目を覚ますと……隣には新一がねむっていた。
サラサラの髪、あどけない寝顔、長いまつげ。
コナン君の寝顔を見慣れたとは言ってもやっぱり新一に戻ると少し雰囲気が違う。
そりゃそうだよね。
コナン君は7歳だけど、新一は17歳だもんね。
夢……じゃないよね。
は、恥ずかしいけど、昨日の感触………をはっきりと覚えてる。
きゃあ、恥ずかしい。
でも、すっごく幸せだよねぇ。
好きな人の側にいられるのって。
好きな人の胸の中で眠れるのって……。
良いよね。
「らん……」
眠っている新一が寝言でわたしの名前を呼ぶ。
そんな瞬間が凄く幸せで……、このまま続けば良いって凄く思う。
それと同時にまた、新一がいなくなったらとも思ってしょうがない。
新一は不安じゃないのかな…。
今までは、新一はコナン君としてわたしの側にいたけれど、次はどうなるかなんて誰にも分らないのだ。
次は、いなくなってしまうかも知れない。
そんなのやだ。
せっかく戻って来たのに。
「突然いなくなったりしないよね、新一」
新一の胸に顔をうずめつぶやく。
「そんなことしねーよ」
え?
顔を新一の方に向けると新一は優しく微笑んでいた。
「何、不安になってんだよ。言っただろ、急にいなくなったりしねーって。だから安心しろって」
ごめんね、不安になったんだよ。
やっと帰ってきてくれて、好きだっていってもらえて、抱いてもらえて……。
幸せが一遍にやって来たから不安になっちゃったんだよ。
「蘭、もう起きんのか?」
「何で?」
「今日は休みだろ。もうちょっとこうしてようぜ」
そう言って新一はわたしを抱きしめる。
そんなときだった。
「〜♪どこまでもー限りぃなくーふりぃつもるゆーきとあなたへの想いー少しでもーつたぁえたくてーとどーけたくてぇーそばぁにいてほしくてー凍えるよう待ちぃ合わせもー出来ぃないままぁーあしぃたを捜してくいつだぁってぇ思い出を作るときはあなたとふたりがぁいい〜♪〜(着メロだっぴ。by
globe:DEPERTUARS)」
携帯が鳴ってる。
「誰から?蘭、着メロ指定してんだろ」
「ウン、多分和葉ちゃんだと想う」
携帯を捜しだしディスプレイを見るととやっぱり和葉ちゃんから電話だった。
「もしもし?和葉やけど、蘭ちゃん?今どこにおんの?」
起き上がって携帯に出ると和葉ちゃんの元気な声が聞こえる。
「今?友達のうちにいるんだよ」
新一のうちにいるとはさすがにいえず、適当にごまかす。
「そうなん、平次、蘭ちゃん友達のうちにいるんやって」
平次って聞こえたのは気のせい?
