〜園子の観察日記:始まり〜
あの二人は夫婦という名称以外に呼べる代物がない。
本人達は恋人同士(コクる前は幼なじみ)だと思っていても、はた目から見れば夫婦以外の何者でもない。
朝、わたしがいつも待ち合わせしている交差点のところまで行くと、その夫婦はやって来る。
遠くからその夫婦を観察していると…道路側には夫がいるのはいつもだけれど、妻の方にたとえば自転車が通ろうものならば腕をだして引き寄せる。
この間、ちなみに話題は別の所にある。
一言も「危ないからこっち来い」という会話はしていない。
……熟練の夫婦よりも凄いかも。
「おはよう、園子」
「おっす」
「オハヨ、お二人さん。相変わらずラブラブねぇ」
とからかうと
「べ、別にいーじゃねーか」
「もう、園子ったら」
と二人に頬を染められて逆にあてられてしまう。
昔だったら完ぺきにからかえたのにぃっ!!!
そして学校へ登校する。
教室のHRにて……。
「今日の日直は…工藤と毛利だな(このクラスは席順!!!)工藤、HRが終わったら、職員室までこの間提出したクラスメート(40人分)のノートを取りに来い!!」
「えぇ、オレ一人で?」
「…工藤、奥さんに重い荷物を持たせるつもりか?」
担任の言葉に蘭が反論する。
「ちょ、ちょっと待って下さい。何でわたしが奥さんなんですか?」
「ん?同棲してるんだろ?」
そう言った先生の言葉に二人は
「してません!!!」
と見事にハモる。
そのタイミングの素晴らしいこと。
「しても構わないぞ、オレは応援するからな!!」
担任の…応援をもらってしかも
「俺達も応援するぜ!!」
とクラスメート全員の賛同をえるこの二人はやっぱり夫婦以外の何者でもない。
…疲れた。
この二人観察止めよ。
こっちがあてられるだけだわ!!
〜園子の観察日記:完〜
HRが終わりオレと蘭は一緒に職員室に向かう。
オレ一人で行くはずが…蘭もついてくると言って聞かなかったからだ。
「何で、着いてきたんだよ」
「教室にいたらからかわれるだけだもん」
「確かに……」
オレが戻ってきてからからかわれることが多い。
まぁ、それは前からだったけど……。
「何で、夫婦なのよぉ」
「いいじゃねーか言わしとけば…」
「良くないわよ…」
「何いやなの?」
そう言って蘭に顔を近づけると
「……バカ!!!」
そう言って蘭は踵を返し教室に戻っていった。
お、オイ……ノート持ちに手伝ってくれんじゃなかったのかよ……。
「工藤、奥さんは一緒じゃないのか?」
職員室に入ると担任にそう茶化される。
はぁ…蘭、来なくて正解だったかも
2時間目は選択時間。
わたしは園子と一緒に音楽を選択する。
「で、何であやつもいるわけ?」
「……直接……聞いて」
後ろには気持ち良さそーに歌っている男が一人。
ただし、メロディーボロボロ、リズムボロボロで………………。
「……工藤君、そこまで……」
先生があきれ返って新一に言う。
新一はもう少し歌いたかったような感じで…イスに座る。
「…どうしてそこまで音外せるのかねぇあんたって人は」
「でも新一って絶対音感はあるのよね」
「そうなの?」
わたしの言葉に園子はいぶかしがる。
「新一君に絶対音感があったらこんなに音痴になるはずないじゃない」
園子の声に音楽の先生が反応する。
「工藤君、絶対音感あるの?」
「蘭が有るっていうんですよ」
「ねぇよ」
「有るわよ」
「じゃあ試しに音を取らせて見せれば良いじゃない」
「ぜってー嫌だ!!」
先生の言葉に新一はいやがる。
「そうわがままいわない。弾くのは毛利さんなんだから」
