西の名探偵と彼女にお・ね・が・い 君に逢う為に生まれた〜We Love The Earth〜

〜和葉〜
 平次と付き合うようになって一ヶ月。
 何も進展してないのは何でだろう。
 だいたいキスぐらいしかしてない。
 毎日の行動は朝は一緒に学校へ、帰りは一緒に帰宅、家が隣同士だしね。
 買い物は一緒に行くし、デートだってする。
 東京に遊びに行くときも一緒だし、お互いの部屋に遊びに行くのもしばしば。
 だけど、アタシと平次の関係は幼なじみのまま。
 キスだけじゃ延長じゃないよ。
 こんな事考えるのもあれだけど……微妙にしてる延長なんか嫌だ。
 …ふぅ。
 で、今も平次の部屋で読書中……。
 毎週発売の週刊の少年マンガを読んでいるのだ。
「あ、またええところで終わってもうた。この続きどないなんの?めっちゃ気になるわ」
「何が気になんねん」
「この話しやけど、この前もええところで話しがとまったんよ……。この二人どないなんのやろ……」
「多分……こうなるんやないの?」
 平次は呑気に先を読む。
 だーーー、考えないでよ!
「えぇやんか。いつものことや」
 そう言って平次は笑う。
 そう、いつものこと。
 いつもと……幼なじみのままだったときと変わらないまま……同じ。
 何でなの?
 どうしてなの?
 分かんないよぉ。
 平次とくっついてはいるけどさ。
 微妙なすき間が何となくいやで、アタシは平次に寄り掛かって雑誌を読んでるんだよ。
「……は」
 次の気になるマンガはこれだな。
「……ずは」
 この話しって面白いんだよねぇ。
「和葉!」
「何やの平次」
 何度か呼ばれているのは気付いていた。
 でも、何となく、無視と言うかマンガを読んでる最中に呼ばれるのは…ちょっと。
 あきらめない平次に根負けしてわたしは平次の方を向く。
 それが…………。
「…………」
「…………っ!!へいじ……」
 平次は振り向いたアタシのいきなり押し倒したのだ。
「………何やねんその顔は……」
 な、何でいきなり押し倒されてるのアタシ?
 ちょ、ちょっと待ってよいきなりなんだよ。
 この展開は!!!!
 いやだ、いきなり押し倒されるのは……。
 別にいいけどって言うものじゃない。
 だって可愛い下着じゃないし、今日は嫌だぁ!
 しかも、ムードぜんぜんないんだよ。
 ムードぐらい作れよ!
 いきなり名前読んで押し倒すのはないだろう!
 平次のアホ!!!
「和葉、どないしたん?」
 何にも分かってないような顔で平次はアタシに向かって言う。
 何か、めちゃくちゃ腹が立つ!!!!!
 とりあえず、アタシは身近な合った手が届いたものを手当たり次第平次に投げ出したのだ。

〜平次〜
「平次のアホ!!いきなり押し倒すやつがおるかぁ!!!!」
 そう言って和葉はオレに身近にあるものを手当たり次第なげよる。
 マンガはもとより、枕、布団、かばん、かばんの中にある筆箱、教科書、ノート。
 揚げ句の果ては隠しておいた灰皿まで投げてきよる…。
「か、和葉ちょー待てや。何おこっとんねん」
「アホ、スケベ、デリカシーなし!平次なんか知らん、はよ出ていけ」
 な、何言うとんねん。
 ココはオレの部屋やど。
 そう言ったオレの声も聞こえへんのか、はたまた無視しとんのか和葉はまた手当たり次第モノをオレに投げつける。
 仕方なしに、オレは自分の部屋から外に出る。
 一体、何がアカンかったんや?
 今までタイミングはかっとたんは確かやねんけど。
 いいタイミングと違うんか?
 悩みに悩んだ末にオレはある人物の所に電話することにした。
 もちろん工藤や!!!
「そんな、くだらねーことで、いちいち、電話、してくるんじゃねーー!!!」
 電話口に出た工藤はかなり不機嫌そうやった。
 口調からでも分かる。
「何でや?」
「今、事件の最中。キッドと対峙中なんだよ!」
「そない怒るなや工藤。まぁ、えぇやんか。アドバイスぐらいしてくれてもなぁー」
「だぁーうっせえなぁ。………わーったよ。一言だけだ。!ムードを考えろじゃあな」
 そう言って工藤は電話を切る。
 冷たいやっちゃなぁ。
 ムード……ねぇ。
 あの工藤が蘭ねーちゃんに色々考えとると思うとおもろなってくるわ。
 ムードってどないして作ればえぇんやろう。
 分からんわ……。
 とりあえず、和葉の機嫌を直すために、和葉のために買うてきてるFAUCHONのアップルティーを入れ、それとオカンが和葉のためにこうてきたクッキーをお盆にのせ自分の部屋に戻る。
「和葉」
 部屋の前で和葉の名前を呼ぶ。
 両手がふさがってるので開けられへんって言うんもあるが、器用に開けたところで和葉にモノ投げられて、持ってきたものこぼしでもしたらたまったもんやないからや。
 せやけど、和葉の返事は全然ない。
 仕方なしにオレはお菓子を餌に和葉に戸を開けさせる事にした。
「和葉、紅茶持ってきたで」

