梅雨も明け、本格的な夏がやって来た。
小学校と高校は夏休みを間近に控え、慌ただしくなってきた。
突然のハプニングと言うものは起るもので、わたし達の場合は終業式の前の日のだった。
「蘭、オレは夏休みの間出かけるがかまわねーよな」
と、お父さんは突然言った。
「どういうこと?夏休みの間中って?」
「どうもこうも、一ヶ月だとよ」
「一ヶ月ーーーーーーーーーーーーーーー?!」
わたしとコナン君(新一)は驚く。
「おじさん、なんで一ヶ月も出かけるの?」
「うるせー」
お父さんはコナン君(新一)の言葉に応えず、そっぽを向く。
「どういうこと、蘭ねーちゃん」
コナン君(新一)がわたしに聞いてくる。
相変わらず他人のいる前での子供の演技は素晴らしくて拍手がしたくなりそうになる。
まぁ、それはおいておいて、多分、原因はわたしが作った。
原因というよりきっかけかな。
「お母さんがね、裁判の関係でちょっと遠くに行くんだって。で、お父さんにボディーガードって言うのして欲しいらしいよ。でも1ヶ月って言うのは知らなかった」
ちょっと、危ない目に合ったらしいとお母さんから電話合ったのが一昨日。
お父さんに一緒についていってもらったらと言ったら素直にしたがったみたい。
「へぇそうなんだ。結構うまくいってるんだね」
「うるせーガキはもう上に行ってろ」
とお父さんはコナン君を追いだす。
「もう、お父さんそう言う言い方ないでしょう。コナン君かわいそうだよ」
「蘭、気をつけろよ」
突然、お父さんが言う。
気をつけろって何?
何かある?
「この家はお前とコナンしかいなくなるから夜戸締まりとか気をつけろよ」
「分かってる」
……そうか、夏休み新一(コナン)と二人っきりに………なるんだ。
って、相手は身体は小学生……。
わたし……何考えてるんだろう。
自宅の方に戻ると新一(コナン)はテレビを見ていた。
「蘭、おっちゃんがさぁ、いない間、オレんち来ない?」
と、突然言う。
「な、な、何で……」
「ここよりは安全だろ、おっちゃんも言ってたじゃねーか。あぶねーからきちんと戸締まりしろって」
聞いてたらしい。
全く詰めが甘いくせに抜け目ないんだから……。
「んー、お父さんがいいって言ったらになるけど、その時はフォローしてよね」
「わーってるよ」
と、新一(コナン)は言う。
分かってるのかなぁ?
それより、お父さん、許してくれるのかなぁ?
ちょっと心配。
まぁ、多分、大丈夫だよね。
ちょっと不安だけど。
次の日の夜、わたしはお父さんに聞いてみる。
「お父さん、あのさぁ、お父さんが1ヶ月家開けてる間、新一の家にいっていい?」
「何で」
「新一にね、お父さんが1ヶ月家を開けること言ったの。で、そしたら家は防犯設備とか結構凄いし、隣阿笠博士すんでるからここに居るよりは安全じゃないかって……」
「……………………………………………………勝手にしろ」
と、お父さんは短く言う。
しかもすっごーい不機嫌そう何でだろう。
コナン君(新一)の方を見てみると、ちょっと苦笑い。
何でだろう。
部屋に戻って聞いてみれば、「オレが変声機使って電話したんだよ」だって。
はぁ、まったく抜け目ないって言うか、なんて言うのか。
ともかく、夏休みはそうしてはじまったのだ。
お父さんを送りだし、わたしと新一(コナン)は新一の家に行くための準備と戸締まりをしていた。
「ふぅ、おっちゃん。かなり不機嫌そうだったな」
「しょうがないよ、お母さんと久しぶりの旅行だもん」
「旅行ねぇ……」
「何よ、新一、その言い草は。せっかくセッティングしたのよ」
「セッティングしたって言っても、おばさんがちょっと危ない目に合ったって言うのは本当だろ」
「そうだけど……。お母さん大丈夫かなぁ?」
「はっ、大丈夫だろ、おっちゃんが一緒なんだから」
「でも……」
「おっちゃん、あれでもおばさんのこと気にしてるよ」
「ホント?」
「あぁ、結構な。って言うか、まぁ、おばさんのことになると頭まわるらしいな、おっちゃんは」
