Boy Meets Girl 宝物を探しに行こう!!?

「しんいち、きょうはどうするの?」
 らんがおれのかおをみてきく。
 きょうはいえのなかをたんけんできない。
 とうさんのたいせつなおきゃくさまがくるんだって。
 だから、きょうはとなりのいえにすんでいるへんなおじいちゃん、『あがさはかせ』のいえにたんけんなんだ。
 まえ、いったときなんかおもしろそうなものすっげーいっぱいあって、だから、オレ、それであそびたいとおもったんだ。
 だから、らんもつれていく。
 らんはまだはかせにあったことねぇんだよな。
 なんかけんきゅうしてるらしくっておれもきょうではかせにあうのは3かいめだ。
 とうさんはなんどもはかせとはなしてるみてぇだけどな。
「きょうは、となりの『あがさはかせ』のいえにいくぞっ」
 そういってオレはらんをつれてはかせのいえにむかう。
「まってよぉしんいちぃ」
 オレがさっさとさきにいってしまったのでらんはこころぼそくなったのだろう。
 おれのあとをいっしょうけんめいついてくる。
「きょうはおかあさんにおこられるってことないよね」
「?どういうこと?」
 らんのことばにおれはくびをかしげる。
「だってこのまえしんいちのあとついてったらどろだらけになっておかあさんにおこられたんだからね。」
 そのせいでおれはらんのおかあさんにおこられた。
 そういったって、けっきょく、よごれちまうんだよな。

「何してるの?」
 家中を歩き回っているオレと、遊びに来た服部を見て蘭が不思議そうに聞く。
「何って探検」
「どこを?」
「この家の中」
 そう言いながら、オレは家の中を見回す。
 家とはもちろん、オレが住み慣れた米花町2-2-1にあるオレの家。
「誰が?」
「オレと服部が」
「何で今更」
「しかたねーだろ。服部が探検をしたいって言うんだから」
 そう、今更だが何度もオレの家に遊びに来ている服部が、家の中を探検してないと言い出したのだ。
 オレだって服部の家探検してねーぞ。
 ってそう言う問題じゃねぇか。
「先に言っておくけど倉庫とか、屋根裏部屋とか、地下室とか、隠し部屋とか、隠し通路とか、ほとんど掃除してないからね」
 オレと服部を蘭と和葉ちゃんは呆れた顔で見ている。
「探検って…平次、小さい頃さんざんしたんと違う?」
「工藤の家はしてへんやろ」
 和葉ちゃんの言葉を交わし、服部はオレをつれ部屋から出ていく。
「地下室はあると思うてたけど…隠し部屋や隠し通路って何のために作ったんや?」
「父さんが趣味で作った道楽部屋だよ。まぁ、言い換えれば、原稿の催促に来た担当からの逃亡する場所」
 部屋はその場しのぎの場所で通路は本格的な逃亡手段だよな。
 逃げること考えるんだったら、先に書けっていうんだ。
「隠し部屋ってどこにあるんや」
「父さんが常日頃いる仕事部屋。つまり、書斎ってわけ」
「あの書斎に隠し部屋なんてあんねんや」
「行くか?」
「当たり前や!!」
 人のこと…言えないけど…服部ってやっぱ好奇心旺盛だよな。
 書斎に入り、たくさんの手順を踏んで隠し部屋をあける。
「おもろいしかけつくったんやなぁ」
「まぁな、隠し部屋を作るのは父さんの夢だったらしくってさ、阿笠博士にいろいろ聞いてたよ。博士は設計もできるからな」
 オレの説明を流して聞いているのだろう、服部はそこら中をさわりまくる。
「服部、あんま面白いもんなんてねぇぞ」
 そう言うオレの言葉を遮るように服部は一つの箱をオレに見せる。
「なんやこれ、からくり箱か?」
「…これ…どこにあった?」
 服部の質問に答えずオレはその箱があった場所を聞く。
「その、テーブルの上や」
 と小さなテーブルを服部は指さす。
 こんな所にあったとは…。
