TABOO

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 禁断の花ほど…、手に入れたくなる…。

「お兄ちゃん、お夜食」
「ああサンキュ。そこに置いててくれねえか」
 締め切り間直の原稿に集中しながら、アリオスはアンジェリークにそっけなく指示を出した。
 実の妹のさりげない優しさは、嬉しくもあり、少し辛くもある。
「お仕事、あまり無理しないで?」
 心配そうに顔を覗きこんでくる妹の澄んだ青緑の瞳が、今は苦しい。
「大丈夫だ、アンジェリーク・・・。夏休みだからといって、夜更かしするなよ。早く寝ろ」
 冷たい兄の言葉に、アンジェリークは、一瞬まなざしを曇らせたが、少し切なそうな色を湛え、兄を見た。
「・・・邪魔しないから、そばにいていいかな? ひとりで本を読むの・・・、寂しくて・・・」
 両親を無くしてからのアンジェリークは、とてもさびしがりやになった。
 今でこそ、そんなにくっつかなくなったが、昔はしょっちゅうアリオスの後をくっついて歩いていた。
 それを知っているせいか、昔から、妹の寂しそうな瞳にはからきし弱い。
 アリオスは、フッと仕方なしに笑うと、妹に言ってやる。
「ああ、かまわねえよ・・・」
「ホント!!!」
 こんな小さなことでも、心から喜ぶ彼女が愛しくて、アリオスは胸に甘い痛みを感じずにはいられなかった。
「静かにしてるから」
 笑うと、アンジェリークは本を片手に、書斎の隅にある椅子に腰掛け、本を読み始める。
 その様子を、ほんの少しだけ見つめると、アリオスは再び原稿に集中した

 手折れてはいけない、俺にとっては美しい禁断の果実・・・。

 書斎に響くのは、パソコンのキーを打ち込む音と、本を捲る音だけ。
 落ち着いた音の響きに、兄妹は言いようのない安らぎすら感じていた。
 しばらくして、本のページを捲る音が聞こえくなった。
 本が床に滑り落ちる音がして、アリオスは、アンジェリークへと振り返った。
 そこには、お約束通り、あどけなく眠る妹がいる。
「しょうがねえな・・・」
 そのまま華奢な妹を抱き上げ、彼女の部屋に運ぶ。
 ベッドに寝かせ、アリオスは柔らかな頬に口づけた。
「おやすみ、俺のアンジェ・・・」
 慈しみのあるまなざしを向け、アリオスは切なくなる。

 年が離れた妹の誕生は嬉しかったのを、覚えている…。
 
 だが・…。
 良心を亡くした日、まだ10歳だったおまえが必死になって俺を見つめる姿に、俺は女を感じた----
 もう妹だとは思えないと・・・。
 あれから・・・7年か・・・。
 兄として俺を慕ってくれるのは、確かに嬉しい・・・。
 だが、日に日に美しくなっていくおまえを見ていると、手にいれてはならない禁断の果実を、この手でもぎ取りたい衝動に駆られてしまう・・・。
 おまえしか見えない・・・。おまえ以外の女には何も感じない・・・。

 身体の奥から突き上げる熱い思いを押さえ、アリオスは部屋から出ていく。

 血の繋がりさえなければ、おまえを今すぐ奪うのに・・・。

 兄の禁断の想いにまだ気付かない妹はすやすやと眠る。その背中には純白の羽根が、アリオスには見えるのだった。

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 翌日、アンジェリークの家は少し賑やかになった。
 彼女の親友レイチェルが宿題の勉強会を名目に、遊びに来ていたからである。
「アンジェ、今度さ、エルンストも一緒に、キャンプに行こうって言ってるんだけど、アナタも行かない? きっと楽しいよ! 色々な場所から人が集まるからね〜! 出会いもあるかも!」
 シャープペンシルを片手に、レイチェルは熱っぽく語り、アンジェリークは本当に楽しそうに聞いている。
「出会いとかはいいけれど…、本当に楽しそう! 行きたい!」
「でしょう!」
 だが、アンジェリークは、少し、戸惑ったような表情をした。
「・・・お兄ちゃんに・・・、訊かなきゃ」
 アンジェリークの様子からして、彼が許可しそうにないことが、伺える。
「ワタシも一緒に言ってあげるからサ! 訊いてみようよ!」
 力強い親友の声に、アンジェリークはにこりと微笑んだ。

