君に付いたホントの嘘 ばれた東の名探偵〜たった一つの真実〜

 疑問に思ったのはいつだろう。
 そう、お医者さんがうちに依頼に来てそのお医者さんの手を見たときコナン君はいきなり「あなた、外科医ですね」って言ったのよ。
 人の職業を手で見ただけで当ててしまうなんて…新一みたいだ。
 とそう思ってコナン君の行動を見ていたら新一そのものだった!!!!
 でも、その事件の後に新一《阿笠博士の変声機声》から電話があって…それでコナン君は新一じゃないんだなぁと何となく思ったんだ。
 思えばあれが最初。
 次がマジシャンの九十九元康さんが亡くなった事件で…コナン君の眼鏡を外したとき。
 新一に…似てるって思った。
 で、コナン君を注意深く見ていたら……コナン君の行動はまるで新一そのもの。
 そう、わたしはそれでコナン君は新一と確信したのだ。
 でも…………。
 新一のお母さんが出てきてうまい具合に誤魔化された。
 それでも、わたしの中では疑問として残っていた。
 スキー場に行ったときコナン君が新一に見えた。
 そして、コナン君と園子と三人で、トロピカルランドのスケート場に行ったときに、確信した。
 最初は滑れない振りをしていて……でも園子の叫びを聞いて滑っていってしまった。
 あの滑り方で確信してしまったのかも知れない。
 コナン君は新一だって。
 だから、コナン君(新一)が大けがしたと聞いたときは、だめだと思った。
 もう、頭の中が真っ白で、どうしようもなくなって……。
 でも………黒衣の騎士の声を聞いたとき頭の中がぐちゃぐちゃになった。
 その声ですべてを言い当ててしまう、あの透き通るようなテノールに。
 何度も聞いたあの声に。
 その時には新一だと思っていたコナン君もいた。
 だから、コナン君は新一じゃないんだって思った。
 はずだった…………………。
 でも、違和感が合った。
 コナン君の表情とか、しゃべり方とか、しぐさとか……。
 そう、違和感、どこか違う違和感。
 でも、具合が悪いせいかなって思った。
 けれど、米花センタービル展望レストランで新一の変わりにコナン君が戻って来たとき。
 コナン君経由の新一のセリフを聞いたときのコナン君の苦しそうな表情に。
 それで分ってしまった。
 新一は何か言えない事情があってコナンのままなんだって。
 だから、分らない振りをしていることにした。
 誰にも分らないように、気付かれちゃいけない。
 そう、新一にも…。
 そうしなければ新一はどこかに行ってしまうだろう。
 だからわたしは気がつかれないように、行動していた。
 でも……………。
 それはある日のことだった。
「ほら、蘭。オレの代わりに行ってこい」
 とお父さんからもらった招待状。
 その中身をみてみると、長門グループの会長からの招待状で、前の事件で迷惑をかけたから、2泊3日で別荘にご招待しますとのことだった。
 で、服部君&和葉ちゃんもくるらしい。
「何でお父さんは行かないの?」
 そう聞くと不機嫌そうに用事があるとだけ言う。
 この不機嫌さは……お母さんの用事ね。
 この前電話したとき、お父さんのこと言ったら、素直に納得してくれたのよね。
 お父さんを見ると、不機嫌そうだけど……なんかうれしそう。
 うんうん、これでうまくいったらオーケーだよね。
「コナン君も連れていっていいよね」
「あぁ、かまねーぞ」
「コナン君一緒にいこうね」
「ウン」
 と、コナン君は無邪気なほほ笑みをわたしに向ける。
 なーんか、こうやってるときは小学一年生に見えるんだけどねぇ。
 まぁ、新一のお母さんはすっごい女優だったし、わたしのあこがれの人でもあるし……(目暮警部がファンだったっていううわさがある)。
 まぁ、演技力なのか????