 〜和葉〜 
 平次が部屋に戻って来たことは気付いていた。
 平次に呼ばれる前から。
 平次の足音ぐらい、分かる。
 怒ってんのかな……。
「和葉、紅茶持ってきたで」
 の言葉で怒ってないことが分かった。
 今度はわたしが扉を開けづらい。
 平次を追いだしたから。
 平次に押し倒されたのがいやだった訳じゃない。
 デリカシーなしって叫んだけど、別にいいと思う。
 平次だし。
 アホだし。
 だけど、いきなり押し倒された途端真上に平次の顔が目の前に合ってみぃ?
 アタシは興奮するよ。
 だから、照れ隠しもあって叫んでいたのだ。
「和葉、はよ開けろや…」
「しゃーないなぁ……」
 そう言ってアタシは平次の部屋の戸を開ける。
 平次が持ってきたものはアタシが大好きなFAUCHONのアップルティーにめっちゃおいしいって言う評判のクッキー屋さんのクッキーだった。
 平次はそれをテーブルの上に置き、アタシを床に座らせ、その隣に座る。
「和葉、どないしたん?和葉のために持って来たんやで」
 機嫌取りのために持ってきたということははっきり分かっていて、でもそれでもアタシが好きな紅茶やクッキーを持ってきてくれたことは凄くうれしかった。
「なんやかんや言っても和葉、あんた大事にされとるよ。平次君に」
 ってクラスの女の子の言葉を思いだす。
「平次君、あんたとちゃんと付き合うようになってなんや和葉のこと見る目ちゃうね」
「そうやね。幼なじみ以上の視線を和葉に投げとるよ」
 幼なじみ以上の……。
 この肩に回されている腕も……。
 うつむいているアタシを見る平次の視線も…。
 幼なじみ以上の……なにか何だろうな…。
「和葉、おこっとんのか?」
 不安そうに、平次は聞く。
 そんなことないよ。
 ただ驚いただけ……。
「和葉、さっきは押し倒してすまんかった」
 謝らなくっていいよ。
 平次にいろんなもの投げつけてケガさせそうになったのはアタシだもん。
「和葉…、和葉?きいとんのか!」
「聞いとるよ。ちゃんと分かってくれればええんのや」
 そう言ってアタシは平次の方に顔を向ける。
 その瞬間、アタシは平次の瞳に魅入られてしまった。
 きりりとした太いまゆ毛の下の黒い黒い瞳。
 漆黒、そう漆黒の瞳。
 平次の瞳ってこんなんやったっけ……。
「和葉、ど、どないしたんや?」
「な、何でもあらへんよ」
 平次の言葉で我に返る。
 頭の中が沸騰しそうだった。
 はぁ、アタシってめちゃくちゃ平次のこと好きなんだなぁ。
 ん?いいこと思いついた!!
 へへへへ。
 服部平次、覚悟しろ!
「な、何すんねん」
 何故か、恥ずかしそうにそっぽを向いていた平次の顔を両手で挟み、こっちに無理やり向かせる。
「か、かずは?」
 びっくりしてる平次をよそにアタシはにっこり笑って平次の口唇にキスをしたのだ!
「な、何すんねん」
「お返しや、お返し」
 あっけにとられてる平次にアタシは寄り掛かる。
 フフフ、ココからが本番。
「平次、今日、アタシ泊まってくけど…ええよね」
「か、和葉、何言うとんのや?」
「…アカン……の?」
 瞳をうるうるさせてアタシは平次を見る。
「…か、和葉…本気で言うとんのか?」
「本気に決まってるやろ。何、平次嫌なん?」
「あ、あのなぁ」
 押し倒したくせして平次はかなり焦っている。
「………平次……平次が嫌やったら帰るけど……」
「……和葉?」
「帰って欲しいんやったら帰るけど……帰って欲しないんやったらはよ言い。言わんと帰るよ」
「………」
 アタシの言葉に平次は黙る。
 何で黙る。
 もうえぇ帰る!
「平次、アタシ帰るわ」
「待て、和葉」
 平次は帰るアタシを呼び止める。
「何、平次」
「帰るなや……」
 平次は小さい声で言う。
 聞こえたけど、
「聞こえへんよ」
 と聞こえないふりをする。
「和葉、と、と、と、と」
「帰る!」
 はっきり言わない平次に最後通告。
「和葉、泊まっていかへんか?」
 言ったな、平次。
「……平次、泊まってって欲しいいん?」
「そうや」
 はぁ、最初っから素直にそう言えばいい良いのに。

