同棲への道 13:『Famme Fatale』 君に逢う為に生まれた〜We Love The Earth〜

オレが目覚める時間は蘭と暮らす前より早い。
 何故だかは分からないけど、その時間を利用してオレは蘭の寝顔を見ている。
 このことは蘭に内緒だったりする。
 オレだけの秘密の時間。
 誰にも邪魔されたくない秘密の時間だったりする。
 そして、蘭にキスをして起こす。
「熱はどうだ?」
 蘭が目を覚ますとオレは聞いた。
「大丈夫だよ。新一こそわたしの風邪うつってない?」
 と蘭は聞いてくる。
 自分の事よりも隣で寝ているオレの方が心配らしい。
 蘭を安心させるようにオレはニッコリと笑う。
「良かった…新一にうつったらいやだもん」
「オレは全然嫌じゃねぇぜ。蘭に風邪、うつされたって」
「バカ」
 ホントの事言ったのに蘭は軽くにらんでくる。
 朝のまどろみの時間。
 蘭が隣にいる幸せ。
 この幸せが逃げ出さないように…オレはしっかりとしていなくちゃならない。
 蘭を守る。
 元に戻れたとき、オレはそう誓った。
 ままごとみたいな…同棲って言われたって構わない。
 …何人にもこの幸せを邪魔させるわけには行かない。
「新一、そろそろ、起きよう?ガッコ、行かなくちゃ」
「もうちょっと…こうしてたいかな?」
「ダメ、起きるわよ!!」
 蘭を抱き寄せキスしようとするとそう怒って起き上がる。
「仕方ねぇなぁ」
「仕方ないじゃないの。ね」
 蘭のニッコリ笑った微笑みにオレは一度だって勝てたためしがない。
 だから結局起きる羽目になる。
 蘭の作る朝食。
 オレが作るって言ってるのに蘭は譲らない。
「新一にはゆっくりしていて欲しいの」
 って言って聞かない。
 そのためオレは手持ちぶさたになってしまう。
 でもコーヒーだけはオレが入れる役目だ。
 これだけはオレが譲らない。
 結局のところ、朝は一緒に台所に立っていたりする。
「蘭、ホントに大丈夫か?」
「大丈夫だよ。新一のおかげで元気になったし…」
「そうか?でもあんまり無理すんじゃねぇぞ」
「新一が、事件だって言っていなくなったりしなければ大丈夫よ」
 う……痛いところつかれてる。
「はい…、すみません」
「そう思うんだったら、早く帰ってきてよね、名探偵さん」
「ハイ」
 蘭の言葉にオレは素直にうなずくしかなかった。
 ふぅ。
 玄関から出ると何故か門の所に園子と宮野がいた。
「オハヨ。蘭、新一君」
「どうしたの?園子」
 蘭が不思議そうに園子の達の方に駆け寄る。
 オレも玄関の鍵を締めた後にそれに続く。
「どうしたのって…結局二人そろって休んだあんた達の顔を…って言うよりも幸せボケしてる新一君の顔を見に来たに決まってんじゃないのよ!!」
「ホント、遅刻してくるって言ってたのはどこの誰かしら?貴方、カナリ出席日数まずいんじゃないの?」
 と二人に攻められる。
 余計なこと言うんじゃねぇよ…。
 案の定、宮野の言葉を聞いた蘭がオレの顔を見る。
「新一…、ホントに大丈夫なの?」
「大丈夫だって言ってるだろ」
 蘭を安心させるようにオレは言う。
「学校の方には蘭が休みだって聞いた時点であんたも休みって事にしておいてあげてるから。蘭は風邪。あんたは事件が長引いてるってこれで問題ないでしょ」
 園子の言葉にオレはうなずく。
 学校にオレと蘭の同棲がばれるわけには行かないからな。
 いつもの登校風景。
 園子と宮野が前を歩きオレと蘭がその後ろで歩く。
 教室に入るといつもと同じにざわついていた。
 ただ…ある瞬間までは……。
「わぁ、工藤君いるよ!!」
「ホントだ?毛利さんもいる」
 突然他のクラスからの女子生徒の声にオレのクラスはそっちの方を見る。
 オレと蘭がいることに何か問題でもあるのか?
 そして次の瞬間、職員室から戻ってきたらしいクラスの委員長が他クラスの女子を締め出し、教室の戸を閉めるとオレの方に向かっていった。
「工藤、今、職員室で、お前と毛利のことが話題になってたぞ」
 と…。
 どういうことだ…?
