同棲への道 11:文化祭〜演劇の最中に会話してる連中〜 君に逢うために生まれた〜We Love The Earth〜

1日目〜さらりと〜
 高校の文化祭と言うのは大概そとからのお客さんが多い。
 売店はあるし、いろいろとあるし、告白なんかもこの時期近辺多い。
 文化祭に告白してつき合い始めたって言うのも多い。
 で、3年B組の教室は何をやるかって言うと……。
「帝丹高校3-Bが生んだ名探偵&その彼女の軌跡と売店」(コレ、テーマです)
 である。
 で、当の主役と銘打たれたオレと蘭はと言うと……。
「ハイハイハイ、スペイド王子とハート姫と一緒に写真を撮りたい方はこのホームズ喫茶へどうぞ!!!」
 と教室の前で客引きのマスコットをさせられている。
 もちろん…シャッフルロマンスの衣装を着せさせられて……。
「園子ぉ、いつまでこんな格好してなくちゃならないわけ?恥ずかしいよぉ」
 と蘭は恥ずかしそうに言っている。
「何言ってるのよ、明日のための準備に決まってるじゃない。ここで観られることにならせておかなくっちゃ明日緊張するわよ」
「ねぇ、せめて…制服に着替えさせてよ」
「でもねぇ、そうだ新一君は着替えたい?」
「え……」
 園子の言葉にオレは我に返る。
「もしかして…聞いてなかった?」
「ワリィワリィ。ちょっとボーッとしちゃってよぉ」
「アらぁ、もしかして、蘭に見とれてたか?」
「ア、あのなぁ!!!」
「図星だな、おぬし。くくく、蘭を着替えさせて正解!!」
 楽しんでやがるよ、こいつは。
「で、どうするのよ」
「オレは…」
 着替えたい。
 コレ本音。
 園子の言う通りオレは蘭の姿に見とれていた。
 と、同時に蘭に見とれていやがる他の野郎の姿も目に入っていた。
 蘭をそんな野郎の目にさらしたくない!!!
「着替える」
 その言葉に園子はにやにやと笑う。
「園子、何笑ってるの?」
「別にぃ、相変わらず、新一君って蘭にメロメロなんだなぁって思って」
「どういう意味だよ」
「別にぃ」
 腹が立つ。
 ともかくオレは蘭を連れ立って劇の練習で使っている教室に向かう。
 制服はそこにあるし…。
 ただ……、カナリ恥ずかしい…。
「新一…恥ずかしくないの?」
「恥ずかしくないって顔に見えるか?」
「見えない…」
 そりゃ、見えねぇだろうな。
 蘭を掴んでいるこの手も少しだけ汗ばんでるし、顔はと言えばじろじろ観られている状況に顔が真っ赤になっている。
「だろ…さっさと着替えに行こうぜ」
「うん」
 蘭は少しだけ恥ずかしそうにうなずく。
「コラコラ、二人だけの世界を作らないの」
 と後からついてきた園子が言う。
「あのなぁ…そう言うつもりないって言ってるだろ」
 と言おうとしたときだった。
「わぁ、新一君かっこいい!!蘭ちゃんもかわいい」
「そやろ!!アタシ去年見てんねん。蘭ちゃんも可愛いやろ。あんなんにあうんわ蘭ちゃんと工藤君しかおらへんよね」
「なかなか似合うじゃねぇか新一」
「ホンマ、あんなん似合うんは工藤ぐらいしかおらへんて」
「じゃあ、工藤くんに似とる快斗君も似合ういうことと違う?」
「そうやな」
「快斗だったら似合いそう」
「あのなぁ、あんなきざったらしい服装にあわねぇよ」
「何言うてんねん、怪盗……」
「わーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「平次!!!」
「わ、すまんすまん」
 嫌な4人組みの会話。
「蘭、振り向くな」
「でも……」
「でもじゃない。振り返ったら最後だ」
「そんな言い方しなくたっていいじゃない」
 と蘭は小さくいう。
「そしたらこの後全部邪魔されるんだぞ。蘭、オレと一緒に見てまわりたくないの?」
「見てまわりたい」
「じゃあ、振り向かないでこのまま行く!!」
 とオレはそう言って後ろの4人を無視し蘭の手を引っ張って練習で使っている教室へと逃げていった。
「あ、逃げよったで!!」
「取りあえずいいじゃん」
「そやな…とりあえずは勘弁したろ」
「何が勘弁したろやねん」
「クスクスクス」

