君に付いたホントの嘘  IGNITION,SEQUENCE,START〜予告なしで始めよう〜

「久しぶりやなぁ、蘭ねーちゃん」
 秋も深まり始めたある日の事、服部君から電話があった。
「どうしたの服部君、いきなり電話してきて」
「工藤はおるか?ちょっと話したいことあんねん」
「コナン君だったら、今いないよ」
 かかってきたのは事務所の電話。
 近くにいるのはもちろん、お父さん。
 テレビをぼーっと眺めている。
 何故か手に置き時計を抱えて。
「何や、今、一人やないんか?」
「うん、お父さんがね、いるのよ」
 その言葉に服部君は少し考え込む。
「さよか、ならまたあとで掛けるわ」
「だったら、帰ってきたら服部君の所に電話かける用に言う?」
「そやな、ほな頼むわ」
 そう言って服部君は電話を切る。
 あれから、服部君の様態は変わらないでいるらしい。
 最初に飲んだクスリの後遺症も、解毒剤の後遺症もないとの事だった。
 でも、何故それが服部君の家にあったかは分からないまま。
 って和葉ちゃんは言ってた。
 でも、服部君は知ってるみたいだと聞いても教えてくれないって言ってた。
 多分、服部君は和葉ちゃんに心配掛けたくないから言わないのかも知れない。
 新一が……わたしに言わないように。
 喧嘩したとき、全部白状させたけど。
 でもねわたしは言って欲しい。
 自分が辛くたって、言って新一が楽になるんだったらわたしには言って欲しい。
 何も知らないでのうのうとしていたくないのよ。
「ただいまぁ」
「お帰りコナン君」
 服部君からの電話を切ってだいたい5分後にコナン君(新一)が帰ってきた。
「蘭ねーちゃん」
「何?」
「おじさん、どこか出かけるの」
 お父さんの方を少し観ていたコナン君(新一)はそういう。
「なんで?」
「おじさん、どうしたの?なんか時計見てため息ついてるから…逢いたくない人と待ち合わせなのかなって」
 ってコナン君(新一)は新聞のテレビ欄を見ながら言う。
「おじさんが見たがってるようなテレビは今日やってないし……」
 そういうコナン君にお父さんは視線を向けそして立ち上がった。
「蘭」
「何?お父さん」
「ちょっと出かけてくる」
 不満そうにぬいでいた上着を羽織りでていこうとする。
「どこに?」
「あいつのとこだよ。またボディーガードだと」
 そう言ってぶつぶつ良いながらでていった。
「結構、うまくいってんじゃん、おっちゃんとおばさん」
 窓からお父さんを見ている新一(コナン)は言う。
「喧嘩しないで…帰ってきて欲しいなぁ。あ、忘れてた、今日お父さん、夕飯どうするんだろう」
「おばさんに電話して聞いてみたらどうだ?」
 新一(コナン)の言葉にわたしはうなずき電話する。
 すると、夕飯は食べさせるから大丈夫とお母さんは言った。
「ホントうまくいってるんだ。結構信じられねぇな」
 と新一(コナン)は窓から降りる。
「あ、そうだ、新一、服部君から電話あったよ」
「え?何?蘭、何か聞いてるか?」
「んん?聞いてないよ。ただ、なんか慌ててる風だった。こっちから掛けなおすって言ったから掛けてあげて」
「わーった」
 いやいや新一(コナン)は電話を取り服部君の所に電話を掛けた。

「くどー!!!」
 電話が繋がると服部は大声で叫ぶ。
 その声が耳に響く。
「うッせーなぁ、なんだよ、電話なんてよこして」
「それやけどな、怪盗キッドから予告状が来たんや」
「へぇ、キッドからねぇ頑張れよ」
 オレがそう言うと蘭はテレビをつける。
 確かに早めのニュースとしてテレビの画面には予告状とともに怪盗キッドのこれまでの遍歴が映し出されていた。
「ホントだやってるよ」
 蘭の声を後ろに聞きながらオレは服部に聞く。
「大阪にまでキッドを追いかけてくつもりはねぇよ、中森警部じゃあるまいし、大阪はお前にまかせた」
「そう言うてられるのも、今のうちやで」
 ん?
 服部の言葉に首をかしげる。
「ちょっと、新一、観てよ、これ」
 蘭がオレをテレビの方に向かせる。
 そこには怪盗キッドがよこした予告状が公開されていた。
「西の名探偵服部平次に告ぐ」
 の下りから始る暗号文だった……。
「なんだよ、これは。オメェの名指しじゃねぇかよ」
「そうや、この暗号文が流れたせいでなぁ、一時期オレの家の周りはマスコミだらけになってもうた!!それでな、この暗号文には続きがあんねん」
「続き?だと……まさか」
 オレの言葉に服部はうなずく。
 嫌な予感がした。
 大阪で予告状を出したのに西の名探偵と言う形容詞を服部につけるのはおかしい。
 高校生探偵服部平次とだけでも良いんじゃないのか? 
「おれの名前か?」
「そや、工藤の名前は消した。マスコミに名前出されへんやろ。予告状を受け取ったところが美術館やったから、直に大阪府警にきたんや。これがデパートとかだったらえらいことになってたはずや」
 と服部は苦々しく言う。
「でも、何であいつはオレの名前を出したんだ?オレがこんなになってることを知ってるはずだぜ……まさか……」
「あいつらの罠言いたいんか?」
「でも…お前の名前をだしたのがおかしい…。あのクスリはお前の父親である大阪府警本部長の部屋に合ったんだからな……」
「あぁ。ふに落ちんとこはそこやけど……。せやけど、予告状出されてんのは確かや。無視して、盗み出される訳にもいかんやろ。来てみるだけ来てみぃひんか?」
 と服部は言う。
 罠だとしても……か……。
 そうだな、罠だとしても、回避できる力がオレにはある。
「分かった…。大阪行くよ」
「ホンマか?」
「あぁ」
「おーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!工藤に逢える。工藤!!!遊ぶでぇ」
 だぁ、うっせー。
「ドアホ!!!!工藤君は事件やからくるって言うてるんやろ!!あんたに逢いたくてくるんやないやろ。もーいきなり大声ださんといてよ」
「何や、和葉。工藤がくるんやで、嬉しないんか?」
「あんなぁ、嬉しいとか嬉しないとかって言う問題ちゃうやろ。何でいきなりそないなるん?蘭ちゃんもくるんやったら、嬉しいけど」
「来るに決まっとるやろ、あのねーちゃんは工藤の保護者やからな」
 服部と…和葉ちゃんの会話はまだまだ続く。
 それにしたって保護者はねぇだろ、保護者は!!!
 ともかく、オレと蘭は予告日がある日に大阪に行くことになったのだ。

「蘭、これ持ってろよ」
「何?これ」
 大阪に行く日、オレは蘭に探偵バッジを持たせる。
「何かあったときのためにだよ。これがあれば相互通信は可能だし、蘭がどこにいてもこれで捜しだせる」
 そう言ってオレはメガネを外す。
「だから、安心しろよ」
「うん、分かった」
 不安そうな蘭の顔が突然、晴れる。
「心配、するなよ。絶対、大丈夫だから」
「うん」
 蘭の微笑みに誘われて…ふとオレは蘭の頬に手をかける。
「何?新一…」
 そんなオレの行為に戸惑ったのか蘭は不思議そうに首をかしげる。
「どうしたの?新一」
 再度オレは蘭に呼ばれる。
「蘭」
「何?」
 ふんわり微笑む蘭。
 その優しい笑顔にオレは吸い寄せられるように………。
「おーい、蘭いるのかぁ?まだ出かけてねぇのかぁ!!!!!」
 おっちゃん!!
 その声に反応しオレは蘭から離れる。
 くっそーーーーーーー。
 前回の服部に続きまたしても!!!!!
 ともかくオレと蘭はおっちゃんに出かけると声を掛けて大阪へ向かったのだった。
「ねぇ、コナン君(新一)」
「何?蘭ねーちゃん」
「さっき、なにしようとしてたの?」
「わ…分かんなかったの?」
「うん」
 ………悲しい…。