 探偵だから、本当のこと黙っているしぐさ、作れたのかもね。

 長門邸別荘
 わたしとコナン君が長門会長の別荘についたのは夕暮れも押し迫った頃だった。
 すでに服部君と和葉ちゃんは来ていて、居間で待っていた。
「蘭ちゃん遅かったやんか?どないしたん?」
 元気のいい和葉ちゃんの声がわたし達を出迎えてくれる。
「蘭ねーちゃんが道に迷っちゃったからだよ」
「え、そうなん?」
 和葉ちゃんがコナン君の言葉に驚く。
「蘭ちゃん方向音痴なん?アタシ蘭ちゃんがそんなふうには見えんよ」
「和葉、お前も方向音痴と違う?」
「……平次に言われとうないわ」
 二人の漫才みたいな掛け合いが疲れていた気分を飛ばす。
「ごめんね、遅くなって。で、長門会長にお礼言いに行かなくっちゃ」
「長門会長はおらへんよ。会長が、ここに泊まりーってさっきお手伝いさんが言っとったから」
「お手伝いさん?」
「うん、なんやここ管理してる人見たいやね」
「ねーちゃん達も知ってると思うねんけど、会長さんは身体わるいよってここにちょくちょくくるらしいんや、んでいつ来てもええよぉにお手伝いさん2.3人おるんやと」
 と、服部君が説明してくれる。
「へぇ、ホントに今日は何でもないんだ」
「なんや、ねーちゃん事件でもあると思うとったんか?」
「うん、だっていつも服部君といると事件に巻き込まれない?」
「それは言えとるは、アタシも平次と一緒におるとなんや事件ばっかり会うて嫌になるわ」
 和葉ちゃんがわたしの言葉に同意してくれる。
「それはオレのせいだけやない、工藤…やのうて、毛利のおっちゃんが一緒だったりするからやろう?」
 と、服部君は一度、工藤って言って言い直す。
 それは、服部君の癖と言うよりも服部君はコナン=新一と言うことを知ってるみたい。
 そんな服部君を見てコナン君は大慌てになる。
 いつものこと……。
 コナン君、隠してるつもりあるのかな?
 はぁーため息がでちゃう。
「蘭ちゃん、部屋きれいやで。蘭ちゃん、コナン君と一緒の部屋でええよね」
 え…!
 一瞬動揺してしまったがすぐに平常に戻す。
「いいよ和葉ちゃん。コナン君もいいよね」
 わたしの言葉にコナン君は顔を赤くしながらもうなずく。
 フフフ今までわたしのことを騙してた罰よ。
 知らないふりして、分らないふりして、誘惑してやる!!
 あなたは『工藤新一』ではなくって『江戸川コナン』だものね。
「じゃあ、きまりやね。蘭ちゃん、コナン君荷物おいてきたらご飯やって」
 和葉ちゃんの言葉にうなずきわたしとコナン君は管理人さんに案内されわたし達は今日から2晩泊まる部屋に荷物を置く。
「蘭ねえちゃんおなか空いたよボク」
「うん、そうだね」
「蘭ねえちゃんってさ、何で地図持ってても迷っちゃうんだろうね」
「コナン君、そう人の弱点を責めないの!ホント新一みたいなんだから」
 とコナン君を見ながら言う。
 案の定コナン君は焦る。
「そそんなことないよハハハハ」
 何がそんなことないよなのよ!
 心の中で毒づきながらも顔では
「そうだね、コナン君は新一と違っていい子だもんねぇ」
 と極上の笑をつかってコナン君を困らせる。
 ……なんか嫌な女になってない?
 知ってる癖して知らないふりするなんて。
 でも、それもこれも全部新一が悪いんだからね。
 分ってるのかなぁそこら辺。
 ばれてるのよ。
 あなたのこと全部分ってるの。
 それなのに何にも言わないなんてずるい。
「ら、蘭ねーちゃん」
「何、コナン君」
「な、何でもない」
「そうやってすぐ言葉止めるのコナン君の悪い癖だよ。ずるいな」
 ずるい。
 言わせるまで追いつめる。
 追いつめて追いつめて、そして、ギリギリまで追いつめて………。
 そして、………あ"ー嫌な女。
 最悪かも。
「ごめんね。蘭ねーちゃん」