「蘭、着替え終わったか?」
「うん、新一は?」
「終わった」
 そう言って新一はカーテンから出てくる。
「ちょっともったいなかったかな…」
 新一はわたしを見ながらそう言う。
「何が?」
「蘭のハート姫の格好。もうちょっと観てたかったかなぁと思ってさ」
 そう言って残念そうにうつむく。
「何、見せ物にするつもり?」
「バーロ、んなのにするわけねぇじゃん。オレが楽しむの」
 そう言って新一はわたしの事を抱き寄せる。
「ちょっと新一…」
「誰にも見せたくないけど…、オレはもうちょっと見てたかったんだよ…」
 と新一はいたずらっ子の様に笑う。
「全く…、子供みたい」
「あんだよ、それは」
「だって、ホントにそう思ったんだもん」
 ホント新一って子供みたいよね。
 独占欲強いし。
 我が侭だし。
「ねぇ、新一」
「何?」
「後夜祭でる?」
 ききたかったこと…。
 おととしは一緒にいたけど…クラスの子達も一緒で……。
 去年は…新一と居たくてもいれなくって……。
 だから今年は新一と一緒に居たくて…聞いてみた。
「後夜祭…?今年仮装パーティーとかっていってなかったか?」
 そう言えば…園子がそんなこと言ってた。
「で、どうするの?」
「さて…どうすっかなぁ……。蘭はどうする?」
 と新一はわたしをじっと見て聞いてくる。
「わたし?わたしは……新一と一緒にいたいな…」
「オレもだよ」
 そう言って新一はニッコリと笑う。
「さて、あいつらが来る前にここから逃げ出そうぜ。あいつらが来たら邪魔されるだけだしな」
 と言うわけでわたしと新一は教室から逃げ出したのでした。

「あれ?いない」
 練習のために使っているあき教室に来ると蘭と新一君はいなかった…。
「ホンマにここにおるの?」
「いるはずよ……」
 そう言ってわたしは教室の中に入る…。
 着替える為に囲ってある女性用のカーテンの中に入ると…ハート姫の衣装が飾ってあった。
 そして男性用の方には…スペイド王子の衣装が……。
「逃げた!!!!」
 間違いないわ。
 あの二人は逃げたわ…。
「あそこに歩いているの新一君と蘭ちゃんじゃないの?」
 中森さんの視線に窓際の方に向かうと…。
 ちゃっかりと新一君と蘭がいた。
「ラブラブ……だわ」
 とわたしの言葉にその場にいた全員がうなずいた。
「ともかく、いいんじゃないの?」
「快ちゃんの言う通り姉ちゃんにとっては都合がえぇんと違うか?」
「まぁ、その通りね。このまま進めちゃおう」

2日目〜文化祭演劇発表:3-Bは去年と一緒でシャッフルロマンス〜
「今年もたくさんいるわねぇ」
 舞台袖から体育館ないを見た園子はそう呟く。
「言わないでよぉ」
「どうして?」
「緊張するから」
「そう言ってもやっぱりロミジュリをしのぐ超ラブロマンスと銘打ってるし主役にあの名探偵工藤新一をってあおっちゃってるからねぇ」
 そう言って園子はわたしの方を振り向く。
「で、セリフは完ぺきなわけ?」
 園子の言葉にわたしはうなずく。
 セリフは完璧だと思う。
 演技も大丈夫だと思う。
 だって最後に昨日は有希子さんが観ててくれたし。
 ……スペイド王子とハート姫とのラブシーンには……色々口を出されてたけど……。
 わたしじゃなくって新一がね。
「でも、緊張してるのは蘭だけじゃないのよ」
 そう言って園子は志保さんの方に目を向ける。
 黙ってぶつぶつと呟いている。
「志保さん…緊張してるの?」
「してるわけ……ない…じゃない……」
 そう言いながら志保さんは手をギュッと握りしめる。
「してないって言いながらしてるわね」
「してないわよ!!」
「まぁねぇ、初っぱなから出番だもんねぇ。そう言えば、新出センセは?」
「工藤君と……天井裏で話してるわよ」
 その言葉に天井裏に目を向けると確かに新出センセと新一は何やら話していた。
「新一君、何してるの、そろそろ始るわよ」
「ん、分かった」
 そう言って新一は上から飛び降りる。
「ア、危ないじゃないのよ」
 いくら、スペイド王子が上から飛び降りるとは言っても結構な高さがある。
 それなのに
「ん?大丈夫だよ、本番前の試しって所…」
「もぉ……ねんざとかしちゃったらどうするの?」
「オレがそんなへますると思うか?」
 そう言って新一はじっと見つめる。
「……もぉ、知らないわよ、本番で怪我したって」
「大丈夫だって。うげぇ、たくさんいんなぁ」
 舞台袖から体育館内を見る新一は嫌そうに言う。
「蘭………大丈夫か?」
「ん、何が?」
「緊張してるだろ」
「してないよ」
「見れば分かるって言ってんだろ」
 新一が緊張してきたわたしを心配する。
「ほら、新一君、蘭。そろそろ始るわよ。ラブラブしてないで」
 そんなわたし達の様子を見て園子は言う。
 そうね、始めなくちゃ。
 会場内にアナウンスが流れる。
「これより3年B組によります『シャッフルロマンス』を上演いたします」