新一(コナン)の言葉に驚く。
「そうなの?」
「あれ…分かんなかった?」
「ウン」
「分かってたと思ってたけど……」
知らないよぉ、そんな分かる訳ないじゃない新一じゃないし。
お父さんがお母さんのことになると頭がまわるなんて…。
知らなかった……。
相変わらず新一(コナン)の観察眼には驚かされる。
感心しながら準備も終わり出かけようというときだった。
「trrrrrrrrrrrrrrrtrrrrrrrrrrrrrrrrtrrrrrrrrrrrrr」
と、事務所の方の電話が鳴る。
「まさか、依頼かなぁ?」
「さぁ、どうだろう。依頼だったらやべーよな」
新一(コナン)の言葉を後ろに聞きながらわたしは電話に出る。
「はい、毛利探偵事務所です」
その瞬間、聞こえてきた、関西弁の泣き声……。
「うわーーーーーーーーーーーーーーーん、蘭ちゃんどないしよぉ」
「か、和葉ちゃん?」
そう、電話の主は和葉ちゃんだった。
でも、どうして泣いてるの?
「和葉ちゃんどうしたの」
「ふぇーーーーーーーーーーーーーん、蘭ちゃん、どないしよう」
和葉ちゃんは泣いてばっかりで要領えない。
「落ち着いて、和葉ちゃん。泣いてばっかりじゃ分からないよ。聞いてあげるからね、和葉ちゃん」
そう言うわたしに和葉ちゃんはとんでもないことを言ったのだ。
「あんな……平次が………小さなってもうたん」
「服部君が小さくなった???」
意味が分からなかった。
小さくなった………?
新一が小さくなった……!!!
まさかまさかまさかまさかまさか……。
そのまさかと言う思いに狩られながら和葉ちゃんに聞く。
「まさか、服部君、子供になっちゃったぁ…なんて事じゃないよね」
「そのまさかやねん」
うっそーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!
「蘭ねーちゃん誰と話してるの?」
事務所の方にやって来たコナン君(新一)は電話の相手が分からないので演技をする。
「コナン君、服部君が子供になってしまったみたい」
「はあああああああああああああああああああ????」
新一はコナン君のふりをせずに驚く。
「ちょ、ちょ、どういうことだよ」
「分かんないよ、和葉ちゃんに聞く?」
「って言うかこっちに来させたほうがいいかもしれねーな。蘭、服部いるか確認してくれねーか?」
新一(コナン)の言葉にわたしはうなずく。
「…和葉ちゃん、服部君いる?」
「おるけど、ちょっとまってや。平次、蘭ちゃんが話しあるんやって」
「おう、分かった」
と、和葉ちゃんから服部君に変わる。
「何やねん蘭ねーちゃん」
「なんか、コナン君が話しあるみたいだから、コナン君に代わるね。ハイ」
「ありがとう、蘭ねーちゃん」
一応、服部君にはわたしが知ってるって言うこと言ってないみたいだから、コナン君として渡す。
「服部、おめーまで子供になったってマジかよ?」
「あぁ、そう見たいや。和葉がオレのこと見てわんわん泣きよってからに。ホンマ見たいや。目線が和葉よりちっちゃいねん。で、鏡見たら、昔の自分見てるみたいで気も悪かったわ」
「で、原因何だか分かるのか?」
「原因?何の?」
「バーロ!!子供化した原因に決まってるだろう!!それがなきゃ元に戻れないぜ服部」
「ホンマに……」
「あぁ、オメーも小学校行きかなぁ」
新一(コナン)はそう言って服部君をいじめる。
「捜す、捜すから工藤そんなつれないこと言わんといてや」
「わーったよ。で、本題だ。服部、オメー夏休みの1ヶ月間こっちに泊まるつもりあるか?」
「どういう意味や?」
「おっちゃんが、1ヶ月探偵事務所にいねーんだ。で、蘭とオレだけじゃ夜物騒だろ。いくら蘭が空手やってるからって言ってもだ。しかも蘭は一度寝たらおきねーし」
よけいなお世話。
「で、だオレの家は結構防犯設備整ってるし、あそこなら人いっぱいいても別に平気だし、どうする?服部。無理だって言うなら無理にすすめるきはねーし。どうせなら、オレは蘭と二人っきりがいいし…………」