 素直にコナン君は謝る。
「冗談よ、いいわよ、気にしてないから。さ、食堂に行こうか」
「ウン」
 無邪気にコナン君は言う。
 新一なんだって思ってていても小学一年生にみえるのは何故だろう。

 蘭の、蘭の、蘭の様子がおかしい。
 誤魔化せたはずだ。
 誤魔化したくはなかったけど、誤魔化せたはずだ。
 蘭の気持ちを知りながら自分の気持ちを蘭に伝えていない今の状況がもどかしい。
 蘭にはコナン=新一ではないとあの時確信させた。
 あれでうまくいくとは思ってないけど、ある程度は大丈夫だろう。
 そう思っていた。
 …キッドに変装してもらってオレの代わりをしてもらうって言う手もあったと思う。
 けど、それは癪だ。
 絶対に避けたい。
 蘭の気持ちを考えれば、それでもいいと思う。
 蘭の気持ちだけならば…………。
 けど、オレの気持ちがあるからどうしようもない。
 オレの変装をしたキッドとうれしそうにしている蘭を見たくはない。
 だから、あの時はあの方法しかなかった。
 灰原の演技でどのくらい誤魔化せたかは分らない。
 幸いだったことは、オレが撃たれて病み上がりだったと言うことだ。
 その割にはいろいろやったけど。
 上から飛び降りたり、立ち回りを演じたり、蘭のこと抱き締めたり…。
 結構オレ、いろいろやってるな。
 でも……蘭の様子がおかしいのは何故だろう。

 食堂に向かうと、すでに服部君と和葉ちゃんがわたし達の到着を待ちかまえていた。
「おー、ねえちゃん、ボウズもきおったか。はよ飯にしようや」
 服部君がわたし達の姿を認めて呼ぶ。
「平次、少しは静かにできへんの?恥ずかしいやんか」
「恥ずかしいことあるか?ほとんどオレらの貸し切りやで。何も恥ずかしいことあらへん」
 まだ、言い合いをしている二人を見ながらわたしとコナン君は指定された席に座る。
「今日の、メニューは……………となっております。ごゆっくりとおくつろぎ下さい」
「すいません、こんなことしてもらっちゃって」
「構いませんよ。我々は会長より皆様方の事を仰せつかっておりますので」
 と、お手伝いの人は言う。
「ここら辺は会長の土地なんですか?」
「そうですね、ここら辺一体すべて長門会長の持ち物になります。あしたは森の方を散歩なさってはいかがですか?」
 と和葉ちゃんの言葉にお手伝いの人は言う。
「では、ごゆっくりおくつろぎ下さい」
 そういってお手伝いの人は下がっていく。
「和葉ちゃん、明日森の方散歩してみる?」
「そうやね、何かロマンティックな森やし。平次、ええよね」
「かまへんけど……」
「コナン君もええよね」
「うん、いいよ」
「なら決まりや。あしたは4人で森の中散歩や」
「はぁーーーーーーーーーーーーオレらもか??自分ら二人で散歩せーよ」
「いやや、どこに変なやつがおるかわからへんやろう。その為の護衛や護衛。アタシと蘭ちゃんの護衛や。よろしく頼むで平次」
「あぁしゃあないなぁ」
 和葉ちゃんの言葉に服部君はしぶしぶうなずく。
「蘭ちゃん。そういやぁ、工藤君に電話した?」
 食後のデザートを食べながら和葉ちゃんはわたしに聞いてくる。
「何で和葉ちゃん?」
「だって、工藤君って気が向いたときだけ電話かけてくんやろ?」
「気が向いたときって言うわけじゃないと思うけど……」
「あ、そうなん?でも、アタシらがここにおるって事知らんで電話かけてきたらちょっと心配するんと違う?」
 和葉ちゃんの言葉にわたしはコナン君を視線の端に入れながら聞く。
「心配…するのかな?わたしばっかり心配するのはずるいじゃない?だから、たまには思いっきり心配させてやるの」
「そうやなぁ、薄情な男よりも優しい身近にいる男の方がよっぽどええってもんやね」
「そうそう、あのね、今学校に新出先生って言うカッコイイ男の先生がいるの」
「ホンマ?」
