The Winter Solstice

2


「アリオス、君もイスタルにいたのか・・・」
「いて悪いかよ」
 相変わらずのアリオスの態度に、セイランは苦笑する。
「いやね、君が”新宇宙”の女王の元にいるって聞いたけど、君も休暇なのかい?」
 意味深な視線をアリオスに投げ掛けると、セイランは不敵な微笑みを浮かべた。
「ひとりで休暇?」
「そうだ」
 相変わらず、アリオスは冷たい表情をしている。
「まあ、君がひとりで休暇を取る人だとは考えられないけどね」
 くすりと笑うと、セイランは何かを知っているかのように、いたずらっぽい瞳を向けた。
「とにかくここでゆっくりしてていいよ? オンボロだけれど、部屋はある。ただし、ちゃんと片付けないといけないけど。僕も君もお互いに干渉は嫌がるタイプだから、丁度いい」
 セイランはそれだけを言うと、ドアを開け、埃っぽい部屋に案内してくれた。
 埃避けカバーがかかっているので、まだましだが、かなりの荒れようだ。
 アリオスは大きな溜め息を吐くと、窓を開け、埃を外に追い出すことにした。
 小一時間で何とか寝られる部屋になる。

 まあ、明日の夜はアンジェと一緒だからかまわねえがな。
 こんなことになるなら、宿屋で昼寝してたほうが良かったぜ・・・。
 ったく、わが女王陛下はわがままだからいけねえよ。

 そう思いつつ、このわがままをどこか楽しんでいる自分に、苦笑していた。
 食材などは、町で買ってきたので大丈夫だろうし、しばらくここにいて時間をつぶすことにする。
 夕方までばたばたとしていたせいか、眠くなり、すぐにベッドの上で横になった。


 セイランが干渉嫌いで、気紛れなお人好しで良かったと思う。
 朝起きて、シャワーを浴びに行っても、彼は出てこず助かった。
 昨日は思いのほか早く寝てしまったせいか、信じられないほどの目覚めの良さだ。

 あいつとしねえと、調子が狂うな…。

 朝の準備を終えて、朝食を食べ始める。
いつもの朝ならアンジェリークが簡単に朝食を作ってくれるが、今日は味けのない食事だ。

 目玉焼きも焦がしちまうあいつだが、それでも、あいつの作るメシは、美味い。

 少し感傷的になりながらも、朝食をとる。
 パンと干し肉、チーズとトマト。温かい飲みものはインスタントのコーヒー。
 それを規則正しく租借する。
 ふと、外がにわかに騒がしくなり、アリオスは存在を知られないように、息を潜めた。
 耳を澄まして聴くと、また聴き覚えのある声だ。
 内容を聴くと、アンジェリークたちがイステルに来ることで、かなりの騒動になっているようだった。

 やっぱりな・・・。あの堅物ぴかぴか野郎がまた騒いでるんじゃねえのかよ・・・。
 アンジェは無事にたどり着けるのか?

 だが、アリオスの勘は見事に当たってしまうのである。

 そろそろここも出ねえとな。

 アリオスは小屋から出る準備をし、ひと騒動が終わった頃合を見計らって、ドアを開けた。
「いくのかい?」
「ああ」
 アリオスはポーカーフェイスを装って、荷物を抱えて出ていこうとする。
「この惑星を出るんなら、急いだほうがいいよ。流星群の前後はシャトルが欠航になるのが普通だから」
「ああ。あばよ」
 アリオスはそれだけ答えると、小屋を後にした。
 小屋の外に出ると、通信機がメールの着信を知らせてくれる。
 メールはアンジェリークからだった。

 ふえ〜ん! ジュリアス様に掴まっちゃった!
 ホテルに軟禁〜!
 迎えにきて! 
 アリオス、お願い!!

「やっぱりな・・・。んなことだろうとは思ってたぜ・・・」
 あまりにものお約束な展開にアリオスは溜め息を吐く。
「しょうがねえな」
 どうせべそでもかいているのだと簡単に想像出来る。
 ”今、どこにいる”とメールを打って返してやると、”今、イステルリッツホテル”と返ってくる。
 アリオスは何度目かの溜め息を吐くと、アンジェリークのいるホテルに向かった。


「やっぱりジュリアスよね。これじゃあオスカーも逆らえないわ・・・」
 大きな溜め息を吐くと、女王は切なそうにする。
「ルヴァだって、色々考えてるみたいなんだけど」
 ロザリアもまた溜め息をひとつ。
「エルンストも守護聖様相手だと・・・」
 三人の視線が、縋るようにアンジェリークに降り注ぐ。
 その期待の込められた眼差しが何を意味するのか、鈍感少女のアンジェリークは、何のことかと小首を傾げた。
「な、なんでしょおか?」
「あなたの恋人は確か、サクリアを魔導に変換することが、出来たわよね?」
 女王はにこにこと笑っている。
「私たちを脱出させて恋人のところに送り届けるのも、お手の物でしょ?」
 今度はロザリアだ。
「アナタと一緒の部屋に住まわせてあげてるんだから、これくらいは当然でしょ!!」
 レイチェルには痛いところを突かれ、アンジェリークは弱った。
「陛下、ロザリア様、レイチェルまで・・・」
 完全にアンジェリークは困ってしまい眉根を寄せる。
「・・・アリオスに訊いてみます」
 すっかり困り果てたように呟くと、アンジェリークは通信機を手に取った。
 その瞬間、部屋にノックが鳴り響く。
「オリウ゛ィエだよ〜ん。陛下たち、ちょっといいかな〜」
「どうぞ」
 アンジェリークがドアを開けると、イスタルの民族衣装である白いフードを大量に持った、オリヴィエが現れた。
「ねぇ、陛下たち、星祭りを見に行かない?」