 バレた…のか?
「それ、どういうこと?なんでわたしと新一が職員室で話題になってるの?」
 蘭の言葉に委員長はためらいながらも言う。
「職員室の話題は……話題じゃなくって職員会議の…議題…」
 議題…。
 間違いない、バレた。
「議題ってなんだよ、委員長」
「工藤と…毛利の同棲…について」
 その瞬間、ざわついていた教室が…水を打ったように静まり返った。
「そう…か…」
「そうか…ってお前」
「別に良いだろ。オレと蘭が同棲してたって」
 オレの言葉にクラス中が騒ぎだす。
「さっすがー」
「だいたーん」
「問題じゃねぇーの?」
「同棲って何時から?」
「どうすんだよ」
 クラス中の騒ぎ。
 切れそうだ…。
 ばれてしまったことで放って欲しいって思ってもそれは無理なことではあるが…。
 オレが言わなかったのは蘭を傷つけたくなかったからだ。
 こんなふうに向けられる好奇の目に。
「別に良いだろ。オレと蘭が同棲してることに関してオメェらに迷惑掛けたか?掛けてねぇだろ。だったら別にいいじゃねぇかよ」
 蘭が、傷つけられるのが怖くて怒鳴ってしまう。
 どうして認めないんだ。
 どうしてそんなふうに茶化すんだ。
 他人にオレと蘭の事を簡単にいわれたくない!!!
「少し、静かにしたらどうなの?」
 宮野?
「子供じゃないんだから、そんなことでいちいち騒ぎ立てる必要なんてないんじゃないの?」
 宮野の一喝にクラス中は静かになる。
「工藤君ももう少し、冷静になったら?ホント貴方って蘭さんの事になると周りが目に入らないんだから。そんなことじゃ後々困るんじゃないの?」
 と宮野はオレへの言葉も忘れない。
 ったく、余計なお世話だっつーの。
 その時、予鈴がなり担任が教室に入ってくる。
 そのままHRに突入するかと思い気や、やはり出た言葉はオレと蘭への生徒指導室への呼びだしだった…。

 蘭と新一君は呼びだされた。
 そんなに問題なのかな?
 蘭と新一君の同棲。
 あの二人を知らない人から見ると問題かな?
 でも、知ってるわたしからすれば全然納得がいって、どうせなら一緒に暮らしたほうが蘭には絶対良いに決まってて…。
 だってね、新一君を辛そうな顔で待ってる蘭なんて見たくないもの。
 新一君が…事件を追っていなかったとき…蘭は…今にも消えそうで凄く怖かった。
 たまになんだけど。
 そんなものはめったに学校では見せないんだけど…。
 凄くはかなげで、壊れてしまいそうで…怖かった。
 でもね、新一君が戻ってきたら蘭ってば凄く綺麗に笑うのよ。
 憂いが全然ないのよ。
 新一君が側にいれば蘭は全然大丈夫なんだから。
 あのまま…戻ってこなかったら多分蘭は壊れてたかも知れない。
 だから新一君が戻ってきてわたしは心底安心してる。
 もちろん、蘭の為に。
 あの二人のことは小学校1年の時からずっと見てた。
 一瞬、新一君に一目ぼれしたけど、蘭にも一目ぼれして…。
 蘭が一番になってた。
 蘭は自分の事より他人のこと心配するお人よしで…新一君もその事よく心配してた。
 今もダネ。
 ……あんな蘭は二度と見たくない。
 あんな辛そうな、切なそうな顔する蘭は二度と見たくない。
 そのためにわたしにはしなくちゃならないことがあるのよ。
 蘭の一番の親友として。
 蘭と新一君が出ていった後に騒いでいるクラスメートに向かってわたしはある一つの提案をすることにした。
 一番の親友である蘭と…その彼氏新一君を守るために。
 蘭の笑顔を絶やさないようにするために。

 担任の後をオレは蘭の手をつないで歩いていく。
 見せつけのためじゃない。
 ただ、蘭が不安そうにしていたから…。
 オレが、蘭を守るって決めたから、蘭の不安を取り除かせる為にオレは蘭の手をつないでいる。
「蘭」
 蘭にしか聞こえないぐらいの小さな声でオレは声をかける。
「なに?新一」
「絶対…、絶対…大丈夫だから…」
「……うん、分かってる。分かってるよ、新一のこと。新一が大丈夫だっていったこと全部大丈夫だったもん。今までも…これからも…」
 そう言って蘭は微笑んだ。
 生徒指導室では…学年主任、生徒指導の先生、そして教頭と校長までもがいた。
「工藤くん、毛利さん、座りなさい」
 席を指定されオレは蘭を座らせてから座る。
「君たちを呼んだのは他でもないんだがね。近ごろ噂になっていてね。それが本当かどうか確認するために呼んだんだよ」
 教頭の回りくどい言い方がオレの耳に触る。
「その事が職員会議で議題になってねぇ」
 はぁ、うんざりする。
 何がどうなんだっていうんだ。
 蘭と一緒にいて何が悪い!!!