「うんうん、なんかね、ファンクラブみたいなもの出来ちゃってね、わたしも入らないかって誘われてるんだ」
「へー、でも蘭ちゃんは工藤君おるし、やっぱり入らへんのやろ」
「うんー、最初はね、どうでもいいかなって思ったんだけど………。…浮気っ…って言うのかなぁしちゃおうかなって」
「浮気ねぇ、アタシもしようかなぁ。事件事件ってばーっか騒いどるどっかのアホにアタシはあんただけやないんよって言う感じに浮気したろうか…」
「そうそう、事件事件ってばーっか騒いでるどっかのおばかにわたしが思ってるのはあなただけじゃないのよって言っちゃうの」
「ええね、ええね、それ。どっかでいい男探そうや蘭ちゃん」
「うん……………。でもなぁ」
「そうやねぇ、でもなぁ」
「わかる?」
「わかる!言いたいこと。事件事件ってバーっか騒いどるどっかのアホにやっぱり期待してまうのは何でやろう」
「何でだろう。なんか、ムカツクよね」
「めっちゃ腹たつわ」
 わたしと和葉ちゃんが楽しそうに話しているのをコナン君と服部君は顔を青くしながら聞いている。
「そういやぁ話戻すけど、コナン君や平次はどう思うん?いっぱい心配掛けさせたほうがええ?それとも心配掛けさせないほうがええ?どっちやと思うん?」
 和葉ちゃんがコナン君と服部君に意見を求める。
「え、そ、そうやなぁ、く、工藤に関しては……し、心配掛けさせてもえーんと思うで、なぁ、ボウズ」
「え"、あ、う、えっとぼ、ボクはあんまり新一兄ちゃんには心配させないほうがいいと思うよ、アハハハ」
「お、蘭ねーちゃんちょっとボウズ借りるで」
 と、服部君とコナン君はわたし達の会話から逃げるようにして食事の終わった席を立つ。
「平次のアホ。ホンマにアタシの気持ち気付いてないんか気付いているんか分らへんやんか……」
「服部君、和葉ちゃんのこと好きだと思うよ?」
「ホンマに?」
「うん、服部君、なんだかんだって言っても和葉ちゃんのこと心配してるし……」
「そうかなぁ」
「そうだよ」
 わたしは和葉ちゃんを安心させるように言う。
「そうやとえぇなぁ」
 うらやましい。
 そう思った。
 はっきり自分だって言わないかぎりわたしは安心することが出来ない。
 だから……。
 ……追いつめる。

「蘭ねーちゃんの様子がおかしい?」
「あぁ、どうもおかしい」
「気付いてるって言うんか?」
「あぁ」
 服部とオレは蘭達から離れ、寝室にいる。
「誤魔化せたと違うんか?」
「誤魔化せたはずだ。現に、服部、お前も騙されただろう」
「あぁ、あれにはめっちゃ驚いたわ。工藤が二人おるんやからなぁ。一瞬工藤が分離したと思うたけど、阿笠っちゅうじいさんが作ったなんかで誰かが変装してるんやろうってすぐ分ったけどな。せやけど、前みたいに、思い当たる節はあるんか?」
 服部の言葉にオレは悩む。
 そう、それが今回はない。
 前は蘭の言動は時たま小学一年の江戸川コナンではなく高校生の工藤新一に向けられているものがあった。
 だが今回はそれがない。
 言葉の端はしにたまに出てくる奇妙な思い。
 それが一瞬、気付いているのではないかと思わされてしまうのだ。
 そう、オレだと分っていて…いや、分らないふりをして何か行動を起こしている。
 そんな気がしてしょうがないのだ……。
「追いつめてるんと違うか?」
「誰をだよ」
「工藤に決まっとるやないか」
 オレを………だと?
「そうや、『江戸川コナン』が『工藤新一』だって知っていながら、分らんふりしていると思うんやろ?で、お前はねーちゃんが気付いてるんちゃうか?って思うとる。で、ねーちゃんはお前が驚いたりびっくりしたりするのをじーっと見とる。自分のいうた言葉でや……。その繰り返しでどんどん工藤は追いつめられている寸法や」
 追いつめられてる。
 蘭はオレのことを追いつめているのか?