〜1幕〜
『シャッフルロマンス』
 小国でしかないブリッジ公国の王女ハート姫をめぐってポーカー帝国と大国であるトランプ王国が敵対する話である。
 ブリッジ公国の王女ハート姫には秘められた力があってその力を解放すればありとあらゆるものが手に入るのであった……。
 と内容はこんな感じ。
 ふぅ、最初の一人のセリフよ。
「あぁ、全知全能の神ゼウスよ!!!どうして貴方は私にこんな仕打ちをなさるのです!?それとも望みもしないこののろわれた婚姻に身をゆだねよと申されるのですか?!」
 その時だった、天井裏から……降りてきた白い影……。
「美しいお嬢さん、あなたに涙は似合いませんよ」
 そう言った人物は……怪盗キッド????!!!!
 どうして怪盗キッド…じゃない、快斗君がいるのよぉ。
 一応、セリフはあるから大丈夫だけど、カナリ慌ててるわよ!!
「どなたですか…?」
「白き魔法使いエースと申します。そして、わたしの隣にいるのが…青き助手クィン」
 と快斗君が指をぱちんとならすと……なんと青子ちゃんが登場した。
『どうして、快斗君と青子ちゃんがここにいるのよ!!!』
『それは秘密』
 小声で言ったことに快斗君はウィンクをしてかわす。
 もう、どういうことよぉ。
 新一の方をちらっと見ると何とあぜんとしてる。
 ってことは新一も知らなかったってことよねぇ…。
「姫、あなたにはあなたが知らない力があります。それを帝国は狙っています。お気を付けて」
 その幕のラストのセリフを言ってエースとクィンに扮した快斗君と青子ちゃんは消えていく。
 何が何だか分からなくなってきてセリフを忘れそうよ!!

〜1幕間〜
「何でテメェがいるんだよ!!!」
「まぁまぁ、いいじゃねぇか」
「ごめんねぇ、黙ってて」
 新一は1幕と2幕の間の転換の時間を使って快斗君と青子ちゃんに詰め寄る。
 正確には快斗君に詰め寄っている。
「蘭、ホントに黒羽君って怪盗キッド様に似てるわよねぇ。っていうかわたしが衣装を発注したんだけどね。さ、さ、第2幕が開くわよ」
 そう言って園子はわたし達を追いやった。
 もちろん園子も衣装を着けて。
 次の幕に園子はちょっとだけでるの。

〜2幕〜
 ブリッジ公国の騎士に扮するクラスメートともに舞台上に登場。
 そして、帝国軍がやって来て、新一の登場……。
 新一の後ろにどこかで見たような人物が……。
「に、逃げろウ!!」
「お、覚えていやがれ!!!」
 そう言って帝国軍が退場しわたしはセリフを紡ぐ。
「あ、ありがとうございます。お名前を教えていただけませんか?お礼をしたいのですが」
 そう言うとそのどこかで見たような人物は顔をこっちに向け、セリフを吐く。
「オレの名前はフラッシュや、こっちのくろーい奴はそやな、黒衣の騎士とでもよんだってや。そや、ねーちゃんの名前はなんていうんや?身なりからしてええとこのこやって言うの分るんやけど…」
 は、服部君!!!!
 新一は驚いて後ろを振り向く。
 そこは振り向く場面じゃないんだけど、あまりの驚きに振り向かずにはいられなかったらしい。
『な、なんでオメェまでいるんだよ!!』
『えぇやんか、和葉もおるで』
『な、何だって……。頭痛くなってきた』
 新一の動揺が手に取るように分かってわたしまで頭いたくなってきた。
「あんたの供の者が知ってんと違う?ともかく気いつけたほうがええで」
 そう言って服部君は新一と共に舞台袖に消えていく…。
 舞台袖では小声で喧嘩している服部君と新一が見える。
 はぁ、園子ねぇ。
 絶対そうよ。
 夏休みにたくらんでたのってこれだったのよ。

〜2幕途中:剣士と聖道士と魔法使いと助手の会話(セリフではない)〜
「蘭ちゃんには悪いことしてもうたなぁ」
「でもおもしろいよね」
「平ちゃん、新一の顔見た?」
「見た見た、おもろかったでぇ、兜取った後めっちゃおこってんねん!!!」
 楽しそうにあいつらは舞台上で演技している。
 何が楽しくってあいつらとやらなきゃならねぇんだ?
「何であいつらがいるんだよ!!!」
「おもしろそうだったから」
 おもしろそうだったからって他校の生徒を巻き込むんじゃねーよ!!
 しかもあいつらを!!!
「楽しいじゃない、蘭さんも楽しいわよね」
「エ、あうん」
 宮野の言葉につられ蘭はうなずく。
「蘭、ホントに楽しいと思ってんのか?」
「結構楽しいからいいかなって」
 オレの言葉に蘭はニッコリ笑って答える。
「そろそろ第3幕に入るわよ」
「次は工藤君と蘭さんのラブシーンが控えてるわね」
 と園子と宮野はシニカルに笑う。
 ぜってー楽しんでやがるよ、こいつらは。
 まぁ、威嚇の意味も込めて色々としますか。