〜大阪の前にとある二人組みの会話〜
「なぁ、ほんっとに一緒に行くのか?」
 少し癖毛がちのそしてどこかの誰かに似ている少年は隣にいる彼女らしき少女に向かって言う。
「当たり前でしょ。放っておけないよ。心配なの」
 とそのどこかの誰かに似ている少年と同じようにどこかの誰かに似ている少女は彼氏らしき少年に向かって言った。
「あのなぁ、オレより、オメェの方が心配だよ。オレ、オメェの側にいてやれねぇんだぞ。何かあってからじゃ遅いんだぞ。分かってんのか?」
「もちろん。分かってるよ…。だからだよ。だから……側にいたいの…」
「分かってねぇよ。オレはなぁ、オメェを危ない目に合わせたくねぇっつってんの」
「……別に良い、危ない目にあったって一緒だったら良い」
「あのなぁ……」
 一歩もひかない彼女に彼氏は閉口する。
 側にいたい。
 その気持ちはわかる。
 側にいて欲しい。
 その気持ちもわかる。
 彼女が彼氏に対してそう抱いていると同時に彼氏もまた彼女に抱いているのだから。
「お願い、側にいさせて。不安なの」
 彼女は泣きだしそうになりながら言う。
「……わーったよっ。ホントに何があってもしらねぇからな!!」
「じゃあ、良いの?」
「あぁ、そこまで言うんだからなしかたねぇだろ」
 とうとう彼氏は彼女に折れた。
 ただ、何もないことを祈るばかり。
 今回は…ハズレであって欲しいと祈るばかり。
 いつもとは逆の思いを抱いて、彼氏と彼女は大阪に向かうのだった。

 大阪市内の繁華街。
 新大阪の駅で合流したわたし達は大阪市内に向かった。
「ここの美術館にある宝石がキッドがねろうとるやつ何やけど……。どこにいったんあの二人はぁ!!!
「ホント、どこに行っちゃったんだろ」
「行き違いになったらアカンから、美術館にに向かったほうがえぇな」
「そうだね」
 そう、大阪市内にある美術館の近くにわたしと和葉ちゃんはいる。
 新一(コナン)と服部君の二人はいない。
 はぐれたのよ。
 サイアク。
 どこに行っちゃったんだろ。
「せやけど、何で平次達の名前だしたんやろな」
「そうだね。コナン君(新一)に聞いてみたんだけど、さぁって首かしげるばっかりで教えてくれないのよ。絶対知ってるはずなのにぃ」
 知ってるはずよ。
 知ってるというよりも分かってるはずなのよ。
 それなのに…教えてくれない。
「ずるいな」
「……うん」
「秘密にされると余計に心配になる言うの分からんのかな」
「…そうだね」
 時々不安になる。
 問い詰めて白状させたけど……。
 全部聞いたつもりでいるけれど…、やっぱり何も言ってくれないと不安になる。
「青子!!こんなところにいた捜したんだぜ」
 突然後ろに腕を引かれる。
「な、なんなんあんた。蘭ちゃんに何する気……って……工藤君?」
 和葉ちゃんがその人に言う。
 ふりむくと……新一……が……違う似てる人がいた。
「和葉ちゃん、新一じゃないよ。この人。あの、腕離してもらえませんか?」
「あ、ごめんごめん」
 そう言って彼は腕を離してくれる。
「ごめんね、突然、腕つかんじゃってさ。オレの知りあいにそっくりだったから。ついね…。ところで、工藤…新一?ってそんなにオレに似てるの?」
 と突然、わたしに聞いてくる。
「蘭ちゃん、はよいこ。ナンパやナンパ。蘭ちゃん可愛いからナンパされ率高いってコナン君言うてたで。心配掛けるとアカンから美術館中に入ろう」
「う…うん」
「ちょっと待ってよ。ナンパじゃねーよ。ホントにオレの幼なじみと似てるから間違えたんだよ」
「幼なじみ?」
 思わず、幼なじみという言葉にわたしと和葉ちゃんは反応してしまう。
 そして、浮かんだのは二人の名探偵のこと。
「アンタの捜してる子、青子ちゃん?その子と幼なじみなん?」
「そうだよ」
「なんか奇遇やね。アタシらにも幼なじみおんねんよ。彼女蘭ちゃんには工藤新一言う幼なじみがおって、アタシにはアホな服部平次言うのがおんねん」
 和葉ちゃんの言葉に彼はクスリと笑う。
「そっかぁ、君たちにも幼なじみって言うのがいるんだね。で、どんなやつ?」
「知らん?高校生探偵って呼ばれてるんやけど……」
「あぁ、服部平次と、工藤新一…ね」
 と彼は言う。
「あんた、誰?」
 彼の言葉に、和葉ちゃんは警戒する。
「誰って…んーただの高校生の黒羽快斗、だよ」
「ただの高校生には思えへんけど?」
「困ったなぁ……じゃあ、特技を披露したら許してくれる」
 そう言って黒羽君は軽く微笑む。
 特技?
「そ、特技。美しいお嬢さんがたに、これを」
 彼は何もないところからたくさんの花を散らした。
「凄い。あんた、花屋さん?」
「……あのねぇ。一応マジシャン。だよ」
「マジシャン?ホンマ凄いなぁ?」
 和葉ちゃんは驚く。
 わたしは彼を知っている。
 でも、和葉ちゃんがいる手前知らない振りをしてる。
 …でも新一がいたらばれちゃうんだろうななんて少し思ってもみたり。
「快斗!!!」
 突然、声がする。
 彼が向いたほうを見ると、女の子とコナン君(新一)達がいた。

