Birthday1 子供たちは夜の住人〜たとえばこんな探偵&怪盗奇談〜

「新一、誕生日おめでとう」
 日が変わり、突然、蘭にそう言われた。
「やっぱりね、一番最初に言いたかったの。誰よりも、わたしが一番最初に」
 そう言って蘭は綺麗に微笑む。
「今年も忘れてた?」
 いたずらっ子のように微笑む蘭にオレは苦笑する。
 オレは、自分の誕生日のことなんて全く頭にないからだ。
 正直に言おう。
 オレが、自分の誕生日を忘れてしまう理由はオレの誕生日のだいたい10日後ぐらいに、蘭の誕生日が来るから。
 その蘭の方ばっかり頭にまわって自分の誕生日なんて忘れてしまうなんて当然だろう。
「誕生日プレゼントは明日になってから渡すね」
 蘭は微笑む。
「しっかし、オメェもまめだよなぁ。オレの誕生日を毎年毎年忘れないでいるなんてさぁ」
「あのねぇ、わたしが覚えてないで誰が新一の誕生日を覚えてるのよっ。わたし以外にいるの?」
「いねぇ」
「でしょ?だからよ。ともかく、新一、明日は楽しみにしておいてね」
 そう言って蘭は綺麗に微笑んだ。

 朝になる。
 今日、5月4日と言えば、ゴールデンウィークまっただ中で、休みだし、今年は、ゆっくりと寝ていることにするはずだった。
 去年はさんざんだったからな。
 隣にいるはずのぬくもりを手探りで探す。
 ???
 なんでいないんだ?
 今、12時…一応、起きる予定の時間。
 もしかして、もう起きちまったのか?
 オレとしてはお昼までは寝ていることにしようと思ってたんだけど…。
「新一、誕生日おめでとうっ」
 突然、蘭の声がする。
 その気配を確認しようとして、頭を動かす。
 蘭はいない。
 ん?でもなんか違和感あったぞ。
 ??!!!!
 って事は、
「バ快斗っっ」
 オレの声に犯人の快斗は驚き、後ずさりする。
「げっばれたっっ」
「ばれたじゃねぇよっっ。起き抜けに蘭の声出すんじゃねぇっっっっっ」
 眠い頭に快斗の変声は辛いっっ。
 蘭の声が聞きたい。
「快斗君、新一起きた?」
 部屋の扉が開き、蘭が顔を覗かせる。
「蘭ちゃん、新一が怒った」
「快斗がなんかやったんじゃないの?」
「うっ青子ぉ。オレ何にもやってないよぉ」
「快斗が何にもやってなくって、新一くんが怒る訳ないじゃないのよ」
 快斗と青子ちゃんの喧嘩が続く。
「二人とも喧嘩しないで」
 蘭が困った様子で快斗と青子ちゃんに声をかける。
「蘭ちゃんあ、ごめんね。快斗のせいで蘭ちゃん困らせちゃったじゃないのよっ」
「ワリィワリィ、青子、行くぞ」
「もー」
 やっと行ってくれた。
 もう一回寝るっ。
「新一、起きて」
 見上げると蘭がオレを見下ろしている。
「起きなきゃダメか。オレ…もうちょっと寝てたい」
 そう言って蘭をベッドの中に引きずり入れ抱き締めた。
「しっ新一っ。もぉ何してるのよぉ。今はダメっ」
 蘭はそう怒る。
 頭抱えてるから顔は見えてないけど、多分、真っ赤にしてるんだろな。
 耳が赤いから。
「じゃあ、今じゃなかったら良いわけ?」
 そう言ってオレはその真っ赤な耳朶に口付け、意地悪く言う。
「サイテー」
「最低って……」
「もう、起きないとダメっ。全部ダメだからねっ」
 そう言って蘭は完全に怒ってしまう。
「ホント、新一ってば最低なんだからっ。なんにもあげないからっ」
 涙声で蘭はオレに訴えかける。
 っていうか、何にもあげないからってそれってどういう意味だよぉっ。
「蘭?それってどういう意味?」
「そのまま素直に取っていいからっ」
「ごめんっ蘭っっマジでごめんっっ」
 この一大事にオレは思いっきり謝る。
 蘭を解放し、その場に土下座する。
 ともかく、蘭の機嫌を直して、何ももらえない状況から脱しなくてはならないっ。
 どのくらいたったのだろう。
 じっとオレの行動を見ていた蘭が突然笑いだす。
「なっなんだよっ」
「だってっおもしろいんだもん。クスクス。世間では冷静沈着で有名な名探偵が土下座するんだもん」
 あのなぁ、冷静沈着ってそれは事件だから冷静沈着でいられるんだぞっ。
 オメェのことになったら……冷静で沈着なんてしてらんねぇよっ。
「新一、取りあえず起きて、お昼にしよ。今年のゴールデンウィークはのんびりするって約束でしょう、だから、庭にテーブル出したの。それにこんなに天気がいいんだし、もったいないじゃない」
 窓の外を見ると綺麗に晴れ渡った青空。
 まぁ、確かにこれは家の中にいるのはもったいねぇよな。
 蘭の言葉に頷き、オレは起きることにした。

