Happy Birth day 4:とっておきの2日間

 もう少しで、新しい1日が始まる。
 まだ、わたしの新しい1日は始まっていない。
 だって…まだ起きる時間じゃないもの。
 鳥の声が部屋の外から聞こえる。
 普通だけど、幸せな一日が始まる。
 うつろな意識でぼんやりと目を覚ますと、見覚えのある顔がわたしのことを覗いていた。
 世界中で一番大好きな、推理バカ。
 めったに見せてくれない、穏やかな笑顔。
 深い深い青いグランブルーの瞳で静かに微笑んでいた。
 どうしているんだろう…。
 あぁそっかぁ…わたしまだ夢見てるんだ。
 そうだよね、こんな朝早くからいるわけないもん。
 わたしってばほーんと好きなんだなぁ。
 なんか笑っちゃう。
 どうせ、あいつはまだ寝てるんだから。
 昨日の夜に推理小説とか読んでたなんて言い訳するのよ。
 分かってるんだから…。
 でも幸せ。
 目覚める直前に夢見ちゃうんだもんね。
 夢なんだから、いろいろ想像しちゃお。
 穏やかな笑顔でわたしのことを見つめてくれている彼はそっと額にキスしてくれて
「おはよう、蘭」
 っていってくれるの。
 そう、こんな風に……?????
 へ?
「いつまで寝てんだ?蘭、早く起きねぇと遅刻しちまうぞ」
 と微笑んで新一はわたしに言う。
「って…新一、何でいるのよぉ」
「なんでって…朝だから。起こしに来たんだよ」
「起こしに来たって……」
 いつもはわたしが起こしに行ってるんじゃないの。
「早く起きて着替えろよ。朝飯作ってあっからさ」
 そう言って新一はわたしの部屋をでていく。
 疑問が頭の中を渦巻く。
 まず、なんで新一がいるのかって事。
 後、お父さんはこのことを知ってるかって事。
 訳がわかんないよぉ。
 取りあえず、制服に着替えて、居間にでる。
「蘭、顔あらってこいよ」
 新一の声が台所から聞こえる。
「分かってる…」
 新一の言葉に返事してわたしは洗面所に向かう。
 お父さんは…いないらしい。
 なんでいないの?
 考えてはいてもしょうがないから取りあえず、鏡の前で身支度を整える。
 そうして、居間に戻ってきたときには既に朝食がテーブルに並べられていた。
 ミルクココアとトーストに目玉焼き。
 そして、それがもう一つ。
 ミルクココアのかわりにブラックのコーヒー。
 それは新一の分らしい。
 新一って朝起きるの遅いくせに、しっかりと朝食はとるのよね。
「蘭、さっさと食っちまおうぜ」
 新一は座ってわたしを促す。
 そうしてわたしと新一は朝食をとる。
「ねぇ、新一。お父さんは?」
「おっちゃん?おっちゃんだったら、仕事とか言ってたなぁ」
 さらりと新一は言う。
 えぇ?
 わたしそんな話し聞いてないよ。
「仕事って…どこか行ったの?何か聞いた?」
「別に、特別には言ってなかったぜ」
「行き先も?」
「あぁ」
 珍しい。
 行き先も言わないでお父さんが出掛けるなんて。
「まぁ、行き先を言わないって事は、言ったら絶対に蘭が怒るところか…恥ずかしくって行くなんて言えない英理さんのマンションじゃねぇの?」
「でも、お母さんから何も聞いてないし」
「いちいち言うかよ」
 なんか心配。
 そうこうしているうちに登校の時間がやって来る。
 朝ご飯の後片づけは新一がやってくれた。
「オレが作ったんだから、オレが片づけるのが当然だろ?」
 そう言って。
 家中の戸締まりをしてわたし達は学校に向かう。
 まぁ、たまには新一が朝迎えに来てくれるって言うのも悪くないわよね。
「そうだ、新一。どさくさに紛れて言えなかったけど、どうしてわたしの部屋にいたのよ」
「え?別に。朝早くにおっちゃんが出掛けたところであったから、おっちゃんいないならいいやって思ったからだぜ」
 さらりと言う新一に、わたしは何故か疑問を持った。
 なんか……本当のことからはぐらかされてるような気がする。
 気のせいかな?