「わたしがですか?」
「そうよ、あなたがやれば工藤君もとってくれるでしょう」
先生の声にわたしはピアノの前に座る。
「ほら、工藤君もピアノの方に行ったいった」
新一はいやいやながらもピアノの方に来る。
「ったく…何であんなこと言ったんだよ」
「良いじゃない、ピアノの音をとるくらい、嫌?新一」
「……嫌」
わたしの言葉に新一は憮然と答える。
「だったら何で音楽なんて選択したの?」
「……そ、それは……蘭がいるから……。いなかったら……音楽なんて授業とらねーよ」
そう言って新一は顔を染め横を向く。
……………ちょっとぉ。
何で、そういうこと言えちゃうかなぁ…。
恥ずかしいじゃないのよ。
教室でなんて。
「何、二人とも顔赤くしてるの!毛利さん、この音弾いて」
先生に楽譜を渡されるられる。
最初は2つの和音。
「蘭、半音高いのって何だっけ?」
「シャープだよ。低いのはフラット。ミとシはフラットだけでファとドはシャープだけだからね」
わたしの言葉に新一はうなずきわたしが引いた音を取り始める。
「ミとド・ソとラ・ファとレ・シとミのフラット。レとソのシャープ。ラとドのシャープ」
「おーーーーーー」
歓声がちょっとだけ上がる。
「次はこれとこれね」
3つの和音と4つの和音。
「ミとソとド。ファとシとレ。ラとミとシとド。レとソとシとミ」
次々とあてていく新一に教室中が静まり返る。
「レとドのシャープとファとラのシャープ。ミのフラットとソのフラットとドとレのフラット」
先生にわたされた音をすべて弾き終えた後クラス中は驚きのあまり呆気に取られている。
「なぁ、蘭。オレがやったことってそんなに凄いことなわけ?」
絶対音感という言葉は知っていても、それが出来てしまうことの凄さを新一は認識してなかったらしい。
「絶対音感の事、話題になったじゃないの。知らないの新一」
「あんまり興味ねぇ」
そう言って新一はわたしが座っている(長いのこのイス)隣に座る。
「どうしたの?」
「蘭もあるの?」
新一はピアノの鍵盤に触れながら聞いてくる。
「何が?」
「その、絶対音感だよ」
「一応、あるよ。ピアノ弾いてるとそのうち身に付いちゃうのよ」
「ふぅーん。蘭、もやれよ」
と、わたしの言葉を興味なさそうに聞いていた新一が突然言いだした。
「わたしも?」
「そ。」
「なんで……」
「オレも、やったんだぜ?」
そう言って新一はわたしの肩に腕を回してきた。
「ちょっと、何ラブラブしてるのよ。さっさと席に着きなさい!!!」
先生の言葉にわたしと新一は我に返り席に着いた。
〜園子の観察日記:復活〜
席に戻ってくる二人は小声で言い合いしている。
新一君の絶対音感の見事さにあっけにとられているわたし達をしり目にピアノのイスに座って鍵盤の上で手を重ねちゃってさぁ。
誰も気付いてないなんて思わないでよね。
わたしだけはしっかりと見させていただいたんだから。
「相変わらず、ラブラブよね」
「何よぉ、園子はいきなり」
「二人とも鍵盤の上で手を重ねたりしないでよね」
わたしの言葉に二人とも顔を真っ赤にする。
はぁ、やってらんないわよね。
〜園子の観察日記:完〜
音楽の次はまたまた移動で化学。
なんで教室移動が二回も続くかね。
「新一、待って」
白衣をきた蘭が走ってくる。
「蘭、どうしたんだよ。園子と化学室行くんじゃなかったのか?」
「園子ったら先に行っちゃうのよ。お邪魔でしょなんて言いながら」
「ハハハハ」
蘭の声に乾いた笑いで答えるが、確かに邪魔だ!!!
