THE LAST CHAPTER
「もう、行くと思われるところは総て探したのに!!」
アリオスはキッチンのテーブルを番と叩き、そのまま頭を抱える。
「おい、必ず見つかるから、そう信じて連絡を待とう!!」
「そうです!! アンジェ、ワタシに黙ってどこかに消えるはずないもん!!」
アリオスの家には、アンジェリークが行方不明と知った、ヴィクトール、レイチェルが集まり、アンジェリークからの連絡を待っていた。
オリヴィエがロザリアとデートであることを、事前に知っていたアリオスは、彼にだけ連絡をとっていなかった。
突然電話が鳴り、全員、体をピクリとさせる。
アリオスは、軽く深呼吸してから、静かに電話を取った。
「はい」
「アリオス? オリヴィエだよ☆」
「何だ、オリヴィエか・・・」
落胆の声が、受話器を通じても判る。
オリヴィエは、思わず苦笑する。
「何だ?」
「----アンジェちゃん」
その名前を聞くだけで、アリオスは息を呑む。
「ロザリアが当分、預かることになったから」
アリオスは、心からの安堵の溜め息を吐くと、待っているものに小声で伝える。----アンジェリークが見つかったと。
安堵の完成が上がったことを、オリヴィエは受話器を通じて確認する。
アンジェちゃん、あんたは沢山の人から愛されているんだよ・・・!
「そうそう。逢いに行ったりしちゃダメだよ。本人の希望だから」
「こらカップル揃っての誘拐魔!! アンジェリークの保護者は、俺だ! 勝手に決めんな」
「----表面上のね。本人は、そんなこと思っちゃいないよ」
オリヴィエの言葉は残酷にアリオスの心に落ち、 呼吸が乱れる。
顔色は蒼ざめ、暫し、呆然とする。
「----嘘だ・・・。さっきだって、 "世界で一番、俺が好き”だと」
「あんた、鈍いね? それ、叔父として言われたのか、男として言われたのか判らないの?」
アリオスは、暫し、無言になる。
「ね、光源氏みたいに、"花嫁を育てた男"に、なりたくないの?」
アンジェリークが、男として自分を愛してくれている----
それは、最も望んでいたことだが、そんなことが起こるはずがないと思っていた。
だが、もし、そうだとすれば。
アリオスは、ひとつの決意を胸に秘め、電話に向かう。
「----オリヴィエ、ロザリアに代わってくれ」
「オッケ」
暫くして、艶やかな声が受話器を通じて、聴こえた。
「あら、なにかしら。えっ、そう、そうゆうこと・・・、わかったわ、直に調べて、あなたの携帯に連絡する。あ、オリヴィエには伝えておくから、じゃあね」
アリオスは、静かに電話を切ると、待ち構えていた二人を見た。
「----悪ィが、ちょっと協力してくれねェか?」
----------------------------------------------------------------------
アンジェリークは、オリヴィエのマンションで、ロザリアにメイクを教わる傍ら、してもらっていた。
「いい、アンジェちゃん。うちのブティックでは、清楚なメイクをして、お店に立ってもらうから、覚えてね」
「はい」
ロザリアさんがお仕事と寝る場所を提供してくれてよかった。
ちゃんと働けば、学校にだって行かせてもらえるし、これで働いて、いつか、アリオス叔父さんに恩返しをしなくっちゃ
「うん! 完璧!! とっても綺麗!! 泣きはらした顔が見違えたわね!!」
ロザリアにメイクをしてもらったアンジェリークは、本当に、清楚で可憐な美しさがあった。
最近、アリオスへの報われない恋に身を焦がしていた彼女は、艶やかさと透明感が増し、誰もが息を飲むほど美しくなっていた。
インターフォンが鳴り、オリヴィエが玄関へと出て行く。
「あら、"光源氏”になりにきたのね」
そこにいたのは、銀色の髪を僅かに乱したアリオスだった。
「色々、やることあったわりには、早かったじゃない」
「ヴィクトール先輩と、レイチェルが手伝ってくれたからな」
「いるわよ。ロザリアが綺麗にしたから」
「サンキュ」
艶やかな深い微笑みを浮かべ、アリオスはアンジェリークのいる部屋へと向かった。
白いドレスが入った紙袋を持って。
「あ、紅茶でも入れてくるわ。待ってて」
タイミングを覗っていたロザリアが、今とばかりに立ち上がる。
「私も・・・」
「いいから、座ってらっしゃい」
「すみません・・・」
艶やかで優しい微笑をロザリアは浮かべると、部屋を出た。
部屋の前には、既にアリオスが立っている。
「指輪のサイズと、ドレスの件、サンキュ!」
「どういたしまして!! 早く、幸せにしてあげて」
ロザリアは、左眼をアリオスに瞑って見せて、彼もそれに深い笑顔で答える。
ロザリアが、静かに立ち去ると、アリオスは背筋を伸ばして、部屋に入っていった----
-----------------------------------------------------------------------------------------------