 いらいらしてきてしょうがない。
『貴方が切れたら、元も子もないわよ』
 教室を出る直前、宮野に咄嗟にかけられた言葉を不意に思いだす。
 そうだよな…蘭を守るためには何時いかなるときも冷静でなくてはならない。
 オレは一呼吸をし心を落ち着ける。
「話というのは、オレと蘭の同棲のことですか?」
 ズバリ、オレの口から紡ぎだされる言葉に先生方はあぜんとする。
「認めるのかね?工藤君。今だったらまだ後に引ける」
「後にひくつもりありません。オレと蘭は同棲しています」
「君たちは学生なんだよ。学生だったら学生らしい生活をするべきだとは思わないかね」
 学生らしい生活?
 いわれなれない言葉にオレは面食らう。
 はっきり言ってオレは学生らしくないと思う。
 高校生探偵だし。
 事件だといわれて呼びだされることもしばしばだ。
 そのオレに学生らしさを求められてもはっきり言って困る。
「それに君たちの両親の名にも傷がつくんじゃないのかい?もちろん、君の名探偵としての名にもだよ」
 いわれると想定していた事をいわれてオレはため息をつきたくなる。
 両親の名に傷がつく。
 オレの名に傷がつく。
 そんなことを恐れていたのでは蘭と同棲が出来る訳ないじゃないか。
 そんなことで傷がつくものなのか?
 オレはただ好きな女と暮らしてるだけなのに。
「工藤君、毛利さん。我々はプライベートのことまで立ち入るつもりはないよ。ただね、学生の同棲っていうのは問題があるんじゃないのかい?君たちの将来はどうするつもりだい?ちょっとした失敗で将来を棒にふる可能性だってあるんだよ。ましてやこの時期、大学受験の時期だ。工藤君、君の成績だったら外部の大学に受かるだろう。毛利さん、君だって都大会優勝という空手の実績があるのだから他の大学にでも行けるだろう。それからでも遅くないんじゃないかい?もう少し、将来のことを考えても見たらどうだい?」
 学年主任は静かにそういう。
「もちろんちゃんと考えていますよ。これから先のこと、将来のこと。もちろん、今の事も。でも、今のオレがあるのは蘭のおかげなんです。彼女がいるからオレはこうしていられる。彼女がいなかったらオレはココにも…いえ、日本にさえもいなかったでしょう。オレと蘭の両親の名に傷がつくとおっしゃいましたが、彼等はオレ達の同棲を許可してくれました。なんだったら電話しますか?アメリカ?探偵事務所?法律事務所?どこが良いですか?どうせなら来てもらいますか?アメリカにいるオレの両親は今日来ると言うのは難しいでしょうから、蘭の両親だったらすぐに来ますよ。彼等は蘭の両親であると同時にオレの保護者代理でもありますから」
 オレの言葉に先生方は黙り込む。
 蘭の両親、正確にいえば蘭の母親はオレの家の顧問弁護士だから一応保護者代理となっている。
 それも、昔から。
 ちなみに阿笠博士は家の管理人。
「オレと蘭は何をいわれても同棲をやめるつもりはないですよ」
 オレは気持ちを先生方に伝える。
 誰が何と言っても蘭と離れるつもりなんかない。
 蘭を離すつもりもサラサラない。
 だから同棲をやめるつもりさえないんだ。
「工藤君、君の気持ちはわかった。じゃあ、毛利さん、あなたはどうなんだい?」
 と生徒指導の先生は蘭に話を振った。

 お父さん…認めてくれたのに、どうして学校の先生は認めてくれないんだろう。
 知らないから?