「たぶんな」
 服部がそう気付いたのなら、多分そうなんだろう。
 蘭………。

 寝るために部屋に戻るとコナン君はベッドの上で仰向けになり考え事をしていた。
 2つ隣の部屋では服部君と和葉ちゃんのケンカが聞こえてくる。
「コナン君、どうしたの?」
「あ、蘭ねーちゃん」
「風……凄いね」
 いつの間にか風が起き始めていたのか、森の奥にあるこの別荘には森の中を走る風が不気味な雰囲気を醸し出していた。
「この辺は風が強い地域だからね。山から吹き下ろしてくる風も強い。森の中を通るからよけいに風が強く感じるんだ」
「詳しいね、コナン君」
「う、うん。ちょっと本読んだから」
「ふーん」
 少しコナン君は慌てる。
 慌てなくてもいいのよ、わたしは気がついてないんだから。
 わたしはコナン君が寝ているベッドに腰かけながら話しかける。
「コナン君、新一…どうしてるかなぁ?」
「な、なんで?」
「ずるいよね」
 そうずるい。
「わたしが逢いたいって思うときには出てきてくれないで、コナン君、新一が出てきたのってぜーんぶ事件絡みよ!!!!許せなーい!!!」
 そう、許せない。
 わたしはあなたのことこんなに想ってるのに、あなたは事件が一番なんて。
「何でもいいから聞かせて欲しいのに。…戻ってくるから待ってて欲しい…なんてずるいよ。新一はわたしの気持ち知ってて言ってるんじゃない」
 と気がつかないふりをしてコナン君に愚痴る。
 コナン君の顔は…見れない。
 見れないよ。
 新一だって分ってて新一の前で分らないふりして新一の文句言ってるんだもん。
 顔なんて…見れないよ。
「新一はどうなのかな、わたしのことどう思ってるんだろう。コナン君、何か聞いてる?」
 コナン君の顔を見てわたしは聞く。
 コナン君は新一と連絡をとっているって言う。
 まぁ、本人だから当然だけど。
「………内緒にして欲しいって言われてるから……言えないよ。ボク」
 そういってコナン君はうつむく。
 やっぱりね。
「そう言うと思った。ずるいなぁ、コナン君も新一も。コナン君、新一にわたしが新一のこと好きだって言ったでしょう」
「い、言ってないよぉ」
「どうだか」
 知らないふりして分らないふりして言うのって結構恥ずかしい。
「ホントに?」
「ホントだよ」
「ホントにホント?」
「ホントにホント」
 どうにも口を割らないコナン君にわたしは方向転換をする。
「怪しいなぁ。おかしいんだもん」
「何が?」
「新一の言動!」
「ど、どこが」
「わたしの気持ち知ってるふうなんだもん」
「そ、そうなの?」
 すると、案の定コナン君は焦る。
「新一ってわたしのこと好きなのかな………。もしかしてわたしだけ好きで新一は他の人が好きだったりして……。やだーそんなの。これは、新たな人探したほうがいいかも。どう思うコナン君」
「や、やめたほうがいいよ。し、新一にーちゃん、蘭ねーちゃんのこと好きだよ、多分」
 かなり焦りを見せるコナン君。
 はーーーーーーーーーーーーーーーーホントに隠してるつもりなの。
 それで、ばれるのよ。
「ねぇ、コナン君、知ってるんでしょう。新一の気持ち」
「……ほ、ほらだって蘭ねーちゃんに待ってて欲しいって伝えてって言ったの、新一にーちゃんだよ……だから、ボク、新一にーちゃんは蘭ねーちゃんのこと好きなのかなぁって……」
 はぁ、自分で何言ってるのか分ってるのかなぁ…。
「まぁ、今日のところは許してあげる。後でホントのこと言わないとただじゃおかないわよ。コナン君」
「う、うん」
「じゃあ、もう今日は寝ようか」
「ウン」
 わたしの詰問にほっとしたのかコナン君は満面の笑をたたえてうなずく。
 とどめ、さしてみようか。
 外は風が吹き荒れてるし。
 電気を消した後、わたしはコナン君に向かって言う。
「コナン君、一緒に寝て欲しいんだけど…いいよね」
「え"っ……………あ、そうか、怖いの蘭ねーちゃん」
「わたしが怖がりだって知ってるでしょ、コナン君」
「…しょうがないなぁ」
 そう言うコナン君に甘えながらわたしは分らない振りをしてベッドに入り込む。
「お休み、コナン君」
「お休み蘭ねーちゃん」 
 なんか……ちょっと………あれだね。
 隣で寝るのってなんか恥ずかしい。
 小さいころは一緒によく寝てたけど、こう改めてわかって一緒に寝るのって…なんか恥ずかしい。
 まぁ、相手は小学一年生と化してるわけだけど。

 蘭の様子がやっぱりおかしい。
 オレは服部の言う通り、追いつめられているのか。
 蘭は何を考えてるんだ?