あいつがいるとろくな目にあわない。
蘭とのことはからかわれるし。
良いやつだが。
「まぁ、いいじゃねーか。たまにはうるせぇ奴がいなくてよぉ」
「ひどーい。そういう言い方しなくたって……」
そう言って蘭はむくれる。
「冗談だよ、蘭」
「もぉ、今度はそういうこと言わないでよね」
「ハイハイ」
その時授業開始のチャイムがなり始める。
「蘭、急ぐぞ」
そう言ってオレは蘭の手を取り走り始めた。
4時間目は自分たちの教室に戻り、英語の時間。
隣の席の工藤新一は睡眠中。
英語がペラペラだからって授業中、寝ることはないと思うの。
でも、なぁんか、幸せそうな顔して寝てるわよね…。
英語の授業を聞きながら、横目で新一の幸せそうな寝顔を見ているとこっちまで幸せになっていく。
どんな夢見てるんだろう。
わたしの夢だったりして。
きゃあああ。
わたしったら何考えてるのよ!
今は授業中よ。
もぉ、顔赤くなっちゃう。
「シンイチ、シンイチ?」
英語の先生が新一を呼ぶ。
当の本人は夢の中。
新一の後ろの席に座っている園子が起こしても駄目。
しょうがない。
「新一、先生が呼んでるよ」
わたしの声に新一は
「らーん、ハンバーグくいてぇ…」
と寝言を言う。
ちょっとぉ、何言ってるのよ。
「新一、先生が呼んでるよ。授業中なの」
「らーん、あいしてるー……」
な、な、な、な、な、な、な、な、な………。
「キャーーーーーー聞いたぁ?」
「おぉーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
クラス中がどよめきで沸く。
な、何言ってるのよぉ、この男は!!!!!
「新一、先生が呼んでるって言ってるでしょっ!!!!」
あまりの恥ずかしさに大声で起こしたわたしの声にようやく新一は目が覚める。
「ん、?何?」
その寝ぼけた新一にクラス中の視線が集まる。
「ん?オレなんか言った?」
「言った言った」
「結構凄いこと言うんだな。工藤って」
「蘭がうらやましい」
クラス中の冷やかしに新一はわたしの方を見る。
「蘭、おれ…なんか言った?」
「知らない」
こっちは恥ずかしくってしょうがないって言うのにぃ。
「いつも言ってることしか言ってないわよ」
と園子が口を挟む。
「見たようなこと言わないでよ!!!」
「あら違うの?」
「う……」
園子の言葉に思わず詰まってしまう。
「ホント何だぁ」
そしてクラス中の冷やかし。
あぁん、なんでこんなことになっちゃうのよぉ。
もぉ、全部新一が悪いんだからね。
〜園子の観察日記:復活2〜
今日は午前中で授業が終わり。
しかし、今日もいろんなことをやらかしてくれたわ。
あの二人は。
音楽室、英語の時間。
二人で会話していくと……どんどん二人だけの世界になっていっちゃうのよねぇ。
それをあの二人は気付いてないって言うのが大問題。
恋する二人はそういうもんだなんて言われちゃったら何とも言えないけど!!!
それでもねぇ、教室はもとより、廊下とか掃除の時間とか。
イベント事なんかあったときは大変。
もう、完璧二人の世界。
はぁ、あてられるこっちの身にもなれって言いたくなるわよ。
「園子、何やってるの?帰ろ」
「何言ってるの。あんたは新一君と帰るんでしょ」
「そうだけど、園子いつも一緒に帰ってるじゃない」
はぁ、ったく。
せっかく気をきかせてるのに!
「あんた達の邪魔するほど野暮な女じゃないわよ」
そう言っても蘭は引かない。
「蘭、園子なんかほっといて帰ろうぜ」
「でもぉ」
「でもじゃねーよ。オレと二人で帰るの嫌?」
蘭をのぞき込むように新一君は言う。
「…だ、誰もそんなこと言ってないじゃない」
そういう蘭に新一君は蘭にしか見せない満面の笑顔を蘭に見せ、
「じゃ、帰ろうぜ」
と言う。
はぁ、かんっぺきに、二人の世界だわ。
やってられないわね。
この二人なんて放っておこうっと。
一日の総評:学校で二人きりの世界を簡単に作れてしかもそれを周りに気兼ねなしに見せることが出来る、新一君と蘭は夫婦以上の何者でもない。
〜園子の一日観察日記:完〜