 それが気のせいじゃないと気づくのは学校についてからだった。
 いつもの交差点のところで園子と落ち合い、わたし達は学校に向かう。
 徒歩圏にある帝丹高校はあるいて20分もかからない。
 朝、挨拶してくる友達に、新一が何故か威嚇してるような感じに気がつく。
「新一?どうしたの?」
「え?なにが」
 何でも無かったようなそぶりで新一はわたしにニッコリと微笑んだ。
 教室に入り、やっぱり、新一は威嚇してるような気がする。
 なんで?
「園子…新一、なんか変じゃない?」
「確かに、まぁ、何かたくらんでる顔してるけどねぇ」
「たくらんでるって何を?」
「まぁ、アヤツのことだから…蘭に関することだとは思うけど。まぁ、どうせよからなぬたくらみに決まってるわよ」
 園子はくだらないと言った調子で冷笑する。
 そうなのかなぁ。
 ちょっと疑問。
 休み時間、わたしは園子と志保さんと会話。
 で、そこにいるのは何故か新一。
「ねぇ、新一。何でここにいるの?」
「なんでって別に」
 わたしの隣に新一は座っている。
「嫌?」
「嫌って言うわけじゃないけど…ねぇ」
 わたしは園子と志保さんに視線を向けると二人は頷いてくれる。
「あ、そうだ。忘れないうちに言っておくわ。蘭、明日…」
 明日?
「明日はあんたの」
 園子がその後を続けようとしたときだった。
「まった園子っ」
 新一が園子の言葉を遮ったのだ。
「何よぉ新一くん」
「ちょっと」
 そう言って新一と園子は行ってしまった。
「全く、なんだって言うのよ。志保さん、新一が何考えてるか分かる?」
「さぁ」
 二人が席に戻ってきたときは何故か二人揃って満足げな顔。
 訳がわかんない。
 授業が始まり、そして次の休み時間に入ったとき、わたしは呼びだされる。
 呼びだした相手は隣のクラスの男の子。
「毛利さん、ちょっといいかな?」
「えっ……何?」
「言いたいことがあるんだ」
「言いたいこと?」
 隣のクラスの男の子の言葉にわたしは首をかしげる。
「あのさぁ、明日…」
 その瞬間だった。
「蘭、次、移動教室だぜ」
 何故か、さっきの園子のときのようにタイミングよく、新一がわたしに声を掛ける。
 次は理科で突然、化学室に移動になったらしい。
 クラスメートは実験用の白衣を身に付け教室をでていく。
「分かった。ごめんで話しって何?」
「あっ…えっと…あの………っ」
 突然、その男の子はしどろもどろになってびくびくし始めた。
「どうしたの?」
「あ…いや、何でもないんだ…ごめん」
 そう言って隣の教室に戻る。
「蘭、白衣」
 新一に手渡された白衣を着て新一と共に化学実験室に向かった。
「蘭、あのさぁ」
 実験室で同じ班の女の子がわたしに言う。
「F組みのね私の友達が蘭に話しがあるんだって」
「話しって?」
「ほら…明日休みでしょう」
「そうだね」
「でね……」
「蘭をデートに誘うって言うの?ダメよ。明日はわたしと遊ぶんだから」
 そう言って園子はわたしと同じ班の女の子との会話に乱入する。
「あっそうじゃなくって」
「ともかくダメよ。蘭は放課後から明日まで用事があるんだから」
 とこの後のスケジュールを園子は言っていく。
 ……新一と園子が会話してから園子の様子もおかしい。
 何でよぉ。
 明日ってなんかあった?
 明日って…あ、わたしの誕生日だ。
 でも、なんで?