〜3幕〜

 なつかしいな。
 去年の事、思いだすよ。
 蘭を……抱き締めたっけ……。
 ホントだったら…蘭にオレがいることを伝えることさえ出来なかったかも知れねぇのに事件があってあのバカのせいで出ざるを得なくなって…。
 それでも、まぁ良かったかなって思ってたのに…結果的には蘭を苦しめることになっちまって…。
 どうしようも出来なくって…どうしたらいいか分からなくって…結局、蘭に待ってて欲しいとしか言えなかった…。
 あれで…蘭に待っててもらえなかったら…オレどうなってたんだろ…。
 取りあえず、演技演技。
「キャー!!」
 蘭の叫びの後にオレは飛び降りる。
 園子からのリクエストは『華麗に』だそうだ。
 飛び降り方に華麗にとかってあるのかね。
 そして立ち回りを演じる…と……。
 蘭のセリフの後に服部と…。
「ありがとうございます」
 そう言って蘭はお辞儀をする。
 ずっと…見てきてるけど…、かわらねぇよな。
 蘭の仕草って…。
 演技にも出てきてるんだもんな…。
『工藤、袖に引けるで』
『ア、あぁ』
 服部に不意に声を掛けられる。
『なんや?ねーちゃんに見とれてたんか?』
 どもったのがまずかったらしい。
 そう突っ込まれる。
『バ、バーロォ。んなんじゃねーよ!!』
『ハハハハ』
 笑って流されてしまった。
 はぁ、何で園子はこいつのことを呼んだんだ?

『次は蘭ちゃんと工藤君のラブシーンやね』
 と突然和葉ちゃんは言う。
 ら、ラブシーンって。
『そうやろ?平次と快斗君なんてそれが目当てや言うてんで?ホンマアホ見たいやけど、…で…どうなん?』
『……新一が……なにかやりそうで怖いのはあるんだけどね…』
 そう言ってわたしはイスから立ち上がった。
 次のシーンはいわゆる見どころのシーン。
 園子は脚本に力入れて書いてた。
 だから一生懸命演じてねって言われた。
 舞台袖にいる園子はわくわくしてみてる。
 それから、快斗君や青子ちゃん、服部君と和葉ちゃん。
 そして、志保さんも…、わくわくしてる。
 後、客席にいるお父さん、お母さんに有希子さんと阿笠博士と少年探偵団のみんなに……新一のお父さんまでいる!!
 新一気付いてるのかな?
「黒衣の騎士……」
 取りあえず、演技をする。
『新一、新一のお父さんまで来てるよ』
『蘭も…気づいたのか?』
『うん…』
 新一はわたしの言葉に小さくため息をつき演技をする。
「………分りました。それが姫のお望みとあらばこの醜き傷をお負いしこの顔を月明かりの下にさらしましょう」
 新一の声っていいよね。
 そう言うクラスメートの言葉聞いたことある。
 そうかな…?
 今一つ分からないけれど…、新一の声聞くと安心するのは確かなのよね。
 あ、ぼーっとして、新一の声を聞いてる場合じゃないわ。
 演技しなくちゃ…。
 えっと次のセリフは……。
 ウッソォ。
 園子が一番演技指導に力入れたところじゃないのよぉ。
 もう……うー。
 そうしてる間に新一に抱き寄せられる。
 はぁ、緊張するけど、次のセリフね。
「……スペイド王子、幼き日の約束を……まだお忘れで無ければ………」
 そう言いながらわたしは新一の首に腕をかける。
 そして、新一のセリフ。
「姫…」
「…はい……」
 一応演技するため、目を閉じる…。
 ……え"!!!!!!!!!!
『蘭、感想は?』
 口唇を話した後新一はそう聞いてくる。
 しかもニッコリ笑って。
 確信犯よぉ。
 これは!!
『し、新一、本気でしないでよ!』
『いいじゃねぇか』
 わたしの抗議に対し新一はしれっとした態度で応じる。
 ひ、人前よぉ!!!
『良くないわよ、人前よ、恥ずかしいじゃないのよ!!!』
『恥ずかしがることねぇじゃん。照れてんのか?』
『当たり前でしょぉ』
 そう言うわたしを新一は抱き締めるのだった。
 もぉー、どうしてくれるのよ!!

