同棲への道 5:怪盗の幕引き 前編 君に逢う為に生まれた〜We Love The Earth〜

〜新一&平次(語りは新一)〜
 大阪に着いたのは2時半だった。
 12時発の700系のぞみに乗って即行、服部に電話して、新大阪の駅まで迎えに来させて、…快斗達はどこにいるんだ?
 行くこと伝えようと思ったけど、オレが新幹線に乗ろうとしたころは電波が届かなかったらしい。
 蘭が大阪にいる。
 蘭に逢いたくて大阪に行く様なものだな。
 新大阪の駅で待っていたのは服部ただ一人。
 和葉ちゃんと蘭は家で待っているらしい。
 聞けば快斗達はもう来ていて、下見しているらしい。
「Kデパートの最上階の展示室に「神秘の輝」って呼ばれとる宝石があるんや。それを盗るんやと」
 町中で話している会話じゃねーな。
 しかも探偵二人がだ。
「『神秘の輝』か……世界最大のダイアモンド『ホワイトワンダー』だっけ?」
「詳しいのぉ工藤」
「まぁな。一応調べてやったんだよ。ビッグジュエルに関することをさ」
「ビッグジュエルかぁなるほどなぁ。あ、そうや工藤。コナンの時使うっとった探偵グッズは持ってきとんのか?」
 ビッグジュエルの話からいきなり、探偵グッズの話になる。
「一応持ってきたよ。メガネと、探偵バッチと、ボタン型発信機兼送信機と…こんなぐらいかな」
「おぉおぉ、このメガネが必要なんや!!!!」
 そう言って服部の目が不気味に笑ったのが気になった。

〜快斗×青子(語りは快斗)〜
 さすがに厳重だねぇ。
 オレと青子は今、大阪kホテルの40階展示室に来ている。
 本来の目的は世界最大のダイアモンドと称される『ホワイトワンダー』を盗るための下見。
 オレの勘では本物の様に感じられる。
「快斗ぉ、きれいだねこの『ホワイトワンダー』。神秘の輝って言う別名があるんだって」
 神秘の輝ねぇ…。
 とりあえず、出入り口、窓の具合、非常階段のあり場所、スプリンクラーの位置、赤外線装置の位置の確認。
「さて、青子。とりあえず出るぞ」
「いいの、快斗?」
 青子の言葉にオレはうなずく。
「予告状は出したから後は決行するだけ。青子もくるか?」
「いいの?」
「あぁ、多分今回で最後になるはずだぜ」
「どうして?」
「最高級のダイアモンドって言うのは不純物が全く混入されていない。微妙な反射角でそれが隠されているんだろう。神秘の輝って言うくらいだから特殊な光を当てたらそれが輝くんだろうな……。もし、オレが探しているやつだとすると特殊な光……月の光……そして輝くそれはパンドラと考えたら……。本物って考えてもいいな」
 オレは青子に説明する。
「多分だけどな」
「頼りなーい」
「あのなぁ……」
 まったく…頼りないって言いやがって。
 不意に青子がうつむく。
「青子、どうした?」
「快斗……止めちゃうの?」
 町中に入ってきたので青子はキッドの名前を出さない。
「急にどうしたの」
「……だって、見つかったら、止めるんでしょ」
「うーん、そうだよな。でも、青子は嫌いなんだろ」
「……快斗じゃないのは嫌いなの」
「……って」
「快斗だから好きなんだよ!」
 そう言って青子はオレに笑いかけた。
「じゃあ、平次君達の所行こう」
「そうだな」
 と言うわけでオレと青子は新大阪の駅に向かい、そこから寝屋川市にある平ちゃんの家に向かったのである。