 探してもみつからねぇはずだよ。
「何、にやにやしてんねん。このからくり箱中身なにはいってんねん」
 服部はオレの顔を見ながら箱を振る。
「なんで、言わなきゃ何ねぇんだよ。それに、箱を振るなよっっ」
「かまへんやろ。言わへんのやったら開けさせてもらうわ」
「お、おい…」
 勝手にあけんじゃねぇよ。
 そのからくり箱は…4歳の時博士からもらったもので…その中にはっっ。

「あがさはかせ、いる?」
「おー新一君、来たか。あがってもいいぞ」
 玄関で博士の声を聞いたオレと蘭は博士の家に入る。
 いつものように蘭はオレの後ろにぴったりとついている。
 たいてい初めての所に行くときは蘭はオレの後ろに隠れている。
 何かあったらいやだからだそうだ。
「よく来たの、ん?そのこは…」
 オレの後ろにぴたっとついている蘭に博士は不思議そうに目を向けた。
「らん、おれのともだちっっ」
「はじめまして、もうりらんです」
「なるほど、新一君のガールフレンドか。新一君とお似合いじゃのぉ」
 博士の言葉にオレと蘭は照れる。
 気恥ずかしさに、視線をあたりにはわすと犬が見えた。
 正確には犬のロボット。
「これなーに?」
 蘭も気づいたらしく博士に聞く。
「これは、番犬ロボットじゃよ。人の気配を感知して、ほえるんじゃぞ。そのうち動くようにもしようかと思ってな」
「すげー」
 博士の説明にオレと蘭は目を輝かせる。
「はかせ、これうごくのか?」
「えっうごくのぉ?」
 オレの言葉に蘭は不安がり博士は応えた。
「うごくぞい。どれ、動かしてみるか?」
「あぁ」
 うなずいたオレをみて博士はロボットに近づき操作し始める。
 蘭は怖いのかまたオレの後ろに隠れそこから顔を出しロボットの様子を見つめる。
「ん?」
 博士が疑問の声を上げる。
「どうしたんだよ、博士」
「おかしぃのぉ」
 ロボットのありとあらゆる場所を見ながら博士は呟く。
 まさか…。
 いつもの…オレが見てきただけで今回で3度目のそのことが頭をよぎる。
「はかせ…こわれてんじゃねぇの?」
「まさか、…そんなわけが」
 オレの言葉に反論する博士だったが、見る見る間に声が小さくなっていく。
「こわれちゃったの?」
「いつものことだよ、らん。はかせ、ちがうのみてもいいか?」
「かまわんが…あまりさわらんようににな。何かあったらわしをよぶといい」 
 博士の言葉にうなずき、オレと蘭は珍しい物がたくさん転がっている博士の家の探検を始めたのだ。
 蘭は博士の家に上がってきたと同じようにオレの後ろに隠れる。
 隣の部屋にオレと蘭は入った。
 その部屋は電気もついてない薄暗い部屋だった
「きゃっっ」
 蘭が小さな叫び声をあげる。
「らん、どうしたんだよ?」
「なんかおしちゃったぁ。どうしよぉ、変な物だったら」
 その瞬間、曲が鳴り響いた。
 あたりを見回すと、部屋の入り口の所にあるテーブルで曲にあわせて踊っている何かがあった。
「なに…これ」
 影も形も存在しないそれは立体映像だった。
「これは、立体映像じゃよ。ホログラムというんじゃ」
 蘭の声と、音楽を聞きつけて博士がやってきた。
「ここ、見てごらん。ここから映像を投射させておるんじゃよ」
 テーブルと思われていたそれは巨大な映写機でそれから立体の映像としてくみ上げておるんじゃ。すごいじゃろ」
 目を輝かせ見ているオレと蘭に向かって博士はそう言った。
「なあ、はかせ、ほかは?ほかにおもしろいもんはねぇか?」
「そうじゃのぉ、おもしろいものか…。この箱なんてどうじゃ新一君」
 そう言って博士はオレに一つの箱を見せる。
 木で出来た幾何学模様のついた箱。
 蓋がどこにもない。
 博士は確かに箱と言った。