 地上のスペイド王子達(新一達)を見守るようにセットされた木の枝と思われる所にオレと青子は座っている。
 演技指導によるとマントで青子を包むと…。
 一度やってみたかったんだよな。
 こうやって包むの。
『快斗……あれって……いわゆる』
 さっきの新一と蘭ちゃんの様子を見て青子は呟く。
『……青子……ん、そうだねぇ』
 言いたいことは分かってる。
 新一ってば蘭ちゃんに本気でキスしたよな。
『蘭ちゃん恥ずかしそうだよね』
『ホントだよ。しっかし、よくやるね、新一のやつもさ』
『クスクス、ホントだよね』
 そう言って青子はクスクスと笑う。
 だから思わず…、
「バーロ、そんなことできねぇよ。このマジシャンであるオレにはね」
 と言ってしまった。
 本来ならばマジシャンの所は魔法使いなんだが…。
『……快斗、マジシャンじゃなくって魔法使いだよ』
 当然のごとく青子に突っ込まれる。
『アドリブだよアドリブ』
『もー青子がはずかしい思いするんだからね』
 そう言って青子は顔を赤らめながらうつむいたのだった。

 屋敷内をイメージされたセットの中でアタシと平次にスポットライトが当たる。
『平次、なんかホンマにキスしてへんかった?』
『……確かにホンマやった』
 アタシの言葉に平次はうなずく。
『蘭ちゃん後で工藤君に文句言うと思うわ』
『工藤のやっちゃ卑怯やしな』
 平次の言葉にアタシはうなずき、
『それ言えてるわ。蘭ちゃんのことどのくらい泣かしたと思ってんのやろ』
 と言ってしまう。
 言ったらダメだって事…分かってる。
 けど、蘭ちゃんが言えない分、アタシは言うよ。
『和葉ぁそれは言わんとこうや、工藤だってわかっとるんやから』
 案の定アタシの言葉に平次は反論する。
『けどな、平次。そやけど、分ってそばにおるのと分らんでそばにおるとじゃ……やっぱり……』
『そうやな………』
 そう言って平次はうつむく。
『平次?どないしたん』
『オレは…どこにも行かん…からな』
『うん…分かっとるから…』
 アタシがうなずくと平次は静かに自分の方に抱き寄せ言う。
『そんな顔、すんなや…。約束するからな』
『うん』

〜3幕と4幕の間そして素早く5幕へ〜
 一応は大成功ねぇ。
 まさかあそこまでやってくれるとは思ってもみなかったけど。
「ご苦労様」
 ニッコリ微笑むわたしに蘭は怒ってる。
「何、蘭?わたし怒るようなことした?」
「園子じゃないわ、新一よ!!新一のこと怒ってるのよ!」
 でも、当の本人は楽しそうに黒羽君と服部君と談笑している。
「確信犯だったのよ!新一の奴」
「まぁ、いいじゃないの」
「園子、たき付けたでしょ」
 蘭はそう言ってわたしの事をにらむ。
 たき付けたつもりはないんだけどねぇ…。
 ここで威嚇なりけん制しておかないと蘭目当ての男が後からわらわら出てくるわよとは言ったけどさ。
「はぁ…憂鬱だなぁ、4幕が終わった後は新出先生とのシーンでその後が新一で……。はぁ……絶対怒るわよあのシーン」
「そうよねぇ、まぁ、見せないようにって宮野さんとわたしとで新一君を締め出ししてたからねぇ……。まぁ、頑張って」
 と人事のように言うわたしに蘭は大きくため息をついたのだった。
〜4幕と5幕の間の新平快(正しくは新一をからかう平快)〜
「次は、蘭ちゃんとあの先生の芝居かぁ」
 と快斗は台本を見ながら言う。
「でも、新一の台本ト書き書いてねぇんだな」
「園子の奴がト書きから内容がどんなことになるか分かられたら困るからってオレと蘭のだけ書いてねぇんだよ。でも蘭は後から園子にこのト書きが書かれている台本見てたぜ」
「て、事はや…工藤に見られたらまずい内容何やな」
 オレの言葉を受け服部はにやにやしながら言う。
「どういう意味だよ、それは」
「せやけど、わかっとんのやろ?セリフからだいたいの演技は」
「……だいたい…はな……」
 そりゃ一応は分かる。
 だけど、分かりたくねぇんだよ!!
「さっき…さぁ、鈴木さんに見せてもらったけど、結構凄かったぜ」
「なっ何がだよ!!」
「オレも見たで、和葉がキャーキャー言うとったからな」
 と快斗と服部は楽しそうに言う。
 な、なんだよ!!!
 何があんだよ。
 嫌な予感だけはするんだけど。
 幕開き直前。
 舞台袖にいる蘭にオレは声を掛ける。
「蘭」
「何?新一」
 そう言ってオレの方を向く蘭の手を取る。
 ちょっとした仕掛けをするために。
「何?新一?」
 不思議そうに蘭はもう一度オレの名前を呼ぶ。
 オレは仕掛けを誤魔化すために蘭を抱き寄せる。
「ちょちょっとぉ」
「緊張すんなよ」
「わ、分かってるわよ」
 何とか誤魔化せたかな?