〜平次〜
 和葉が寝たので、たばこを吸う。
 実はたばこを吸ってることは和葉にはかなーり秘密なことや。
 さっき灰皿投げつけられたときはかなり焦ったわ。
 中、はいっとったらこぼれとったしな。
 しっかしよう幸せそうな顔して寝とるなぁ。 
 泣かんと言ったくせに泣きよるし……。
 まぁ、それはしゃーないか。
 オレのせいやしな。
「……へいじぃ……」
 和葉が寝言を言いだす。
 何の夢見とんのや……。
 ぼーっと和葉を眺めとったら急に泣き出しよった。
 な、何でないてんねん。
「和葉、和葉どないしたんや?」
 夢で泣いとるって言うのは分かっとるのに思わず起こしてまう。
「……よかった…へいじ…おった。おらんかと思った……」
「アホ、そないな訳あるか……」
「平次…ちゃんと側におって」
「おる、おるから泣くなや…」
「良かった…」
 そう言って和葉はオレの腕を掴む。
「平次……どこにも行かんって約束して。工藤君みたいにおらんようにならないって約束して」
「当たり前やろ…。でもな、多分誤解しとると思うけど、工藤はずっと蘭ねーちゃんの側におったで」
「嘘」
 あれ、和葉知らんかったっけ………。
「和葉に言うてへんかった?……」
「何が?」
 言うてへんかったらしい………。
「工藤がずっと蘭ねーちゃんの側におったこと」
「聞いてへんよ工藤君が事件に巻き込まれたって言うのは聞いたけど……」
「工藤はコナンやったんや」
「嘘や」
「ホンマやって、後で工藤がこっち来たとき確かめさしたるわ」
 そう言うオレに和葉は急に黙り込む。
「どないしたんや?」
「蘭ちゃんは知ってたん?工藤君がコナンくんやって……」
「さぁな…。でも工藤は言わんかったらしいで」
「そんなら意味ないやんか。工藤君がコナン君で側におったって意味ないやん。工藤君には意味あっても、蘭ちゃんには意味ないやんか。言うてくれへんと意味ないよ、平次」
 言わんと意味ない……か。
 そうやな、言わんと意味ないわな。
 和葉の言う通りや。
 工藤は言わんで側におった。
 自分が工藤新一やのにそれを伝えることの出来ないもどかしさで苦しんどったのも知っとるし、実際にそばで見とる。
「和葉、工藤は言われへんかったんや。自分が言うたら蘭ねーちゃんまで巻き込んでまうって」
「そんなん勝手や…言い訳にしか過ぎへんよ。待つほうのみにもなって」
「そうやな」
 和葉の言う通りや。
 言い訳にしか過ぎへん。
「平次……もし平次が工藤君みたいになったら……平次はやっぱり言わへんの?」
 どないやろな……。
 言わへんも知れんし言うかも知れん。
「そうなったら言うて平次。言うの嫌かもしれんけど、言うて、絶対。蘭ちゃんやってホンマは言うて欲しかったんと思うよ。好きな人が苦しんどるのって見たないよ」
 そう言って和葉はオレのことを抱き締める。
「平次は言うてな。絶対に。アタシはずーっと平次の側におるから……」
「しゃーないなぁ、そない言うんやったら意地でも言うたるわ」
「そない言い方せんでもえぇやんか……」
「誰が言わせとんのや」
「ハイハイ」
 和葉はオレの言葉を軽く流しよる。
 何でやねん。
「和葉、もう遅いから早よ寝えや」
 そう言ってオレは和葉にキスをする。
「……平次」
「なんやねん」
 和葉はオレのことをじっと見て急に笑いだす。
 な、なんやねん!!
「平次ぃ、似合わんこと止めてや……お腹いたなるっ」
 そう言ってずーっと笑う。
 近所迷惑やからやめろや。
「やってもうおもろいねんもん……」
 なんでこないキスしただけで笑われなきゃあかんのや!!
「平次、怒ったん?」
「当たり前や!」
 そっぽ向いたオレを和葉は無理やり自分の方に向かす。
「な、何すんねん」
 抗議しようしたオレの言葉を途中で和葉は遮る。
「平次、お休み」
 そう言って和葉はキスをして寝よった。
 ………な、何でやねん!!
 何でこうなるんや???

*あとがき*
お願いシリーズ、平和編。


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