Happy Birthday〜Birthday2〜
1.江戸川コナンのバースデー
「コナン君、誕生日おめでとう」
 そう言って蘭は、オレの目の前に誕生日プレゼントの服を置いた。
 ただの服では無い。
 小学生に人気の『仮面ヤイバー変身パジャマ』だ。
 なんで高校生にもなってまで、キャラ物パジャマなんて着なくちゃならねぇんだ…。
 と抗議しようにも無駄だ。
 オレの外見年齢は小学1年生。
 どうあがいたって高校生には見えない。
「ありがとう…蘭ねーちゃん」
 オレはそう言って苦笑した。
 ホントだったら新一として祝ってもらえたはずなのにな…。
「今日は、新一も誕生日なんだよね…」
 蘭はそう言って複雑な笑顔を見せた。
 笑顔なのか、泣き顔なのか、判断できない。
 理由は、蘭の気持ちがいたいほど分かる。 
 蘭は新一に逢いたいんだ。
 オレも…逢いたい。
 こんなガキの体なんかじゃなくって高校生の工藤新一の姿で…蘭に逢いたい。
「蘭ねーちゃん…新一にーちゃんにプレゼントあげたの?」
「……うん…博士に送ってもらった。わたしが言わないと新一って忘れちゃうのよね。だから忘れないでって言うカードとプレゼント送ったよ。一応誕生日には間に合うようにって頼んだんだけどね」
 憂いを含んだ微笑みをオレに向けそして蘭はうつむく。
 さっきオレは博士から連絡をもらい、博士の家に行った。
 博士からもらった蘭からのプレゼントはオレの好きなサッカーチームのレプリカのユニフォームと、そのチームの特集が組まれた増刊の雑誌だった。
 そしてつけられているカードには
『新一、誕生日おめでとう。推理も良いけど、たまには息抜きしなさいね。蘭』
 そう書いてあった。
 ただそれだけ。
 もう少しなんか無いかね。
 って呟きそうになったが…。
 あえて書かないのかなって思って申し訳なくなった。
「逢いたいよね…やっぱり」
 ぼそっと聞こえないぐらい小さな声で呟いた蘭。
「え?」
 聞こえないふりをして蘭にオレは聞く。
「何でもないの。なんでもね…」
 そう言って蘭は悲しげに微笑んだ
 そんな蘭の様子に何も言えずただオレはうつむく。
 なんて声を掛ければいい?
 コナンで何を言えばいい?
 結局、今のオレ…江戸川コナン…が出来ることはホントのオレ…工藤新一…の声でお礼の電話を掛けるぐらいしか…出来ねぇんだよ。
 蘭の誕生日には…戻れたらいいな。
 非現実的なことを考える。
 手がかりは増えてきたのかもしれない。
 けれど、あいつらから見ればオレはまだしっぽにも手が届いてないだろう。
 それでももう少しで来る蘭の誕生日。
 その日には元の工藤新一の姿で蘭の目の前にいたい。
 そう願わずにはいられなかった。

2.江戸川(工藤新一)コナンのバースデー
「コナンくん、誕生日おめでとう」
 夕飯に蘭からプレゼントをもらう。
 物は蘭とおそろいの子供用パジャマ。
 そして豪勢な料理。
「ガキなんだからそんなパジャマじゃなくたって言いじゃねぇのか?」
 と言うおっちゃんの突っ込みに蘭はニッコリと微笑む。
「だって、コナン君って見かけの割に大人っぽいから…。子供っぽいの好きじゃないと思ったから」
 その蘭の言葉におっちゃんはつまらなそうに…いや、興味なさそうに
「そんなもんかね」
 と呟いた。
 片手にはビールの入ったコップを持って。
 昼間は良かった。
 オレの家(工藤邸)で二人っきりで誕生日のパーティー。
 オレ的には夜の方が良かったんだが、さすがに…まずいだろうなと思って昼間になった。
 庭にテーブル出してガーデンパーティ。
 イベント好きの蘭が朝からずっと作っていた昼間の料理。
 蘭は嬉しそうにそれをテーブルの上に並べていた。
 そして二人っきりのパーティが始まる。
「新一、誕生日おめでとう」
 誰が聞いてるか分からないけれど、それでも広い工藤邸の庭で蘭はオレにだけ聞こえる声でそう言った。
 ふんわりと微笑んだその蘭の顔をまともに見れずにオレは蘭から視線を外す。
「……いやだった?パーティするの?」
「そんなんじゃねぇよ…」
 そう反論した瞬間、思いっきり誤解している蘭にオレは真っ赤になっている顔を見せる羽目になってしまった。
「何で顔、赤いの?ちゃんと言ってくれないと分かんないよ。新一」
 隠してたオレに蘭は結局は気づいていなかったらしい。
 鈍感過ぎるのも困り者だぜ…。
「ねぇ、新一」
 蘭は答えを求める。
 言えるわけねぇだろっ。
 オメェの笑顔に見惚れたなんてよぉ。
「嬉しかったんだよ。オメェが祝ってくれんのがっ」
 取りあえず、言い繕う。
 しっかし、素直じゃ…ねぇよなオレも。
「だったら恥ずかしそうにしないの」
 またも、蘭はふんわりと微笑む。
 全く憂いの無いきれいな微笑み。
 コナンが新一だと蘭にばれてから、蘭の微笑みが憂う事はなかった。
 時たま、寂しく微笑むときがあるけれど。 学校から帰ってきたときとか、街を楽しげに歩くカップルを見たときとか。
 どう見たってオレと蘭は姉弟にしか見えない。
 下手したら親戚の子供とそのお姉さん。
 ため息がつきたくなる。
「新一?どうしたの?」
「あ?なんでもねぇよ。…あのさ…」
「何?」
「約束するから…必ず…どんなことになっても蘭の所に帰ってくるって…」
 そう思う。
 来年は…新一で蘭に祝ってもらいたいしもうすぐやって来る蘭の誕生日も…新一の姿で祝いたいから。
 ふわっと影が覆いかぶさる。
 ハッと気がついたときにはオレは蘭に抱き締められていた。
「無理しないで。お願いだから、無理だけはしないで。新一って、一つのことに集中すると周り全然見えなくなるから…心配なの。だから約束して、無理はしないって」
 蘭の薫りがオレを包む。
 約束する。
 必ず元の姿で帰るから。
 それまでは偽りの娘の姿でそばにいるから。
 誕生日に新たに誓った思いは必ず遂げるから。
 大切な君が悲しみに暮れないように…。