側で聞いてるわたしがいるのを忘れて新一(コナン)は言う。
なるほど、服部君とはこういう会話をしてたのか。
「そうやなぁ、ここにおったらオカンとかが何でこないなとになったんだってうるさいかもしれへんし、……和葉も一緒でもええか?」
「子供一人で新幹線とか乗るつもりだったのかよ服部」
「う………」
「どうせ、和葉ちゃんはついてくるつもりだと思うぜ。こっちに電話した時点でそのつもりだ。オメーがわざわざ遠慮して言うことじゃねーだろ。いつも何にも用事ないのに一緒に来てるじゃねーか」
「う………」
「ともかく、こっちに来たらいいぜ」
と、新一(コナン)は電話を切ったのだった。
「で、なんやって?」
電話を切ったちび平次にアタシは聞く。
「東京に来いって言っておった。何やわからんけど、蘭ねーちゃんのとこのオヤジさんが1ヶ月ぐらい留守にするらしいんや。で、その間ぶっそうやろうから、工藤のうちにすんだらええって工藤に言われたんやと。せやから、和葉、オレと一緒に東京に行ってくれへんか」
と、平次は言う。
「ええよ、平次。こんな小さい身体でアタシの目ぇ届かんとこいかれたらかなわんもん」
「堪忍な和葉」
平次は謝る。
ともかく、今おばちゃんがいなくて良かった。
今日、アタシは、平次のうちに遊びに来ていた。
所が、いつまでたっても平次が姿を見せない。
探しに行くと、部屋の隅っこで平次はこんな姿になっていたのだ。
「平次、うちも寄ってって。平次の荷物は用意できるけど、アタシの荷物も用意せな」
「ウン」
平次の元気がない。
やっぱり子供になったのがよっぽどショックなのかも知れない。
「平次」
「なんやの」
「元気……だし。アタシは平次の側におるから」
「アホ、何言うトンねん。和葉、お前のうちに行くんやろ。はよせんとおいてくで」
「はいはい」
ともかく、アタシと平次は新幹線にのって東京に向かった。
…このアホは演技と言うものを知らないらしく、車内ではずーっとアタシのことを和葉って呼んでた。
別にいいんだよ。
別に……。
ただ、他人から見られたらどう思われるか………。
ちょっとそれが心配だった。
外見は高校生と小学生だもん。
平次のあまりの態度にアタシは小声で聞いた。
「平次、ちょっとは小学生らしくできひんの?」
「はぁ?何でそんなことせなあかんねん」
平次はアタシの小声を無視し、大声でしゃべる。
「あんなぁ、平次。自分中では高校生かもしれへんよ。けど、他人様の目から見た平次は小学生何よ。少しは、そのつもりでおらへんと…」
「そうやな………。和葉、すまん」
平次が素直に謝る。
「えぇよ、平次、分かってくれればええんよ」
「なら、ボウズみたいに甘えてもえーんか?」
「はぁ?」
何云ってるか一瞬悩む。
「平次、なんや?何したいん?」
「……………ええわ」
そう言って平次は座席に座って外を眺める。
変な平次。
小さくてもやっぱり平次は平次なんだなぁと思う。
なんか可愛いね。
東京に着くと、蘭ちゃんからファックスしてもらった地図をもとに工藤君の家に向かう。
蘭ちゃんのうちからしか書いてないので、まずは蘭ちゃんの家へ。
「工藤んとこと蘭ねーちゃんの家って案外近いんやなぁ」
「そうやね。確か二人も幼なじみって言っとったよね。平次」
地図を見ながら先を歩く平次に、アタシは相づちをうつ。
「平次、ちゃんと前見て歩かんと危ないよ」
「平気やって…わぁ」
そう言ってる側から平次は人にぶつかる。
「すまんすまん堪忍な」
「平次!!!ホンマすいませんでした」
高校生の気分で居る平次にをしかってアタシはぶつかってしまった人に謝る。
「いいんですよ、では」
そう言ってその人はいってしまった。
「平次、さっきも言ったやろ、あんたは小学生なんやから態度も気ぃつけんと」
「言われんでも分かっとるって。あ、あそこ見たいやで工藤んちは」
「そう、みたいやな」
もんのところに掲げてある表札には工藤と入っていた。
「和葉、他に工藤っちゅうとこあるか?」
