THIS IS THE RIGHT TIME

後編


「汚い真似しやがって!」
 アリオスのうめくような叫びに、アンジェリークはびくりとした。

 お頭、本当に怒ってる・・。
 その肩の震えで判る!
 伯父は、なんて事をしたの!!!

 アンジェリークは、唇を血が滲むほど噛み締め、肩を震わせる。
「おまえのせいじゃねえよ…」
「だってお頭…、私が戻れば…」
「おまえは戻りたいのか!?」
 アンジェリークはそれに頭を振るだけだ。
 アリオスはウォルターに目配せをして、消えさせた後、二人っきりになった。
「アンジェリーク、ここにいたいか?」
 その問いには、アンジェリークは力強く頷く。
「俺が助けるから心配すんな」
 彼の頼りにたる眼差しに、アンジェリークは包まれて、愛威信するかのように何度も頷いた。
「ねえ、私にも手伝わせて?」
 涙を拭いながら、アンジェリークはしっかりとした意志を持った上で、彼に言葉を投げかけてくる。
「いいのか?」
「うん」
 アンジェリークはアリオスに向けた眼差しをそらすことはなく、真っ直ぐと見つめてくる。
 その心根を知って、アリオスは益々彼女に惹かれてゆく。
「辛いぞ? 構わねえか?」
「うん」
 彼女の返事にアリオスは、フっと優しい表情を浮かべると、その繊細な彼女の顎を持ち上げた。
「あ…」
「頑張ろうな…、アンジェリーク」
 そのまま、アリオスは彼女の唇をゆっくりと奪ってゆく。
 優しく宥めるようでいて、しっかりと情熱的なキスに、アンジェリークは溺れた。
 二人はしっかりと抱き合うと、暫くそのままで、お互いの心を通わせる。

 お頭…、大好きよ・・・!!!

 アンジェリークは、一人の男性として、アリオスを愛し始めていた----
 そして、アリオスも、初めて、一人の少女に"女"を感じ、心の氷を溶かしつつあった。

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 深夜になった。
 それまで、アリオスの指揮のもと、アンジェリークたちは、この襲撃への準備を充分に行い、その時を今や今やと待ち構えていた。
 アンジェリークは、アリオスの馬に、一緒に乗せられている。
 この様子に、誰もがお頭と彼女の仲を微笑ましく思わずに入られない。
 アリオスは月を見上げた。
 夜風で、彼の白いターバンが揺れる。
「-----時間だ…」
 その低い声で高らかに宣言された瞬間、アリオスはアンジェリークと一緒に、ジョスパンの屋敷に侵入した。
 部屋を知り尽しているアンジェリークが、ナビゲーション役を買って出る。
「おまえの部屋はどこだ?」
「えっと、この先直ぐです」
「閉じ込められているとしたら、俺はおまえの部屋のような気がする…」
「え!?」
 アンジェリークはアリオスの言葉に首をかしげる。
 どうしてだか判らない。
「罠だ」
「罠?」
「ああ、俺たちを誘い出すためのな?」
 アリオスの言葉を聞いて、アンジェリークは、益々実の伯父ながら、ジョスパンのやり方に吐き気を覚える。
「守ってやるから、安心してろ」
「はい、お頭」
 感情は特にない声ではあったが、アリオスはアンジェリークをしっかりと守ってくれるのは明白だし、それだけでも嬉しくて、この後に何が待ち受けていようとも頑張っていけるような気がしてくる。
「ここです…」
 小さな声を出してアンジェリークが自分の部屋のドアを開けた----
「…!!!」
 そこには、アリオスが予想した通り、マルセルとルノーが猿轡をされて、縛り上げられていた。
「・…!!!」(お頭!!!)
 二人は必死になってその名前を呼んだ。
 まさにその時----
 電気がつき、ドアにの外には、ジョスパンを初めとして、武装した男たちがずらりと姿あらわした

 お頭…!!!

 アンジェリークは縋るように彼を見つめ、アリオスは優しい眼差しで彼女を宥める。
「マルセルとルノーは返してもらう…」
 アリオスの声は何の感情もなく揺れている。
「そんな虚勢を晴れるのは今のうちだ…なあ?」
 ジョスパンが後ろをちらりと見ると、男たちは一斉に武器を構える。
 だがアリオスは一向に表情を変えない。
「さあ、アンジェリーク、おまえは明日には、嫁に行くので、さあ、こっちに来なさい」
 ジョスパンの手が迫ってきて、アンジェリークは首を横に激しく振った。
「嫌よ!! 私はみんなと、このお頭と一緒にいるんだから!」
「何!?」
 アンジェリークは強い意志を伯父に突き出す。
 彼女の眼差しを見れば、もうしおれが事実であることは明らかで。
「ええい! おまえは何としてでも嫁にやるのだ!」
 ありおすhじゃさっとアンジェリークの前に立ち、彼女庇う。
 彼の手が腰元の剣にかかり、一瞬、ジョスパンは怯んだ。
「ええい! 盗賊ごときだ!! やってしまえ!!!」
 ジョスパンは後ろの武装した男たちに命令をし、その隙にアリオスの後ろにいるアンジェリークの手を取ろうとした。
 だが、アリオスは足でジョスパンを回し蹴りを入れ、立てなくする。
「俺の女に手を出すんじゃねえ!!」
 無意識出た一言。

 俺の女…。
 お頭…!!!