〜5幕〜

 最初はわたしのシーン。
 新出先生はさすがに演技が上手で、ちょっとドキドキしてしまう。
 演技してる最中はコンタクトだって言ってた。
『さすがに、メガネで演劇はまずいですよね』
 って笑っていってた。
 その笑顔が結構カッコ良くってうん、クラスの女の子がキャーキャー騒ぐのも分かる気がするな。
 コレは、新一に内緒よね、やっぱり。
 新一に言ったら何しでかすか分かったもんじゃないんだから!
「オヤ、この指輪はどうされたのですか」
 新出先生のセリフの後、手にはまっている指輪を見る。
 見る…………み…る?????????!!!!!!!
 ちょっとーーーーーーーこの指輪は何よーーーーーー!!
 この指輪は指輪ケースにきちんと入れておいた新一からもらった指輪じゃないのよぉ!
 しかもあのプロポーズしてもらったときの…。
 何でこの指輪がここにあるわけ……?
 はぁっ!!!
 あの時だ!
 5幕に入る直前、新一に手を握られたっけ…。
 間違いない。
 あの時しかないわよ。
 新一のバカ!!
 新一は、このシーンはの最中は隔離させられてるのよね。
 確か…。
 はぁ、ったく何に考えてるのよ、あの男は!!!
『毛利さん、どうしたんだい?』
『えっあ何でもないです』
 新出先生の言葉に我に返りわたしはセリフをつなげたのであった。

 森を想定されているセットの中で、赤い衣に身を包んだ園子のセリフが響く。
『ところで、新一君、蘭が指輪を見て固まってたけど、何で?袖に引けてきたとき見せてもらおうと思ったけど、すぐに出番でしょう。新一君知ってる?』
 と園子はにやりと笑ってオレを見る。
『知らねーよ』
 ホントは知ってる。
 あの指輪は5幕が始る直前に蘭の指にはめた指輪だし。
 一応、『オレの物!!!』と言う主張を兼ねている。
 だいたい新出とのシーンで蘭の指にはまってるのが園子が買ってきたそこらの露店でうってる指輪で舞台に立たせるわけにはいかないっつーの。
 きちんとオレのもんだって言う主張をしておかねぇと。
 園子が退場すると待っているのは服部達&快斗達…。
『見たで、工藤』
『あれがそうなんや』
『可愛いかったよ』
『新一、センスいいじゃん』
 口々に言われる冷やかしにオレは閉口する。
『蘭ちゃんカナリ驚いてたぜ』
『この後どないすんねん?蘭ねーちゃんとの絡みのシーンやろ』
『うるせー……』
 はぁ、何でこいつらを呼んだんだよ。
 園子の奴は。