 蘭と、はぐれた。
 正確には蘭と和葉ちゃんとはぐれた。
 蘭一人だったら……どんなに恐ろしいことか…。
 いや、そう言う問題じゃない。
 ともかくはぐれた。
「どこ行きおったんや、あいつら?」
 原因がのんびりと言う。
 オレはこんな体だから…なるべく蘭と離れないようにいた。
 けど、この原因が、あぁだ、こうだ、連れ回すうちに…はぐれてしまったのだ。
「あのなぁ、オメェのせいではぐれたんだぞ、分かってんのかよ」
「そんなん怒らんといてや」
「あのなぁ、蘭がナンパされたらどうしてくれんだよ!!!!!」
 大概、オレがくっついてるから蘭がナンパされることは少ない。
 あとは園子が一緒だけど、園子のハイテンションのおかげでこれまた少ない。
 それにもめげずナンパしてくるやつは多いけど。
「平気や、和葉が一緒やし。平気やって」
 蘭と和葉ちゃんが二人そろってナンパされてたら…服部はどうするつもりなんだろう。
 和葉ちゃん、案外可愛いから。
 服部は気づいてねぇみたいだけど。
 まぁ、服部なんかを好きになるんだから……ちょっと変わってると思うけど……。
「せやけど…ホンマにどこに行きおったんやろな」
 捜しても見つからない二人に服部が少し不安になり始めた。
「オイ、工藤、蘭ねーちゃんナンパされとるで」
 服部が指さすほうを見ると蘭が男にナンパされていた!!
 頭に来て蘭の方へ向かい、蘭の手をつかむ。
「え、」
「蘭ねーちゃんっ……ん?」
 蘭……じゃない。
 けど…蘭に似てる……。
 似てるってもんじゃない!!
 オレだから見分けがついたんであってオレじゃないやつが見たら絶対に見分けがつかないだろう。
「な、なんやねん。ガキが何してんねん」
 ナンパをしていたやつがオレに突っかかってくる。
「このねぇちゃんはオレが先に見つけたんやで」
 フゥ、先に見つけたとかって言う問題じゃねぇだろ。
 ともかくこの蘭にうり二つの彼女を放っておくわけにも行かない。
「お姉ちゃんごめんね。ボクが側にいなかったから、変なお兄ちゃんに声を掛けられて」
 とオレは彼女にそう声を掛ける。
 最初はびっくりしてオレの方を見ていたが意図がわかったのかオレの言葉に乗ってくれる。
「大丈夫だよ、ありがとう。じゃあ、おねーちゃんと一緒にケーキ食べに行こうか?」
「ウン」
 微笑み方まで…蘭に似てる。
「ちょ、ちょっとまてや!!」
「おっと、これはこっちのセリフやで。オレの連れに手を出さんといてくれんか?」
 服部が追いかけてくる男に向かってそう言ってにらむ。
 ついでにオレも。
 探偵二人のにらみに臆したのかその男は消えていった。
「蘭ねーちゃん、和葉はどこにいったんや?」
 まだ、蘭だと思ってる服部は彼女にむかってそう言う。
「平次兄ちゃん、お姉ちゃんは蘭ねーちゃんじゃないよ」
「はぁ?」
 オレの言葉に服部は首をかしげる。
「どういうことや、工藤」
 せっかくガキのまねしてんのに、工藤言うんじゃねぇよ!!!
 その意味も含めてオレは服部の足を思いいきり踏みながら
「蘭ねーちゃんに似てるけど、蘭ねーちゃんじゃないよ。蘭ねーちゃんときている服違うでしょ?」
 とりあえず、服部にわからせるためにオレは子供の振りをして言う。
「なんやホンマに蘭ねーちゃんとちゃうんか」
「うん」
 オレと服部が会話している中に彼女が声を掛ける。
「ありがとうございました。中森青子と言います。君達、快斗知らない?」
「快斗?」
「ウン、青子の幼なじみ」
 そう行って彼女は本当にうれしそうに笑う。
 その笑顔はホントに蘭にそっくりで……。
「青子とそこの美術館くるって約束してて……はぐれちゃったの」
「そうなん?オレたちも連れがおったんやけど…はぐれてもうてな」
「どこに行っちゃったんだろうね、蘭ねーちゃんと和葉ねーちゃん。ねぇ、もし嫌じゃなかったら…僕たちと一緒に捜さない?」
 ふと口からついてでる。
 蘭に似ている彼女を放っておくわけには行かない…。
 何となくそう思ってしまって…。
「んー良いよ。君、快斗の小さいころに似てるから」
 彼女はしゃがんでおれの顔を見る。
「姉ちゃんの幼なじみに似てる言うんじゃ工藤にも似てるんと違うか?」
 そう行って服部は一枚の写真を彼女に見せる。
「あ、快斗。何で快斗の写真持ってるの?」
 ………????
「オイ、何でオメェオレの写真持ってんだよ!!!!!!」
 しかも文化祭の時の写真。
「蘭ねーちゃんに焼き回ししてもろうたんや」
 焼き回しさせるなよ!!!!
「こいつな、工藤新一いうんや。東の名探偵。オレのライバルやで。まぁ、腕はオレの方が上やな。あぁ、そうや、オレは服部平次言うて西の名探偵で、このガキは江戸川コナンちゅうオレの弟子や」
 勝手なこと言うなよ!!!
 オレが何も言えないから服部は言いたい放題。
「へぇ、探偵さんなんだぁ。凄いね。快斗はね、マジシャンなんだよ」
 彼女はうれしそうに、幼なじみのことを自慢する。
「君、ホント快斗に似てるね」
 そう言って彼女はオレのことを抱き上げた……。
 な、な、何すんだよぉ!!
「かわいーーーーーーーーー!!ホント快斗の小さいころそっくりぃ。ねぇねぇ、この子抱っこしてて良い?」
「かまへんでー」
 彼女の言葉に服部は嬉しそうに言う。
 何でそこで嬉しそうに言うんだよ!!!
 こんなところ蘭に見られたりでもしてみろよ!!!!!
 オレ絶対…殺されるかも。
「ね…ねぇ、お姉ちゃん……離してくれないかな……」
 はっきり言ってカナリ辛い。
 蘭と同じ顔がすぐ近くにあるって言うのは…カナリ辛いです。
「だーめ」
 そう言って彼女はオレのことを離してくれない。
「えぇやんか。蘭ねーちゃんに似とるこのねーちゃんに抱っこされとるんやから」
 服部は嬉しそうに言う。
 良くない。
 蘭だから嬉しいんであって、他の人に抱っこされても嬉しくない!!!!
 そこらへん分かれよ!!!
「君のお姉さん青子に似てるの?」
 不思議そうに聞いてくる彼女にオレはうなずく。
 って言うか、知らない人が見たら絶対間違えるほどの似方。
「似てるってもんじゃないよ。うり二つ。知らない人が見たら絶対間違えちゃうよ。ボクも…ちょっと間違っちゃったけど…」
 ただ…あれはナンパ付だったから冷静な判断が出来なかっただけで…。
 はぁ、情けねぇ。
「ふーん。じゃあ、快斗も間違えるのかな?」
 寂しそうに目を伏せる彼女はやはり蘭に似ていて…。
 でも、彼女の方がちょっと子供っぽいかな?
「快斗!!!!」
 彼女が向いたほうに顔を向けると和葉ちゃんがいた。
 その後ろに…楽しそうに笑っている蘭と男一人。

「快斗、捜したよ」
 そう言って蘭ねーちゃんに似とるねーちゃんは工藤に似てるにーちゃんの方に向かう。
 もちろん、腕には工藤を抱えてや。
「ど、どーしたんだよ、青子そのガキ!!」
「あ、この子ね、青子がナンパにあってるところを助けてくれたんだよ」
「ナンパだぁ??ったくぅ、心配かけんなよ」
「何言ってるのよ、快斗がいなくなったせいで青子がナンパされたんでしょう!!!」
 そう言ってる二人の間で、工藤と蘭ねーちゃんは戸惑ってる。
「あ、あのさぁボク。降りたいんだけど良いかな」
「ごめんね。コナン君」
 そう言って解放された工藤は恐る恐る蘭ねーちゃんの方に向かう。
「平次、何にやにやしとんの?」
「あ?よー見とき。おもろいもん見れんで」
「おもろいもん?」
 和葉はオレの言葉に首をかしげた。
 ともかくあの4人の間にはある種の異様な雰囲気がただよっていた。
「で、あなたが蘭ちゃん?コナン君のお姉さんの」
「……?そうだけど……あ、あなたが青子ちゃん?黒羽君の幼なじみなんだよね」
「うん」
「わたしにも幼なじみいるの。黒羽君にそっくりなんだよ」
「あ、もしかして工藤新一って言う人?」
「うん…何で知ってるの?」
「服部君…だっけ?彼がね、写真持ってたの」
 ……ねーちゃん何言うねん。
 ヤバイ、和葉にバレた。
 工藤の写真持っとること……。
「平次……あんた?何で工藤君の写真なんか持ちあるいてんねん!!!アホちゃうか?あぁ気色悪。なんで男が男の写真持ちあるいてんねん!!」
「ごめんねぇ、和葉ちゃん。わたしが服部君にあげたの。どうしてもってせがまれて……。文化祭の時の写真……」
「平次!!!!蘭ちゃんに頼まんといて。もーハズかしぃてたまらんわ」
「えぇやんか、欲しかったんやから!!!」
 4人を放っておいて、つい和葉と言い合いを始めてもうた。
「あ、あのさぁ、こんなところにいないで早く中に入ろうよぉ、平次にぃちゃん、中森警部さんと待ち合わせでしょ?vs怪盗キッドの対策立てるんだよね」
 工藤がガキのふりしながらオレと和葉を見る。
「そや、忘れてた。はよ行くで!!」
 そう言ってオレは美術館に入っていく。
「誰のせいでこんなんなった思うてんのよ」
 と言う和葉の文句を後ろに聞きながら……。