〜蘭(途中で新一乱入)〜
・三時・
「でな、平次ったらアホやねん」
 和葉ちゃんの話を聞いているのは楽しい。
 気が紛れるし、楽しくなってくる。
 新一に逢ってないのどのくらいだろう。
 4日……。
 4日も逢ってない。
 こんな事新一が戻って来てから初めてのことだ……。
 逢いたいなぁ…。
「どないしたん蘭ちゃん」
「なんか新一に逢いたいなぁって思って……。4日逢ってないんだよね。家出した日って新一に逢わなかった日で…その日から今日で4日目」
「蘭ちゃんってやっぱり可愛いなぁ」
「やだ和葉ちゃんったら」
 その時服部君の部屋で物音がする。
「ん、平次帰って来たんや」
「和葉、ちょー来いや」
 と二人の声がはもり、窓を開けるのが同時だった。
「な、何で一緒やねん」
「えーやんか。和葉、前いっとったの教えるからこっち来い」
「ホンマ、今行くわ。蘭ちゃん、ちょっとだけ待っとって」
 そう言って和葉ちゃんはベランダを飛び越え服部君の部屋へと向かった。

 服部の部屋に来た和葉ちゃんは窓を閉める。
 4日ぶりに聞いた蘭の声。
「おうおう、へこんでたのがもう元に戻ったで」
 服部が茶化すがそんなことに気に取られたくない。
 蘭の声であんなに沈んでたオレの気分が元に戻ったんだからな。
「これや、これみてみぃ」
 で、当のオレは何故かもしものための探偵グッズの追跡メガネ(ver.2.0)を掛けさせられている。
 でもってそのオレを和葉ちゃんはまじまじと見つめる。
 右から左から真正面から斜め上からとすべての角度から見つめる。
 な、な、な、な、なんなんだよぉ。
「ホンマや、ホンマやね平次」
「な、いうたやろ」
「ど、ど言うことだよぉーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
 和葉ちゃんの部屋に蘭がいることも忘れて叫んでしまった。
「しーーーーーーーーーーーーっ忘れたんか、和葉の部屋には蘭ねーちゃんがおるんやで」
 服部の言葉に思わず、口をおさえた。
「大丈夫だよ、彼女の部屋には青子を行かせたから」
 そう言って快斗がやってきた。
「快ちゃん、もうついたんか」
「平ちゃん達の一本後みたいだったよ。オレと青子が乗った電車は」
 そう快斗は言う。

「ど、ど言うことだよぉーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
 服部君の部屋から新一の声がする。
 新一、来てるの??
 一瞬、頭に浮かんだことは
『逃げなきゃ』
 でも、逃げる必要なんてないんだけれど。
「蘭ちゃん、どうしたの?」
「え、青子ちゃん?」
 いつの間にやって来たのか青子ちゃんがいる。
「ど、どうしたの?」
「快斗と平次君の部屋に行ったんだけどね、和葉ちゃんが蘭ちゃんがここにいるから先に行ってって言われたの」
「快斗君来てるの?」
「そうだよ」
 じゃあ、さっき新一の声って思ったのは
「快斗君だったんだ」
「そうだよ」
 そっかぁ、新一来てないんだぁ。
 逢いたいなぁって思ってるのになぁ。
「平次、おもろいもの見たわ。また来るわ。なんかあったときは呼んでや」
「そっちもな」
 その会話をして和葉ちゃんは戻って来た。
「ホンマおもろいもん見たわ。ところで、快斗君と青子ちゃん何で大阪来たん?」
「キッドがね捜している物がここにあるんだって、だから来たんだ」