 わかんねーよ。
 こっちはばれないように行動してんのによぉ。
 多分、十中八九、蘭はオレが江戸川コナンではなく工藤新一だと気付いている。
 灰原の演技だけでは誤魔化せなかったのか…。
 そりゃ、そうだ。
 灰原とオレの性格は違いすぎる。
 ましてやオレは蘭にべったりとついて回ってたけど、灰原は違うはずだ。
 ばれないように、具合が悪い振りをして蘭との接触をなるべく断っていたはずだ。
 しかもあのクールな性格だ。
 おっちゃんのみだったら、灰原とオレが入れ替わっているのなんて分らないはずだ。
 だが、蘭は別だ。
 オレは、蘭の側に常にいた。
 工藤新一として蘭の側にいられない分、江戸川コナンとして蘭のそばにいた。
 蘭は気付いている。
 …………はず。
 そう、今回に限っては断言できない。
 言動や表情は江戸川コナンに向ける表情そのものだ。
 しかも、あまつさえオレの悪口までいいやがる。
 まぁ、それはしょうがないけど。
「浮気…しようかな」
 そう言われたときは正直焦った。
 どうしようもないくらいに。
 全部……話したほうがいいのか……。
 それだけは……避けたい。
 蘭を危ない目に合わすわけには行かない。
 それでなくても、どうしようもないお人よしなのに……。
 蘭……。

「きれいやなぁ、蘭ちゃん」
「そうだね。秋って感じ」
 少しだけ風のある森の中を散歩する。
 秋も深まっているせいか、太陽からの光が葉にによって遮られないので、気持ちがいい。
 時たま強い風が吹いてきて木についている枯葉を振り落としそれがロマンティックな風景を作りだしていた。
「えぇなぁ、なんか。こんなとこ好きな人と二人でおったら、ますますいい雰囲気になると違う?」
「フフフ、和葉ちゃん、服部君と一緒にいたいんでしょ」
「そ、そないなことあらへんよ。……工藤君おったら良かったのにな」
「なんで?」
「そうしたら、蘭ちゃん、工藤君と一緒に森の中歩けるやないの」
 和葉ちゃんは気づかってくれる。
「和葉ちゃん、服部君と一緒に散歩したら」
「え、えぇよぉそんなん」
「わたし先に行くね」
「ら、蘭ちゃーん」
 和葉ちゃんの声を後ろに聞きながらわたしは森の奥へと向かっていく。
 知らぬ間に森の奥深くにまで入ってきてしまった。
 わたしはいまどこにいるんだろう。
 どうでもいいようなそんな感じがする。
 新一を追いつめてどうするんだろう。
 コナン君=新一と知ってどうするんだろう。
 真実は一つしかない。
 新一は前にそう言っていた。
 真実って何?
 あなたのわたしへの真実って何。
 ……………。
 追いつめなくちゃいけない。
 真実があるのなら。
 すでにわたしはその真実を知っていて、それは表に出さなくちゃいけない。
 そう、たった一つだけでいい。
 他の真実はいらない。
 たった一つだけでいいの。
 それさえあれば……、大丈夫なのよ。
「蘭…ねーちゃん」
 呼びかけられる。
 振り向くと息を切って走ってきたコナン君がいた。
「はぁはぁ、あんまり、遠くに行っちゃダメだよ、蘭ねーちゃん」
「追いかけてきたの?」
「ウン。あんまり遠くまで行くと迷っちゃうよ」
「分ってる」
「ほら、行こう」
 新一のしぐさ。
 振り向き方、笑い方、全部新一なのに。
「今行くから、コナン君、待って」
 まだいい、まだ知らないままでいい、そう思った。
 その刹那、突風が吹き、落ち葉があたりをまう。
「どこにも行かないで」
 ふと口に出てきた言葉にわたしは驚く。
 でも、止められない。
「一人にしないで」
「ら、蘭ねーちゃん」
 止められない。
「何も言わなくてもいい。全部言わなくてもいいの。ただ、一つだけ教えて」
「な、何言ってるの?」
 どんどん、追いつめてる。
「一つだけ教えて。君の正体…。わたしは知ってるよ。あなただってこと」
「ら、蘭ねーちゃん」
 追いつめたくないのに、言葉が止まらない。
「全部言わなくて良いの。あなたが君になってわたしに何も言わないって事は何か言えない事情があるんでしょう。分ってる。納得した。だから、全部言わなくて良いから、一つだけ言って。それさえ言ってくれればわたしは安心することが出来るの。不安なの、お願い、言って、君はあなたなんでしょう」
 追いつめたくないのに。
「蘭ねーちゃん」
 苦しそうな顔でコナン君はわたしを見る。
 もう誤魔化しきれないそう思ってるのだろうか。
「お願い、全部知りたいとは思ってない、一つだけ……たった一つの真実だけでいいの」
 たった一つの真実さえもあなたは教えてくれないの?