「コナン君、どうしたの?」
 服部君達が行ったあとに立ち止まったオレに蘭が声を掛ける。
「どうしたの?」
 蘭をオレはじっと見る。
「蘭ねーちゃん……」
「何?」
「あのね……抱っこして欲しいんだけど」
 そう言うと即座に蘭は顔を真っ赤にする。
「何言ってるのよ!!新一。もー信じらんない。そんなこと言うとは思わなかった」
 そう言ってジロッとオレを見る。
「冗談…だよ。……冗談…」
「何で、そんな冗談言うのよ!!」
「前の教訓を生かしただけ」
 オレの言葉に蘭は首をかしげる。
「怪盗キッドが…いたんだよ。俺達の側に」
「キッドが?」
 蘭は
「あぁ、忘れたか、オメェ。怪盗キッドに入れ替われてたの…」
「…そう言えば…そうだね」
「ったく…忘れんじゃねーよ。こっちはあのこと思い出すたびに腹がたって仕方ねぇって言うのによぉ」
「ごめん」
 そう言って蘭はふんわりオレに微笑む。
 蘭の微笑みだ。
 どんなに精巧に変装しても……蘭のこのふんわりとした微笑みはあいつには出せねえよな。
「でも、なんでキッドが居るって分かったの」
「オレが…怪盗キッドの名前出しただろ。あの時、一瞬だけあいつの気配を察知したんだ。オレはあいつと3回以上もあってんだぜ。気配ぐらい察知できるさ」
「わたしと、間違えたのに?」
 蘭はそう言ってオレに意地悪そうに微笑む。
「あ、あの時は!!いろいろあって本体がどうやって仕掛けてくるかっていうほうに気を取られてて……まさか蘭に変装するとはおもわねぇだろ!!」
 あの時のことを出されるとは思わなかった。
「……新一、大丈夫よ。わたしはキッドじゃない。キッドはわたしに変装しない。変装したら…新一が怖いからしないって言ったもの…」
 と静かに蘭は言う。
 え……蘭。
 オメェ……。
「蘭………キッドの」
「何してんねん、早よこんかい」
 服部がオレと蘭を呼ぶ。
「いこ、コナン君」
 蘭はいつもと変わらない様子でオレの手を引いて行く。
 蘭…オメェ知ってるのか?
 キッドの正体を……。

 キッドが狙う、宝石は世界最大の琥珀、イエロートゥルー。
 そのイエロートゥルーの展示してある展示室にオレ達は向かった。
 黒羽快斗と中森青子の二人も一緒だ。
 そこには既に警官が警備にあたっていた。
「ものものしぃ警備だね」
「そうだね」
 その警備の人数に驚いている蘭と和葉ちゃん。
 そして…何かに怯えている中森さん。
「……どうしたの?」
「ちょっとね…」
 蘭の言葉に彼女は言葉少なに返事した。
「オォ、平ちゃんやないか!!久しぶりやのぉ」
「ん?平塚はん、久しぶりやなぁ!この前の強盗事件以来やないか」
 そう行って服部は近付いてきた刑事らしき人物に挨拶する。
「ん?和葉ちゃんも、ますます綺麗になってきおったなぁ」
「もー。平塚はん、お世辞言わんといて、言うてもなんもでてきぃへんよ」
「相変わらず、笑かししよるなぁ、こいつは綺麗にもなってへんで」
「そないなことあらへんって。平ちゃんが気付かへんだけやで。ところで、そっちのは誰や?」
 そう行って彼は後ろにいるオレ達に目を向ける。
「あぁ、オレの知り合いや。心配せんと平気やで。ところで、あのおっちゃんは来とんのか?怪盗キッド専任っちゅう…」
「中森警部やろ?きてんで。今呼んでくるさかいお宝でも見てまっとってや」
 そう言って平塚刑事は中森警部を呼びにでていく。
「あの刑事はオレの兄貴分見たいなもんや。剣道が府警本部内では一位なんやで。うちのオヤジも一回だけ負けてんねん。油断しとるからやでぇ」
 それは服部お前だろ…と言う言葉を飲み込みつつ、俺達は服部の言葉を聞きながらイエロートゥルーを見ていた。
「きれいな宝石だね」
「琥珀だよ、蘭ねーちゃん」
「琥珀?」
 蘭に抱えられているオレは蘭に説明する。
「ウン、木の樹脂の化石だよ。木が倒れて化石になったんだ。たまぁにこの中に虫とか、葉っぱとか入っていたりするんだよ。ほら、映画のジュラシックパークにも出てきたでしょ。トカゲが入っていた化石から当時のトカゲを復活させたシーン。あれが琥珀だよ」
「ってことはトカゲとかも入ってたりするの?」
「ウン。木が倒れたときにそこにトカゲがいればね」
 でも、これは珍しいな。
 中に入ってるのは……宝石?
「これは中に何入ってるの?何か入ってるよねぇ」
「ウン……。宝石……なんだろう。翡翠かな?」
 とれた場所にもよるな…日本だったら…翡翠の可能性が高い。
「よく分かったなボウズ。これは翡翠だぜ」
 と黒羽がオレに言う。
「黒羽君、詳しいんだね」
「変なこと知ってるんだよね、快斗って」
「宝石に詳しいなんて、まるで怪盗キッドみたい…だね」
 ふとついてでた言葉。
 何となく感じたキッドの気配。
 まさかと言う感覚よりも、もしかするとと言う感覚でオレは奴を引きずり出すことにしたのだ…。
「平次、怪盗キッドって宝石に詳しいん?」
「そりゃそやろ、あいつがねろうとるもんは全て宝石や。詳しなかったら手当たり次第にとってくやろ。せやけど、あいつが狙うもんは全部、極上かつ珍しいもんばっかや。何かあるそう思うてんのやけどな」
 そう、怪盗キッドが狙っている宝石は珍しく、世界最大で美しいと称される物ばかりだ。
 しかも、このところその傾向が顕著に現れている。
「そうなんや……」
 服部が割り込んできたせいで、キッドを引きずり出すことは出来なかった。
 ったく余計なことしてくれるよ…。
「君が、服部平次君かね?」
 平塚刑事に連れられてきた中森警部は服部に声を掛ける。
「今回はよろしく頼むよ。キッドのやつ、何故君に挑戦状なんて送ったんだろうか」
 中森警部はそう言いながら考え込む。
 中森警部は工藤新一の名前を出さない。
 不思議に思っていると服部が小さく行った。
「工藤の名前は消してある」
 と。
 美術館の館長が服部本部長と知りあいと言うことが幸いしたのか予告状は大阪府警本部長に直接手渡された。
 そして、本部長はオレの名を消し、予告状をマスコミに公表したのである。
「あ、青子、快斗君、どうして大阪に」
 突然、中森警部は驚く。
 どうやら、中森さんと知りあい……って言うか親子???
「お父さん、青子言ったでしょ。快斗と大阪旅行するって」
「確かに、聞いていたがこの美術館に来るとは聞いてないぞ!!」
「何で、青子と快斗の旅行プランをお父さんに言わなくちゃならないのよ」
「いや…、まぁ、そうだが」
「ともかく、青子と快斗の邪魔しないでよね」
 と、展示室で中森家の親子げんかが勃発してしまった。
「そうだ、お父さん。……無理しないでよね。このところ寝てないでしょ。ずーっとキッド追ってきて」
「大丈夫だ!!ワシは、キッドをこの手で逮捕するまでたおれん!!!!」
 そう行って警部は服部と打ち合わせの時間を約束し…休憩をしに行ってしまった。
「相変わらず、元気なおじさんだな」
「キッドのことになると目の色変えちゃうんだよね、お父さん」
「ともかく、約束の時間になるまで見学しとるか」
 服部の言葉に俺達はうなずいたのだった。