「ない、見たいや……隣阿笠ってなっとるし」
「んじゃあ、ここやここが工藤んちや」
平次はそう言って屋敷を眺める。
「めっちゃ広い洋館やなぁ」
「ホンマやね。平次の寝屋川のうちとどっちが大っきいかな?」
「さぁ、うちは和風やけど、ここは洋風建築やしなぁ」
「工藤君の親って何やっとんの?」
ふと思った。
平次は知らなかった?と言う顔をして言う。
「工藤のオヤジさんは有名な推理小説家の工藤優作やって」
「ほんまぁ?前写真見たことあるけど、めっちゃ男前やったよ。なんやダンディな叔父様って感じやった。そういやぁ工藤君も大人になったらそんな感じやろうね」
文化祭の時見た顔を見てわたしはそう思った。
「何、アホな事言うとんのや。和葉、いくで」
ちょっと平次は不機嫌そうに言う。
何で不機嫌なの?
もしかして妬いてるのだろうか。
フーン。
「何気色悪い顔しとんのや」
「気色悪い顔なんて言わんといて。平次、はよ行こう」
そう言ってアタシと平次は工藤君の家に上がっていった。
「…………なんや。その顔は……」
「おめーーホントに小さくなっちまったんだなぁ」
蘭と和葉ちゃんが台所に行っている間にオレは服部に話しかける。
「何や、うれしそうやないか」
「まぁなぁ、そう言うなよ」
そう言ったオレに服部はジト目で見る。
「そう言えば気になったんやけど…」
「なんだよ」
突然、服部は言う。
「蘭ねーちゃん、あんま驚かへんかったな」
「そ、そうか?」
「気付いてんのとちゃうか?」
「そ、そんなことあるわけねぇだろ」
服部の言葉にオレは焦る。
服部にはまだ言ってねぇんだよな。
蘭にばれたって事。
誤魔化しもきかず、そのままズルズルとほとんど全部言ってしまったという……事を。
「そうか?そんならえぇねんけどな。まぁ、オレは和葉に最初っからばれてもうてたしなぁ」
「何で…ばれたんだ?」
そう聞くオレに服部は小さく答える。
「たまたま…和葉が来とったんや…。それでな…、和葉に…知られてもうた…。工藤が…言いたないって言う気分…ホンマは…こんなになった自分見られとうない思うたんと違うか?」
服部……。
「せやけど…この体もえぇな」
強がりでそう言ったのは分かっていた。
でもオレは心の中で思ったりはしても、絶対に口に出したくないと思っていた言葉を、服部はいとも簡単に言う。
「ホントにそう思ってるのか」
「アホ、思う分けないやろ」
そう言って服部は目を伏せる。
「服部、お前がこんなになった理由のモノを持ってきたか?」
「あぁ、工藤に言われてさんざん捜して持ってきたで。このビンの中にあるで」
そう言って服部はまだ片づいていないかばんの中から小さな小瓶をとりだす。
「これや…ホンマもんはコレとちゃうねんけど…和葉がこれに移し替えたんや…」
そう言って服部はうつむく。
「どうしたんだよ……」
「ホントに…元に戻れるんやろうか…そう思うたら…どうにもならんようになってもうてなぁ……」
「灰原にこれを見せれば成分調べて作ってくれるさ…」
「工藤…」
「まだ、お前の方が戻れる可能性あるんだぜ。オレなんてこの体になった原因のクスリさえねぇんだから…」
「そうやったな……。そんなら工藤、はよいくで」
「あぁ、じゃ、ちょっとオレ、蘭にいってくるからちょっと待ってろ」
そう言ってオレは蘭達がいる台所に向かう。
「蘭ねーちゃん」
和葉ちゃんがいるためにオレはコナンの演技をする。
「何、コナン君」
「ちょっと、僕、平次兄ちゃんと…阿笠博士のところに行ってくるね」
「分かったけど…、もうすぐお昼だから早く帰ってくるのよ」
「うん、じゃー行ってきます」
そう言ってオレは、玄関に向かった。
「コナンくん」
蘭に玄関で声を掛けられる。
「何?」
「服部君のこと、あんまりからかっちゃダメじゃない」
蘭がオレと同じ目線になるようにしゃがむ。
「からかってるわけじゃねーよ、元気づけてるだけだって」
蘭にしか聞こえない声でオレは言う。
「ホント?なら良いけど」
蘭?