「離して下さい…」
 と小さいながらもはっきり聞こえる蘭のセリフ。
『かいきーん!!だよん』
 そう言って園子がオレを舞台そでまで引っ張っていくとそこに展開されているのは蘭とあのヤローのシーン。
 蘭にさわんじゃねーよ!!!
『ハイ、行ってらっしゃーい』
 園子の背を押される前にオレは舞台上に飛び出す。
「ハート姫!!!」
 オレの蘭にさわんじゃねーよ!!!
 と言う感じでにらみつける。
 はっきり言って演技は無視だ!!
『新一、苦しいよ』
 オレの方に来た蘭をオレは抱き締める。
『蘭、あの野郎に何にもされてなかったろうなぁ!!』
 こいつはオレのだって言ってるのになんだよあいつは!!
『新一……やきもちやいてるの?大丈夫だよ、あれは演技だってば』
 オレの怒っている様子に蘭は不思議そうに聞いてくる。
 演技にはみぇねんだよ!!
 園子が舞台袖でにらんでいるのに気付いたのでオレは演技を始める。
 はっきり言ってカナリ力入ってる。
 蘭にオレ以外の奴が触るのが嫌だ。
 独占欲ありすぎって言われたってかまわねぇ!!
 この独占欲の強さは…多分コナンだったときの影響が大きいんだと思う。
 側にいるのに何も出来ないもどかしさ……。
 だな…。
 そのせいで、独占欲が強くなってる。
『新一、この指輪どういうこと?』
『後で説明するよ!』
 そう言って煙幕をはって退場する。
〜7幕中盤〜
 高見櫓を模して作られたセット上にわたしはいる。
 そして、新一が現れる。
「ハート姫、大丈夫ですか?」
 園子の演技指導によると少し、怯えるとの事。
「スペイド王子…私…」
 次が新一のセリフ…のハズが何故か抱き寄せられる。
『ちょ、ちょっと新一、ここは抱き締めるところじゃないでしょ?』
『アドリブだよ、アドリブ』
 そう言って新一はニッコリと微笑む。
 もうバカ。
「スペイド王子がこうしていて下さるだけで安心することが出来ます」
 それに合わせて、セリフを変えざるを得なくなってしまった。
 本当なら
「スペイド王子がいらっしゃったので…安心しています」
 なのにぃ。
『バカ……新一のせいでセリフ変える羽目になちゃったじゃないのよぉ』
『蘭、おめぇ、結構余裕あんじゃん』
『ある訳ないでしょ!!』
 もう、ないわよ。
 新一が突発の行動するたびにドキドキするのよぉ。
『じゃあ、これはどうかな』
 あの意地悪な微笑みをわたしに向けセリフを吐く。
「姫…私に貴女の勇気を戴けませんか?」
『新一、そんなセリフないよ?』
 と言ったときだった。
 新一に覆いかぶさられるように口唇をふさがれてしまったのだ。
 甘やかな…キスに…一瞬演技を忘れそうになる。
 さっきもそうだけどぉ、今回もぉ!!
『どうする?蘭』
 あの意地悪そうな微笑みではなく、満面の笑みをたたえた新一は言う。
『バカぁ、反則よぉ…』
 そんな顔で言わないでよ、顔見れなくなっちゃうじゃないの。
『オ、オメーまで照れるなよっ。こっちまでつられるっ!!』
 そう言って新一は顔を真っ赤にしながら舞台袖へと消えていく。
 もう、誰のせいだと思ってるのよ。
 新一が悪いんでしょ!!
 顔を真っ赤にしてるときに和葉ちゃんと青子ちゃんが登場してきた。
『蘭ちゃん、顔真っ赤だけど、大丈夫?』
『工藤君って…ホンマ大胆なんやね』
『………そんなこと…言わないでよ』
 もう、全く何考えてるのよ、あの男は!!

〜8幕〜
 王城の庭を模したセットにわたしと新一はいる。
 はっきり言って呆れてるわよ。
 今日の新一がしでかしたこと!!
 何考えてるわけ?
『もう、新一ってば今日予定外のことばっかりしてない?』
『良いじゃねぇの。蘭、それともいやなの?』
 イヤとかいやじゃないとかっていう問題じゃないと思う!!
 返答をしないわたしを新一は抱き締める。
『嫌?蘭』
『……人前は嫌』
『人前って…今は演技している最中だぜ。舞台の上は夢だっておもわねーと』
 そう言って新一はニッコリと笑う。
『バカ……』
 そんなわたしのあごを新一はもちあげキスをする。
 今回も振りのハズだったのに……。
『し、新一ぃ!!!!今日、人前で3回目だよ!!』
『いいじゃねぇか』
『いいわけないでしょ!!』
『バーロ、そうでもしねぇとお前目当ての野郎どもがよってくんだよ』
 呆れた。
 ホント、独占欲強すぎるのよ!!
 こいつは。

〜劇終了後の後夜祭〜
「はいはいはーい。蘭、そのままそのまま!!」
 園子の言葉通りわたしは動く。
「新一君もね」
 で新一も素直に従う。
 記念の写真を撮ることにしたの。
 ハート姫とスペイド王子の。
 去年は…結局クラスメートに邪魔されてと言うか…二人きりの写真は撮れなかったから。
「邪魔されないようにね」
 そう言って園子は舞台が終わったばかりのセットの前で資料用だから入るな!!と全員に通達して人が入れないようにもちろんセットを背にして写真を撮る。
 最初は志保さんと新出先生の皇帝とダイヤ姫の悪役組み。
 次が服部くんと和葉ちゃんの大阪二人組み。
 その次が快斗くんと青子ちゃんの二人。
 それからわき役のメンバー。
 で最後にわたしと新一。
 今年は二人っきりでとれて嬉しいかな。
 去年は無理やり二人の写真を撮ろうとして……結局いろんな人が入ってきてとれなくって…。
 そんなこと思いながら写真に収まる。
「新一君、好きな様にしてって言ったらどうする?」
 急に園子が新一に向かって言う。
 新一を見ると何気にまじめに考えている。
「なに言ってるのよ、園子。新一もまじめに考えないでよ」
 そう反論するわたしを制して新一は園子に聞く。
「ホントにいいんだな?」
「まずくなければ」
「オッケー」
「ちょ、ちょっとぉ!!!」
 新一はわたしを横抱きに抱える。
「キャーお姫さま抱っこね。オーケーよ!!」 
 そう言って園子は写真を撮る。
 もーなに考えてるのよぉ、新一は!!
「コレ、張り出す写真だから一応オレのって言う意味で」
 と人の顔を見ないで言う。
 顔は真っ赤で…。
 顔を真っ赤にして言うんだったらそういうことしないでよなんて言いたいんだけど…何となく嬉しくって仕方ない。
 新一がいるって言うことが凄く嬉しい。
 と言うわけで最後の最後に全員で写真を撮った。
 あとは銘々にとってる。
「さぁ、次は後夜祭よ!!」
 と園子の言葉に全員校庭に向かった。
「新一…、着替えないの?」
 校庭に向かおうとする新一声を掛ける。
「良いじゃん、周りだって仮装してるぜ。たまにはさ。ホントは…着替えたいけど…、蘭のハート姫の格好も見てたいんだよな」
 誰もいない体育館ないで新一は言う。
 あたりは既に暗くなっていて…新一の表情は分かりづらい。
 もー…。
 そんなこと言われちゃったら着替えたいなんて言えないじゃない。
「さ、姫。お手をどうぞ」
 突然、新一は恭しく手をわたしに差し出す。
 その仕草があまりにも似合っていて笑ってしまう。
 なんで似合っちゃうのかなぁ。
「なんだよ」
「新一って…そう言うところ似合うから…やだよね」
 そう言ってわたしは新一の手を取る。
 案の定、新一は文句ありそうな表情でわたしに言う。
「あのなぁ、そういう言いかたねぇだろ」
「はっきりとキザって言ったほうが良かった?ともかく行こ、新一。みんな待ってるよ」
 そう言ってわたしは新一の手を取り校庭へと向かったのでした。

