闇夜の怪盗 序章 君に逢う為に生まれた〜We Love The Earth〜

 あの人はわたしが大好きな人とそっくりなの。

 片眼鏡の奥に隠れているいたずらっ子のような瞳。
 一度だけ間近で見たことがあるその瞳に一瞬我を忘れてしまった。

 あれがあいつと同じと感じさせてしまう。

 一番嫌いな人と一番好きな人がおんなじだなんて嫌だよ。
 あの人と快斗はおんなじ人じゃないよね。

 否定しようと思っても出来ないわたしがいる。
 あの人と快斗は同じような気がしてしょうがないから。

 このごろあいつは寂しそうにしている。
 何でだろう。
 それが凄く不思議だった。

 放課後になったのにも気がつかず快斗は窓の外を見ている。
 もう授業終わったよ、なんて言える様子では全然ない。
 快斗に帰ろうと言いはぐって、とうとう教室からは誰もいなくなってしまった。

「快斗、どうしたのかな?何かこの頃元気ないよ」

 窓の外をぼーっと見ている快斗に話しかける。

「何で元気ないって思ったんだよ」

 外を見ながら快斗は言う。

「だって、……快斗ぼーっと外ばっかり見てるし……。青子とデートしてても楽しそうじゃないし」
「バーロそんな訳ないじゃん」

 そう言って快斗は青子の方を見てくれる。

「だって…この前工藤君に逢ってからだよ、快斗がおかしくなったの」
 青子の言葉に快斗は悲しそうに笑う。
 青子、おかしなこと言った?

「快斗、どうしたの?」

 不安そうに言う青子の頬に快斗は手を添える。

「それはこっちのセリフだろ、青子こそどうしたんだよ」
「だって、快斗が…悲しそうで……泣きそうで……」
「バーロォ、泣いてんのは青子だろ」

 そう言って快斗は青子の目にあふれ出した涙を親指でふき取る。

「だって……」
「泣いてんじゃねーよ」

 そう言って快斗はわたしを抱き寄せる。

「か、快斗?」
「青子、少しの間こうしてていいか?」

 快斗の声がすぐ上で聞こえる。
 その感じが凄く心地よくて、凄く幸せで、でも快斗が遠くに行ってしまいそうで不安でしょうがなかった。

「快斗……青子でいいなら青子が快斗の悩み聞いてあげるよ」
「……青子……心配すんなよ。大丈夫だって」

 そう言う快斗の声は大丈夫じゃなかった。

 だって、声が泣きそうだよ。

 快斗、あなたは何を抱えているの?
 わたしに言えないこと?
 側に居てなんて言えないよ。



「違うよね、快斗。快斗は快斗だよね」





 青子の言葉にどきっとした。
 抱き締めた腕に力が入る。
 長い沈黙の後に青子の口から発せられた言葉。
「違うよね、快斗。快斗は快斗だよね」
 オレはオレだよね……。
 快斗はキッドじゃないよねって言う意味に聞こえる。
 ごめん、青子。
 オレは怪盗キッドなんだよ。
 青子には言えない。
 青子はキッドを嫌っている。
 理由は簡単。
「一生懸命やっている人をあざ笑ってるから」
 …そう言うわけじゃない。
 青子に言っても伝わらないだろう。
 オレは……泥棒……だから。
 犯罪を犯している……から。
 それでも、青子のそばにいたいのは、青子が大切だから。
 キッドだからそばにいられない。
 でも快斗だから側にいられる。
「青子、オレはオレだよ」
 そう、オレはオレ。
 黒羽快斗でもあり、怪盗キッドでもある。
 どっちも外すことが出来ないんだよ、青子。

 夜が来る。
 すべてを隠す夜が来る。
 わたしは知りたい、あなたのことを。
「オレは、オレだよ」
 それはどういう意味なの快斗。
 わたしはその意味を確かめたい。
『月が光る夜、東都デパートの屋上で待っています。怪盗キッド』
 キッドからの予告状。
 お父さんのところにも来た。
『今晩、杯戸ホテルのオレンジハピネスをいただきに上がります。怪盗キッド』
 暗号を解読するとそうなったらしい。
 東都デパートそこで何をするのキッド。
 わたしは時間を待って出かける。
 そこで何があるのキッド。
 やっぱりキッドは快斗なの?

「Ladies and Gentlemen!! It's showe time!」
 キッドの衣装に身を包み呪文を唱える。
 この言葉は呪文だ。
 オレを黒羽快斗から怪盗キッドへと移行させる。
 青子に予告状を送った。
 オレに逢いに来てくれるのだろうか…。
 分からない。
 青子はオレ(キッド)が嫌いだから。
 今は目の前の仕事をかたすのみ。
 そう、今日新一は来るのかな。
 来ないなんて言わせない。
 オレは、お前のところに届くように送ったはずだからな。
 新一、オレとお前の対決。
 どっちが勝つのかな?

*あとがき*
怪盗キッドvs工藤新一の1話。次は変則新一×蘭。


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