「で、予告状は出したのか?」
 オレは快斗に聞く。
「とるのは早いほうが良い」
 快斗の返事は覚悟を決めている声だった。
「大丈夫なんか?」
「何が?」
「覚悟…見たいなんを感じるで」
 服部も気付いた。
「覚悟……ねぇ。そうだね、あるかもな。多分、今回で最後だからさキッドになるのも」
「ホントか?」
「ホンマか?」
 快斗の言葉にオレと服部はきれいにはもる。
 いつもだったらはもったことで喧嘩しているはずだが、今はそれがない。
 快斗のキッドやめる宣言に驚愕しているからだ。
「なんだよ、オレがキッド止めること嫌なのか?」
「やのうて……その逆に決まっとるやないか。お前がキッドや言うの知っとるだけでこっちはドキドキなんやから」
「服部の言う通りだよ、快斗。お前がキッドを止めるのならその方がいい。蘭も心配してるし…青子ちゃんだって心配してるんだぞ」
「そうや、和葉も心配しとる」
 オレと服部の言葉に快斗は照れる。
「わーってるよ。んなこと言われなくてもよぉ」
 快斗はそう言う。
 そして、
「これで、本当の最後になるんだったら良いですね。ただ、あなた方ときちんとした対決をしていないのが心残りですが」
 キッドの口調でそう付け加えた。
「して欲しいんだったらしてやるぜ」
「オレも同意や」
 快斗はオレと服部の言葉にニヤッと笑う。
「では、最後の舞台を披露しましょう」

「でね、快斗が言うにはそれは本物らしいの」
 青子ちゃんが言う。
 キッドのお仕事は今日が最後、って言うわけみたい。
「ふぅーん。青子ちゃんは怪盗キッドの最後のお仕事についていくと」
「うん」
「せやったらアタシらもいかへん?」
 そう言った和葉ちゃんの言葉にわたしは驚く。
「でも、服部君、心配するよ」
「そやけどやっぱり怪盗キッドの最後の舞台っちゅうのはみてみたいやんか……」
「そうだけど……」
 思わず同意してしまった。
「そやろ。と言うわけで、平次の所行ってくるわ」
 そう言って和葉ちゃんは行ってしまった。

「その前に」
「その前にって」
「なんや?」
 オレの言葉に快斗と服部は聞く。
「蘭に逢いたい」
「何言うとんねん。蘭ちゃんには秘密なんやろ」
「逢いたい。蘭に秘密で来た訳じゃない。蘭に連絡しようとすると、オメーらが邪魔するんだろう!!!」
 はっきり言ってオレはいまだに根に持ってる。
 蘭にかけたはずの電話に出たのは快斗。
 しかも、蘭の声マネつき……。
 蘭から掛かってきたはずの電話は快斗がオレに回さず。
 で、もう一度、蘭の携帯から掛かってきた電話は実は服部だった!!!
 って言うオチつき。
 くっそーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!
 邪魔するんじゃねー!!!
 蘭に逢いてーよぉ。
 声だけじゃいやだ!!!!
「平次ぃ、あのなぁ、アタシらも行ってもえぇ?」
 突然、和葉ちゃんが部屋に入ってくる。
「いきなりびっくりさせるなや。なんやねん」
「せやから、怪盗キッドの最後の舞台に決まってるやないの」
「あのなぁ、和葉。お遊びとちゃうんやで」
「えぇやん。アカン?」
「ダメや」
 服部と和葉ちゃんの言い争いが続く。
「飽きないねぇ、あいつら二人は」
 快斗の言葉にオレはうなずく。
 ふと和葉ちゃんを見て良いことを思いつく。
「和葉ちゃん、和葉ちゃんの部屋に行ってもいい?」
「何言うとんの?」
「何言うとんねん!」
 服部と和葉ちゃんのセリフが見事に重なる。
「蘭に逢いたい」
「せやけど、蘭ちゃん。許してもらえるまで逢わない。って言うてたけど」
「許しはもらった」
 うそ。
 多分、まだ。
「和葉ちゃん、だめ?」
 腕を掴んで至近距離で和葉ちゃんを見る。
「く、く、く、くどーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー何するきや」
「そ、そうや。く、工藤君、平次の見てる前でそんなん近寄ってこられても……って平次の見てないところでもアカンけど………」
「ダメ?」
「それ以上和葉に近付くなや」
「新一ーーーーーーーーーーー!」
「快斗、うるさい」
 蘭の声マネした快斗を排除する。
「何で分かったんだよぉ」
「ワリィな、オレは、蘭の声ぐらい分かる。で、ダメ?和葉ちゃん」
 息が掛かるくらいの至近距離で、和葉ちゃんに聞く。
「まてや、工藤。和葉はオレのもんやで」
「服部黙れ、で、返事は」
「………えぇ……よ」
 そう言った和葉ちゃんの腕を外しオレはスタッとたつ。
 よし、蘭に逢える!!!
「サンキュ。じゃ、服部失礼する!!!」
 そう言ってオレは窓から和葉ちゃんの部屋へと向かった。
「あいつ、ホント蘭ちゃん以外の女って女として認識してねーんだな」
「ホンマかぁ?」
「だろ、かなりの至近距離で和葉ちゃんの顔見てても動揺も何もしなかったんだし」
「そうやな」
「う、アタシ、めっちゃドキドキしたわ。そう言えば、平次。さっき何て言うたん?」
「なんも言ってへんわ」
「ほんまぁ?アタシ聞こえたんやけど。もう1回ちゃんと言うてくれる?」
「聞こえてんならえぇやんか!!!」
「和葉はオレのもんやで!だよ、和葉ちゃん」
「キャー快ちゃん。平次のマネしてくれておおきに」
「いいえ、あ、オレもちょっと行ってくるね。青子連れてくる」

「くどーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
 服部君の声がする。
 んーーやっぱり新一はいるような気がする。
 そう思って青子ちゃんに聞いて見る。
「ねぇ、青子ちゃん。やっぱり新一いるんじゃないの?」
「い、いないよぉ」
「ホントに?」
「ホント」
 でもなぁ、どうも怪しい。
 だいたい服部君の声って大きいし、結構誤魔化すこと苦手みたいな人だし……。
 突然窓が開く音がして青子ちゃんが突然花びらと共に消える。
 なんで?
 そう思った次の瞬間。
「……蘭……」
 背中ごしに声がする。
 ずっと聞きたかったあの声。
 体中に電流が走る。
 あの声……。
 ホントは言いたかった。
 でも、言ったら絶対甘えちゃう。
 だって、わたしが言うこと何でもかなえてくれるから…。
 側にいて欲しいって言うことも。
 どこにも行かないでって言うことも。
 好きだっていってくれることも。
 全部……。
 だから、言えなかった。
 そのことが周りに甘えとしてとられるのが突然怖くなった。
 甘えじゃないの。
 ホントに側に居たいだけなの。
 でも、それは周りの人間にとっては甘え、一時の感情による流れとしかとらえてくれなくなる。
 そんなんじゃない。
 って言ったって認めてもらえない。
 ホントに側に居たいの。
 誰の側でじゃなくってたった一人の人の側がいい。
 ずっと思ってた。
 初めて逢ったときから……。
 いつだったなんて記憶にないぐらい幼いころよ。
「……蘭……」
 もう一度呼ばれる。
 振りむくと……逢いたかった新一の顔が合った。
「しんいちぃ……」
 思わず、抱きついてしまう。
「蘭、めちゃくちゃ心配したんだぞ。わかってんのか?」
「分かってるよぉ。ごめんね、新一」
「ったく、オメーが居ないって聞いたとき気が狂うかと思ったんだぞ。なんで、オレに相談しなかったんだよ!」
「快斗君から聞いたでしょ。新一に言ったら絶対甘えちゃうと思ったの。だから、言えなかったの。……ホントはね、言わないで家出したとき、後悔したの。だって、新一の声全然聞けなくなっちゃうんだもん」
「それはオレのセリフ。はぁ、無事で良かった。最初は事件に巻き込まれたのかと思ったんだぜ…」
 新一はわたしの肩に顔をうずめ切なそうに言う。
「ごめんね、新一」
 謝るしか、ないね。
 こんなに心配するとは思わなかったって言えば嘘になる。
 ホントは、自分の気持ち、確かめたかったのかも知れない。
 ホントに新一の側にずっといたいのか。
 だから、内緒にした。
「…蘭…」
「……うん……」
「……蘭……」
「……うん……」
 何度も呼ばれる名前にわたしは、ただ、ただ、うなずく。
「……どこにも行くな。ずっとオレの側にいろ。蘭がいなくちゃ、嫌だ」
「……わたしも新一がいないと嫌だよ」
「だったら、もうオレに黙ってどこにも行くな。オレも黙ってどこにも行かないずっと蘭の側にいる」
「どんなに姿が変わっても?」
 そう言うと新一は苦笑する。
「当たり前だろ。ずっと側にいたじゃねーか」
「わたし、知らなかったんだよ」
 意地悪く言ってみる。
「知ってたって言ったじゃねーか」