 知らないからで…決めて欲しくない。
 わたしは新一と離れたくない。
「もちろんちゃんと考えていますよ…」
 新一が先生方に言っている。
 こんなときになんだけど…やっぱり新一ってかっこいいなぁ。
 わたしの将来の夢はこんな新一と一緒にいること。
 大バカ推理の介でもやっぱり一番側にいたいのは新一しかいないんだよね。
「毛利さん、貴方はどうなんだい?」
 突然、わたしに話を降られる。
 なんの話?
「毛利さんは工藤君とはどうしていきたいんだい?」
 これからの事?
 これからの事なんて決まってる。
 わたしは新一と一緒にいたい。
 これは昔から変わらない。
 新一は…わたしにとって特別な存在。
 新一がいたから逃げ出したくなるような出来事から逃げ出さずにいられた。
 お父さんとお母さんの別居。
 新一がいたから…わたしは頑張って来られた。
 新一がいつも
「大丈夫、絶対に大丈夫だから。蘭は心配しなくてもいいんだから。オレが何とかしてやるから」
 って言うから。
 その事は絶対に叶えられてきた。
 新一が側にいてくれたから…。
 新一にとってのわたしは…?
 ふと首からぶら下がっている新一からもらった鎖に通してあるリングを思いだす。
 これは新一がつけたもの。
「どうせなら…しててもらいたいけどさ。やっぱそういうわけにはいかねーだろ。だから鎖に通してさ」
 って言いながらつけてくれたネックレス。
「蘭、オメェがいればオレはオレでいられるんだよ」
 そう言って微笑む新一。
 新一が側にいること許してくれるならわたしは新一のそばにいたい。
 ちらっと新一を見ると、大丈夫と言うふうに微笑んでくれる。
『大丈夫だから、蘭が言いたいこと言えばいい』
 わたしはそんな新一にうなずき言った。
「わたしですか?わたしは…彼と一緒にいたいです」
「やりたいことはないのか?空手やってるじゃないか」
「空手をやってるのは興味があったからって言うのもありますけど、別の理由もあります。だから空手で他の大学に行こうなんて考えたこともないです。空手の都大会に出たのだって自分の力をためしてみたいと言うのもありましたけど大会があるから出てみないかって言われたからでもあるんです」
 他の理由。
 それはたった一つ。
 新一の側にいるために、新一が、安心して探偵をするために…わたしは空手をやっている。
 これは…新一には秘密なんだけどね。
 先生方はわたしと新一の意志の固さに驚く。
 学校の恥とでも思ってるのかな?
 どうしてなんだろう。
 わたしは…ただ新一と一緒にいたいだけなのに。
 それじゃまずいって言うのも分かってる。
 でも……それでも好きな人の側にいることが一番わたしは落ち着くから…。
「しかしだね、本当にご両親は納得なさってるのかね?嘘を言っている訳じゃないだろうね」
 本当のこととどうしても認めたくないらしい先生がいった。
「先ほども言ったように電話しても構いませんよ。アメリカでも探偵事務所でも法律事務所でも」
 と、新一が言った矢先のことだった。

「お話し中、失礼します。工藤君に家の方から電話が入ってるんですが」
 園子の突然の乱入及び言葉に先生方は訝しがる。
「新一君、有希子おばさまから電話よ。携帯、カナリ長くなってるから出ちゃったけど…まずくないよね」
 突然、入ってきた園子の言葉にオレはうなずく。
 園子のこの入り方は計画的だ。
 外で聞いていたハズだ。
 オレに携帯を渡したとき意地悪そうに微笑んでるのを見えたから。
「もしもし、母さん、なに?」
 電話に出るとオレはそっけなく言う。
「何じゃないわよ、園子ちゃんに聞いてびっくりしたんだから!!」
「母さん、声が大きい」
 受話器から漏れる声が母さんの声の大きさを物語っている。
「だってぇ、新ちゃんと蘭ちゃんが学校の先生方に怒られてるって聞いて……。同棲のこと認めてもらえないんでしょ?でも、安心して、わたしと優作は大賛成よ。新ちゃんが一番大切なのは蘭ちゃんなんですものね」
 母さん……。
「だから、先生方に変わって」
 母さんの言葉にオレは面食らう。
 母さんが変わったら余計に話がこんがらがる。
「な、何言ってんだよ!!母さん」
「わたしが話すんじゃないわ。優作が先生方に話すって言ってるんだからね」
 ア、父さんか……って父さんもだよ!!