 アンジェリークはその言葉が嬉しくてたまらなくて、その場で不謹慎ながら、うっとりとしてしまう
「わああっ!」
 一斉に男たちがかかってくる。
 アリオス覇権を抜くと、アンジェリークを守るように、次々に、男たちが持っている剣を落としてゆく。
 その手さばきの見事さに、ジョスパンは腰を抜かす。
 その上----
「お頭!! 助けに来ましたぜ!!!」
 次々に盗賊たちがやってきて、武装した男たちを、みね打ちで気絶させてゆく。
「おまえたち良いタイミングだ!」
「あああっ!!」
 一瞬で、武装した男たちを全滅に追い込んだ。
 だがあくまでも誰も殺してはいない。
 アンジェリークはアリオスの広く精悍な背中に守られ、ほっとする。
 縋りたくてたまらなくて、手を伸ばそうとした。
「おい」
 アリオスの声が響いて、アンジェリークはビクリとする。
「後の始末は、ジュリアス、あんたがしてくれるんだろ?」
 アリオスがそういうと、男たちの後ろから、金髪の青年がでてきた。
「ジョスパン、おまえには、収賄罪で聞きたいことがあるのでな? ちょっときてもらおうか?」
 言って、青年は、特捜の証明書を彼に見せ、ジョスパンはうなだれた。
 アンジェリークが、訳が判らぬまま、盗賊の男たちがジョスパンと、気絶した武装人たちを連れて行ってしまった。
 彼女は気が向けたのか、へなへなと、その場に崩れ落ちた。
「アンジェ!?」
 アリオスは慌ててその華奢な身体を受け止める。
「気抜けちゃった…」
「ああ」
 彼にぎゅっと縋るようにしてて、首に手を回して、アリオスもそれに答えるかのようにぎゅっと抱きしめてやる。
「さっきのは一体…」
「手下が来たのは、どこかの部屋で明かりがつくから、それに目掛けて来いといっておいた。ジュリアスは手下に混じってきた、特捜の仕官さ。たまにこうやって、俺たちの手を借りて解決しやがることがある。俺たちが評判の悪い貴族しか襲わないことを知っているからな…。殺しもないから、目をつぶってくれている…」
「そうだったんだ…」
 アンジェリークはほっとしたように息を着くと、さらに彼に縋りつく。
「あのね、さっき嬉しかった。お頭が"俺の女"って言ってくれて…」
 アリオスは少してれたように笑う。
「あなたの"女"になって良いかな?」
 はにかんで言う彼女に、アリオスはこの上なく優しい微笑を送った。
「俺もおまえの"男"になりてえ…」
 アンジェリークは潤んだ瞳で彼を見つめ、二人の唇がゆっくりと…。
「ん・・ん・・!!!」(お頭!!)
 苦しげな声が聞こえて、二人の唇は止まる。
 後ろを見ると、そこには、まだ縛られた、マルセルとルノー。
「マルセル、ルノー悪ぃ! ちょっとまって」
「え!?」
 アリオスはさっと話すと、アンジェリークに向き直り、再びキスの続きを始める。
「あ、や、あ・・・」
 アンジェリークは恥ずかしくて抵抗しながらもその唇を受け入れる…。
 甘い感覚に酔いしれ、アンジェリークは誰かに見られているなんて、気にしなくなる。
 マルセルとルノーもふたりのあまあまぶりに、苦しさを暫し忘れるのであった---

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「姐さん!! おかわり!」
「はいはい!!」
 アンジェリークがここに来て、アリオスの妻となって半年が過ぎようとしている。
 今では、"姐さん”と呼ばれて、アリオスの手下からも慕われている。
 そして、彼女のおなかには、速攻にも、アリオスとの愛の結晶がいる。
 幸せを噛み締めながら、アンジェリークははじめて自分がいるべき場所と時間を見つけた。
 それは、夫であるアリオスも全く同じことであった。
 二人の仲は、誰よりも強く、そして、互いを癒すことが出来る、唯一のもの。
 アリオスの微笑みも、最近は冨に見られるようになったと評判である。
 それは、この天使のお陰なのかもしれない…。
 彼だけの天使の…。
おしまい

コメント

46000番を踏まれたゆうほ様のリクエストで、
「人質として連れてこられたアンジェリークに、
 惚れてしまう盗賊の頭アリオス」です。
ラストはバカップルでしめました。
いかかでしたでしょうか? ゆうほ様
リクエストどおりに行かなかったかもしれません…。
ごめんなさい、反省します…。