「うん…知ってた。新一だもん。見間違えるはずがない」
「そりゃ、そうだ」
「最初のうちは騙されてたけどね。演技するならもう少し、慎重に行動しないとね。コナン君」
「それは言うなよぉ」
 新一が情けなさそうに言う。
「蘭……、オレの方向いて」
 ふと、新一が耳元でささやく。
「何、新一」
 そう、向いたとき新一にキスをされる。
 最初は軽く、そして、長く目まいがするくらいの甘く深いキス。
 4日ぶりの新一とのキス……。
 和葉ちゃんの部屋なんだけどな………。
 何気にそんなこと頭の隅に置いたまま久しぶりのその感覚を味わう。
 そして、口唇を離した後、新一はわたしの額、閉じたまぶた、頬にキスの雨を降らせる。
 その甘い感覚に酔いしれているとき新一はわたしを抱き締める。
「このまま、どこかに蘭のこと連れていきたい…、そう言うわけにもいかねぇけどな…。………蘭……おめぇのお母さんに逢ってきた」
 突然の言葉に驚く。
 お母さんに逢ってきた??
「お母さん、何て言ってた?怒ってた?」
「心配してたぜ、おっちゃんから連絡あったみたいでさぁ…。そうそう、おっちゃんも心配してたぜ」
 新一の言葉に少し心が痛む。
 そうだよね、心配するよね。
「ちょっと待ってて」
 そう言って新一は窓の所に行き、服部君を呼び携帯をとってもらう。
「ご機嫌やのぉ工藤」
「うるせー」
 そう言って戻って来た新一は和葉ちゃんの部屋の窓を閉める。
 そしてわたしを後ろから抱き締めるように座る。
「逢ったときな、蘭に逢ったら電話してくれって言われたんだよ……。蘭、どうする?電話する?したくなかったら、まだ電話しなくてもいいんだよ」
「……電話する。お母さん心配してるんでしょ?」
 わたしが聞くと新一はうなずく。
「じゃあ、電話する」
 わたしの言葉を受けて、新一はお母さんの事務所に電話した。
『ハイ、妃法律事務所です』
「…新一です」
 新一の口調から電話に出たのは、お母さんらしい。
『新一君?蘭に会えたのね』
「ハイ、蘭に代わります」
 そう言って新一は携帯をわたしに渡す。
「もしもし、お母さん」
『蘭、どうして家出なんてしたの』
 お母さんの心配した声が電話から聞こえる。
「ごめんなさい」
『心配したのよ』
「新一から聞いた。ごめんなさい」
『小五郎も心配してたわよ』
「それも、聞いた……。ホントにごめんなさい」
 お母さんの口調から本当に心配したことが分かる。
 ごめんね、お母さん。
 余計な心配かけちゃって。
『本当に無事で良かったわ……。小五郎から聞いたときは、あなたが事件に巻き込まれたのかと思ったんだから……』
「ホントにごめんなさい」
『新一君には謝ったの?小五郎が最初に新一君の家に行ったときかなり心配したみたいよ』
「謝ったよ……」
 お母さんの言葉に返事する。
 お母さんの口調からすると新一がかなり心配したことが分かる。
 ホントにごめんね。
 お母さんもお父さんも……新一も……。
 わたしが考えなしで家出なんかしたから。
『蘭、蘭は新一君とどうしたいの』
 突然、お母さんに言われる。
 どういう意味?
『新一君と一緒にいたいの?』
 言葉を改めて聞かれる。
「一緒にいたいよ」