カタリ----
ドアが開くのを感じ、アンジェリークはそれがロザリアだと思い振り返った。
「ロザリア・・・----!!」
アリオスだった。
アンジェリークは、まるで小動物のような潤んだ瞳をアリオスに向け、身を固くする。
「アリオス叔父さん・・・」
苦しげな溜め息と共に声が発せられる。
「帰ろう・・・」
アリオスがやさしく手を差し伸べても、アンジェリークは首を振るだけで、手を取ろうとしない。
「しょうがねーな」
深い微笑を浮かべると、そのまま彼女を自分の腕の中へと閉じ込める。
「あっ・・・」
気がついて、息を呑んだときには遅かった。
アリオスの唇が降りてきて、アンジェリークに優しく口づける。
唇を離されても、アンジェリークには、何が起こっているのか、混乱して思考が出来ない。
「----おまえさえよければ、本当の家族にならねぇか?」
アンジェリークはびっくりして、潤んだ瞳をアリオスに向けた。
「俺は、おまえを、一人の女として、愛している・・・。誰よりも」
何よりもアンジェリークが欲しかった言葉。
彼女は震える腕を彼の背中に回し、しっかりと彼を抱きしめる。
「----私も誰よりも愛してる・・・。家族になる・・・、なりたい!!」
次に、アリオスが与えてくれた口づけは、何よりも深く、そして逢いに満ち溢れていた。
僅かに開いた彼女の唇に舌を侵入させて、彼は愛撫をする。
こんな口づけは初めてで、アンジェリークは彼にされるがままだったが、その瞳からは、喜びの涙が溢れていた。
ようやく唇が離され、粗い息遣いが互いの唇にかかる。
「家族になるってのは、どうゆうことかわかってるか?」
「アリオス叔父さんのお嫁さん・・・」
「もう・・・、おじさんと呼ぶな。"アリオス”と呼べ」
「ン・・・、アリオス」
「これにおまえの名前を書け。オリヴィエとロザリアが証人だ」
アリオスはアンジェリークの目の前に、自分の名前を書いた婚姻届を突きつけた。
涙が彼女の大きな瞳が潤み、視界がよく見えない。
「これで、ホントの家族ね?」
「ああ」
嬉しくて堪らなくて、花をすすりながらも、彼女は慌てて机に向かう。
自分の名前を一生懸命書き入れるアンジェリークが、アリオスは愛しくて堪らない。
「はい! これで、私は叔父さんのお嫁さん」
「アリオス」
「あ、、アリオスのお嫁さん」
泣き笑いの表情をアリオスに浮かべ、彼女は、嬉しそうに言い直す。
彼女の何もかもが愛しくて堪らない。
彼は軽く彼女を抱きしめると、甘い声で囁いた。
「もうひとつ、おまけがあるだぜ?」
----------------------------------------------------------------------
これはおまけなんかじゃないと、アンジェリークは思った。
オリヴィエとロザリアが証人になってくれ、婚姻届が完成したら直に、メイクを直され、ウェディングドレスに着替えさせられたのだ。
それはロザリアのブティックが扱う、清楚なものだった。
シンプルにレースが施され、少しだけ胸の開いたタイプのそれは、清楚で、アンジェリークにはよく似合っていた。
グレーのタキシードに着替えたアリオスは、クラクラするほどステキで、協会に行くまでの車の中で、アンジェリークは暫し見惚れていた。
連れて行かれた教会は、石造りの、古びてはいるが、大変ロマンティックなものだった。
着いてからも時間はなく、オリヴィエとロザリアが教会の中に入ると、直にパイプオルガンの演奏が始まり、アリオスとアンジェリークも、直にヴァージンロードを歩き始めた。
教会には、牧師、オルガン奏者だけがおり、参列者は、オリヴィエ、ロザリア、ヴィクトール、そしてレイチェルと彼女の恋人エルンストだ。皆、アンジェリークのために、奔走してくれた人たちだ。
自然と涙が出てくるのが、アンジェリークには、判る。
やがて、神への宣誓の時間だ。
「アリオス、あなたは、アンジェリークを妻とし、病める時も、健やかなる時も、変わらずアンジェリークを愛することを誓いますか?」
「誓います」
「アンジェリーク、あなたはアリオスを夫とし、病める時も、健やかなる時も、変わらずアリオスを愛することを誓いますか?」
「誓います」
感極まり、涙ぐんでしまい、アンジェリークは上手く言うことが出来ない。
こんなことひとつを取ってみても、彼女が愛しい。
「では、指輪の交換を----」
リング・ピローに載せられた指輪は、先ほどロザリアがこっそりとアンジェリークの指を図り、それをアリオスに伝えて、彼が買ってきたものなのだ。
二人は、互いの指に、指を填め、永遠の愛の証とする。
「では、誓いのキスを」
ベールをアリオスが静かに取り、深い口づけを交わしたとき、彼らは、”永遠の恋”を成就させることができた----