暫くまどろんでいたアンジェリークが目覚めたのは、暖かく自分を包み込んでくれるような光に、導かれてのことだった。 「・・・ん・・・」 瞳を開ければ、そこには暖かな光を宿した、異色の魅力的な眼差し。 「気づいたか?」 優しいテノールに、心地よくなりながら、彼女はそっと頷いた。 「起きるか?」 「うん・・・、アリオスにまた抱きしめて欲しい」 「バカ」 はにかむ彼女の身体をそっと起こしてやり、華奢な身体をその腕の中に包み込んでやった。 彼の背中に手を回しぎゅっと抱きしめてくる彼女は、まるで子供のように見える。 「アリオス、話していい?」 「ああ、話せよ?」 彼の優しい声が、胸を通して聞こえ、彼女はその声の響きに暫し聞きほれた。 「----あのね・・・、ラ・ガがレイチェルの意識を乗っ取ったの」 その名前を聞いて、アリオスも身を固くする。 かつて、ラ・ガは、転生した赤ん坊の姿だった彼に力を送り、成人にし、その意識を操ったのだ。 その結果、彼は転生前の姿に戻り、アルカディアに飛ばされ、図らずも二人の再会を早めてくれる結果となった。 -----だが、その正気ではなかった彼は、ラガのせいで、愛する少女を手にかけようとした。 まるでそれは前世の因果のようで、彼はたまらなくなる。 そう、彼にとっても、ラ・ガは憎むべき敵だった。 「あなたにあんな辛い思いをさせたのに、レイチェルまでも!」 彼女は怒りと哀しみに肩を震わせながら、彼の背中に回す手に力をこめた。 「アンジェ・・・!」 彼女の心の震えがわかる。 痛みがわかる。 彼は彼女の心ごとを包み込むように、腕に力をこめる。 それに安心したのか、彼女は、ポツリ、ポツリと、再び話し始めた。 「・・・レイチェルはね、あなたを失って苦しそうにしている私を、何も言わずに優しく支えてくれたの。 本当は、あなたとのことを私の態度で知って、それをロザリア様に相談していたみたい。 ロザリア様は、私たちのよきアドバイザーだから。 真実を知ってからも、彼女の私への態度は変わらなかった。 それどころか、もっとしっかり支えてくれた・・・。 あなたとレイチェルがいたから、ここまでがんばって来れたのに・・・。 ----私・・・、レイチェルに何かあったら・・・って思うと・・・」 軽く胸を引きつらせながら話す少女がアリオスは誰よりも愛しく感じる。 まるで子供をあやすかのように、軽く彼女の背中を叩きながら、彼はその愛をすべて彼女に注ぎ込む。 「大丈夫だ、アンジェ。 レイチェルにはみんなが祈っているだろう? おまえもいる。そして、影では俺がいるんだからな? 心配するな?」 「うん・・・、うん・・・、アリオス」 いつもはからかうばかりの彼であっても、こういったときには優しさをさりげなくくれる。 その優しさは、アンジェリークにとっては何よりも、心を癒してくれる存在となり、同時に暖めてもくれた。 「・・・きっとレイチェルは良くなる・・・」 「うん・・・。なんだか不思議ね・・・。あなたにそういわれるとそんな気になっちゃう」 しっかりと身体は彼に縋りつき、彼女はぎゅっと彼を抱きしめたまま離さない。 「----しかし、ラ・ガも野郎め・・・!!」 苦しげに言う彼の語尾には全ての思いが伝わってくる。 操ったラ・ガへの憎悪。 愛するものからすべてを奪おうとするラ・ガへの怒り。 彼の身体の暖かさと共にそれらが伝わってくるのが判る。 「一緒に、ラ・ガと戦ってやる! おまえと一緒に、全てを解決するために」 「アリオス・・・!! あなたがこうやって支えてくれるから、私は今までがんばれた・・・。 だから、最後まで支えていて。 私・・・、がんばるから。精一杯がんばるから・・・」 少女は再び彼の胸を涙で濡らす。 彼にしか見せない弱さを見せながらも、そこには凛とした強さも光っている。 「俺は、おまえがいるからこそ、ここにいるんだ。 言われなくてもそうするぜ?」 「うん・・有難う・・・。