「………………………………」
「あかんか?」
「……私達からもお願いします。警部っ」
「………」
オレと服部と快斗は今、警視庁にいる。
理由は、まぁ、もろもろだ。
簡単に言えば、事件が起こったときに、行くのはオレじゃないときもある、それを伝えにきた。
案の定、目暮警部は渋い顔をしている。
「理由はなんだね」
「やってオレかて探偵やで。工藤一人や大変やろう。警部はんもそうおもわへんか?快ちゃんは助手やるねん、なかなかえぇ筋してんねんで。まぁ、快ちゃん一人ではいかせへんから安心してやっ」
と服部は言う。
その言葉に快斗は愛想笑いをする。
目暮警部が納得いかない理由はわかっている。
オレ達は一般人であって、普通は事件現場には入れない。
それでも入れてもらえるのは懇意にさせてもらってるからだ(服部は大阪限定・快斗は論外、勝手に進入)。
「お願いします、目暮警部。警部も工藤君にいつも頼むのは心苦しいって言ってたじゃありませんか。服部君(と黒羽君)も手伝ってくれるというのですよっ」
「………」
「警部っっ」
佐藤刑事と、高木刑事の説得にも目暮警部は納得してくれない。
訳もわからず納得いかないのだろうか。
「工藤君、君はそれでも良いのかね」
目暮警部は突然オレに話しをふる。
「オレですか…。ハイ、オレはちゃんと納得しました。服部や…快斗も入れば…今までよりも事件がスムーズに解決するだろうなと…」
下手なことは言えない。
ホントの理由は…目暮警部は知らない。
全部ぶちまけてしまったほうが納得してくれるのだろうけど…。
それはちょっと問題があるんだよな。
「大学もありますし…。高校の時のようにはいかなくなると思いまして……」
次々と浮かんだこじつけの理由を口から出していく。
根本的な理由はまぁ、蘭を守りたいって事だけど…。
そのことの隣にある理由まで言わなくちゃならなくなるんだよな…。
「……わかった……納得出来ないがね、納得したよ。工藤君、何か困ってることあるのかね」
不意に言われる。
歯切れの悪い受け答えに目暮警部は感じ取ったのか?
「前のように……」
「そんなことは全然ないですよ」
とポーカーフェイスで答えた。
そうして目暮警部は何とか納得してくれたのだ。
「で…快斗…これぐらいは言ってくれるだろ?」
「なにが?」
家に帰りこれだけは納得いかない事柄を、聞く。
「…怪盗キッドになる理由だよ」
「……オレも聞いてへんで。いわれへんのか?」
密談があったらしい快斗と服部の間だが服部でも知らなかった事実のようだ。
「……分かったよ…言うから…さ。青子にも話すって言ったから…青子も呼んでいいよな」
そう言って快斗はリビングから出ていく。
表情は相変わらず見事なポーカーフェイスで何も読み取れなかったが、何か重大な理由を秘めているのだけは分かった。
警視庁に行ったとき中森警部と遭遇した。
その時中森警部が何か言いたげだったのが理由にからんでくるだろう。
「ねぇ、新一、わたし達も聞いちゃ駄目?」
そう言って蘭と和葉ちゃんはすっかりお茶の準備をしてやって来る。
「アタシらだけのけ者って言うのはなしやで。聞いたらアカン?」
「あのなぁ、和葉…」
「やって…知らないのって嫌やもん」
服部の言葉に和葉ちゃんは反論する。
「知っちゃ…駄目?」
「いいよ、蘭。何でも言うって約束だもんな」
「工藤っえぇんか?」
オレの言葉に服部は驚く。
オレは蘭に言えることは全部言うって約束した。
ホントは知らなくて良いことは蘭には言いたくない。
それでも蘭は知りたいって言うんだから…。
「平次っえぇよね」
「知らんでホンマにっ」
「平次、おおきにっ」
そうこうしているうちに快斗と青子ちゃんはオレ達がいるリビングに戻ってきた。
手にコピー用紙と箱をもっていた。
「……理由…話すよ」
そう言って快斗はその箱10センチ四方の大きさの箱をテーブルに置いた。
そして開けると銀色に輝く100カラットのダイヤモンドが出てきた。
「……これ…快斗まさかっ、ホワイトワンダーじゃ」
頭によぎった宝石名が口について出てくる。
ココにあるはずねぇぞ。
警視庁で保管してあるはずじゃねぇのか?
