「和葉、次の連休に工藤に逢いに行くでーーーーーーー」
今日も平次は元気いっぱいアタシに言う。
「何でそないに工藤君に逢いたいん?この前も逢ったやないの」
「それは久しぶりのご対面や。今度はちゃうで!工藤と事件の話するんや!」
「この前もしてたと違う?蘭ちゃんがかわいそうや……」
平次の工藤君フリークには困ったものがある。
だいたい、学校でも工藤工藤って言ってるから怪しまられるし、クラスメートには
「和葉、のんびりしとると、工藤って言う娘に取られてまうよ」
ってさんざん言われてしまう。
……ほとんど取られてるんじゃ……。
まぁ、一つ安心できてることは工藤!っていうのは男だって事だ。
クラスメート達は工藤君が男だってこと知らないから色々言うけど……。
「男だとしても分からんよ。D組の木村と安西の二人組なんていい例やんか……」
とホモとうわさのある二人組の名前をクラスメートはだす。
「平次に限ってそないなわけあるか!!!!」
とその時は思いっきり否定した。
それに工藤君には蘭ちゃんって言うれっきとした可愛い彼女がいる。
………だから安心だ。
のはずなんだけど………。
こう毎度毎度、
「工藤に逢いに行くで!」
って言われると……自信がなくなる。
「平次ぃ、クラスの子達が平次のことなんて言ってるかしっとんの?」
「何や、なんていっとんのや?」
「平次はホモやって噂やって」
そうは言われてない。
第一みんな工藤君が女の子だって信じて疑ってないし。
でも、工藤君のこと知ってる人が平次の「逢いたい」発言を聞いてたりしたら……誤解されても仕方ないような気がしてしょうがない。
「なんでオレがホモにならなあかんねん」
「だっていっつもいっつも工藤、工藤って言っとるやないの。工藤君が男だって知ってる人が聞いたら誤解されてまうよ平次」
そう、誤解されてしまう。
アタシだっては友達の「否定できないよ」を聞いて誤解してるんだから。
「オレに限ってそないなことあるか!なんや、和葉オレのこと誤解しとんのか?」
「してる訳ないやんか、アタシはずっと平次のこと見てきてるんやから……」
そう、幼なじみとして、好きな人として、ずっと側で平次のことを見てきた。
小さいころから……。
「そうやろ、せやから安心せい」
何に安心するの?
どうして安心させるの?
期待…してもいいの?
都合いいようにとってもいいの?
「平次ぃ、その子誰や?お前の彼女か」
学校の帰り道、突然、知らない人に声を掛けられる。
どうやら、平次の知り合いらしい。
「そないなわけあるか、こいつはただの幼なじみや!」
平次の言葉が耳につく。
ただの幼なじみ……。
何度聞かされた言葉だろう。
甘い関係なのに突然残酷な関係になる。
好きだって認識してしまったら、そこでお終い。
お互いのこと好きだって分かったら終わらないけれど……。
「ホンマにただの幼なじみなん?そやったら紹介したってや」
「何でお前に紹介せなあかんねん」
「ただの幼なじみなんやろ、だったらえぇやん」
「……こいつはお前の手には負えんくらいじゃじゃ馬何や」
「平次、アタシがじゃじゃ馬ってどういう意味なん?」
アタシが可愛くないって言うの?
「可愛くないやつや!!」
「何や傷つくはそない言い方せんでもええやんか!平次のアホ!」
頭に来てわたしは平次とその友人を放って先に家に帰ってきた。
もう、こんなの嫌だ。
早くスッキリさせたい。
平次はアタシのことが好きなのか知りたい。
ただの幼なじみってどういうこと?
アタシは平次にとって幼なじみ以外の何でもないわけ?
アタシにとって平次は幼なじみ以上のモノがあるのに……。
悲しくて、泣き出してしまった。
東京にいる、蘭ちゃんがうらやましい。
好きだって言ってもらえて……。
アタシも平次に言われたい……。
平次………。
「……じゅは、かじゅは」
遠くから平次の声がする。
気がつくとどっかの河原……でも来た記憶があまりない。
一度来たことがあるようなそんなとこ。
「かじゅはぁ」
遠くから舌ったらずな平次の声がする。
「へいじぃ、なにしとんの?」
「これみてみぃ」
そう言ってアタシに差し出したきれいな石。
「きれいやな」
「かじゅはにやる」
「ホンマ?」
ホントに小さいころのアタシと平次。
そうだ、ここはたまの休暇って事でうちの家族と平次の家族とで日帰りの旅行したところだ…。
ホントのたまの休み。
いろいろあった気がするけど、平次と言う人間を初めて気になった時だった様な気がする。
舌が回んない平次っていつだろう記憶にない。
いつの間に眠ってしまったんだろう……。
目が覚めてふと思い出す。
『あんた、めっちゃはしゃいどったんよ。おとんと全然遊んでへんかったしね。そうそう、平ちゃんなんてあんたの後をかじゅは、かじゅはっていってついて歩いてたし、あんたの気ぃ引こうといろいろやっとったんよ』
ってお母さんが言ってたっけ。
「和葉、めぇ、覚ましたんか」
平次がアタシの顔をのぞき込んでいる。
何で平次が????