「駄目だ」
 書斎に入り、尋ねるなり、アリオスの冷たい声が響き渡った。
「どうして!」
 食い下がる妹に、アリオスは表情一つ変えることはない。
「アンジェ…。その時期は俺が仕事に入るから外出するなといったはずだ…」
「お兄ちゃん!」
 涙目で見つめられても、アリオスにはどうすることも出来ない。

 他の男がたくさんいるような場所に、俺はおまえを行かせない…。
 おまえは誰にも曝させない…。

 何も答えない兄に、アンジェリークは肩をがっくりと落とす。
「…お兄ちゃん…」
「行こう、アンジェ…」
 レイチェルに華奢な肩を支えられて、アンジェリークは書斎から出てゆく。
 そのがっくりとした気配に、アリオスは良心が痛まないわけではなかった。
 だが----
 まだ妹を誰にも渡したくはなかった。
 レイチェルの恋人であるエルンストがついてはいるとはいえ、恋人もいない彼女には、それこそ餌食になってしまうに違いない。
「アリオスさん…」
 書斎から出る間際に、レイチェルはアリオスを呼ぶ。
「何だ…」
「何時までもそうやって、アンジェを縛り付けておいたら、彼女は何時までたっても自由にはなれないわ!」

 …!!!

 妹を束縛している…。
 そのようなことは考えたくはない。
 ただ、自分の独占欲の強さが 彼女を追い詰めていることだけは判る。
 判っているだけに、二の句が告げない。
 アンジェリークもまた俯いて黙っているだけだ。

 私…。
 私こそアリオスお兄ちゃんを束縛しているかもしれないって…、思ってる…。

 書斎のドアを閉じた後、レイチェルは大きな溜息をつき、ついでに目くじらを少しばかり立てた。
「もう! アナタの兄ちゃんわからずや!」
「レイチェル…」
 穏やかな少女は、ただ、少しさびしそうにレイチェルを見つめる。
 その表情が可愛くて、レイチェルは抱きしめたくなってしまう。
「とにかく! ワタシ、負けないから!!」
「…うん…、有難う…、レイチェル…」
 礼を言いながらも、アンジェリークは自分の心を反芻する。

 お兄ちゃんの反対を押しきってまでは…。
 私…。

 結局。
 二人はそこから暫く勉強をした後、お開きにした。
  レイチェルが帰った後、アンジェリークは再び兄のいる書斎に向う。
「お兄ちゃん?」
「アンジェか…。
 さっきのことならダメだ」
 ドア越しに聴こえる兄の冷たい声に、アンジェリークは怯んだ。
「ううん…。謝りに来ただけ…」
「だったらはいれ…」
「うん」
 書斎の中に入ると、アリオスはあいも変らず原稿を執筆している。
「さっきはごめんね…。もう行かないから」
「ああ。
 だがなぜ行きたいと思ったんだ?」
 兄の声はとても冷たい。
 その冷たさに、アンジェリークは切なくなりながら、少し落ち着くための深呼吸をした。
「----レイチェルとなら楽しいと持ったし…、たくさんの人とお友達に馴れたら楽しいなって…」

 ・…!!!!!

 アリオスは突然手を停めると、アンジェリークを炎のような目で見つめた。
「・…男か…?」
 その眼差しが怖くて、アンジェリークは思わず目をそらす。
 頭を振って否定することが精一杯である。
「違う…!!」
「違わないだろ!?」
 彼女を捕らえた、獣の眼差し。
 アンジェリークは捕らえられた小動物のように、それ以上動くことが出来ない。
 アリオスの体の置くから嫉妬というどす黒い感情が渦巻く。
 まだ見ぬ誰かへの嫉妬は、言いようがないほど醜く、苦しい。
「アンジェ!」
 アリオスは椅子から立ち上がり、アンジェリークの華奢な手首を一気に掴んだ。
「お兄ちゃんっ!!」
 抗いたくても彼の力は強い。
 アンジェリークは身体を捩るが、それが精一杯だ。
「…おまえを…、他の誰にもやらない…!!!」
「いやっ!!」
 アンジェリークはそのままアリオスに強引に抱き上げられ、ベッドへと連れて行かれる。
 そこに強引に彼女を投げ、アリオスは身体を重ねてきた-----
「いやああっ!!!」


コメント


43000番を踏まれた、小野淳子様のリクエストで、
「アリアン禁断の兄妹もの」です。
反省します…
裏に行くかいかまいか…。
あ〜、どうしよ〜



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やっぱり純愛な方は…コチラ


野獣Ver近日公開!!(笑)