あなたにそういわれると、がんばれる」 涙で濡れるそ翠のひとみが彼を切なげに捕らえる。 その眼差しに深く映る哀しみを彼は消したくて、もう一度、彼は優しく口付ける。 彼女に勇気を注ぎ込む。 タップ地と愛情を込めた口付けをされて、アンジェリークの心はたくさんの勇気が宿ってくるのを感じた。 唇が離された後、彼女は彼の胸に頭を凭れさせて甘える。 「----もうすぐね? 銀の大樹の封印を解いて、ラ・ガと対峙しなければならないのは・・・。 アリオス、見守っていてね? 片時も私から、心を離さないでね? ----私にちゃんとできるように、見ていて・・・。 レイチェルとこの大陸を助けられるように・・・」 「見ててやる。 大丈夫だ。銀の大樹の封印は解ける。レイチェルも助かる。 ----俺は肌で感じることが出来るぜ? この大陸がどれほど幸福に感じているかを・・・。 だからきっと、大丈夫だ。 おまえには出来る・・・。信じているぜ?」 「アリオス」 彼はいつも欲しい言葉を暮れ、また、言葉に出来ないほどの深い愛情をくれる。 がんばれるような気がする・・・。 アリオスが側で見守っていてくれるから・・・。 彼がいるから、私はがんばれるから。 待っててね・・・。 レイチェル・・・。 二人は互いに抱きあい包み込みあう。 時間は二人を優しく包み込む。 彼は彼女を守るために。 彼女は最後の戦いに向かうために。 それぞれの決意を、お互いの”想い”で溶かしあう。 二人を、優しい風だけが包みに込んでいた。 ------------------------------------- すっかり日も暮れ、アンジェリークはアリオスに部屋まで送り届けてもらった。 結局、育成も出来なかったが、そこには朝とは違った強い彼女がいる。 その表情は、アリオスに癒され、勇気を与えてもらったことによって、新たな決意と勇気が凛とした輝きを放っている。 女王としての強い彼女を取り戻した姿がここにある。 朝の不安そうだったものがうそのようだ。 「アンジェ、ずっと守ってやるからな? 安心して、ラ・ガに向かっていけ? じゃあな」 彼が踵を向け、ドアノブに手を掛けようとすると、何かが引っ張っているのがわかった。 「アンジェ?」 彼が振り向けば、彼女は上目遣いで彼を見つめる。 「ねえ、”おまじない”もう一度して?」 甘える彼女に、アリオスは思わず深い微笑を浮かべる。 「しょうがねーな?」 彼はそのまま彼女の繊細な顎を持ち上げ、今日何度目になるか判らない口付けを彼女に落とす。 「・・・んっ!」 甘く、そしてえ、命を与えるような熱い口付け。 それは、彼女に、勇気を奮い起こさせる。 同時に、彼の愛によって見守られている自分を感じる。 唇がようやく離されたときには、、彼女の眼差しは嬉しさに潤んでいた。 「有難う・・・。これで、がんばれる?」 「そうか・・・」 彼の微笑みもいつになく優しく、彼女を包み込んでくれる。 「じゃあな」 「うん、またね?」 いつもの同じ挨拶。 だが、彼らは次の最下今が保証されないことを知っている。 だが、二人は、再会を深く信じあい、それを言葉に込めあう。 いつものように、青年は彼女の部屋を後にする。 あくまで彼女に迷惑をかけないように、そっと・・・。 アンジェリークがアルカディアを救い、この青年と共に暮らす時間は、もうすぐそこまで来ている----- |
THE END
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コメント
20000番のきり番を踏まれたかなほ様のリクエストで、
トロワの「レイチェルが倒れた翌日に会ったアリオスの優しさ」がテーマの創作です。
アンジェリークは、彼に支えられて、がんばるというところを描きたかったんですが、中途半端でした。
かなほ様ごめんなさい〜
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