神様、私はやっぱり結婚することは出来ません! 愛してもない男性と、自分の親でもない人達のために、結婚だなんて、出来ません! 結婚するんだったら、口は悪くて、私をいつもからかうんだけれど、本当は優しい不器用な人がいい・・・。 出来たら、笑顔と表情の落差のある男性がいいな・・・。 アンジェリーク・コレットは、鞄に必要な荷物を入れて、まさに、今から家出しようとしていた。 理由は簡単だった。 両親が亡くなり、伯父夫婦に引き取られたのだが、引き取られて僅か三日で結婚させられそうになったからである。 ゆっくりと忍び足で階段を降り、慎重に廊下を潜り抜けて、玄関先までやってきた。 深呼吸をした後、アンジェリークは、ゆっくりとドアを開けて外に出た。温和な彼女がここまですることは珍しく、よほどこの婚礼を嫌ってのことであった。 だって四十も年上の太った男のひとだなて、いやいやいや!! 不意に彼女の耳に、物音が入ってきた。 宝物庫? 誰!? 自分自身が少し疚しいことがあるせいか、遠ざかるように門に向かって歩こうとした。 「・・・!!」 ばったりと、門をよじ登り、降りようとしている絶世の美女と出会った。 互いに存在に驚く。 美女は舌打ちをすると、そのまま門の上から飛び降り、アンジェリークの前に立った。 「ここの娘? 一緒に来てもらうよ?」 「えええ〜!?」 息を飲む暇も与えてもらえず、アンジェリークはそのまま抱えられる。 女性にもかかわらず、相当な力の持ち主である。 口を手で押さえられ、何か布を当てられる。 何・・・? 睡眠薬!? そのままアンジェリークはうつらうつらしていた。 頭の上でうっすらと声が聞こえる。 「人質か…、あいつにはこれくらいの仕打ちは必要だな」 「そうそう悪徳貴族にはこれぐらいの仕打ちは必要だよ」 内容が良く聞こえなかったせいか、理想的な声が聞こえ、アンジェリークはほくそ笑む。 とっても素敵な声・・・。きっと素敵な人よ…。 自分の立場に、アンジェリークはまだ気がついてはいなかった---- --------------------- 次に、アンジェリークが目を覚ましたとき、柔らかなベッドに寝かされていた。 「どこ・・・?」 周りの調度品は、かなり良いものを使っていて、アンジェリークは目を見張った。 確か・・・、綺麗な女の人に見つかって・・・。 簡潔なノックがして、アンジェリークはドアに意識を集中させる。 身体が強張るのを感じる。 「・・はい…」 「起きてる?」 入ってきた青年は、美しい、魔性の雰囲気を醸し出している。 アンジェリークは青年をじっと見つめ、頭を捻った。 全く、どこかで見たことがあるような顔である。 「判らない? 僕だよ」 髪をくっと上げて、青年は妖艶に笑う。 「あっ!!」 その正体を知って、アンジェリークは声を上げた。 それは気絶させられる前に見た、あの美女であった。 「頭が呼んでる。来て」 ”頭”という言葉の響きに、アンジェリークは、熊のような男を想像して、震え上がった。 「大丈夫だよ。お頭はそんな女を食べるなんて野蛮なことはしないから。女嫌いだし、僕たちがそんな事をしようものなら、殺されるしね〜」 見透かすように笑う青年に、アンジェリークは罰の悪そうな顔をする。 「さ、行くよ」 「はい」 何が何だか自分の立場がわからないまま、彼に連れられて部屋の外に出た。 廊下の奥を進んでいくと、重厚な扉があった。 「ここにお頭がいるよ」 青年がノックをすると、魅惑的な声がドアの向こうから聞こえてきた。 「誰だ?」 「ジョウ゛ァンニです。娘を連れて来ましたよ」 「入れ」 アンジェリークはその声に魅入られながら、開けられた扉に吸い寄せられるように入っていく。 凄く良いお声・・・。きっと最後に聞いたのもこの方の声・・・。 部屋の中が、明るく開けた瞬間、アンジェリークははっとして息を飲んだ。 そこにいたのは銀の髪が印象的な、長身の青年。姿勢よく立つ姿は精悍そのものだ。 「おまえ、名前は?」 感情の湛えられていない異色の瞳に見つめられて、アンジェリークは動けない。 翡翠と黄金の対をなす瞳は、神秘的な宝石のようで、見惚れてしまう。 「おい、もう一度聞く。名前は?」 そこでようやく、アンジェリークは口を開いた。 「・・・アンジェリーク・コレット」 「アンジェリーク・・・、天使か・・・」 青年が、噛み締めるようにその名を呟くと、アンジェリークは胸が甘く切なくなるのを感じる。 「手下の手荒い処置は詫びる。ハーブで作った睡眠剤だから、副作用はおこらねえから安心しろ」 全く冷酷な声に、アンジェリークはただ頷くだけであった。 素直に悪いことは悪いと謝れる潔さが、アンジェリークの心の琴線に触れる。 なんて男らしい人なんだろうか・・・。 「当分おまえを屋敷に帰すわけにはいかねえ…」 青年は、恐らく本当にそれくらいはし兼ねないほど、冷酷な雰囲気を漂わせている。 だがアンジェリークの反応にはアリオスは度肝を抜かれた。 「私をここに置いて下さるんですか!!!」 その声はどこも彼を非難していなく、それどころか、むしろ嬉しそうである。 余りにも突拍子のない態度に、青年は奇妙な顔をする。 「おまえ・・・気を違えたか!?」 怪訝そうに眉根を寄せ、彼は彼女を見つめる。 「違います!! あんなお屋敷に帰るぐらいだったら、ここのほうがいいかもしれません!」 きっぱりとした口調に、青年はますます訳が判らなくなる。 「おまえ…」 そう言えば、彼女はどう見ても家出の身なりだった。 目の前にいる少女は、とても澄んだ、力強い眼差しを真っ直ぐ彼に投げかけてくる。 自分が忘れたような澄んだ光を。 彼はフッと笑うと、少女をじっと見つめた。 その笑顔に、ジョヴァンニは驚く。 お頭が…、笑った!? 「お前、気に入ったぜ? よし、ここにおいてやる。俺の名はアリオスだ」 「…アリオス…」 アンジェリークもまた噛み締めるように彼の名前を呟く。 恋は始まりを告げていた---- |
コメント
46000番を踏まれたゆうほ様のリクエストで、
「人質として連れてこられたアンジェリークに、
惚れてしまう盗賊の頭アリオス」です。
まだ続きます…。
アリオスがのシニカルさは次回で…。
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