にオレは悩む。
「新一と……かな?……。つらそうに目を伏せるの……。ホント、時たまするんだよ。新一気付いてないと想うけどね。キッドも同じことするね。顔だけと思ってたけど……なんか似てるのかも。探偵と怪盗って相反するものなのに、引きあうのは何でなのかな…」
 彼女は寂しそうに言う。
 青子もこんなふうにオレのことで寂しそうに言うのだろうか。
 オレは青子の明るい部分しか知らない。
「蘭!!!!キッド、蘭にさわるな!!!」
 新一の怒鳴り声が突然聞こえる。
「おや?邪魔者の登場ですね。お嬢さん、またいつの日かお逢いしましょう。名探偵、また、いつの日か。じゃ・あ・な、新一」
 そう言ってオレは二人の目の前から消える。
 青子が待っているであろう東都デパートに向かうために。

「じゃ・あ・な、新一」
 そう言ってキッド=快斗は夜の空へと飛んでいく。
 蘭の側に走り寄る。
「……快斗…くん……」
 今、蘭、なんて言った???
 おかしくなりそうな考えを振りきって蘭を抱き寄せる。
 当然だろ?
 オレに扮したキッドと蘭が抱きあってるところを目の当たりにしたんだ。
 頭の中がおかしくなっても。
「新一……」
「蘭、何であいつの名前を言ったんだ」
 嫉妬で気が狂いそうになる。
「新一……」
 少しだけ潤んだ瞳で蘭はオレを見上げる。
 限界だ。
 強引に蘭の口唇を奪う。
 蹂躙するかのように蘭の口唇をむさぼる。
「ん…………やっぱり新一だ」
 口唇を話した後の蘭の言葉に頭の中が?だらけになる。
 どういうことだ?
「蘭、それってどういう意味?」
「秘密。後で教えてあげる」
 そう言って蘭はオレが一番弱い笑顔を見せる。
「蘭……キッドが快斗だってこと知ってたの?」
「……ウン。この前会ったときに分かった」
 この前会ったときに分かった?
「あのね、一度、わたしキッドの顔見ちゃったことがあるの」
「いつ?」
「園子の家の船上パーティの時」
 あの時か……。
 あの時、あいつは蘭はボートで眠っているって言った。
 人のこと脅かしやがって。
 くそーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
 今更ながらに腹がたってきた。
 蘭に化けて、なおかつ蘭を眠らせたと分かったら、オレがどうするかあいつだって分かってるはずだ。
 静寂があたりを支配する。
 中森警部はもうキッドを追っていったのだろうか……。
 ふと考える。
「新一……キッドね、青子ちゃんに言うんだって。自分がキッドだって」
「そうか………………隠し続けることやめんだな」
 静寂壊さないように蘭は静かに言葉を紡ぐ。
 悲しそうに。
「キッド苦しそうだった。新一も苦しかったの?自分はコナンだって黙ってて」
 蘭の言葉にオレは答えられない。
 コナンだと言うことを黙っていてつらかった?
 確かにつらかった。
 言って楽になりたかった。
 知って欲しかった。
 分かって欲しかった。
 蘭には分かっていて欲しかった。
 だけど……知られたくなかった。
 あんな身体になったことを知られたくなかった。
 蘭を事件に巻き込みたくない……って言うのは建前にすぎない。
 知られたくなかった。
 蘭に、蘭だけには……。
「新一は知られたくない。でも、わたしは知りたかったの。新一を取り囲んでいる苦しみを、わたしが知ることで新一が楽になれるのなら、わたしは知りたかったの」
「バーロ……。おまえにそんなこと言ったら、おまえが泣きだすのは目に見えてんだろ。それでなくってもオレがコナンだったって言ったときわんわん泣いたじゃねーか」
「それでも、知りたかったのよ。新一が抱えてる苦しみから新一を守りたかったの」
 そう言って蘭はオレを抱き締める。
 蘭のぬくもりがオレの、オレを、抱き締める腕から感じられる。
「新一は優しすぎるから、一人で抱え込んじゃうのよ。…新一、一人で抱え込まないで。何か苦しいことが会ったらわたしに言って。新一が楽に慣れるのなら、わたしに言ってね」
 優しすぎるから……か。
 お人よしの蘭に言われたくなかったかな。
「人のこと言えんのかよ、お人よしのくせして。蘭、おまえには余計なもん背負わせたくないんだよ。オレが言ったら、今度はおまえが苦しむだろうが」
「だから、新一がいるんでしょ。大丈夫、新一が側にいてくれれば」
 参ったな、蘭には勝てねーよ。
「蘭、帰ろう、いつまでここにいてもしゃーねーだろ」
「そうだね」
 そう言って蘭はオレの後を着いて歩き出す。
「キッド……大丈夫かな」
「大丈夫に決まってんだろ。自分で決めたんだ、決めたこと止めるような奴じゃねーよ」
 オレの言葉に蘭は微笑む。
 何で?
「やっぱり、新一と快斗君って似てるね」
 蘭の突然の言葉に面食らう。
 どこが????
 オレと快斗のどこが似てるんだ?
「顔もそうだけど、自信満々のところとか気障なところ」
 蘭の言葉に悩む。
 そんなにオレと快斗って似てるのか?
 わかんねーよ。

*あとがき*
怪盗キッドvs工藤新一?の2話。
…キッドvs新一というよりも、蘭vsキッド。


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