 箱と言うからには何かを入れるものだが、入れるためには蓋を開けなくてはならない。
「なあに、それ?」
 蘭がオレの後ろからのぞき込む。
「んーなんだろう。ふたがねぇんだよな…。ん?」
「どーしたの?」
「ここ…うごく」
 そう言ってオレはその動くところを動かし始めた。
「これは寄せ木細工と言ってな、いろいろな木を集めてそれを模様にしている伝統工芸品なんじゃよ。そして、これはその寄せ木細工の最大の特徴木をあわせて作ることから出来るからくり箱何じゃ。新一君にこの箱が開けられるかのぉ?開けられたらあげてもいいぞ」
「ホントに?」
「開けられたらじゃがの」
 博士の言葉にオレはうなずきからくり箱を開ける作業を行っていく。
「あいた」
 ものの数分もしない間にからくり箱は開く。
「うわぁ、はかせ、しんいちあけたよ」
 蘭が歓声をあげ博士を呼ぶ。
「お…開けたのか」
「うん、かんたんにあいたよ」
「簡単に…わしなんか開けようとしても開けられなかったんじゃぞ。まぁいい。約束通り、それは新一君にあげよう。何でも好きなもの入れると良いぞ。大切な宝物なんてあるかな?それを入れると良いじゃろう」
 博士はそう言う。
「しんいち、わたしのもいれていい?」
 蘭がじっとオレを見る。
「うん、いいぜ。らんのもいれてやるよ」
「やった」
 オレの言葉に蘭は嬉しそうに言った。

「工藤、開いたで」
 服部が得意満面の顔でオレに言う。
「こういうのは、手順さえきちんと踏めば開くんやで」
「勝手に開けるなっていっただろ」
 オレの声を無視して服部は中をあらためる。
「なんやこれは・・・。工藤、嫌がったわりには、お前のもんがあらへんやんか・・」
 服部は箱の中身を、オレにみせながら言う。
 確かにそこにオレのという訳にはいかないものが入っていた。
「誰のやねん」
「見れば分かるだろ。蘭のだよ」
「じゃあ、お前が嫌がる必要あらへんやんか」
「おめぇには関係ねぇだろ」
 オレはそう服部に言い放って中に入っていたものをもって部屋を飛び出した。
「どうしたの?新一」
 リビングでは蘭と和葉ちゃんが楽しく会話をしていた。
 それを持って蘭の元に来たのは良かったけど…突発だったからなんて言っていいか頭が回らない。
「えっとさぁ…」
「工藤君、平次書斎におるんよね」
 言いよどんでるうちに和葉ちゃんがリビングを出ていく。
「どうしたの?」
「蘭、これ覚えてるか?」
 そう言ってオレは手に持っていた物を蘭に見せる。
「あ、ガラス細工のウサギとペンギン。わたし、これ探してたんだよ。どこにあったの?」
「寄せ木細工のからくり箱、覚えてるか?」
「……あっ博士の家にあった物だよね」
「そう、あれを空けられたら博士が箱をくれるって言ったからさ、オレそのからくり箱を開けて」
「で、博士が大切な物入れなさいって言ったんだよね」
 蘭が思い出したように言う。
 そのとき蘭が入れた宝物がガラス細工のウサギとペンギン。
 よく縁日で売っているあれだ。
「絶対なくさないようにってその中に入れたんだっけ…。でもどこに入れたか忘れちゃうようじゃだめだよね。ところで新一の大切なものって何だったの?」
 えっ…。
 いきなり、オレに振るなよ。
「結局わたしに教えてくれなかったよね。今だったら良いでしょ。教えてよ」
 あのときオレが入れたのは…蘭と一緒に行った縁日(ガラス細工のウサギとペンギンを買った縁日)で…蘭に内緒でこっそり買ったものだ。
 そのとき蘭は確か、他の物に夢中になっててオレが何買おうかなんて気にしてなかったはずだから。
「蘭、目をつぶってじっとしてて」
「へ?」
「良いからオレの言うとおりにして」
 オレの言葉に不安になりながら蘭は目を閉じる。