「新一、変わってごらん。わたしから先生方に話すよ」
「良いよ、オレの事はオレがきちんと片づける。オレは守るって決めたんだから」
「そうだな。新一、それを忘れるんじゃないよ」
 父さんの言葉にオレはうなずく。
 でも、父さんが電話の向こう側にいるうちに、ココにいる先生方を納得させるために言ってもらうか。
「とりあえず、オレと蘭の事認めてるって話して欲しいんだ。どうも信用出来ないらしいから」
 おれの言葉に先生方はせき払いをする。
「そのくらいは、良いだろう。変わってごらん」
 父さんの言葉に、一番信用していなかった教頭に手渡す。
「父です」
 そう言って。
「……は…しかし……そうですか……分かりました……」
 そう言って教頭は携帯を切る。
 そして、静かに言葉を吐く。
「何があっても良いんだね。君たちは何があっても一緒に暮らすと言うんだね」
「ハイ。そんな当たり前の事聞かないで下さいよ」
『Femme Fatale』
 不意に思いだした。
 この言葉。
 何でこんなときに思いだすんだろう。
 不思議だ。
「毛利さんはどうなんだね」
「わたしも一緒です」
 そう言って蘭はニッコリ微笑む。
「不安なんて微塵も感じさせない。微笑みね」
 今まで口を開かなかった校長が不意に言葉を紡ぐ。
「わたしは不安なのよ。あなた方がきちんとやっていけるのか。工藤君の探偵としての名に傷がつくとか、ご両親の名に傷がつくとかそう言うのを心配しているんじゃないの。離れることになったら傷つくのはあなた達なのよ。それは理解しているの?」
「大丈夫です、そんなことないですよ。オレ達は」
「そう、分かったわ。ご両親の承諾があるんだったら学校としても認めないわけには行かないわね」
 と校長は一息吐き言ったのだった。
「そういうわけだよ、園子」
 とオレは、廊下にいるであろう、園子他クラスメートに声をかける。
「え?」
 先生方は驚く。
 もちろん、蘭もだ。
 あの、園子がおとなしく教室に戻ると思ったのか?
 そんなことあるわけねぇじゃん。
 クラス中引き連れてココまで来たに決まってる。
「よく分かったわね!!新一君、先生達が蘭と新一君の事認めなかったら直談判してやろうと思ってたのよ」
 そう言って入ってくる園子の後ろにはクラスメートが全員いた。
「良かったわね、認めてもらえて。これで晴れて同棲が堂々と出来るわね」
 と、宮野の皮肉にも似たジョークにオレは軽く笑ったのだった。

「『Femme Fatale』か……」
「え、何?」
  夜、夕飯を食べ終わってお互いに違うことをやってる最中に不意に呟いていたらしい。
 蘭が聞いてくる。
「『Femme Fatale』って言ったんだよ。フランス語で運命の人。宿命の女の事だよ。オレにとっての蘭の事考えてたら思いだしたんだよ」
 さっき生徒指導室にいたときに不意に出てきた『Femme Fatale』。
 蘭はオレの運命の女だ。
 蘭以外の女なんて全然考えられないし、考えたこともない。
「ふーん……運命の男って言う場合はなんて言うの?」
 ふと、蘭が聞いてくる、
「いわねーよ。大概使うのは男の方が多いしな。『Femme Fatale』の深い意味は宿命の人って以外に男を狂わす女っていう意味もあるらしいから」
「わたし…新一の運命狂わせてる?」
「うん、狂わされてる」
 そう言うと蘭はうつむく。
「バーロォ、良いようにって言う意味だよ。ったく…そんな顔すんじゃねーよ」
 そう言ってオレは蘭を抱き寄せた。
「蘭に逢えて良かったって思ってんのに悲しそうな顔すんじゃねーよ。蘭、蘭にとってのオレは何?」
「運命の人…に決まってるよ。最初っから新一のことしか見てなかったんだもん」
 そう言って蘭は微笑む。
「新一、これからもよろしくね」
「こちらこそ、よろしくな。蘭」
 オレの言葉に蘭は微笑む。
 願わくば、このままで行きたい。
 そうも行かないかも知れないけど、このままの幸せが続けば…どれだけ良いだろうと思わずにはいられなかった。

*あとがき*
同棲への道、終了編。


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