 それが理由にはとてもじゃないけど思えないよ。
 でもなぁ、何考えてるんだろう。
「そう言えば、工藤君、今日ずっとあなたの側にいるわね」
 志保さんの言葉にハッと気づく。
 そう言えば…確かにそうかもしれない。
 教室でも、教室移動するときもそう朝からずっと…。
 今だってわたしの顔をみてニコニコと笑ってる。
「別に、意味なんてねぇよ」
「あら悪いけど、わたしにはとてもじゃないけどそうは思えないわ。何か裏があるとしかね。だいたい、想像はついてるけど」
「えっ……オメェ…まさか」
 志保さんの言葉に新一は焦りだす。
 もぉ、一体なんなのよぉ。
「やっぱりそうなのね。まぁ、安心して。わたしはまだ言ってないから」
「言うんじゃねぇぞ」
「言わないわよ。工藤君」
 新一と、志保さんの会話の内容がわからない。
 一体何を言うとか言わないとかなの?
 聞いても新一は教えてくれない。
 志保さんはただ
「工藤君に聞いてみたら」
 って微笑んでるだけだし、園子にいたっては、
「まぁ、新一くんらしいわよね。考え方が」
 とからかうように笑う。
 全く分からないまま、学校が終わる。
 部活は今日は無いからまっすぐ家に…と言うか、明日は日曜日の為に新一宅にお泊まり。
「新一、買い物つきあってよ。わたしお昼とそれから夕飯作るんだから」
「昼は食ってこうぜ。夕飯のはもう準備してあるから。へーき」
 へ?
 平気ってなにが?
「だから、買い物は昨日のうちからしてるから平気。早く行こうぜ」
 そう言って呆けているわたしの腕を取ってファーストフードに向かった。
 そして家に帰る
 新一の家に泊まるときは制服から着替えていく。
 だから、家に一旦帰るんだけど…。
 お父さんがいないことをいつも祈っちゃうのよねぇ。
 まぁ、いたらいたで、園子の家に泊まるって言うんだけど…。
 下で事務所の窓を見上げて確認する。
 窓は、しまってる。
 階段を上り、事務所のドアノブに手をかけ確認。
 鍵もかかってる…。
 って事は、お父さんいない!!!
 よっぽどじゃないかぎり、お父さんが自宅にいるって事ないもんね。
 そう言えば、お父さん朝から出掛けてるんだった。
 行き先も言わない出掛ける所ってどこだろう。
 自宅に戻り着替えて取りあえず、お父さんに書き置きを残す。
「蘭、今日、オレんちに泊めるっておっちゃんに言っておいたから。書き置き必要ねぇぞ」
 いつの間にか新一が居間の入り口に立っていた。
「…お父さん、なんて言ったの?」
「別に?あぁそうかって言ってたぜ」
 ウソォ。
 新一の言葉ににわかには信じられなかった。
 だってお父さん、新一のこと嫌いなんだよ。
 それなのに。
「ホントにそれだけ?殴られたりとか、一本背負いとかされなかった?」
 心配になって新一に聞く。
「大丈夫だって。なんにもされてねぇよ。それより、蘭、行こうぜ」
「う…うん」
 そうしてわたし達は新一の家に向かった。
「じゃあ、蘭は座ってって」
 家に着くなり新一はわたしをリビングのソファに座らせ、自分は台所に立つ。
「良いか、絶対こっち来るなよ」
「うん…分かったけど…どうして?夕飯だったらわたしが作るよ」
「いいから、蘭は座ってるっ」
 新一の言葉に素直に頷く。
 時間はまだ早い。
 取りあえず、身近にあるものを手に取ってはみても…なんか暇。
「新一」
「何?」
「暇…なんだけど」
「うん…」
 なんか返事が生返事。
「蘭」
「何?」
「コーヒー飲む?それとも紅茶の方がいい?」
「コーヒーで良い」
 数分後新一がコーヒーを入れてリビングに入ってくる。
「夕飯作ってたの?」
「一応ね」
 コーヒーをわたしに出して新一は隣に座る。
「そろそろ教えてくれない?」
「なにが?」
「なにがって……」
 ふと思ったけど…何を聞けば良いのかなって考える。
 新一がずっと側にいてくれること?
