CONFESSION〜告白〜

 ふと気がつくと、アタシは生まれたときからの幼なじみの探偵と一緒に遠出することが多くなった。
 しかも決まって場所は東京にある米花町……。
 いつもいつもアホみたいにおんなじ事繰り返している幼なじみにあきれ返りながらも名目はお姉さん役として後を着いていっている。
 どこで、あのアホな幼なじみを狙っている女がいるとも分らないし。
「あのなぁ、和葉。オレは工藤に逢いたいんや」
「……平次、そんな知らん人が聞いたら誤解するような言い方せんといて。工藤君はあんたに逢いたないんと違う?」
「そないなことあらへんって、オレは西の服部、あいつは東の工藤って言われてるんやで」
「向こうは全然平次のことなんか気にしてないやんか」
「そんなことない、工藤だって、オレのこと意識してるに違いないんや!!!」
 このアホどうにかしてくれ。
 工藤新一、平次がライバル視している探偵。
 この前逢ったとき工藤君は平次のこと意識してるようには見えなかった。
 それどころか、蘭ちゃんのことばっか気にしていた。
 詳しくは知らないんだけど(平次も詳しくは教えてくれへん)工藤君はずーっと事件をおっていたらしい。
 平次が言うには自分が勝手に首突っ込んだ事件だから、誰にも言えないでずーっと一人で戦ってたらしい。
 で、工藤君が帰ってきたときは蘭ちゃんがうれしそうに言ってたの、まだはっきりと覚えてる。
 凄く幸せそうで、何かうらやましかった。
 しかも、彼氏彼女の関係になったって言うからますますうらやましい。
 アタシときたら………この幼なじみのアホ平次には何も言えずじまい。
「平次ぃ、明日っからの3連休どないすんの?」
「もちろん、東京に行くんや」
「何で」
「決まっとるやないか、工藤に逢いにいくんや!!」
 はぁ、これだ。
 どうにかしてくれ!!!!
 平次は工藤君が帰ってきてからは暇を見つけては東京に行っている。
 もちろん、アタシも一緒で。
 アタシも一緒に東京に行くのは理由があって、一つは平次に変な虫がつかないように。
 で、もう一つがある日突然ホントに突然だったんだけど…工藤君からうちに電話があったのだ。
 その内容はと言うと……。
「頼む、服部をどうにかしてくれ」
 聞けば、あのアホ平次は蘭ちゃんと工藤君のデートを邪魔するらしいのだ。
 一回アタシ一人おいてけぼりにされたときに散々邪魔されて、それでなくても工藤君は名探偵として忙しいのに、その忙しい合間を縫ってのデートなのに平次に邪魔ばっかりされているのだ。
 それを聞いてアタシはいたたまれず蘭ちゃんの所に電話もかけられないのだ。
 なんか、すっごく迷惑掛けたみたいなんだよね。
「平次、東京行くんやったら。アタシもいくけど」
「何で和葉もいくんや?和葉も工藤に会いたいんか?」
「違うわ!!!」
 あまりの平次のアホさ下限にアタシはいい加減頭に来ていた。
「平次、何でアタシがあんたと東京行くとおもってん?蘭ちゃんがせっかく工藤君が戻って来て、一緒にいられるって思ってるところにあんたが邪魔しに行ってどないすんの?蘭ちゃんがかわいそうとおもわんの?それに、ちょっとはアタシの気持ちも考えてよ。口開けばすぐ工藤、工藤って、平次にとってアタシは何なの?」
 昨日からの風邪気味なのも重なってついつい平次に本音を言ってしまう。
「アタシより事件って言うのも癪やけど、それぐらいならしゃあないって思ってる。けどアタシより男の方取るなんていやや」
 本音をついつい言い始めて、どんどん弱気になっていくのが分る。
「アタシ、蘭ちゃんの様に強くなられへん。みんなに迷惑ばっかかけてまう。平次がおらんようになったらアタシいやや…」
 アタシの言葉に黙って聞いていた平次が急に振り向く。
「なんやの平次」
 すると、額に手を置いて言う。
「和葉、お前熱あるんやないの」
「は?!」
 平次の言ってる意味がわからない。
 どういうこと?