「和葉ちゃんがね、気にしてるのよ。元気なふりしてるから…心配だって」
そう言って軽く和葉ちゃんがいる台所の方に目を向ける。
「服部も…気にしてた……。迷惑、掛けてしまってるって」
ふと服部はオレが台所に向かう前に呟いていた。
「和葉には…悪いことしてもうてるなぁ。迷惑掛けとうなかったんやけど…な」
と……。
「新一も…そう思ってるの?」
「そりゃ…な…まぁ、迷惑掛けてると思うぜ……。居候してるわけだし……」
オレが蘭の顔を見れずにそう呟くと軽く微笑む。
「そんなことないよ、わたし。迷惑なんて思ってないもの。……いてくれたから……大丈夫でいられた。いてくれなかったら不安で怖くてどうしようもなくなってたと思うもの…。それより心配なのよ。わたしは、迷惑より心配のほうが大きい。和葉ちゃんもそうじゃないのかな?」
蘭……。
「ワリィな……心配掛けちまってよ……」
「良いよ、そんなこと気にしないで。だっていてくれるんだもん。いなくなっちゃうより、ましよ」
蘭はそう言って優しく微笑む。
「……いて…いいのか?オレ。蘭の側に……」
今まで…聞けなかった事。
蘭に全てを言わざるを得なかった後そのままオレは蘭の家に居候していた…。
怖くて聞けなくて…蘭の側にいていいのかずっと悩んでいた…。
蘭は何も言わないで、いつも微笑んでてくれてて…。
「当たり前じゃない、何言ってるの?新一、側にいて。貴方が…、わたしを守っててくれたようにわたしが貴方を守ってあげるから…ね」
そう言って蘭は改めて見惚れてしまうくらいに綺麗に微笑んだ。
「蘭…」
「何?」
不意に蘭の頬に手をかけたオレに蘭は不思議そうな顔をする。
そんな蘭にオレは静かに………。
「工藤!!!??????!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!や…のうて…ボウズ……。は、は、は、は、は、は、はよ、い、い、行くで!!阿笠っちゅう博士んとこいくんやろ」
玄関のドアが開いたかと思うと突然服部が乱入してきた。
思わず、オレと蘭は驚き互いに離れる。
くっそーーーーーー服部の奴ぅ!!!!!
あとちょっとだったのにぃ!!
「平次、またコナン君の事工藤言うてる…。コナン君ごめんな。平次がアホなこと言うて」
と和葉ちゃんに突然話しかける。
「か、和葉ちゃん、何時そこに?」
「今や、平次のアホみたいな声に驚いて見にきたんよ。フゥ、平次、アホなこと言うとらんで…はよ出かけてき」
「ア、あぁ……和葉…」
「何?」
「何でもあらへん…。ほなボウズいこか?」
「ア、あぁ……」
和葉ちゃんの呆れているのか悲しそうにしているのかどっちの表情かにとれない服部は戸惑いながらもオレを促して外に出たのだった。
台所で蘭ちゃんはさっきの事を振り払うように明るく動いている。
「和葉ちゃん、そこのお皿とってくれる」
「えぇよ…。…なぁ蘭ちゃん。ちょっと聞きたいことがあんねんけど…」
聞いて良いのか分からない。
平次が言ってた。
「あいつは偉い」
アタシがいないときに平次はそう言ってた。
最初、なんの事言ってるか分からなかったけど、その意味を知ってアタシは驚いた。
…でもその事蘭ちゃんしっとんの?