 これは別にいいかなって思う。
 側にいてくれないより、側にいてくれたほうが嬉しいもんね。
 まぁいっか。
「聞きたいことって何?」
「何でもない」
「何でもないなら聞くなよ」
「気にしないで」
「変なやつ」
 新一は穏やかに微笑んでわたしのことを抱き寄せる。
 ゆったりと流れる時間。
 幸せだなぁなんて思っちゃう。
 だからそんなのでも良いかななんてね。
 夕飯は、新一が作ってくれたもの。
 手伝うって言ったのに、結局、新一はわたしに手伝わせてくれなかったけど、一人暮らしをしていたせいか手際は良くって見ていて安心できた。
 新一ってエプロン姿似合うよね。
 見てて楽しい。
 料理はなかなかおいしかったかな。
 夕食の後は見たかった映画をDVDで見て、見たかったドラマをみてのんびりとすごした。
 そして、お風呂に入って(もちろん一人でよっ)新一の部屋に向かう。
 なんかすっごいうきうきしてるのは何でだろう。
 まぁ、いいよね。
 ぼーっとベッドの上で寝転がっていると突然抱き寄せられる。
「新一、どうしたの?」
「秘密」
 そう言って新一はただじっとわたしのことを抱き締めている。
「もう、ホント、朝からどうしちゃったの?」
 聞いても答えてくれないだろうけど、聞いてみる。
「それも秘密。まぁ、後ちょっとたったら分かるけど」
「後ちょっとって?」
「後ちょっとだよ」
 そう言って新一はただじっとわたしのことを抱き締めている。
 まぁ、指で髪の毛と遊んでるみたいだけど。
「ねぇ…新一?」
「ん?」
「訳、分からないんだけど」
「うん」
 もー埒が明かないよぉ。
 どのくらい時間が経ったんだろう。
 それは、突然やって来たのだ。
「10…9…8…7…6…5…」
 カウントダウンを始める新一。
「4…3…2…1…ハッピーバースデー蘭」
 時計を見ると秒針は12時をまわっていた。
 あ、わたしの誕生日だ…。
「これが答えだよ」
 時計を見て新一を見たわたしに新一は答える。
「答え…?訳分かんないよ」
「だからさぁ、蘭に誰よりも一番最初に言いたかったんだよ。今日は休みだろ?だから前の日に『明日は誕生日だね、おめでとう』って言うやつが絶対いるじゃん。それってオレより先に言うって奴だろ?モノスゲー癪なんだよ。オレより先に言われんのが。だから園子にも協力してもらってそう言う奴等全部シャットアウトしてたって訳。ま、効果はてきめんだったけどな」
 だから会話に乱入したりずっと側にいたって訳なんだ。
「もう、良いじゃない。他の人がいつ言ったって。新一はこうやって祝ってくれるんでしょ」
「でも、ヤなんだよ。オレより先に蘭のこと祝うやつが」「全く自分の誕生日忘れてるやつがねぇ」
「…園子とおんなじ様なこと言うなよ」
「でも、ホントのことでしょ?」
「あのなぁ」
 新一はわたしの言葉に苦笑し立ち上がる。
「どうしたの?」
「ちょっと待ってろ」
 そう言って新一は部屋を出て下に降りていく。
 全く。
 何をたくらんでるのかと思えば呆れるって言うかなんて言うか…。
 フフフなんか思わず笑っちゃう。
 部屋に戻ってきた新一はわたしに目を瞑るように言う。
「どうするの?」
「秘密」
「またぁ」
「すぐだよ、少しだけ髪の毛持ってて」
 新一が束ねたわたしの髪を持つ。
 そしてふっと首に何かがかかった。
「良いぜ」
 目を開けて、新一の持っている手鏡に目がいくと、わたしの首にはきれいなムーンストーンの石があるペンダントが下がっていた。
「これ…ブルームーンストーンだよ」
「綺麗だね…淡いブルーがかかって…」
「蒼い月みたいだよな。プレゼントなにが良いかなって考えてこれが目に止まったんだよ。気に入った?」
「気に入るも何も…嬉しい」
 わたしの言葉を聞きながら新一はわたしのことを抱き寄せる。
「良かった…今年は…ずっと蘭といられるから」
「うん……」
「ゴールデンウィークのときはさんざんだったからな」
「そうだね。でも、わたしは平気だったよ。新一がいてくれたから」
 そう言ったわたしを新一は抱き締める腕を強める。
「これからもこれから先もずっと一緒にいられるようにしような」
「うん」
 新一の言葉にわたしはそう頷いた。

*あとがき*
新一が戻ってからの蘭の誕生日。


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