「そんなんやから弱気になるんや…」
 その途端足下がふらつく。
 何ナノ????
「和葉?!かずは!!!」
 平次の声が遠くで聞こえる。
「和葉、お前昨日雨ん中長いことおったやろ」
「そんなこと…ないよ」
「アホ、そんなことないわけあるか!!!」
 そう言って平次はアタシのことを背負う。
「へいじ?」
「うちまで送ったるから安心せぃ」
 平次の声が優しく聞こえる。
 昨日……雨の中ずっといた理由は平次のこと考えていたせいで、雨降ってきたのも気がついてなかった。
 って言うかどうでも良かったんだ。
 あの時は…。
 平次が知らない女の子と仲良さそうに歩いてて…肩なんて抱いてて……後から聞いてみたら。
「アホ、この前あった事件の関係者や!!!」
 って怒鳴られた。
 お父さんも知ってたらしく(って言うかその事件はお父さんが平次に依頼した。大阪府警の未来は暗いね)うち帰ってきて愚痴ったら笑われた。
 しょうがないじゃん、アタシ知らなかったんだもん。
「和葉、はよ着替え」
 お母さんの言葉にうなずく。
 気がつけばいつの間にかうちに帰ってきたらしい。
「和葉、今夜はおかんなぁ、静華と旅行行くから帰ってこんけどえぇな?」
「えぇよぉ」
 静華とは平次のお母さんのこと。
「そのかわり平ちゃんおいとくから、ごめんなぁ和葉ちゃん」
「ウン…」
 気がつかなかったけど、平次のお母さんも来てたらしい。
 ふらふらした頭でベッドの中に入り込む。
 なんか……おばちゃん言ってたなぁ。
 平次おいてくからって……。
 って事は平次いるの?????

 気がつくと平次はアタシのベッドの隣に座っていた。
「和葉、熱大丈夫か?」
「平次……なんでおんの?」
「今日オレのおかんとおまえんとこのおかん旅行行くの知らんかったか?おっちゃんもおとんも事件続きで家開けとるし、お前一人熱出てんのほっとくわけいかんやろ。せやから、おんのや」
 お母さんととおばちゃんが旅行に行く……そんな話し……。
 そう言えば昨日言っていたような気がする。
 忘れてた。
「和葉、ちゃんと薬飲んだか?飲まなあかんで」
「飲んだよ、平次」
「そうか」
 そう言って平次は寝ているアタシの頭をくしゃっとなでる。
「……そんな泣きそうな顔すんなや……」
 泣きだしそうなアタシの顔に平次は困った顔をする。
 全くまわらない頭を精一杯動かして、アタシは平次の腕を引っ張る。
「…和葉!な、何すんのや」
 押し倒し…じゃないな、引っ張り倒してアタシは平次の頭を胸に抱く。
「か、和葉」
 慌ててる。
 っていうかもっと慌てろ!!
 面白いなぁ、慌ててる平次見るのって。
「あかん?平次、このままじゃあかんの?」
「和葉……離してくれへん」
「いやや。平次のこと離したらどっか行きそうで嫌や」
「……どこも行かんから……和葉…」
「ホンマ?」
「ホンマやて、せやからはなしてや」
 仕方なしに平次の事を離す。
 もうちょっと頭抱っこしていたかった。
 熱のせいだ…きっとこんなこと思うのって。
 このまま離したらどっか行きそうで嫌だった。
「和葉……どないしたんや?」
 平次がのぞき込む。
 ちょっとだけ、顔が赤い、平次の顔。
(浅黒く日焼けしてるからわからへんやんなんてつっこまんといて)
「平次……」
「なんや?」
「おなか空いた………」
 思わず、口からこんな言葉が出る。
「ちょっとまっとってや。今から作ってくるから」
 そう言って平次は台所に向かった。
 平次が作るご飯…ってどんなのだろう。
 平次が側にいないとダメだ。
 熱が出たときはいつもそう思う。
 アタシのお父さんと平次のお父さんは大阪府警の偉い人で昔からの幼なじみで、お母さん同士も幼なじみだったような気がする。
 だから…平次はいっつもいてくれた…。
 そして、アタシは平次の側にいつもいた。
 そう、アタシ達も幼なじみ……。
 ずっと一緒にいた。
 これからも一緒にいたい。