 さわやかな五月の風があたりを舞う。
 昨日まではあんなにどんよりとしていたのに、今日は五月のさわやかの青空が天に広がっていた。
 庭にでているテーブルには既にお昼が乗っていた。
 が足りない。
 人数分無いような気がする。
 服部と和葉ちゃんの二人がいないんだ。
「快斗、服部と和葉ちゃんは?」
「用事があるって出掛けたよ」
 用事かぁ。
 まぁ、服部がいない分、静かに一日がすごせそうだよな。
 あいつがいると煩くって…。
 何かにつけてオレを構うからなぁ。
 ……コナンのときの反動?。
 冗談。
 ともかく、いつもより落ち着いたお昼がすごせるのは言うまでもないな。

 書斎で、本を読む。
 久しぶりにホームズシリーズを読む。
 最初に読むのはやはり緋色の研究から。
 ホームズ最初の事件だからな。
 次はオレの一番好きな四つの署名。
 蘭が入れてきてくれたアールグレーの紅茶の香りが部屋中にただよう。
 そして蘭がオレの隣で本を読む。
 穏やかな時間。
 いつもならけたたましい電話のベルがこんな時間を破るのだが、今日はない。
 幸せだな。
 ホームズ読んで、本を読みながら飲み物のんで、そして蘭のぬくもりを感じられる今は…スゴク幸せを感じる。
 めったにないこんな日を大事にしたい。
 ふと蘭の気配がオレの隣から消える。
 何故か不安になって蘭の姿を探した。
「どうしたの?新一」
 不安な顔できょろきょろとしているオレに蘭は不思議そうに声を掛ける。
「蘭の気配が急に無くなったから何事かと思って」
「ごめんね、新一。そろそろ夕飯の用意をしようかなって思ったの。今日の夕飯はパーティだよ。新一のバースデーパーティだから、楽しみにしててね」
 そう言って蘭は書斎をでた。
 別に、パーティなんてやんなくても良いのに…。
 オレは蘭が側にいてくれるだけで良いのに。

 夕飯直前。
 部屋の外を眺めると、空には綺麗に星が瞬いていた。
 これなら、明日も晴れるだろうな…。
 なんて事を考えていたら、今日一日出掛けていた、服部と和葉ちゃんが帰ってきた。
「お疲れさま」
 そう言って快斗が二人を出迎える。
「ホンマめっちゃ疲れたわ。平次ったらおとなしくしてへんねんもん」
「それはこっちのセリフやっ」
 家に入った途端繰り広げられる喧嘩にオレはあきれて物が言えなくなってしまう。
「服部君達が帰ってきたことだし、パーティ始めよう」
 蘭の言葉に全員が食卓に着く。
「と言うわけで、新一、誕生日おめでとう」
 そうしてオレの誕生日パーティは始まった。
「オレと青子からはこの推理小説な」
 そう言って手渡されたのは最新刊の推理小説。
 今、オレがはまっている作家の物だった。
「わたしからはこれね」
 蘭からのはそんなにごつごつしていない腕時計。
「で、オレらからはやっぱり推理小説と、和葉言うたり」
 まだオレが持っていない、海外の推理小説。
 と、もう一つらしい。
「平次が言うた方がえぇって」
  和葉ちゃんの言葉に服部は説明した。
「あんなぁ?工藤、今日のんびりできたやろ。それってなオレのおかげなんねん。今朝、この家に目暮警部から電話があったんや。せやけど、今日はおまえの誕生日やろせっかくの誕生日を事件で埋めたらかわいそうや思うたんや。んで、オレと和葉で現場にいったんや。ホンマは快ちゃんつれてこって思うてたんやけど……。快ちゃん連れてったら、おまえ絶対事件やって思うやろ。せやから和葉にしたんや」
 服部……。
「のんびりできた?」
「ありがとう、服部、和葉ちゃん。おかげでのんびりできたよ」
 オレはそう服部と和葉ちゃんにオレを言った。

「新一、ハッピーバースデー」
 夜、寝るころ。
 オレと蘭の寝室で蘭がオレに言う。
「昨日の夜も言っただろ。別に、何回も言わなくたって良いんだぜ?」
「いいの。言いたかったんだから」
 蘭はそう言いながらオレにもたれ掛かる。
「時計…ありがとう。スゴク嬉しかったよ」
「良かった。よろこんでもらえて」
 そう言って蘭はふんわりと微笑む。
「今日の事、全員で相談したのか?」
「うん」
 オレの言葉に蘭は静かに頷く。
「ありがとう、ホントおかげでゆっくりすごせた。快斗と服部にはオレ、もう一度礼言うよ」
「うん」
 心なしか…蘭の声が小さい。
 見ると…眠そうだった。
「眠い?蘭」
 オレの言葉に蘭は静かに頷く。
「じゃあ、取りあえず、ネルか。蘭、お休み」
 蘭の額に一つ口唇を落とし、オレと蘭は眠ることにした。
 たまには…いいよな。
 こんな誕生日もさ。
 事件があっても…また良いんだけどな。

*あとがき*
新一誕生日。6人同居しているので、子供達は夜の住人の話。


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