平次にその事は聞けない。
アタシがいると言うことを気付かないでそう呟いていたから。
蘭ちゃんは…しっとんのやろか……。
そう考えるたびにアタシは何も言えない。
蘭ちゃんに隠してる理由が…平次が…呟いた事で分かったような気がしたから…。
でも…蘭ちゃんは知ってると思った。
久しぶりに会った蘭ちゃんは知らないと言うときよりも凄く幸せそうで…めちゃくちゃ綺麗だった。
だから…蘭ちゃんは知ってる。
さっきも…話してるところ聞いてしまったから……。
「…………なんて言ってえぇのかわからへんのんやけど…。コナン君の…こと何やけどな…………いつきぃついたん?……平次、アタシが見つける前呟いてたん……。アタシがいる言うこと気ぃつかんで…。あいつはえらい、こないなっても…自分が好きな女の側におるって……最初何のことかわからへんねんかったんやけど…………」
「和葉ちゃん……」
蘭ちゃんは驚いた顔でアタシを見る。
アカン、蘭ちゃん知らんかったと違う???
どないしよ……。
「ら、蘭ちゃん、今のなしや。ごめん聞かんかったことにして」
これでどこまで誤魔化せるか分からないけど……。少しは誤魔化せるかな?
「和葉ちゃんも…知っちゃったんだ……」
「え…蘭ちゃん?」
「……このこと…秘密にしておいてね。コナン君(新一)のこと……。ずっと隠してて…わたしが問い詰めちゃったから。言う羽目になって…。これ以上…黙っていられなかったの…わたし…。和葉ちゃんはびっくりしなかった?服部君が小さくなったって知ったとき」
蘭ちゃんは昼ご飯の用意をしながら言う。
「めっちゃ驚いたん。部屋の隅っこで蒲団かぶって……くるな…言うてる平次の声が…子供のころ聞いた声と似てたん…。最初…平次やない、そう思うてたせやけど……平次やってん。慌てて泣きだしたアタシに冷静に落ち着け言うて…蘭ちゃんとこ電話せい言うたんは…平次なん。ホンマは自分が一番パニクってるはずなのに…アタシには平気やいうて強がって……」
アタシのこと何か気ぃ回す余裕ホンマはないはずなのに……。
「和葉ちゃん、わたし達は元気でいようよ。大好きな人がわたし達を心配しないでいられるように」
そう言って蘭ちゃんはニッコリ笑う。
そうやな、蘭ちゃんの言う通りや。
アタシが落ち込んでたら平次まで落ち込む。
平次がアタシを心配しないように、アタシは元気にしてなきゃだめだよね。
「で、それがその原因なわけ?」
灰原は小瓶と服部を交互に見ながらそういう。
「しかし、君も散々な目にあったのぉ」
「ホンマや…和葉には子供扱いされるし…参ったわ……」
博士の言葉に服部はため息をつきながら答える。
オレは、服部とともに阿笠博士の家にやって来た。
もちろん、灰原と博士に服部をもとに戻す解毒剤を作ってもらうためにだ。
「ちょっと待って……服部君、あなた、言ってしまったの?自分が小さくなったって」
突然、灰原が服部が言った言葉に反応する。
「しゃーないやんか…ばれてもうてんから」
「誤魔化すとか出来なったわけ?」
「そう言うけどなぁ、ホンマ、パニック起こしとるし、誤魔化しようもなかったんやで。ねーちゃん、そういうなや」
服部の軽い態度に灰原はため息をつく。
「知らないわよ、このクスリを作ったものが何者か分かってないんだから。貴方、殺されるかも知れないのよ。工藤君、貴方にも釘を刺しておくわ。どうなっても…私は知らないからね。ともかく、解毒剤は作ってあげるわ。出来たら、連絡するから」
そう言って呆れながらも灰原はクスリを持って地下へ行く。
「あのねぇちゃん、相変わらずキッツいなぁ」
「まぁ、そう言わんでも良いじゃろ。哀君は哀君なりに気づかってるんじゃよ」