 その頃、アリオスはホテルの前に来たものの、その警備の厳重さに閉口しそうになった。

 あのピカピカ野郎。
 よくもここまで警備をしたもんたぜ。
 呆れるな・・・。

 アリオスは持ち場に立っているオスカーを見つける。

 あいつが金髪の女王の相手だな・・・。
 とぼけた野郎どもはいねえみてえだな・・・。

 突然、アリオスの通信機が鳴る。
 見るとアンジェリークからメールが届いていた。

 今、オリウ゛ィエ様が、星の妖精の合唱隊の娘のフードを持ってきて下さったから、それをかぶって外に出ます。
 皆さん、恋人の方にメールを送ったみたいだから、大丈夫よ。
 星の妖精の合唱隊に紛れますから、掴まえてね。
 あんじぇ

 踏み込もうとしていたところで、恋人からのメールにアリオスはほっとして、星の妖精の合唱隊の娘の一団が歩くほうへと向かう。
 が、しかし、あまたの少女たちがまったく同じ格好をしている。
 これには正直言って、探すのが困難そうだ。
 暗い闇の中にキャンドルの炎と、目深にかぶったフード。
 だが、ふと思い直した。

 俺はどこにいても、どんな格好をしていても。
 そして------
 たとえ…、人ごみにまぎれようとも、闇にまぎれようとも、同じ格好のやつが、何人いたって・・・。
 俺はおまえを見つけられるから-------

 アリオスは、フッと、優しい微笑を浮かべると、星の妖精の合唱隊に近づいていく。

 そう…。
 不安そうにまわりをきょろきょろしながら、俺だけを探しているから、おまえを直ぐに見つけられる。
 今直ぐに、おまえの瞳に、俺を映し出してやるから…。

 アリオスは自分だけが判るアンジェリークの気に導かれるように、そっと少女たちに近づいていく。

 -------いた…!!

 見つけた、たった一人の天使------
 ゆっくりと手を伸ばしてみる。
「きゃっ…」
 甘い声と共に自分に引き寄せて、その腕の中でゆっくりとフードを取って見る。
「------アリオス…」
 甘い声と共に、大きなアクアマリンの濡れた瞳がアリオスを捉え、白い頬を僅かに紅潮させている。
「つかまえたぜ?」
 甘さと不適さが混じった言葉と共に、アリオスはアンジェリークの小さな手をしっかりと握り締めて離さない。
「捕まっちゃった」
 くすりとアンジェリークは笑うと、アリオスの胸に軽く額をつけた。
「待ってたの…」
「判ってる。さあ、行くぜ」
 お互いの手を温めながら、二人は暗闇の中をそっと歩いていく。
 アリオスに手を引かれて、アンジェリークは小高い丘に登っていく。
 鐘がイステルの町に鳴り響き始めた。
 次の瞬間にっは、町中の照明が落とされていく。
 丁度その様子を、二人は上りきった小高い丘の上で見つめていた-----
「もう直ぐ、星が流れ始める…」
「うん…」
 二人は星に願いを込めて、宇宙の大海原を見上げる。
 一つ目の星が、二人を祝福するように流れ、次々に続いていく。
 ふたりはいつしかぬくもりに包まれあった。
 アリオスが背中からアンジェリークを包み込むように抱き、彼女はアリオスの腕をしっかりと温もりで包み込んでいる。

 いつまでも、私たちが共にあれますように・・・。
 アリオスの傍に、いつまでも温かなものがあり、幸せでありますように…。
 私たちが…永遠に結ばれていますように------


 さすがの俺も、この星空には心を惹かれるな・・・。
 暗闇から星が流れ、やがて消え…、また流れ…。
 まるで宇宙の摂理のようじゃないか・・・。
 光って消えて、出逢って、別れ…。
 まったく宇宙というものは大したもんだ。
 そして、この宇宙を統べる女王ってやつも・・・。
 この美しい星空の霊に、せめて俺も祈るとしよう…。
 ”愛””幸せ”------
 そのほか…、この世界の良いもの総てを、いつまでもおまえと共にあることを------
 愛してる…。
 いつまでもおまえと共にあるように…。
 アンジェリーク--------

 二人は想いを込めて祈りをささげ、心をひとつにする。
 同じタイミングで、二人は見つめあい、唇を近づけていく。
「-----アリオス、愛してるわ・・・。いつまでも傍にいてね?」
「いつまでもおまえと共に…。愛してる…」
 唇が重なり合う。
 素晴らしいひと時に心を合わせて、想いはひとつに。
 ここに、この場所にいる、すべての恋人たちが、みな、同じ夢を見る。
 レイチェルとエルンスト。
 ロザリアとルヴァ。
 金髪のアンジェリークとオスカー。
 そして------
 アンジェリークとアリオス…。
 
 アリオス…。
 素敵なひと時を有難う・・・。
 もっともっと幸せになろうね・・・?

 運命の恋人たちは、深く長く唇を重ね、近い未来の幸せに、思いを馳せていた-------
コメント

CDドラマを忠実に、アリコレテイストで再現。
ミキアン●ェ様のリクエストで(笑)
裏に続きますぜい〜。

CDといえば。
「親指立てて笑っていこう〜」
 ですか??
アリオスさん。
浪越徳●郎ですか???(爆笑)
アンジェの指圧をする?
失礼しました。
「指圧の心エロ心〜」かぁ(←まちがい)

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