 ……。
「…………限界………だな」(世紀末の魔術師の時の奴でお願いします)
 長い長い沈黙の後、そう言って彼は眼鏡を外した…………。

 オレと服部はのんびりと先を歩いているはずの蘭達の後をついていた。
 だが、追いついたときには、蘭は先にいって和葉ちゃん一人が待っていた。
 彼女を服部にまかせ、オレは蘭の後を追いかけることにした。
 蘭の様子がおかしい。
 それはずっと思っていたことだ。
 オレがコナンに戻ってから蘭は、オレ…工藤新一…のことを気にしないように行動をしていた。
 あれで誤魔化すことが出来て大丈夫なんだと思ってた。
 そして、オレはいつも通りの行動をとっていた。
 まさか、オレの正体が蘭にばれているとは思わずに…。
 確信はない。
 蘭の行動も怪しいところはない。
 蘭がオレに向ける視線や言動は小学一年生の江戸川コナンに向ける視線そのものだった。
 蘭を見つけた。
 森の中で静かにたたずんでいた。
 何故か、消えそうで怖くなった。
「蘭!…ねーちゃん」
 思わずそのまま呼んでしまったが誤魔化しながらその後をつける。 
 静かに蘭はオレの方を振り向く。
「はぁはぁ、あんまり、遠くに行っちゃダメだよ、蘭ねーちゃん」
「追っかけてきたの?」
「ウン。あんまり遠くまで行くと迷っちゃうよ」
「分ってる」
「ほら、行こう」
 消えそうな蘭をオレは促すように帰り道を急ぐ。
「今行くから、コナン君、待って」
 そう呼び止められた。
 その刹那、突風が吹き、落ち葉があたりをまう。
「どこにも行かないで」
 ふいに聞こえた言葉に身体が止まる。
 今、なんて言った?
「一人にしないで」
「ら、蘭ねーちゃん」
 オレは慌てながら蘭に言う。
「何も言わなくてもいい。全部言わなくもいいの。ただ、一つだけ教えて」
「な、何言ってるの?」
 蘭の言葉がオレの中に湯水のように入っていく。
 止めようとしても止められない。
「一つだけ教えて。君の正体…。わたしは知ってるよ。あなただってこと」
「ら、蘭ねーちゃん」
 オレの正体?オレだって事……。
「全部言わなくていいの。あなたが君になってわたしに何も言わないって事は何か言えない事情があるんでしょう。分ってる。納得した。だから、全部言わなくて良いから、一つだけ言って。それさえ言ってくれればわたしは安心することが出来るの。不安なの、お願い、言って、君はあなたなんでしょう」
 蘭の言葉に頭がまわらなくなる。
「蘭ねーちゃん」
 もう、誤魔化ししきれないのか。
「お願い、全部知りたいとは思ってない、一つだけ……たった一つの真実だけでいいの」
 たった一つの真実…………。
 蘭………。
「…………限界………だな」
 長い長い静寂の後、そう言ってオレは眼鏡を外した…………。
 強い突風があたりを巻き起こす。
 落ち葉が空から振ってきて蘭の上に降る。
「蘭………いつから、気がついていた………」
 蘭を……蘭のことを守れるのだろうか。
 オレだと言って。
 オレは工藤新一だと言って。
「………いつだろう……。疑問に思ったのは…最初はお医者さんの手を見てあなたは外科医ですねって言ったときかな」
「あれが最初か」
 確かにあの時、蘭に詰め寄られたっけ。
「その後うまい具合に誤魔化されたけど。あの電話誰だったの?」
「阿笠博士だよ。阿笠博士にうまいことやってもらってた」
 そう、阿笠博士に変声機でオレの声だしてもらったっけ……。
「次が、マジシャンの事件だったかな…あの時九十九元康さんと一緒に撮った写真を見て、そうそう、その前にメガネ外したのを見たんだっけ」
「ハハハあんときはめちゃくちゃ焦ったな。メガネで誤魔化しているとは言っても外したら、オレの子供の時だもんな」
 オレは軽く笑う。
「ホントよね。それであなたのお母さんが出てきてうまい具合に誤魔化されて」
「母さんは知ってたからなオレがこんな姿になったって事」
「確信したのはトロピカルランドのスケート場」
「滑れない振りして……園子の叫びを聞いて滑ってた事?」
「うん、あとは…………米花センタービル展望レストラン……かな」
 あそこはオレが新一からコナンに戻ったところ。
「戻って来たとき言ったでしょう。あのセリフ聞きながら、凄くつらそうでもしかするとわたしよりつらいのかなって思ってた」
「蘭……」
 オレの言葉……を聞いたとき蘭はオレに何も言わなかった。