「きたで蘭ちゃんと工藤君」
「ホンマや、工藤、蘭ねーちゃんこっちや!!」
 ファイアーストームが見えるいい感じの場所に、ハイキングシートをひいている面々が見える。
 服部達だ…。
 全員、演劇の格好のまま……。
 これを…コスプレと言わずして何をコスプレって言うんだろう…。
 少し考えてしまう。
「お疲れさまぁ!!」
 全員で何故か乾杯。
 この面子って絶対おかしいような気がする。
「この後快ちゃん達はどうすんねん?」
「オレ達、どうせ明日は三連休の最終日だから、新一の家に泊めてもらおうかなって思ってる」
「オレ達もそう思ってたところや。えぇよな、工藤」
 服部の言葉にオレは止まる。
 さっき父さんと母さんが帰ってやっと久しぶりに蘭と二人っきりだ!!って思ってたのになんで服部達に邪魔されなきゃならねぇんだよ!!
「帰れ!!オレは、オメェらを構ってるほど暇じゃねぇんだよ!」
「蘭ちゃんは構うのに?」
「快斗っ!!余計なこと言うんじゃねぇよ!!」
 一応学校では蘭との同棲は秘密になってんだよ!!
「ともかくえぇやろ、工藤。遊んでったってこの後は受験が待っとる。そしたら早々簡単に東京に来れんようになるし…せやから最後やと思うて」
 そう言って服部は淋しそうに言う。
「だったら帰って勉強しろ!!」
「最後の遊びをさせろや!!」
 服部はオレの言葉にひかない。
 そうか…受験…か。
 まぁ、どっちみち関係ないんだよな。
 あんまり。
 進級テストぐらいか?
 ファイアーストームの火が強く燃えている。
 おととしはクラス全員でばか騒ぎして…去年は蘭と一緒にいたかったのに邪魔されまくって…今年はこいつらとで……。
 くっそーー何でオレ邪魔されるんだ?
「新一、着替えてこない?」
 ふと蘭がオレに耳打ちする。
 聞けばオレと蘭の着替えが置いてある場所と快斗達の着替えが置いてある場所は別々らしいので…邪魔されないと和葉ちゃんと青子ちゃんが言ったらしい。
 どうもオレと蘭の事心配して教えてくれたらしい。
「そうだな、そろそろ着替えてきてもいいだろな」
 オレは蘭の言葉にうなずき黙って着替えに向かう。
 着替えが置いてある場所から校庭のファイアーストームは見えるから別にココにいても悪くないと思う。
「着替え終わったか?蘭」
「今…終わったよ」
 そう言って蘭はカーテンの中から出てくる。
「もうちょっと見てたかったかな」
「何を?」
「蘭のハート姫」
「バカ」
 オレの言葉に蘭は小さく悪態をつく。
「電気、消すぞ」
 そう言って教室から出ようとするオレに蘭は声を掛ける。
「新一」
「なに?」
「スペイド王子、カッコ良かったよ」
 と蘭は顔を赤らめながら言ったのだった。

 その後…戻ってこないオレと蘭を服部達が捜しに来たのは…言うまでもない。

*あとがき*
シャッフルロマンスの舞台裏。シャッフル本編を読みながら楽しんでください。


novel top