UP CLOSE AND USUAL

PREVIEW


 アンジェリークは、昨日はろくに眠ることすら出来なかった。
 親友であり、また補佐官としても陰になり、日向となって支えてくれたレイチェルの身に、あのようなことが起こるとは。
 アンジェリークの手によって、すっかり幸福に包まれた、エレミアの地も、彼女がいたからこそなのだ。
 だからこそずっとついていて上げたかった。
 彼女の側で、何も出来やしないけれど、ただついていて上げたかった。
 かつて、愛する男性をアンジェリークが失い、心が死んでしまったときにも、レイチェルは何も聞かず側にいてくれた。
 ずっと心から支えてくれた。
 今度は彼女にその気持ちを少しでも返せたらと思っていた。
 だが、二人のよきアドバイザーであり、故郷の宇宙の補佐官であるロザリアは、こう提案してくれた。
「気分転換に、少し散歩でもしてきなさい。
大丈夫! レイチェルには、私も、エルンストもついているんだから」
 艶やかに、優しく包まれるように微笑まれると、アンジェリークは何もいえなくなってしまう。
 実際、有り難い申し出には代わりがないのだから。
 さが、やはり親友のことである。
 彼女が躊躇った表情を返せば、ロザリアはさらに微笑んで見つめ返す。
「女王がそんなに塞ぎこんでいるのは、エレミアの」ためにも良くないわよ?」
 その一言にアンジェリークはっとする。
 全くそのとおりだから。

 ホント。
 ロザリア様は何度もわかってる・・・。

「判りました・・・。少し気分転換に出てきます」
「いってらっしゃい」
 ロザリアに見送られて、アンジェリークは外へと飛び出す。
 向かう場所は、勿論、”約束の地” -----

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 自然とその場所に足が向いてしまっていた。
 彼にどうしても逢いたかった。
 逢うだけ良かった。
 その顔を見るだけでよかった。
「よう、待ってたぜ?」
 その艶やかな優しい微笑を見るだけで、アンジェリークは泣き出したくなった。
 押さえていた感情が全部噴出すのを何とかこらえながら、彼女は精一杯アリオスに微笑みかける。
「うん・・・。遊びに来たよ」
 微笑みながらもどこか儚げなその微笑みに、彼は思わず怪訝そうに眉根を寄せた。
「アンジェ、どうしたんだ!?」
「うん・・・、大丈夫・・・」
 心配そうにされると泣きそうになるのはなぜだろう。
 彼女は必死になって、彼を心配させまいとこらえた。
 だが彼の瞳に映る彼女は余りにもやつれている。
 寝てはいないのだと思われる、真っ赤な瞳と、目の下のクマ。
 それらが彼に、彼女の心労の重大さを気づかせた。
「----何があったかしらねえが・・・、あんまり・・・、無理はするなよ?」
 ポンと頭に手を優しく当てられ、栗色の髪を撫でられる。
 その行為が彼女の感情の鍵が外す。
 我慢していた全ての感情が押さえきれない状態になり、アンジェリークは潤んだ瞳で彼を上目遣いで見た。
「アリオス〜!!!」
「おいっ!」
 そこからは、もう何も止められなかった。
 彼女はそのまま彼の精悍な胸に顔を埋めると、安心しきって泣き始める。
「ったく・・・、しょうがねえな・・・」
 彼はふっと甘い微笑を彼女に落とすと、彼女をその優しさで包み込んでやる。
 身も。
 心も。
 あえて、なぜ泣いているのかはあえて訊かない。
 いつも精一杯がんばり、このエレミアのために、幸せを注ぐ少女。
 誰にもその弱みを見せず、いつも強くあらんとする。
 真っ直ぐな瞳を持つ女王。
 誰の目にも、その医師の強さで、尊敬されている彼女が、彼の前だけで見せる”弱さ”。
 それがアリオスには愛しくてたまらない。
 本当は知りたい。
 彼女がどうして泣いているのかを。
 どうして縋ろうとしているのかを。
 だが意味はそっと彼女を受け止めてやりたかった。
 何も訊かず、ただゆっくりと。
 彼は彼女の顎をそっと持ち上げる。
 彼女の眼差しもそれに答えるように静かに閉じられる。
「おまじないだ・・・」
 彼は腰を屈め、彼女も本お少しだけ背伸びをする。
 深く唇が重ねられる。
 その口付けは、優しく甘い。
 彼女を宥めるように、落ち着かせるように彼は巧みに口付けた。
 舌で優しく彼女の唇や、歯列を愛撫する。
 いつしか二人は互いの舌を絡ませあって、深く求め合った。
 唇が離されたときには、彼女はうっとりと彼の胸に顔を埋めた。
「落ち着いたか?」
「アリオス、何も訊かないの?」
 しゃくりあげながら、アンジェリークはやっとのことで話し出した。
「----アンジェ、おまえが話したくなったらでいい。
 今は涙で全部いやなもんは出しちまえ。話すのはそれからでいい」
「有難う」
 潤んだ瞳を一瞬だけ彼に向けると、彼女は安心しきったかのように彼の胸にそのまま顔を埋め、瞳を閉じた。
「アンジェ・・・?」
 アリオスの言葉に安心をしたのか、アンジェリークはそのまま、腕の中で寝息を立て始めていた。
 よほど疲れていたのだろう。
 立ったままにもかかわらず、彼女は眠ってしまっている。
「ったく、しょうがねーな」
 優しい微笑を彼はその異色の眼差しに浮かべ、そのまま彼女を起こさないようにそっと抱き上げると、”約束の木”の下まで連れてゆく。
「ったく・・・、困ったお嬢様だ」
 彼はその木に凭れて腰をおろすと、彼女をそっと膝の上で膝枕をし、寝かしつける。
 そっとその栗色の髪をすきながら、彼はいつまでもこうしていたいと願った。

 アンジェリーク、眠れ・・・。
 おまえが不安ならば、そんなものは俺が消してやる。
 おまえが幸せでなければ、この俺も幸せじゃないから・・・

 彼は、慈しみのある眼差しで、彼女の寝顔を見つめると、そっとその額に唇を落とした----  

TO BE CONTINUED・・・

コメント

20000番のきり番を踏まれたかなほ様のリクエストで、
トロワの「レイチェルが倒れた翌日に会ったアリオスの優しさ」がテーマの創作です。
後編はSWEETに行きますのでよろしくお願いします。