 幼なじみとしてじゃなく……。
「……じゅは、かじゅは」
 遠くから平次の声がする。
 気がつくとどっかの河原……でも来た記憶があまりない。
 一度来たことがあるようなそんなとこ。
「かじゅはぁ」
 遠くから舌ったらずな平次の声がする。
「へいじぃ、なにしとんの?」
「これみてみぃ」
 そう言ってアタシに差し出したきれいな石。
「きれいやな」
「かじゅはにやる」
「ホンマ?」
 ホントに小さいころのアタシと平次。
 そうだ、ここはたまの休暇って事でうちの家族と平次の家族とで日帰りの旅行したところだ…。
 ホントのたまの休み。
 いろいろあった気がするけど、平次と言う人間を初めて気になった時だった様な気がする。
 舌が回んない平次っていつだろう記憶にない。
 目が覚めてふと思い出す。
 どこにやったっけ……。
 机の引き出しに入れておいた記憶はある……。
 何だろうって一度見かけてそのままだったから捨てた覚えはない。
 がさごそ捜していてようやく見つかる。
 ついでにアルバムも探す。
 目的の写真はすぐに見つかる。
『和葉&平次 3歳』
 と、お母さんの字でト書きされたアタシと平次の仲良く手をつないでいた写真。
 そうアタシと平次が3歳の頃の話。
 って言うかアタシよくそんなこと覚えてたなぁ。
『あんた、めっちゃはしゃいどったんよ。おとんと全然遊んでへんかったしね。そうそう、平ちゃんなんてあんたの後をかじゅは、かじゅはっていってついて歩いてたし、あんたの気ぃ引こうといろいろやっとったんよ』
 ってお母さんが言ってったっけ。
「和葉!なにしとんのや。ねてんとあかんやろ」
 ベットから抜け出て床にぺたんと座ってアルバム開いていたアタシを台所から土鍋を持ってきた平次がみてとがめる。
「和葉、余計にひどうなるで。そうなったらどないすんねん。明日っから連休やのにもったいないやんか」
 そう言って平次はアタシをベッドに押し込む。
「昔のアルバムみてるぐらいえぇやんか」
「えぇ事あるか、熱でてんねんど。おとなしくねてなぁ。お粥食べられそうか?一応作ってきたで」
 平次が心配そうにアタシを見る。
 病気の時だけは優しい。
 いつもは事件か、工藤……。
 頭に来て蘭ちゃんのとこ電話するのもしばしば……。
 なんかアタシら二人そろって蘭ちゃんと工藤君に迷惑掛けてるような気がする。
「和葉、どないしたんのや?なんか言いたいことあるんなら言いや。聞いたるから」
 黙り込んでずーっと平次を見ていたアタシに言う。
「平次…平次はどこにもいかんよね」
 ふと、口に出る。
 ずっと抱いていた不安。
 ある日、そう蘭ちゃんに逢ってから沸き起こった不安。
 今まで隣にいて笑っていた人がいなくなる、不安。
 蘭ちゃんと同じで因果な職業についたものを好きになった報い……。
 多分、一生好きでいるかぎり…一生つきまとう不安。
 工藤君がいなくなってその不安が一気に露呈した蘭ちゃん。
 蘭ちゃんはあまり表に出さずに耐えてたけど、もし平次がいなくなったらアタシはどうなるんだろう。
 蘭ちゃんのようにじっと我慢できるのだろうか。
 もし平次が工藤君のように電話してきて来ても、アタシは蘭ちゃんのように元気に応対なんて出来ない。
 多分、なじって泣いて散々困らせてしまうだろう。
 そうはなりたくない。
 けど…………。
「和葉……?」
「平次、どこにも行かんと約束して。アタシ、平次がどっかに行ったら、蘭ちゃんみたいに待てられへんよ。平次がおらんと……アタシ」
 最後の方は泣きだしそうだ。
「和葉……」
 平次はそう言ってアタシの言葉にうつむく。
「平次………」
「和葉……一度しか言わんからよう聞けや」
 長い沈黙の後平次が言う。
「えぇな?」
「ウン」
 平次はアタシがうなずくと深い深呼吸をして言う。
「和葉、オレは探偵や、せやからどっか事件追っかけて行ってまう」
「そないなこと言われんでも分ってる」