服部の言葉に博士は灰原のフォローをする。
オレにはそういうふうには見えねぇんだけどな。
……灰原に…蘭にバレたことは……黙っておいたほうが言いだろうな。
服部には……そのうちばれそうだけどよ。
「服部、そろそろ戻ろうぜ。蘭達が昼ご飯作ってくれてっからよ…」
おれの言葉に服部はうなずく。
「んじゃあ、博士。オレは家に居るからさ何かあったときは…呼んでくれ」
「分かった。新一も気をつけるんじゃよ」
「わーってるよ」
博士の言葉にそう応えてオレと服部は家に戻ってきた。
「工藤…、ホンマに蘭ねーちゃんは気付いてへんのか?」
庭を歩いているとき服部にそう言われる。
「何でだよ」
「さっき…何してたんや?それとも何かしようとしてたんとちゃうか?」
さっきの………邪魔した揚げ句、何言いだすんだよ、こいつは!!
「何にもしてねーよ!!何くだらねー事言ってんだよ。早く行くぞ」
見透かされたようで腹が立つ。
まぁ……ドアをあけた時点で…多分、見えたんだろうけど……。
「蘭ちゃん、やっぱり蘭ちゃん上手いわぁ」
「そんなことないよ、和葉ちゃんも上手だよ」
「ホンマ?蘭ちゃんに言われると何やその気になるけど、本気にとってもええん?」
「うん、もちろん」
玄関を開けると蘭と和葉ちゃんの楽しそうな声が聞こえてきた。
「なんや、元気そうやないか」
「無理に…元気そうにしてるんじゃないんか?」
「そうか?」
服部は…わからないらしい。
でも…オレには分かる。
分かってるつもりだ。
「わたしが落ち込んでる場合じゃないね」
蘭のこの頃の口癖。
自分が落ち込んでいるとオレに心配掛けるそう言って蘭はオレに弱音をはかない。
強いな…と思う反面…オレに甘えて欲しいとも思う。
とは言ってもこの体だし…、蘭を抱き締めること出来ねぇし……さっさとしたほうが良いかもしれねぇよなぁ……。
夜。
夜である。
夜だったりする。
だから…なんだと言われればそれまでなんだが困ったことが沸き起こった。
寝る部屋である。
最初の予定では、オレと蘭は別々に寝るから、蘭とオレが干した布団は二組のみである。
当然と言えば当然だろう。
所がだ、ココに服部と和葉ちゃんが来た。
で、やっぱり客に干していない布団で眠らせる訳には行かない。
となると…オレと服部、和葉ちゃんと蘭が同じ部屋で寝るハズだったのが……。
「アタシ、平次と一緒がえぇのぉ」
とお酒を飲んで宴会を軽く始めてしまい酔ってしまった和葉ちゃんがそう言えば、蘭が、
「わたし、コナン君と同じ部屋で良いよ」
と悪魔の微笑み(満面の微笑み)をオレに見せる。
「ら、蘭ねーちゃん」
「嫌なの、コナン君?」
嫌なはずねーだろ。
この体でなければ……。
「えぇやんかぁ、工藤。蘭ねーちゃんと一緒に寝たりーや!!」
と服部の奴は酔っぱらっているため大声で言う。
「服部!!!」
和葉ちゃんが居るのも忘れオレは本気で怒鳴ってしまう。
まぁ、酔っぱらってるから大丈夫とは思うが。
はぁ……どうなるんだ、この先。
1.子供になってしまった名探偵とその幼なじみの居る部屋
「平次ぃ、喉かわいたぁ!!」
和葉はベッドの上にのってそういう。
さっきはこの体のために酔いがまわってしもうて、工藤に蘭ねーちゃんと一緒に寝たりと言うてもうたが、和葉と一緒に寝なアカンと言うことをうっかり忘れてもうてた。
和葉の格好は当然ながらパジャマや……。
滅多に観ることのあらへん和葉のパジャマ姿に何故かオレはドキドキしとった。
工藤は……えぇな。
自分が、工藤新一やって蘭ねーちゃんにばれてへんから甘えたい放題や。
クールな顔していろんなことやっとんのとちゃうか?