と一瞬想った次の瞬間だった。
「平次、ちょーまってよ」
「ねーちゃんか?今工藤……やのうてボウズどこにおんねん」
「は、服部君?!」
私の声に新一はガバッと驚き起き上がる。
「こ、コナン君の居場所ちょっと分んないよ」
「今、毛利探偵事務所の前にきとんのやけど。小五郎のおっちゃんは知らんていうしなぁ。ねえちゃん、ホンマにボウズどこおるんか知らんか?」
「ちょ、ちょっと分んないよ。あ、ちょっとまって」
そう言って私は携帯の保留設定をする。
「………大阪二人組どこにいるって……」
新一が不安げにわたしを見る。
「………毛利探偵事務所の前………だって」
「ハハハハハ…………」
新一は乾いた笑をする。
「どうする?新一がいるって服部君に言う?」
「それは嫌だ!!!服部にばれたらこんなこと出来ないだろう」
と、新一はわたしを後ろから抱き締める。
「そう言う問題じゃないでしょう。和葉ちゃんも来てるんだし………」
「服部に言ったら邪魔されるぞ。それでなくてもうるさいやつなのに……」
「ねぇ、ふと思ったんだけど、服部君て新一がコナン君だって知ってたの???」
とわたしが聞くと新一は焦った様子で弁解する。
「しゃ、しゃーねーだろ。服部にはばれちまったんだから」
「ふーん。そうなんだ」
ちょっと怒ったふうに言ってみる。
「蘭、怒ってんのか?」
「怒ってないよ」
「怒ってるだろう」
「それより、どうするの?待たせるわけに行かないよ」
わたしは強引に話を元に戻す。
「こっちから電話かけ直すって言って切るしかねーな。服部になんか言ったらあいつのことだ変に勘ぐるだろうしな」
「分った。適当にごまかしてみる」
とりあえず、保留を元に戻し電話に出る。
「もしもし」
「おーねえちゃんえらい長かったやんか。どないしたんのや?」
「ごめんね、服部君、コナン君のこといろいろ聞いてみたんだけどちょっと行くところ分んなくって……ちょっと一ヶ所だけ心当たりあるからそこに電話してみるね」
「えぇよ、電番教えてくれたらこっちから電話するから」
「そうしたいんだけど、ちょっと番号調べないと分らないんだ。ごめんね」
「そんならしゃあないなぁ」
「ホントごめんね、わかったら電話するから」
そう言ってわたしは電話を切った。
「あれで誤魔化せたかな」
新一は意地悪く言う。
「しょうがないでしょう。あれが精一杯」
「冗談だよ」
そう言って新一は笑う。
「どうするの?新一…」
「とりあえず待たせとけよ。もう少し、蘭とこうしていたい」
そう言いながら新一は首筋に口唇をはわす。
「ちょ、ちょっと新一……」
「嫌?」
そう言いながらも新一の手は昨日の余韻さめやらぬわたしの身体に触れる。
「ダメだよ!新一…」
「何で?」
「何でって言われても……」
「そんな困った顔すんじゃねーよ」
とあたしの顔を後ろからのぞき込む。
「だって……」
「今の問題は大阪二人組だって言うんだろ…わーってるよ」
「そうよ、なんで服部君にばれたからって全部言ってわたしが散々、新一でしょうってい言ったのに言ってくれなかったの?」
突然思い出し、蒸し返した事柄に新一は驚く。
「だからなぁ、それは、服部には誤魔化ししきれなかったって言うか…服部に麻酔銃って眠らせて推理解いてたらおっちゃんが服部の頭たたいて起こしちゃってんで起きてるって気がついてないで…やってたら………」
一生懸命弁解する新一に可笑しくって笑ってしまった。
「何で笑うんだよ、蘭」
「だって、やっぱり新一って詰めが甘いんだなぁって。新一のお母さんが言ってたよ」
「母さんのやつ……」
新一の不満げな顔が肩に乗っているので見えて面白い。
「新一……もう少しこうしててもいいよ」
「マジ?」
「あ、でも一回家帰りたい。昨日博士から電話もらってそのまま来ちゃったから……。部屋片づけてないんだよね。……それに洋服かわいくないから……着替えたいし」
そうそう、きのう着てきたのは可愛くないズボン姿。
可愛いワンピで着たかったよぉ。
「しゃーねーなぁ……オレも行くよ」
わたしの言葉を聞き一旦、新一はここで言葉を止め、小さい声で
「それに、蘭は何着ても似合うし…可愛いよ」
とテレながら言う。
きゃあぁぁぁぁぁ。
そんなこと言われたら、どういう顔していいか分らないじゃないの。
幸せな時間。
いつ無くなるか分らないけれど、今はまだ幸せでいさせて。
あなたは探偵だって分ってる。
事件(って言うかなぞ解き)が大好きだって分ってる。
でも、ずっとあなたの側にいさせて。
ダメだって言われてもいるから。
好きなこと止める権利はわたしにはないもの。
だから、止めないかわりに側にいさせて欲しいの。
たった一つのわがまま。
ダメなんて言わせないわよ!
絶対に。