1.シンワ的?
「みんなどこにいったん?」
 気がついたら、アタシはコナン君(工藤)と二人きりになっていた。
「さぁ。ただ、蘭が一人だったら心配だな」
「何で?」
「蘭、方向音痴なんだ」
 とコナン君(工藤)は顔を青くしながら言う。
 蘭ちゃんが方向音痴とは思わなかった。
「そんなん心配することないんと違う?豪快に迷うほど、方向音痴やないと思うけど」
「……結構ひどいんだよ。蘭…。なれてるところなら平気なんだけど、一人で行かない所とか始めてきたところでは絶対に迷うんだ。近所のデパートでも迷ってるぐらいだからな」
 そう言って我が事のように工藤君は心配する。
「工藤君ってめっちゃ心配性なんやね」
「え?」
 アタシが言った言葉が意外だったのか工藤君は目を丸くする。
「蘭ちゃんがうらやましいわ。こんなに好きな人に思われとって……。アタシなんか……全然や」
 ホンマうらやましいなぁ。
 こんなに心配されとるのがうらやましい。
 平次は全然アタシのこと心配してくれへんし…。
「……そう思ってるの……和葉ちゃんだけだと思うけど」
「ホンマに?」
「……結構、見かけによらず服部は和葉ちゃんのこと心配してるよ。まぁ、あぁ言う性格だからさ、なかなか…表に出せないんじゃないのかな?」
 そう言って工藤君はニッコリ笑う。
 そうなんかな。
 平次がアタシのこと心配しとる言うのはあんまり感じたことない。
 事件があったときしか心配してへんと違う?
 それとも、事件がない時も心配していて欲しい思うのは…アタシの我が侭なんかな…。
「……いつでも心配して欲しい…って思うのは…我が侭なんかな…」
 工藤君にふと聞いてみる。
 工藤くんやったら平次の気持ち…分かるって思うから。
「……我が侭でもいいんじゃないの…。それってさぁ、いつでも思っててほしいってことだろ、好きだったら…そう思いたくなるよな」
 そう言って工藤君は目を伏せる。
「ずるい…かもしれないけどさ。手が届くのに…届かないのって…辛いよな」
 工藤君は蘭ちゃんにずっと自分の正体を隠していた。
 手が届く距離にいながら…全く届かない距離にいた。
 幼なじみよりも…辛い立場やったと思う。
「捕まえないと…どこかに行っちゃうよ。服部は」
「そやね。せやけど、それ工藤君にも言えることと違う?」
「……その通りです。ともかく、ココに居ても仕方ない、イエロートゥルーがあるところに一度戻ったほうが良いかもな」
「そやね。ホンマどこにいったんやろ。平次と蘭ちゃん」
 そうアタシは呟き工藤君と一緒にイエロートゥルーのある場所に向かったのだ。

2.へいせいナ時間
「せやけど、よくオトンに見つかっても怒られへんなぁ」
 オレは目の前にいるねーちゃんに向かって言う。
「そうなの?青子って快斗とよく一緒に居たから…。兄妹みたいなものなのかな?違うかな?青子のお父さん、刑事でしょ。で、快斗のお父さんってマジシャンで…。。知らない?黒羽盗一って言うマジシャン。凄くマジックが上手いんだよ。青子始めてみたときおとぎの世界が飛び出したと思ったんだもん」
 と表情豊かな目と共にねーちゃんの口が動く。
 無邪気いうんやろな。
 和葉もこんな感じやな。
 無邪気言うよりも邪気の塊と違うか?
 怒ると手と口が同時にでよるし。
 ……黒羽盗一?
「確か……日本を代表するマジシャンやったなぁ。8年前に死んだ言うのを聞いたけど…。黒羽のオヤジか」
「ウン。ショーの最中に…亡くなっちゃったの」
 そういや聞いたことあるで…。
 たしか細かな捜査はされんで……事故として片づけられたはずや。
 たまたま現場に居合わせたオトンが言うには殺されたんや…言う話しやったが…。
「軽そうに見えて…結構辛い目におうてんのやな。黒羽も」
「うん…。青子がね、落ち込んでると、マジック見せて元気づけてくれるんだよ。快斗のマジックは凄いの。盗一おじさんも凄かったんだけどね、快斗も凄いんだよ。おとぎの国が快斗の中で作られてるの」
 ホンマにごっつ嬉しそうにねーちゃんは言う。
「ねぇ……お願いがあるんだけどいい?」
「なんや?無理難題はあかんで」
 オレの言葉にねーちゃんは神妙にうなずき、言う。
「怪盗キッドを捕まえるんだよね。青子、キッドに逢いたいの。どうしても聞きたいことがあって…。だめ?」
 そう言う彼女がなぜキッドに逢いたいのかが知りたなった。
 なにかあるんやろか……。
「何を聞くんや?」
「どうして、泥棒するのか?ってこと」
 ねーちゃんの思い掛けない言葉にオレは戸惑う。
「……知ってるよね。キッドが盗んだ宝石を全て返してること」
「知っとるけど……」
「その理由を知りたい。キッドはどうして、盗んだものを返してるのか……。キッドは…何かを捜してるみたいなの。何故…それを捜してるのか…見つけてどうしたいのか…それを聞いてみたい」
 ねーちゃんは見かけによらず、凛としたひとみでまっすぐ前を見る。
「ねーちゃんはキッドに逢うたことあんのか?」
「うん……。あれは逢ったっていうのかな……。よくわかんないや。服部君はキッドに逢ったことあるの?」
「オレか?オレは逢ったって言うんかよう分からんけど……。追いかけたことはあるで」
 工藤と一緒にこの大阪で。
 あん時は散々な目におうたけどな。
 バイクは壊れるわ、ねんざはするわで…。
「……行ってもいいよね」
「まぁ、黒羽がえぇって言うんならえぇんやないか?」
「…そっか…快斗に聞かないとダメなんだ……」
 そう言ってねぇちゃんは壁に掛かっている絵を見つめる。
 そして、
「みんな…どこにいるんだろね」
 と思いだしたように言った。