「な、な、な、何で平次がおるの?」
「しゃーないやろ。オカンがおまえんとこのオカンと出かけよって和葉一人やと心配やからって留守番させられとんのや」
平次は何故かうれしそうに言う。
何でだろう……。
「平次、おなか空いた」
「…しゃあないなぁ、何かつくってきたるからおとなしくまっとれや」
「ホンマに?」
「ホンマや」
そう言って勝手知ったるとは言ったもので平次は台所に行く。
ふと平次がいることに安心している自分がいる。
平次が隣にいること当たり前のはずなんだけど……。
蘭ちゃんに出会ってそれが当たり前のことじゃなくなる不安が襲ってきたのを今でも覚えている。
突然いなくなった工藤君。
事件を追っかけて行ってしまったまま帰ってこないで、蘭ちゃんのところに電話をするだけ。
どれだけ不安だったんだろう。
アタシはまだ分からない。
ただ、蘭ちゃんは不安を微塵も感じさせないほど明るく振る舞っていた。
それが事情を知っている者とすればどれだけつらいことなのか……。
……アタシは蘭ちゃんのように平気でいられるのだろうか……。
平次が工藤君のようにいなくなってしまったら……。
ダメだ。
考えるだけでもつらい。
無理だよ。
アタシは蘭ちゃんのように平次のことまっていられない。
多分、平次のこと困らせる。
分かってる。
平次に困った顔させたくない。
でも、でも、でも、でも。
アタシは平次が好きなんだよ。
「和葉、出来たでー」
平次が呼ぶ。
「今行くわ……」
居間に行くとご飯の用意はすべて整えられていた。
「おばちゃんが何か色々用意してたらしいで…」
「ホンマ?そうやね、平次がこんなに料理できるとは思えへんもん」
「あのなぁ、そない言い方せんでもええやろ?」
「ホンマのことやん」
「あんなぁ……」
「そんなことよりご飯食べよ」
そんなことで片づけてアタシはご飯を食べ始める。
ご飯を食べながらさっきの考えが頭をもたげてくる。
平次がいなくなったらアタシはどうなってしまうんだろう。
平気なふり出来るのだろうか……。
蘭ちゃんのように強くいられるのだろうか……。
ご飯を食べ終わってからも考えていた。
どうなんだろう。
強くいられるの?
「何考えとんのや和葉」
そう言って平次は私が座っている隣にどかっと座る。
「何って平次……」
平次には関係ないことと言いそうになってしまった。
平次に関係ないこと全然ない。
平次に関係することだ。
「和葉、何や悩み事あるんやったら言ったらええよ。オレでええなら聞いたるから」
平次は静かに言う。
ホントに聞いてくれるのだろうか…。
アタシの想いを…。
「平次、平次はどこにも行かんよね」
「和葉……?」
アタシの言葉に平次は面食らう。
「平次、どこにも行かんと約束して。アタシ、平次がどっかに行ったら、蘭ちゃんみたいに待てられへんよ。平次がおらんと……アタシ」
やっぱり無理だよ。
平次がいないとアタシはダメになる。
「そばにおって。平次……」
「和葉……少し落ち着き」
「何でや」
「ええから、この体勢考えろや」
体勢……?
…あ"、平次を押し倒してるカタチになってる。
「ごめん……」
起き上がってアタシは平次からちょっとだけ離れる。
「和葉………」
そう言って平次はアタシを肩を抱き、寄せる。
「…へ、へいじ……な……」
「和葉……一度しか言わんからよう聞けや」
長い沈黙の後平次が言う。
「えぇな?」
「う、ウン」
平次はアタシがうなずくと深い深呼吸をして言う。
「和葉、オレは探偵や、せやからどっか事件追っかけて行ってまう」
「そないなこと言われんでも分ってる」
「話聞けや………。せやけど……戻ってくるところは和葉のとこだけや。他にない」
「平次?それってどういうこと」
そう聞くと平次は顔を赤くする。
(浅黒く日焼けしてるからわからへんやんなんてつっこまんといて)
「平次、アタシのこと好きなん?」
ふと聞いてみる。
平次の言い方だとそうとってもいいよね…。
「な、………」
案の定平次は慌てる。
まぁ、予想はしてたけど。
「平次……アタシは平次のこと好きなんよ」