『蘭、即答しないで。じっくり考えて言って欲しいの。本当に一緒に暮したいの?』
 わたしの言葉にお母さんはもう一度問い返す。
 ………。
 考えた末の言葉は
「一緒にいたい…。これは変わらない。ずっと、多分これからも……」
『………蘭…………』
「………蘭…………」
 お母さんの声とわたしの後ろで動向を見守っていた新一の声が重なる。
『そう………蘭、小五郎はわたしが説得するわ』
 え……。
 長い沈黙の後のお母さんの言葉。
 お父さんはお母さんが説得する。
「いいの?同棲しても」
『えぇ、駆け落ちされるよりはいいわ。蘭、新一君に代わってくれる?』
 お母さんの言葉にわたしは嬉しさを押さえながら新一に代わる。
「あの…なんですか?」
『同棲は認めるわ。小五郎はわたしが説得する。ただし、これから何があるか分からないわよ。それだけは覚悟していてね』
「ハイ。ありがとうございます」
 お母さんの言葉に新一は礼を言う。
『礼を言うのはまだ、早いわよ。小五郎が認めないかぎり同棲なんて無理なんだからね』
「ハイ……」
『蘭を……蘭をお願いね。蘭を泣かせたら訴えるからね』
「ハイ……」
 そう言って新一は電話を切る。
「ふぅ、第一の関門は突破かな…」
「お母さんに頼みに言ったんだ……」
「まぁな。後は、おっちゃんだけ」
「新一の両親は?」
「オレの親?あんなもん、平気だって。安心しろ」
 新一はわたしの顔をのぞきにっこりと笑う。
「さて、そろそろ行くかな」
 突然新一は言う。
「行くってどこに?」
「怪盗キッドが予告したKホテルにだよ」
「わたしも行っちゃダメ?」
 わたしの言葉に新一はものすごく驚く。
「な、なんでだよ。それに危ないからダメだ!!!」
「和葉ちゃんも行くって言ってるよ」
「ダメ」
「青子ちゃんも見に行くって言ってるし」
「青子ちゃんは青子ちゃん」
「じゃあ、行ってももいいじゃないのよ」
 どうしても引かないわたしに新一は呆れたのかため息をつく。
「何よぉ」
「こんな事になるとは思ったけどよぉ…………。しゃーねーなぁ。蘭、手ぇだして」
 手を出したわたしに新一はバッチを載せる。
「何このバッチ……」
「もしものための探偵グッズその4だったかな。探偵バッチ…。発信機と通信機能が一応ついている。オレがコナンだった時、博士に作ってもらったやつだよ。今でもあいつら使ってるのかな?メガネは博士から渡してもらってるはずだから……。オレがかけてたメガネあっただろ?あれが探偵バッジから発信されている電波を受信する追跡メガネ」
 コナンだった時のことを新一は少しだけ懐かしそうに話す。
 あいつらって言うのは少年探偵団のこと。
「でも、そのメガネがないんだったら、このバッジの発信機意味ないんじゃないの?」
「新しいメガネあるから平気。これはあいつらのとは周波数が違うからあいつらが持っているメガネじゃあ受信出来ねーしな」
 そう言って新一はクスと笑う。
「何かあったときは、これでオレを呼べ。すぐにオメーの所に行ってやるよ」
 と、新一は笑って言ったのだった。

*あとがき*
次回の話は探偵グッズをフル活用。


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