3.かいらん版
「蘭ちゃん」
 美術館でさ迷っていたら、黒羽君に声を掛けられた。
「どうしたの黒羽君」
「蘭ちゃんこそ、なんかカナリきょろきょろしてていったり来たりしてるから…。もしかして迷った」
 ズバリ…言われてしまう。
「もしかして……ホント?」
「うん…」
 新一にはよくバカにされるのよね。
「何で地図持ってるのに迷うんだ?」
 とか…。
「知ってる場所なのに迷うなよ」
 とか…。
 わたしだって、好きで迷ってるわけじゃないわよ!!
 悔しい。
「どこに行こうと思ってたの?」
「…捜してたの…」
「誰を?」
「……キッド……でしょ?」
 わたしの言葉に黒羽君は表情を変えない。
「安心して、言わないわ。服部君には」
 まだ表情を変えない。
「青子ちゃんにも…言わないわ」
「……青子は知ってるよ」
 その言葉に驚いたわたしに黒羽君は言葉を紡ぐ。
「参りました、美しいお嬢さん。やはり私はあなたには勝てないらしい。私の宝物と同じ笑顔を持つあなたには」
 そう言って黒羽君…怪盗キッド…は穏やかに微笑む。
「……やっぱ、恥ずかしいな。素でやるのって。普通で良い?」
「うん」
 わたしがうなずくと黒羽君は近くにあったソファに座りわたしにも座るように促す。
「……どこで気がついた?オレがキッドだって」
「気配…かな。わたし何度もあなたに逢ってるのよ。分からないはずないじゃない。こんなにも…新一に似てて……。わたしに変装してあいつのこと騙して」
「あいつって言うのは小さな名探偵君…いや名探偵のこと?」
 黒羽君の言葉にわたしは小さくうなずく。
 知ってる…。
 そう思った。
 黒羽君はコナン君=新一と言うことを知ってる。
 何度も逢ってる。
 何度も追いかけてる。
「その様子だと…知ってるのかな?」
「ウン」
「君が知ってるって言うこと…あいつは知ってる?」
「知ってる…問い詰めて白状させた…。ずるいかな」
「それでも…あいつ君のこと泣かさずにすむってそう思ってるよ」
 黒羽君は目を伏せながらそういう。
「…そうかな?黒羽君」
「待った、快斗、だよ。蘭ちゃん」
「快斗君、青子ちゃんは知ってるの?快斗君が怪盗キッドだってこと」
「まぁ…ね…。でも全部は言ってない。言ったら…青子は苦しむから」
 新一と…同じことを言う。
 新一も言った。
「全部知ったら…苦しむだけだ」
 って…。
 そんなことないのよ。
 わたしが苦しむよりも…新一が苦しんでるのを見ていたくない。
 わたしが知ったことで、わたしにそのつらさをぶつけてくれても構わない。
 だからわたしは問い詰めた。
 追いつめて、告白させて。
 それだけでも良いと思っていたけれど…辛そうな新一を見てわたしはたまらなくなって全てを告白させるために問い詰めたのだ。
「大丈夫だよ、青子ちゃんは苦しまない。知らないで心配することより知っている分安心出来る。……不安だけど、分かってあげる、分かってあげたいから…全部知りたいんだよ」
 問い詰めたことで…余計に苦しんでしまうかも知れない。
 そう思ったこともあった。
 でも、問い詰めた後とその前とじゃ全然、雰囲気違うのよね。
「難しいよね…」
「…そうだね。でも、あいつを問い詰めて良かったって思ってる?」
「……分からない。良いと思ったときもあるし…どうして問い詰めたんだろうって思うときもあるよ。でも…本当に辛いのはわたしじゃないから…。わたしは…その辛さを癒してあげることしか出来ないのよね…結局」
 そう、わたしが落ち込んでいる場合じゃない。
 わたしの事で煩らわせたくない。
「……ずいぶん、あいつは癒されてると思うぜ。君の笑顔に」
「ホントに?」
「あぁ。あいつ…君のその笑顔守るためだったら何だってするぜ」
 そう快斗君は言う。
 そうなのかな?
 そうだと良いな。
「ねぇ、聞きたいことがあるんだけど?」
 どうしても聞きたいことがあった。
「ナに?」
「どうして、予告状に新一の名前出したの?」
「知ってたの?」
「服部君から聞いた」
 わたしの言葉にそうか…と呟き言葉を紡ぐ。
「……協力…して欲しいことがあるから」
「協力?」
 わたしの言葉に快斗君はうなずく。
「詳しいことは…いえないよ。ごめんね」
 快斗君が済まなそうにわたしに言う。
「蘭ねーちゃん」
 ふと目をやると和葉ちゃんと新一(コナン)が…いた。

 そのフロアに入ってきたとき目を疑った…。
 てっきり、服部と蘭がいると思っていたのに、その場にいたのは、蘭と黒羽快斗だったからだ。
「コナン君、どこに行ってたの?捜したのよ」
「ごめん、蘭ねーちゃん。でも、はぐれたのは蘭ねーちゃんだよ」
 そう言ってオレは蘭の側に行く。
「ホント、蘭ねーちゃんはどこでも迷うよね」
「もーそういうこと言わないの」
「だって……」
 ホントのことじゃねーかと思わず口にでそうになる。
 そんなオレと蘭のやり合いを黒羽快斗はにやにやしながら見ていた。
 なんか、ムカツク!!!!
 一瞬目が合った瞬間、言いようも知れない威圧感をオレは感じた。
 オイオイ、この威圧感はキッドのじゃねぇか。
 この男…なのか?
 キッドは…。
 怪盗キッドの年はオレと同じぐらいのはずだ。
 こいつも…同い年だったよな。
 蘭達がそのことで盛り上がってたから……。
「…どないしたんや、工藤」
 蘭達から一歩下がったオレに服部が小声で話しかける。
「……奴がいる」
「誰や」
 服部は演技してないオレに対応する。
「怪盗キッド…」
「……ホンマか…」
 服部の言葉にオレは静かにうなずく。
「どいつや…」
「はっきりとは言えねぇ。奴は変装の名人だ。お前に変装している可能性が高いからな」
「アホ、オレはキッドやないで」
「分からないだろ。お前がキッドである可能性があるじゃねぇか」
 服部に真実を告げないままオレは言葉を進める。
 もちろん、奴は服部でない。
 検討はついている。
 ただ、奴が側にいる間は……服部に話すわけには行かない。
 奴の耳は恐ろしいほど良いはずだ。
 奴の声色を聞けば分かる。
 完璧に変えられる。
 耳が良いって言う問題だけじゃねぇんだが…。
 何度も騙されてんだ。
 もう騙されるわけにはいかねぇ。
「工藤……教えてくれへんのか?」
「わりぃな」
 服部の言葉をかわしオレはあたりに気をくべる。
 奴の…怪盗キッドの気配を感じとるために。
(そんなに…いきがんじゃねーよ)
 奴の気配…。
 どこだ…?
(オレは逃げも隠れもしねーぜ、名探偵君)
 他にも…嫌な気配を感じる。
 やつらに似た……気配だ。
(せっかく…招待状出したのに、敵意むき出しにすんじゃねーよ。もう少しどっと構えてろよ。名探偵なんだからよ)
 …やつらもいるのか?
 ……気のせいか?
 …気のせいであって欲しい。
 ここには…蘭がいる。
 ふと蘭に目を向けると蘭がオレの視線に気がついたのかオレの方をみてニッコリと微笑む。
「どうしたの?コナン君」
「何でもないよ。蘭ねーちゃん」
 蘭の言葉にオレは心配掛けないように微笑みかける。
(そうそう、そういうふうに余裕もって構えてろよ。オレは今回、お前達と対決するために予告状を出したわけじゃねーんだから)
 蘭と会話をしながらもオレは…キッドの気配を捜した。
 が、いずれも決定にはかけたのでオレは仕掛けるのを止めたのだった。

「……言うの?…」
「さぁな?言ったほうが良いと思う?」
「……分からない。でも…気、合うと思うよ」
「そうかな?」
「わかんないけど」
「分からないなら言うんじゃねーよ」
「だってぇ…」
「……楽しそうだよな…あいつら」
「………」
「なんだよ」
「意外だな…って思って」
「意外ってなぁ……」
「ねぇ…」
「んー?何」
「帰らなきゃダメ?」
「ずっといるつもりか?」
「だって……」
「あとから来れば良いだろ。どうせ、来たいって言ったんだろ?」
「うん…」
「そうしろよ。ここからは…仕事だ…」
「気をつけてね」
「わーってるよ」

