The Winter Solstice


「ねえ、アリオス!」
 少し興奮気味に、アンジェリークがニコニコとアリオスを見つめてくる。
「何だよ」
 アンジェリークがこのような能天気な笑顔をしているときは、何かロクデモないことを考えている証拠だ。
 もちろん、アリオス側から見てのことだが。
「あのね、陛下にお茶会に呼ばれていることは知っているわよね?」
「ああ」
 興味なさげにアリオスは言うと、手元にある資料に目を通す。
「ちょっと聞いてるの!?」
「ああ。だからおまえがあっちの女王と、お茶飲んで、ぎゃーぎゃー騒ぐのは聞いた」
「っそのお茶会なんだけどね、それを取りやめにして、イステルの星祭に行くことになったの!!」
「何だって!?」
 恋人が突然突拍子のないことを言ったせいか、アリオスは鋭い眼差しを向ける。
「おい…、おまえも女王も何考えてんだよ?」
 呆れてものが言えないとばかりに、彼は溜息を吐いた。
「あのね、そのイステルではね、冬至に”星祭り”を行うの…。星祭の夜、星が流れる間に愛を誓い合った恋人たちは、どんな困難も乗り越えて、必ず結ばれる…って、伝説があるんだって…。
 陛下もオスカーさまと、ロザリアさまもルヴァ様と…、レイチェルもエルンストさんと誓うんだって!! …だから、私たちも…」
 うっとりと語った後、恋人をはにかんだような上目遣いで見つめてくる。
 愛らしいアクアマリンの瞳に強請るように見つめられると、アリオスは弱い。
「…みんなよろしく全員集合なんだろ?」
「そうだけど…」
「だったら嫌だ」
 きっぱり言うと、アリオスは再び仕事を始める。
「…ダメ?」
 半分泣きそうになりながら、彼女が拗ねるような眼差しで見てくるものだから、アリオスは大きな溜息を吐いた。
 本当に、栗色の髪の、しっかりしているのか、とぼけているのか、まったく判らない少女には敵わない。
「------判ったよ、判った! 行けばいいんだろ。行きますよ! お姫様」
「だからアリオス大好きなのよ〜!!!」
 大きな歓声を上げながら抱きついてくる少女を、アリオスはしっかりと受け止めて抱きしめる。
「ったく…」
「あのね! アリオスのシャトルのチケットと、ホテルはすでに取ってあるから! スキーとかも出来るらしいし、昼間だったら海で遊べるみたいだから!!」
 ニコニコと笑いながら、恋人はすっかりご機嫌のようだ。
「用意周到の確信犯だな?」
「…だって、そんな素敵なイベントだったら、やっぱりアリオスと参加したいじゃない…」
「ったく…」
 苦笑しながら、そのまま抱きついている恋人を膝の上に乗せると、アリオスは甘いキスをアンジェリークに送った。
「先に行って待っててね?」
「ああ。判った。おまえが来る間、スキーでもして暇つぶしておいてやるよ?」
「うん!! 有難う!!!」
 甘い砂糖菓子のようなキス。
「今夜は覚えてろよ? いっぱいしてから、行くからな」
「もう…」
 何度も軽いキスをして、アリオスとアンジェリークは、星祭りのロマンテックな夜に想いを馳せていた-------

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 その夜、早めにアンジェリークとの情事をたっぷりと行い、アリオスは一足早くイステルに向かって出発した。
 アンジェリークはすっかり疲れ果ててしまい、その夜は甘い痺れと共にぐっすりと眠る。
 夢の中では、星を二人で見つめて------


 イステルに着いたものの、やはりアンジェリークがいないせいか、アリオスはどこか心もとない。
 旅の疲れを癒そうと昼寝よろしくベッドに横になるが、どうも寝付けない。
 いつもなら柔らかな温かさが傍にあるから。

 ったく…。俺も重症だな?

 不意に、アリオスの携帯が鳴る。
「はい?」
「あ、アリオス」
「アンジェ」
 その柔らかな愛らしい声を聞くだけで、アリオスはとても落ち着いた気分になる。
「私…。明日にはそっちに着けると思うから…。どこか待ち合わせの場所を探しておいてくれる?」
「ああ。判った」
「ねえ、そっちは今何時?」
 電話を通して利く彼女の声は、どこか新鮮で、アリオスはずっと聴いていたいとすら思う。
「ああ。丁度昼だ。少し寝たら、ぶらぶらしようと思ってる」
「うん。また、行ったら教えてね?」
「ああ」
「じゃあね、アリオス…。愛してるわ」
 チュッ。
 甘い声が聞こえて、アリオスは思わず微笑んでしまう。
「逢ったらたっぷりしてやるぜ? 星空の元でな?」
「…うん…。じゃあ、陛下たちのところに戻らなくっちゃいけないから」
「ああ」
 電話が切れた後も、アリオスは暫くその音を聞いていた。

 おまえの声だけで、疲れがぶっとんじまった…。

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 結局、昼寝は出来ず、アリオスは手持ちぶたさなので、イステルを回ることにした。
 自分的には、やはりスキーに興味があったので、スキーをするために雪山に向かう。
 ちんたらと滑るのは、性に合っていないから、いきなりの上級コース。
 山のてっぺんから降りる。

 あいつらは、ヴィクトール以外は、山は性にあわねえだろうから、丁度いい。
 それに、誰もここからスキーで降りようなんていねえだろうからな。

 色の濃いゴーグルをかけ、しなやかなスキースーツに身を包む精悍なアリオスを、誰もがうっとりと見つめている。
 だが、どんな女の視線も彼には関係ない。
 アンジェリークさえいれば何もいらない。
 どんなセクシーな女だろうが、美しい女だろうか、本当に関係がなかった。

 俺にはアンジェしかいらねえ。
 出来ることなら、アンジェと一緒に滑りたかったがな…。

 アリオスはアンジェリークに教えてやりたかったと思いながら、下に下りていく。

 余り面白くねえコースだな…。
 あれ?

 目の前に、輝く集団にアリオスは目を凝らす。
 そうすると、オスカーが顔から雪に突っ込んでいるのが見えた。

 しょうがねえおっさんだな。

 苦笑いしながら、アリオスはその前に来るとさっと手を差し出した。
「そんなところで何をねっころがってるんだ、オスカー」
「その声は!」
 オスカーは思わず起き上がる。
「風邪を引いてもしらねえぜ? じゃあな」
 アリオス、そのまま颯爽と走り去る。
 ここでオスカーが風邪を引いて明日の寝込むと、せっかく楽しみにしている女王が気の毒なように思えたから。
 アンジェリークが心配するのが一番の原因だった。

 見つかっちまったらしょうがねえな・・・。
 とりあえず、今夜の塒だけでもさがさねえとな。
 オスカーのことだから、きっと俺を探し回るはずだ…。

 ホテルに戻って、アリオスは荷物を片付けると、チェックアウトはせずに、とりあえずの塒を探しに山に向かった------


 すげえ、オンボロ…

 まさかこんなオンボロの小屋に誰もいないだろうと想い、アリオスはそこの窓からそっと侵入をする。
「誰だい!?」
 再び聴きなれた声に、アリオスは頭を抱える。

 ったく…。
 今日は厄日だ…。
     
コメント

CDドラマを忠実に、アリコレテイストで再現。
後編に続く…。

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