「話聞けや………。せやけど……戻ってくるところは和葉のとこだけや。他にない」
「平次?それってどういうこと」
 そう聞くと平次は顔を赤くする。
(しつこいようやけど浅黒く日焼けしてるからわからへんやんなんてつっこまんといて)
「平次、アタシのこと好きなん?」
 ふと聞いてみる。
 平次の言い方だとそうとってもいいよね…。
「な、………」
 案の定平次は慌てる。
 まぁ、予想はしてたけど。
「そうなん?なぁ、平次、アタシのこと好きなん?」
 さらに畳み込むように聞いてみる
「あ、あ。か、あん」
 何言いたいんだかろれつが回らないようになる。
「そうなんやふーん」
「和葉!!!!」
 意地が悪そうなほほ笑みを平次に投げ掛けると平次はテレながら目線を避ける。
 何かすっごくうれしい。
「平次、アタシも平次のこと好きなんよ」
 熱とうれしさも相成ってアタシは平次に告白した。
 この告白に、平次はどのくらい本気にとってくれるのかは分らないけれど。
「あーーーもういい加減ねろや」
「いやや、寝たら平次どっか行ってまうもん」
「いかへんて言うてるやろう!あ、和葉お粥食うか?」
 そう言って少しだけ冷めてしまったお粥をアタシに差し出す。
「和葉、うまいでこれ」
 身体を起こしたアタシに平次は食べさせてくれる。
「ホ、ホンマやね」
「そやろ?和葉はよ元気になり。せっかくの3連休どこにもいけへんのなんてそんやで」
 と、平次が心配する。
 何かいい感じ。
 平次が優しいのはいい感じだ。
 これで、工藤工藤って言わなかったらもっといいんだけど………。
 まぁ、今は言わないからいいか。

 次の日の朝は快晴!!!!
 窓から見える真っ青な空が熱も下がったアタシの気分をよりいっそう晴れやかな物にした。
 昨日はちょっと失敗したかなぁ。
 あんなところで平次に告白するつもりなかったんだけど……。
 ま、いいか。
 その時台所の方からおいしそうなにおいがする。
 においにつられ台所に行くと、すでに朝ご飯の用意がされていて、平次がアタシの起きてくるのをまっていた。
「おぉ、和葉起きたか!熱の方はどうや?下がったんか?」
 そう言ってアタシのおでこに触る。
 ちょっとドキドキ。
「うん、薬飲んだからさがったんよ」
「それは良かったなぁ」
 と平次は屈託のない笑を見せる。
 ふと視界の中に見覚えのあるドラムバックが見える。
 平次の…ドラム缶バック。
 何でこんなところにあんの?
「和葉、冷めてまうからはよ食べや。オレが作ったんやで」
 と平次はうれしそうに言う。
 朝ご飯を食べながらアタシは平次に聞く。
「平次、何であんたのドラムバックがうちにあんの?」
「和葉もはよ食べて準備せいや」
「何の?」
 平次の言葉に聞き返す。
 その時いやぁーな予感がアタシの頭をよぎる。
「決まっとるやないか!東京に行く準備や!」
「はぁぁぁぁぁ????!」
「和葉、熱さがったんやろ?せやったら東京の工藤っとこ行くで!!」
 どうにかしてくれこのアホを!
「あんなぁ、平次。アタシは病み上がりやで?」
「和葉が倒れたらまた看病してやるから安心せぃって」
 と平次はテレながら言う。
 うれしいけど、そう言う問題じゃないのにぃ。
 平次の『新一フリーク』に根負けしてアタシは平次の後をくっついて東京に行くことになった。
「ごめん、工藤君、蘭ちゃん。今日平次とそっち行くことになってしもうた……」
 と、電話を入れて……。
 はぁ、アタシいつまで平次の『新一フリーク』&『事件』にどれだけ振り回されるんだろう。
 ん????
 そう言えばアタシ平次に好きだって言ってもらってないよ!!!
 東京に行ってる間に言わせてやる!!!
 覚悟してろよ服部平次!!

*あとがき*
『君に逢う為に生まれた』の大阪和葉告白編の豪華版。


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