 予告状の時間まではまだ合った。
 黒羽達と別れ、俺達は近所にあるファミレスへと向かった。
「…で、工藤、分かったんか?」
 席に着くなり服部はオレにそういう。
「いきなり平次何言うてんの?何が分かったって言うん?」
 二人は完璧にオレの正体が周りにばれても全然平気と言う感じで話しかける。
「あのさ…一応…オレ今の所まだ江戸川コナンなんだからさぁ。そういうふうにしてもらわないとさぁやばいんだよね……」
 小声で言うオレに服部と和葉ちゃんは黙り込む。
「ともかく、せっかく入ったんだから何か頼も?二人は何が良い?」
 蘭の言葉に服部と和葉ちゃんはにぎやかに選び出す。
「アタシ、ケーキセットがえぇわ」
「和葉、また太る気か?」
「何言うてんのアタシ太ってへんよ」
「アホ、去年の夏から何キロ太った思うてんねん」
「太ってへん言うてるやろ。アタシ体重上下2キロしかせぇへんねんで」
「ホンマか?それにしてはここらへん」
「アホ!!!どこさわってんねん!!!」
 ………飽きねぇな…。
 こいつらも。
「ともかく、暗号は中森警部が解いた。あとは、あいつをどうやって捕まえるかや…」
「罠…はってみいひんの?」
「アホ、あいつはマジックの使い手やで。マジックの使い手に、罠なんて通じへんと違うか?」
「そうなん?せやけど、わからへんやんか。やってみる価値あると思うねんけど」
「そうかぁ?オレはそうおもわへんけどなぁ」
 わな…か…。
 はってみてもおもしろそうだが…。
 実際それにあいつが引っ掛かるとは到底思えない。
 それに、今のオレには罠を考える余裕がない。
 蘭の様子だ。
 黒羽快斗と話していたまえと話したあとじゃ微妙に様子が違っていた。
 蘭、あいつと何を話していたんだ?
 凄く気になる…。
「何コナン君?」
 じっと見てたオレに蘭が不思議に思ったのか声を掛ける。
「な、何でもないよ…」
 バレテ…と言うかオレの正体を蘭に告白していなかったときは…蘭に
「ねぇ、黒羽のおにぃちゃんと何話してたの?」
 と聞けたが…。
 自分は工藤新一だと言っている以上、そんな恥ずかしいマネは出来ない。
 いや…、ばれててやっていたこともカナリこっけいなことだとは思うが…。
 ともかく、やきもち焼いていると思われるのは…カナリ嫌だ。
「ホントに何でもない?」
「うん」
 知られたくない……。
 正直な感想である。
「そうなの?あ、そうだ、服部君。わたしと和葉ちゃんもキッドの予告した時間に行っていい?」
 突然の蘭の言葉にオレと服部は驚く。
「ら、蘭ねーちゃん。夜中だよ」
「でも、コナン君も行くんでしょ?わたし、コナン君の事心配だよ」
 反論したら力ずくで納得させられそうな言い方にオレはうなずくしかなかった。
「……平次、コナン君は納得したようやけど、アタシもえぇよね」
「なんで、行きたいんや?」
「怪盗キッドを生でみたいねん」
「………アカン」
 和葉ちゃんの言葉に服部はか細い声で答える。
「アカンってなんで?蘭ちゃんは行けて何でアタシはいかれへんの?」
「……それは……………………………………………………………」
「それは…?何?はっきり言い!!」
「嫌や」
「理由を教えてくれへんのやったらアタシは行くで。えぇな、平次」
 服部が…和葉ちゃんを行かせたくない気持ちはよくわかる!!!!!!!
 怪盗キッドを…見せたくないからだ。
 全世界の女性を魅了するほどのキザ。
 オレは奴のことをそう評してるから。
 蘭をキッドにもう二度と逢わせたくない。
「……………そんなら…オレの側からはなれるなや。えぇな」
「えぇけど…なんで?」
「……和葉に化けられたらたまらへんからや!!!」
 苦し紛れに服部は言う。
 ある意味正しい思い。
 ある意味間違っている感情。
 ともかく、ある意味複雑な感情を抱きながら、予告時間を迎えた。

「Ladies and Gentlemen!! It's showe time!」
 そう展示室中に声が響き渡る。
 そして、部屋中の電気が落ち、かわりについたのは非常灯のみ。
 時計を見ると予告時間ぴったり。
「キッド!!どこだぁ」
 中森警部の声が部屋中に響き渡る。
「今晩は、中森警部殿。本日はお日柄もよろしいようで」
 そう言ってキッドが暗やみに浮かび上がる。
「キッド!!今日こそは捕まえてやる!!!」
「そう言われても困ります。今回はわたしは本気で来ていないのですよ。美しいお嬢さん方もいらっしゃいますしね」
 そう言って、蘭達の方に視線を向ける。
「あれがキッド…めっちゃカッコえぇわぁ」
 和葉ちゃんの小声が聞こえる。
「キッドぉ、絶対に捕まえてやるでぇ!!!!」
 その和葉ちゃんのセリフがしっかりと服部に聞こえたらしく、奴はキッドに向かってそう叫んだ。
「そう言われましても、困りますね。確かに、あなたをココに招待したわけですが、あなたに捕まえて欲しいとか、対決してみたいとかそう思って予告状を送ったわけではありませんから」
 そう言ってキッドは困ったように笑う。
「ふざけてるのか?」
「ふざけてるつもりはありませんよ」
「せやったら、なんや!!!!」
 中森警部や服部とキッドの会話にオレは傍観をする。
 本来ならば、ここにオレ…工藤新一…はいなくてはならないのだが…。
 江戸川コナンであるためにオレは傍観していなくてはならない。
 冷静にあたりにそしてキッドに気を配る。
 何もない。
 キッド以外に、あの独特の…殺気を持ったやつの気配…がなかった。
 俺達がココに来た時点にはあった…あの気配が…。
 予告時間前に全て確認した。
 隠れられそうな場所、その他全ての場所を。
 蘭がいる以上、蘭を危険な目に合わせるわけには行かないのだ。
「さて、お遊びはこの辺にしておきましょうか、警部殿」
 そう言って、キッドは一枚の布をとりだす。
「よく、観ておいて下さいよ。ワン・トゥー・スリー」
 その瞬間、小さな爆発とともにキッドの姿は消え、消えていた電気が復旧した。
「な、ない!!!!!!!!!!!!!イエロートゥルーが!!!!」
「警部殿、どちらを見ていらっしゃるのですか?私はこちらですよ」
 キッドはそう言って違う場所から現れる。
「さて、イエロートゥルーは確かに頂きました。では、ご機嫌よう」
 そう言って窓から上へと登っていった。
「屋上だ!!屋上へ急げ!!!」
 中森警部の声に、警備についていた警官がすべて屋上へ向かっていく。
「工藤、何してんねん。屋上へ行くで」
「服部、行く必要はねぇよ。出てこいよ、怪盗キッド。中森警部の目は騙せてもこのオレは騙せねぇぜ。まだいるんだろ。この部屋の中にさぁ。さっき上に行ったのはお前の格好をしたギミックだろ。ちょうど、お前がいた場所は人が物陰に隠れるぐらい訳もない程の空間がある。その場所にお前は身をかくして、キッドの格好をした風船か何かを上に飛ばせば中森警部はそれをお前と勘違いする。違うか?」
「さすが名探偵君…。いや、名探偵殿と言ったほうが正しいかな?」
 オレの言葉に怪盗キッドは静かに現れた。
「か、怪盗キッド……」
「蘭、ドアを閉めて」
 オレは、蘭にそういう。
 誰も、この場に入れないようにするために。
 この場にいるのはオレと蘭、服部と和葉ちゃん。
 そして、キッドと中森さん。
「……さて、聞きたいことがある」
「どうぞ、何なりと」
「どうして、予告状にオレと服部の名前を出した」
 問い掛けるようなオレの言葉に怪盗キッドは視線を上にあげる。
「協力…して欲しいことがあるから…。同じ、高校生として」
 やつの言葉にオレと服部は訝しがる。
「いいの…?」
 ちいさな中森さんの声に奴はうなずく。
「お前…誰や?」
「…黒羽快斗…だろ?」
「そうなんか?」
 おれの答えに服部は驚きもせずに黒羽に聞き返す。
「分かった?簡単すぎたかな?」
「あたりめぇだろ。あれだけ気配感じさせてりゃ誰だって気付くだろ」
「そっか」
 オレの言葉にあいつは苦笑いを浮かべる。
「オレは、黒羽快斗。父親は黒羽盗一。ココまではいいかな?」
 黒羽の穏やかだが激しい告白が始った。
「オレの父親は日本を代表するマジシャンだった…が…あるものを捜していた」
「あるもの?」
「そう、あるもの。そのあるものを捜すためにオヤジは、怪盗キッドをやっていた」
「オヤジさんも怪盗キッドやったんか?」
「そう、…8年前までに世間をにぎわしていた怪盗キッドは黒羽盗一だった…。そして、捜していたものがビッグジュエルと呼ばれる宝石群だった」
「ビッグジュエルだと?」
「工藤、しっとんのか?」
「詳しくはしらねぇが、世界最大の宝石群の事だよ。それを集めると何でも夢が叶うそういうおとぎ話がある」
「おとぎ話じゃない。が、何でも夢がかなうわけでもない」
 そう言って黒羽はイエロートゥルーを窓から見える月に掲げる。
「どうやら…これも違ったみたいだ」
 落胆したのかイエロートゥルーを元の場所に静かに置く。
「何が違うんや?」
「このビッグジュエルには…ある言い伝えがまとわり着いてくる。『ボレー彗星近付くとき、命の石を満月に捧げよ…さすれば涙をながさん』」
「どういうことだ?」
 オレの問いに黒羽は静かに微笑む。
「ビッグジュエルの中にパンドラと呼ばれる赤い宝石が入っている。それをボレー彗星が最大に近付く満月の夜に捧げると…そのパンドラが溶け出すんだと…。このパンドラは命の石と言う別名がついている。これを飲んだものは…不老不死が約束されているんだよ。そして、このパンドラを見つけるには月にかざさないといけない。それがオヤジはこれを探していた。理由はわからない。だけど、これを捜していたせいで、オヤジは殺された。……工藤新一、お前を小さくした組織にな」
 な…なんだ…と………。
「……それ、本当なの?快斗君」
 驚いて平静さをなくしているオレの変わりに蘭が聞く。
「……あぁ……間違いないよ。ビッグジュエルを捜している組織と、工藤新一を小さくした組織は同じものだ」
 ……たどり着いた。
 やっとたどり着いた。
 意外な…カタチだが。
「……だから、オレに協力して欲しい。そう思ったのか?」
「まぁ、逆もあるだろう。その体じゃ不便じゃねーのか?いろいろと」
 意味あり気にオレを見る黒羽に半ば腹がたちながらもオレは奴の言葉を考える。
「で、どうする?」
「……良いだろう。これでオレが元に戻れるのなら。あいつらをぶっ潰せるのなら」
 蘭を守れるのなら。
「…オレも、かまへんで協力したる」
 オレの言葉に続いて服部もそう答えたのだった。