 もともと…そう言うために買ったわけだし。
 オレが…きらきらしてるから蘭が喜びそうだなって思って見てて…それを父さんが
「あげたら蘭ちゃん絶対喜ぶぞ」
 っていったから。
 だから…蘭の為に買ったんだけど…なかなかあげるタイミングが見あたらなくって…だから…そのままからくり箱の中に入れておいたんだよな。
 そのままわすれて…今は…。
「やっぱ…小さかったか」
 思わず苦笑する。
 蘭の指は細いけど…子供用の小さなおもちゃみたいなビーズの石が本物の石の様にはまった指輪はさすがに薬指にははまらなかった。
「新一?それ…」
 蘭が目を開けて小指にはまっている指輪に驚く。
「オレの大切なもの。それ、蘭がウサギとペンギン見てる最中に買った指輪。きらきらしてるだろ?だから、蘭が喜びそうだなってじっと見てたら父さんが蘭にプレゼントしてあげろって……いうから…」
 蘭がじっと見てるから顔がどんどん赤くなってるのがわかるような気がする。
「ホントきらきらしてて綺麗だよね」
 蘭は指輪をすかすように手を上に掲げる。
 すごく…嬉しそうで…やっぱりあげて良かった。
 っていうか…オレって蘭が喜んでるのを見るのが好きなんだなぁって改めて思っちまったじゃねぇかっ。
「ありがとね、新一」
「バーロ、ガキの頃の奴だぜ。礼言うほどのもんじゃねぇだろ?それよりさ…あとで……ここにもやるよ…」
 オレは、上にかざしている左手をとり薬指の付け根に口唇を落とした。
「し…新一っ」
「なんだよ。照れんじゃねぇよ」
「だって…恥ずかしいんだもん」
 そう言って蘭はオレから顔を背ける。
 ったく…恥ずかしそうにすんじゃねぇよ。
 恥ずかしそうにうつむいてオレの方を見ない蘭を抱き寄せる。
「しんいちっ。和葉ちゃん達居るんだよ。こんな所みられたら……」
 抱き寄せたオレに蘭は抗議の声を上げる。
 心配しなくっても平気なのに。
 和葉ちゃんはたぶん書斎に行ったんだろう。
「心配する必要ねぇよ。あの二人は当分ここには戻ってこねぇよ。あの部屋には珍しいもん結構いっぱいあっからな。それに、隠し部屋も開けたんだぜ?早々戻ってこねぇよ」
「新一」
「何?」
「んーーーーーーーーーーーー」
「なーんだよ」
「何にもしないわよね」
 蘭が顔を上げてオレを真摯に見つめてくる。
「何もって何?」
 蘭の言葉にわからない振りして聞き返す。
「何って……」
「何かしてほしかったわけ?」
「サイテーッ」
 そう言って蘭は怒り出す。
 ったく…そうおこんじゃねぇよ。
「誰のせいだと思ってるのよ」
「オレ」
 蘭の言葉にオレはにっこりと応える。
「開き直ったでしょうっ。どうしてそこで開き直るわけ?」
「ついって…言ったら怒る?」
「怒るわよっ」
 なんか…オレ…どんどん…蘭のこと怒らせてるような気がする。
 まぁ、空手使わない限り絶対大丈夫だから…。
 つい怒らしちまうんだよな。
「ったく…何にもしねぇよ」
 怒らせたままじゃ何なのでオレは蘭に謝る。
 そうしながらも蘭の耳にキスをする。
「ちょ…っちょっとぉっっ。何にもしないって言いながらしてるじゃないのよぉ」
 キスした耳を片手で隠しながら蘭はオレをにらみつける。
「少しぐらいは良いじゃねぇかよ」
「よくないっっっ!!!新一のバカっっ」
 とうとう蘭は完璧に怒ってしまった。
 その後…蘭の機嫌を取り戻すのに1日中かかったのは言うまでもない。

*あとがき*
小さい頃の新一×蘭。
時間軸は「君に逢うために〜」の最初の平和が遊びに来たときかな?
初ダブルデートのトロピカルランド前後あたり?か番外編にある花水木の近辺。


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