 だから、オレは思った。
「蘭の中でオレはまたどこかに行ったと考えた」と。
 実際はそうではなかった。
 蘭は、コナンはオレだと認識しながら、それを奥底に追いやったんだ。
 長い沈黙があたりを支配する。
 その沈黙を破ったのは蘭だった。
「安心した」
「何が?」
「どっか知らないところで苦しんでるんじゃないってわかって。わたしの知らないところで苦しんで欲しくないの」
 そう言いながら蘭はオレの腕を引き抱き締める。
「良かった……」
「ら、蘭……」
 な、何で急に抱き締めるんだよ
「何?」
「あ、あのさく、苦しいんだけど」
 まわらなくなりそうな頭でオレは蘭に言う。
「良いじゃないの、なんか小さくなった新一って可愛いんだもん」
「おい」
「ダメ?」
 甘えるように蘭は言う。
「あのさぁ」
「嫌とはいわせないわよぉ。さんざんわたしのこと騙してきたんだから罰」
 ふぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーん。
 何でこんなことになるんだよぉ。
 ふと、逆襲を思いつく。
「どうなってもいいなら、それでいいけど」
 蘭の耳元でささやく。
「え"、それってどういうこと?」
「どういうこともこういうこともねーだろ」
 そう言ってオレは蘭の頬にキスをする。
「ちょ、ちょっと……」
 そう言って、蘭はオレの言葉に手を放す。
 小学一年生にこれ以上、何が出来ると思ってるのかね。
 こいつは。
 たぶん、感覚は高校生になってるんじゃねーのか?
「コナンくーん。蘭ちゃーん、どこにおんの?」
 遠くから和葉ちゃんの声が聞こえる。
「蘭、行くぞ」
「ウン」
 先に歩くオレに蘭は言う。
「新一、全部終わったら、全部言ってね。待ってるから」
「わーってるよ」
 蘭が聞かないのは蘭の優しさなんだ。
 そう思った。
 できる限り、蘭のことを守ろう。
 どのくらい出来るのか分らないけれど。
 蘭はオレがいなくなったらどうかなってしまうだろう。
 どこにも行かないで、どうにか出来るのだろうか……。
 するしかない、オレのために泣いてる蘭のために……。

 先を歩く新一(コナン)をみてふと浮かんだことを思い出した。
 和葉ちゃんが近くにいるので名前は呼べないが。
「コナン君、昨日わたしが言ったこと覚えてる?」
「昨日蘭ねーちゃんが言ってたこと?」
「ウン。コナン君は新一の気持ち知ってる?ってこと。教えてってわたしが言ったのに、新一に黙っててって言われたから、コナン君は黙ってるんだよね」
「う、うん」
「じゃあ、教えて」
 暗に、『わたしの気持ち知ってるのならあんたの気持ちを教えなさい』って言ってるようなもの。
 わたしは、二回も告白してるのよ!!!
 教えなさい、新一。
「たぶん……好き……だと思うよ」
「多分?思う?はっきり言いなさい!!!」
 ちょっと、意地悪かな。
「す、好きだ…って……言ってたよ」
「ま、良いでしょう」
 まぁ、後は全部終わってから聞くわ。
 それまで待ってるから。

おまけ:蘭が新一=コナンを追いつめているころの平和。
「なんで、アタシが平次とおんなじ部屋なん?」
 和葉は部屋に入るなり平次に文句を言う。
「しゃーないやろ。会長ハンの別荘なんやから。客間が少ないっちゅうのはわかっとたやろ」
「それはええよ。アタシもわかっとった。でも一番の問題は、何で平次と一緒に寝なあかんの?」
 そう、平次×和葉の部屋はクィーンサイズのダブルベッド一つだった。
「いやや、平次と一緒なんて……。」
 泣きだしそうな和葉に平次は言う。
「和葉」
「な、何やの?」
 平次の真剣な顔に和葉は緊張する。
「(こ、告白やったらどうしよう。和葉、オレ、お前が好きやなんてきゃー恥ずかしいわ)平次、何やの?」
「和葉、ダブルベッドで二人で寝てるからいうてやらしーまねすんなや」
「アホ、平次!!!それは女のアタシのセリフやんか!!」

*あとがき*
ばれても良いと思った編(改訂版)。
蘭ちゃんが有希子ママは好きな女優の一人と言ってるので、一部変更。
(でも目暮警部大ファン説は残り!) 森のイメージは27巻の表紙!!!枯葉の舞うシーンはやっぱり14巻かな(笑)



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