 怪盗キッドの正体を知ってから1週間がたった。
 新一は全ての準備を施し、もう一度大阪に向かうことになった。
 そして、わたしも、行くことにした。
 さんざん、新一に反対されたけど。
 もう、一人で待つのは嫌だから……。
 集合場所は服部君の家。
 出発の時間は間近に迫っていた。
 行く先は大阪府警本部。
 服部君のお父さんが新一達の来るのを待っている。
 事は静かに運ばなくちゃならない。
 組織にバレたら一巻の終わりだから。
「多分、その場所にはいかれへんけどな」
 玄関先で服部君は屈託のない笑顔で和葉ちゃんに向かって言う。
 今にも泣きだしそうな和葉ちゃんを見ていられなくてわたしは一人服部君の部屋にいる。
 行かないでって言えたらどれだけ良いだろう。
 でも、行かないでなんて言えない。
『蘭の為だから』
 そう言っている新一を止めることなんて出来ない。
『わたしのこと嫌いになって!!そうすれば、あなたは苦しまなくてもいいんだから』
 そう言ったことが一度だけある。
 わたしが新一の重荷になっているかも知れない。
 そう思ったから。
 でも…新一は
「オレがオメーのこと好きだからやってんだよ!!オメーのためって言うのは理由付けぐらいにしかならねーよ。オレは、オメー意外の好きになれねぇし、好きになろうともおもわねーんだよ。頼むから…言うなよ…。オレは蘭…オメェのことが好きなんだよ」
 そう言ったのだ。
 わたしの顔を見てじゃなかったけど、痛いほどの思いが伝わってきたのだ。
 だから、わたしは新一を信じて待とう。
 そう決めたのだ。
「蘭…いるか?」
 ドアの前で新一が呼ぶ。
「いるよ…」
「……そろそろ…行かなきゃならねぇんだ……」
 新一の言葉にわたしは立ち上がり、部屋の外にでる。
 外には新一(コナン)が不安そうにわたしの事を待っていた。
「……どうしたの?コナン君…」
 誰もいない静かな廊下でわたしは最後になるであろうコナン君との会話を始める。
「泣いてないで…いなくても……泣いてないで。すぐに戻るから」
「うん…」
 その言葉にわたしは元気を取り戻す。
 泣いている訳には行かない。
 不安気にわたしを見あげる新一を心配させるわけには行かない。
「蘭…」
「何?新一」
 そして、コナンの格好の新一と最後の会話を始めた。
「蘭…しゃがんでくれよ」
「こう?」
「オレと同じぐらいの高さ」
 その新一の言葉にひざまずく。
「こうでいいの?」
「あぁ。蘭…メガネ外してくれねーか……」
「新一のメガネ?」
「他に何があんだよ」
 わたしがメガネを外すと新一はにっこり笑う。
 小さいころも大好きだった笑顔をわたしに向ける。
 そして、小さなその手でわたしの顔を挟みそっとわたしの口唇にキスをする。
「し、新一……」
 その後新一は小さい腕を精一杯伸ばしわたしを抱き締める。
「蘭、絶対お前のところに帰ってくる。何があっても蘭の元にだけ帰ってくる。だから、…だから…待っていて欲しい……何があっても…何も信じないで、オレのことだけ信じて欲しいんだ……。…約束…して欲しい………。ダメか?」
 切ないほどの新一の言葉。
 言って欲しいたくさんの言葉を新一はその口から紡ぎだす。
「……分かった…約束する」
 わたしの言葉に新一(コナン)はわたしから一歩下がる。
「好きだよ、オメーのことが好きだよ。この地球上の、誰よりも……何が合っても絶対守るから……って新一にーちゃん言ってたよ。じゃあね」
 そう言って新一(コナン)は駆け出していった。
 わたしはそれを笑顔で見送る。
 泣いちゃいけない。
 泣いちゃったらダメ。
 新一に心配かけたくない。
 だから…だから…。
 絶対に帰ってきて。
 待ってるから。
 新一のこと信じて待ってるから……。
 
 追記
 数日後の全国紙1面。
『K薬品会社。原因不明の火災で全焼。焼け跡から高校生と思われる焼死体発見。鈍器で殴られたようなあとから現在司法解剖中』

 数日後の地方紙の片隅
『住所不定年齢不明の少年を収容、心当たりの方は**病院まで』

*あとがき*

長いです。
いやな終わり方です。
これで、とうとうあのスペシャル物の前編と言うカタチになってしまいました。
この話し。
カナリ嫌な展開。
って言うか、新和快蘭平青をやってしまいました。
かるーくだけど。
いやぁ、これ以上は無理っす。
でも、快蘭だったら良いかなぁなんて。
新一には口が裂けても言えないけど。
ノーマル推奨者が何言ってやがる見たいな。
でも、キッドだったら何でもオーケーの様な気がする。
キ蘭・キ和・キ平・キコ・キ新・キ青もってキッド総攻めじゃん!!
止めましょう……余計なことは。
ノーマル推奨者なんですから!!と言うわけで、ここからあの予告をはってみる。

押してみて下さい。



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