CHAPTER 11


 顔色を無くしたアンジェリークをアリオスは横目で見ながら、男に銃を突きつける。
「-----うせろ…」
 その声はとても低く、魂の奥から揺さぶられるような低く冷たい声だった。
 異色の眼差しには、今まで彼が見せたことのないような殺気が漲り、アンジェリークは息を呑んでしまう。
 緊張感が空気を切り裂く。
 アリオスは銃を男に向けると、微動だにしない。
「オッケ。今日のところはね?」
 フッと男は笑うと、強張ったアンジェリークの表情を覗き込む。
「またね。お嬢さん」
 それだけを言い残すと、男は軽やかにどこかに行ってしまった。
 アンジェリークはただそこに立ち尽くし呆然としている。
「本部に帰るぞ」
「・・・はい」
 見ればまたいつもの冷静沈着なアリオスに戻っていた。
 アンジェリークが知っている”大佐”としてのアリオスに。
「0016アリオスだ。エンジェルレーン西234で射殺体が二体ある。始末をしてくれ」
 完結にそれだけを言い無線を切る。
 ダブルオー-----殺人許可証を持つ者の日常的な連絡の姿に、アンジェリークは少し震え上がった。

 非常なエージェントの世界----
 そこに私はいつまで身をおいておくことが出来るのだろうか…

「早くしろ」
「はい」
 何も訊けぬまま、アンジェリークはその後ろを追うことしか出来なかった。

 車に乗り込み、一路本部へと向かう。
 アリオスは何も語らず、ただ煙草を銜えながら冷静に運転をしている。
 その精悍で整った横顔を見つめながら、アンジェリークは酷く胸が苦しくなるのを感じていた。

 アリオスには妻子がいたんだ…
 それも当然よね…。
 こんなにカッコいいんだもの…。
 省内の資料には独身と書いてあったけど、あれはきっとそうするのが一番だから…。
 でも…。
 でも…。
 私…。

「-----着いたぞ」
「あ、はい」
 低い感情のない声で言われて、アンジェリークは慌てて車から降りようとした。
 だが慌てる余りに、彼女は車のふちで躓いてしまう。
「きゃあっ!」
「こら、気をつけろ?」
 咄嗟にアリオスが身体を支えてくれて、彼女は事なきを得た。だが、アリオスの腕が一瞬、アンジェリークの胸元をかすり、彼女は真っ赤になってしまう
「あ、有難うございます…」
「ああ」
 はにかむ彼女にも、アリオスはあっさりとした挨拶をすると、MI6本部の中に入っていく。
 アンジェリークもその後に着いていき、何度かのセキュリティチェックを受け、ようやくいつも見慣れた場所にやってきた。
「おまえは今日はロザリアのところでゆっくりしろ。帰りは俺が迎えに行く」
「はい」
「俺はMに用事があるからな」
「はい」
 M-----それは謎に包まれた、MI6の長官。
 アンジェリークは名前を訊いたことはあっても、逢ったことはない。
 セキュリティカードキーでドアを開けると、そこにはロザリアが待っていてくれた。
「アンジェリーク! お久しぶり!!」
「ロザリアさん」
 艶やかな巻き毛が印象的な長官秘書であり、アンジェリークがアリオスの下で働くまで世話になっていた女性である。
 なつかしさが込み上げていて、アンジェリークの表情は一気に明るくなった
「元気だった?」
「はい! ロザリアさんも!」
 明るくなったアンジェリークに安心をしたのか、アリオスは僅かに口角を上げて笑う。
「ロザリア、後は頼んだぜ?」
「ええ」
 それだけを言うと、アリオスは足早に部屋を出てしまった。

 アリオスさん…

 アンジェリークの表情は、急にしょんぼりとしたものになり、先ほどよりも輪をかけて暗くなってしまう。
 それを見て、ロザリアは微笑ましく思う。
 恋する少女のその表情に。
「-----夕方には戻ってこられるわよ?」
「ロザリアさん…」
「さあ、椅子に座って? とっておきのロイヤルミルクティーを入れるわ」
「はい」
 まるで幼子のように頷くと、アンジェリークは進められたように椅子に腰を落ち着けた。

 暫くして、ロザリアが温かなミルクティーを運んできてくれた。
「美味しそう」
「これで心を落ち着けるといいわ?」
 コクリと頷いて、アンジェリークは一口口にする。
 温かさが染み渡り心を落ち着けてくれるようだ。

 温かいな…。

 温かさが、アンジェリークに冷静な思考回路を与えてくれる。

 ひょっとして、ロザリアさんはアリオスの過去をご存知なんじゃ…

 急に思い立ち、アンジェリークは彼女に訊いてみることにした。
「ねえ、ロザリアさん…」
「何?」
「-----アリオスに妻子がいて、
 ・・・その殺されたって・・・ホント?」
 最後の声は消え入るようだったが、アンジェリークは勇気を振り絞って訊く。
「-----アンジェちゃん…」
 一瞬ロザリアは驚きの余り身体を揺らしてしまう。
 彼女は逡巡の色ウィ見せ、僅かに目を閉じる。
「-----そうね…。あなたはいずれ知ってしまうことだし、知らなければならないことだわ…」
 そこまで言ってから、ロザリアは深呼吸をした。
「-----アリオスに妻子はいたわ。だけど、子供が四ヶ月のとき、奥さんと一緒に事故に見せかけられて殺されてしまった…。
 -----犯人は、あなたの両親を殺し、弟をあんな目に合わせた人物よ…」

 そんな・・・!!!!!!

 アンジェリークは身体を震わせ、衝撃に耐えていた-----  

TO BE CONTINUED・・・


コメント

エージェントアリオスです
一体どれほど更新していなかったのでしょうか…。
もう誰も更新することはないと思っていたでしょうが(笑)
お久しぶりです。
そして一気に更新していきます〜