「そのまさかだよ。ビッグジュエルの伝承『ボレー彗星近付くとき、命の石を満月に捧げよ…さすれば涙をながさん』の命の石。…ココ最近ヨーロッパの方で博物館に展示されている宝石が盗まれると言う事件が相次いでるんだけど…どうやらビッグジュエルの伝承がまとわりついてるのはこの宝石だけじゃないらしいんだ…」
そう言って快斗は手に持っていたコピー用紙を広げる。
ヨーロッパでおこっている宝石強盗の報告書だった(ちなみに英語っ)。
「和訳はこっちね。その中にはビッグジュエルの伝承とかが書いてある資料がある。オレ…結局オヤジがキッドをやってた理由をまだ突き止めていない。オヤジが死んだって言うか殺された理由はわかってるけど…キッドをやってた理由がわかってない。それでも…いいと思ってたんだけど…嵯峨野美江子って言う人が…オヤジのサポートしてたらしいんだ」
ハ?
思い掛けない人物の名前が出てきて目が点になる。
「新一も逢ったんだろ?嵯峨野美江子。彼女に聞いたんだよ。オヤジはビッグジュエルの伝承にまつわるものの全てを集めようとしていた。ってな」
ビッグジュエルの伝承にまつわるもの全て?
伝承は『ボレー彗星近付くとき、命の石を満月に捧げよ…さすれば涙をながさん』だけじゃないのか?
「続きがあるんだよ…『ボレー彗星近付くとき、命の石を満月に捧げよ、さすれば涙をながさん。涙を受けるには破壊の石を、誕生の石の瓶子に入れ替え、復活の石でそれをのみほす』……つまりあと破壊の石、誕生の石、復活の石を捜さなくっちゃならないんだ」
「手がかりはあるのか?」
そう聞くと快斗は肩をすくめる。
「無くてどうやって捜すんや?」
「そのための…ホワイトワンダーか?」
「あたり」
快斗はオレの言葉に小さく微笑む。
「共鳴するらしいんだわ……。しかも、共鳴するのは月の光にかざしたときのみ…。結局は今まで通りに動かないとならないって訳…1コずつ調べるのは面倒だけどな」
自嘲気味に快斗は微笑む。
少しの間沈黙が走る。
その沈黙を服部が静かに破る。
「中森警部には…どういうふうに説明するつもりや?」
その言葉にハッとした顔で青子ちゃんは快斗を見る。
「…大丈夫…だよ」
答えになっていない返事を快斗はする。
「…答えになってへんで」
「そうだな…」
ただ一言そう言って快斗は静かに微笑むだけだった。
「中森警部、お呼び立てしてごめんなさいね」
「話しとはなんですかな?嵯峨野警視」
警視庁にある嵯峨野美江子の私室(実際には内閣調査室管轄警察庁特別捜査室、以降内調室)に中森銀三警部は呼びだされた。
「たしか、あなたは怪盗キッド専任の刑事でしたよね」
「そうですが…それが何か?」
嵯峨野美江子の言葉に中森警部は顔をしかめる。
「怪盗キッドは…これからもでると思われますか?」
「いっいきなり何をおっしゃるのですか?」
「彼が、予告状を出さなくなってから既に半年以上たっています。何らかの理由があると私は思っているのですが、あなたは何かどう考えてますか?」
「……………儂は…怪盗キッドは…」
警視の言葉に中森警部は言葉を続けることが出来ない。
「私は、キッドはまた出没すると思っています」
「何故ですか?」
警視の言葉に中森警部は強い調子で聞き返す。
「分かりません。ですが、もしまたでた場合は、警部にはきちんと怪盗キッドを追ってほしいのですが……。あなたは怪盗キッドの専任の刑事。あなた以外にキッドを追いつめることの出来る人物はいない、そう思っているのですが」
「……………………………………警視がそうおっしゃるのであるのならば、儂は、自分の任を全うするのみであります」
静かに…何かを含みながら中森警部は静かに言葉を紡ぐ。
「……今まで通り…そう願いたいのです。中森警部…」
うつむきながら言う嵯峨野警視の様子に中森警部は何かを感じとる。
「…、警視っあなたは何をご存知なのですか?」
「警部…私は、全てを知ってます。あなたのお嬢さんの事も、お嬢さんの幼なじみの少年の事も。事情も…。警部、あなたは何も知らないこととして、今までのように振る舞っていただきたいのです…。お嬢さんの父親としてお話します。彼らは、コの4月から極秘に設置される特別捜査室所属の人間になります」
嵯峨野警視より突然知らされた事実に中森警部は二の句をつげずにいる。
「ただ、コのことは極秘に執り行われること、だから彼の件についてもあなたは何も知らないふりをしていただきたいのです。…それは無理でしょうか?」
「……警視、先程も言った通り、儂は、自分の任を全うするのみ。ご安心ください」
そう中森警部は全てを悟ったようにそう言ったのだった。