なんかうらやましいっちゅうか……なんて言うたらえぇんのやろな?
うらやましいわって言うたら工藤が怒りよるのは目に見えてんし…。
せやけど、うらやましぃ思うわ。
うらやましがったらアカンと思うけどな。
「平次、どないしたん?平次は何も心配せんでもえぇねんよ。ちゃんとアタシが守ったるから」
「アホ…男のセリフとるんやない」
「その体でよういえたもんやなぁ、平次君」
そういうて和葉はオレを抱き上げる。
「な、何すんねん!!こんなことせんとはよ寝ろや」
「平次もやで」
そう言って和葉はニッコリ笑い、オレをベッドに上げ自分もその隣に寝転がり
「ほな、平次、お休みな」
そう言って和葉は眠ってしまった。
やっぱり、前言撤回や。
工藤をうらやましく思いたない。
この状況、カナリ辛いで…。
はぁ、はよ戻りたいわ。
戻ったら戻ったで幼なじみのままやしのぉ。
はぁ、どないしたらえぇねん。
2.子供のままの名探偵とその幼なじみの居る部屋
「新一、聞いてくれる?」
「何?」
ベッドの上で推理小説をめくっているオレに蘭が聞いてくる。
「あのね、和葉ちゃん、新一がコナン君だって分かっちゃったみたい」
「え…」
蘭の言葉にオレは止まる。
「な、な、んで」
蘭が言うはずがない。
それは分かってるから、じゃあ、オレだってバレたって訳か?
んなハズねぇだろ。
でも…あのバカがオレのこと工藤工藤って呼んでるからばれても仕方ないことだとは思っているが…。
「服部君が言ってるの聞いちゃったんだって。服部君が小さくなったときに言ってた独り言を」
あのバカ!!!!
はぁ、頭痛くなってきた。
何で、あいつはこうオレの頭痛の種を増やすんだよっ!!
「でも服部君、和葉ちゃんが知ったって事しらないみたい…だよ……」
そう言って蘭はうつむく。
「ねぇ、新一。わたし気がつかないほうが良かった?言わないでしまっておいたほうが良かった?」
「バーロォ、もう言っちまってんだから前のことは考えるなよ。オレはお前のこと悲しませてまでそんなこと思いたくねぇよ。そりゃ……始めはいわねぇ方が良かったかもしれねぇって思ったけど……。オメェの顔見たらさ……言ってよかったって思えてんだから」
そう言ってオレはベッドから飛び降り蘭の座っているイスの方へと向かう。
「蘭、オメェを心配掛ける事ないようにするから…安心しろよ」
「うん……約束よ、新一」
「あぁ、約束するよ。でも…あと1回ぐらいは許してくれよな」
オレの言葉に蘭は首をかしげる。
「オレが元に戻るために…必要なこと……」
そう、オレが元に戻るために、蘭を危険な目に合わせないために…。
「…………」
「でも…安心しろよ、絶対に大丈夫だからさ」
とオレは蘭に告げる。
「もう、寝ようぜ。明日も早いし…どうせ元太達が来そうだからな」
とオレは蘭に告げる。
「そうね、寝ようか、コナン君」
ん?今なんて言った?
「一緒に寝ようね、コナン君」
おいー蘭、ちょっと待てよぉ!!
オレ、ソファで寝るからぁ。
「さ、一緒に寝ようね」
慌てるオレを無視して蘭はオレを抱き上げベッドに連れていく。
そしてそのまま抱き締められてベッドの中にいる。
な、何でなんだよぉ!!!!!!!
こりゃ、ホントに元にもどらねぇと、いつまでオレ、理性保てるんだろ。