3.中森青子のバースデー
「誕生日おめでとうございます。お嬢さん」
 そう言って真夜中に窓から入ってきた侵入者。
 誕生日になった時間と同時にベランダに面している窓をノックして。
 白き衣を身にまとった怪盗キッド。
 その月に映えるその色はまぶしいほど輝いていて、キッドの洗練されている美しさを際立たせていた。
「どうかなさったのですか?」
 そう言ってキッドは青子に近寄る。
「あのねぇ、一体何時だと思ってるのよっ」
「申し訳ありません。今日はあなたの誕生日。私が一番にあなたにおめでとうといいたかったのですよ。と言うわけで、青子、誕生日おめでとう」
 キッド=快斗は悪びれずマジックを突然披露し始めた。
「……お父さん、寝てるんだよっ」
「もちろん、承知の上。…全部、一番最初はオレにしたかったんだよ。青子におめでとうって言うのも、誕生日のプレゼントをあげるのも」
 そう言ってキッド=快斗はニッと微笑む。 
 見とれる。
 快斗に…キッドに見とれる。
 スゴク嬉しいのに。
 嬉しくって嬉しくってしょうがないのに。
 ありがとうって素直に言えないのはどうしてかな?
「青子、どうしたんだよ…。もしかして…迷惑…だった?」
 快斗の声が不安に変わる。
 恥ずかしくってうつむいていた顔を快斗に向けると、快斗は不安そうに青子を見ていた。
 素直に言わなきゃ、快斗に悪いよね。
「迷惑…じゃないの。嬉しくって…。快斗が祝ってくれたことがすっごく嬉しいの。快斗、ありがとう」
 青子の気持ち。
 快斗に伝わった?
「良かった。この頃、青子となかなか二人っきりでいられなかっただろ?せっかくの誕生日だから、青子の側にいようって思ったんだよ」
 そう言って快斗はニッコリと微笑む。
「快斗、大好きっ」
 快斗の笑顔に一瞬見惚れて、それを快斗に茶化される前に、快斗に抱きついた。
 誤魔化すつもりじゃなくって、ただホントに素直な気持ち。
「こら青子っ」
 突然快斗の焦った声。
 何を快斗は焦ってるの?
 考えても分からない。
「青子、オレのこと誘ってるの?」
 誘ってる?
 なんで青子、快斗に抱きついただけだよ?
「あのなぁ、青子ちゃん、今の自分の格好を考えてみなさい」
 快斗にそう言われて青子の今の格好を考える。
 今は夜の12時ちょっと過ぎ……。
 寝ようと思ってたところに突然快斗がやってきたからっっっ。
 あっっ青子パジャマだぁ。
 そう思った瞬間恥ずかしくって顔が真っ赤になる。
 恥ずかしい。
 あまりの恥ずかしさに快斗から逃げようと動くけど、何故か抱きすくめられていた。
「今日は青子の誕生日だもんな、手荒なマネは致しません。青子、動くなよ」
 そう言いいながら快斗はポケットから何かを取りだし、青子の首にかけてくれる。
「ピンクトルマリンのネックレス。青子への誕生日プレゼントだよ。…よく似合ってるよ青子」
 快斗は鏡の側に青子を連れて見せてくれる。
 きれいなピンク色をした透明な石が青子の首元で輝いている。
「快斗、いいの?」
「いいに決まってるだろ?自分の誕生日なんだから遠慮するなって」
 そう言いながら快斗は青子のことを抱きすくめる。
「一番最初に言えて良かった。青子に一番最初に言うのは絶対オレの権利だもんな」
「そういうものなの?」
「そう言うものなんだよ」
 青子の言葉に快斗は微笑みながら答えた。
 今日、青子の誕生日で一番最初に快斗からもらったもの。
 すっごく嬉しかった。
 快斗との時間。
 やっぱりこれが青子の一番の誕生日プレゼントだよね。
*あとがき*
青子も、江戸川もみなみさんがやってるって事で、2作品。


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