けたたましい目覚まし音と共に、アリオスが目覚めたのは午前6時30分。 眠い眼を擦りながら、彼はベッドから降り立つと、意気揚揚とブラインドを開けた。 最近、穏やかな秋の日差しを見る度に、顔がほころんでくる。 日差しで”秋”を感じたのは、今年が始めて。 これを楽しむことが出来るようになったのは、あのメールのおかげだ。 「・・・ねえ、眩しいわよ」 無粋な女の声が聞こえてきて、アリオスは溜め息を吐いた。 季節を感じることを楽しまない彼女に、アリオスはがっかりとする。 確かに自分も季節などを感じずに今まで来たのだから、彼女を責めることなんて出来やしない。 たまにお互いが必要だと感じるときに会い、セックスをする。 そんな関係が、最近は少し重く感じているのはなぜだろうか。 アリオスは溜め息を再び吐くと、シャワーを浴びにバスルームに向かった。 シャワーを浴びた後、身支度をきちんとし、朝食を作る。 この間、メールで教えてもらった、ヘルシー朝食を実行すべく簡単に作り始める。 今日は彼女がいるので二人分である。 その間も、まだ彼女は寝ており、アリオスが何かをしていても、全く起きてくる風はなかった。 アリオスも特には気にしなかった。 ようやく食事が出来た頃に起きてきて、シャワーを浴びにくる。 その間、アリオスは待つこともなく、食事を一人で楽しんだ。 彼女が身支度を整えた頃には、どこからみても法曹界で働く弁護士の姿に変わっていた。 戦闘準備OK------ そんなところである。 「朝ご飯作ってくれたのね? 美味しそう。ねえ、どういう風の吹きまわし?」 嬉しそうに彼女は言ったが、アリオスは無言だった。 入れ替わるかのように食べ終わったアリオスは立ち上がると、汚れた皿を食器洗い乾燥機に入れに行く。 「洗剤入れとくから、スイッチは頼んだぜ?」 「判ったわ」 アリオスは一端書斎に行くと、パソコンを立ち上げることにした。 彼の広角は上がり、幸せそうに充実してそうに微笑んでいる。 今日も、充実した一日が始まる予感がした------- ------------------------------------ 目覚ましがけたたましい音を立てる前に、アンジェリークは目を覚ました。 時間は午前6時。 良い感じである。 上半身を自力で起こして、横に置いてある車椅子に乗る。 ストッパーを解除すれば完成だ。 そのまま目を覚ますためにシャワー室に向かう。 バスルームには浴槽もあるが、これはよほどのことがない限り、使用しない。 シャワーも車椅子にも使い易い全身シャワーだ。 もちろんシャワーを浴びる前に車椅子を変える。 シャワー専用のものだ。 シャワーを浴びてさっぱりとした後、体を拭き服に着替えてから、車椅子の水分を拭き取った。 これで完成。 その後に小さなキッチンに向かうと、朝食とランチのお弁当作りに励む。 ヘルシーなものを自炊して食べる。 それがアンジェリークにとってはモットーだった。 朝食の後片付けは食器洗い乾燥機に任せて、書斎に向かった。 このバリアフリーアパートメントを、彼女と住むために買った母親は、もういない。 彼女の部屋は生前のまま、今やアンジェリークの書斎となっている。 猛勉強をして、スキップで高校を出たアンジェリークは、17歳だが、りっぱな大学生だ。 と言っても、母親が遺した児童書専門店”街角の店”をきりもりするオーナーでもある。 彼女は一息と心の安らぎを求めて、パソコンを立ち上げた。 心を込めて朝のメールを送る。 このところ、朝晩の習慣になっている。 どちらか送れないこともあるが、毎日一通はかかしたことはなかった。 subject:朝 おはようございます。 狼さん。今朝は黄金色の朝日を感じました。 もう夏は遠くにいってしまいました。 何だか寂しいですが、秋もいい季節ですものね。 この時期は読書に最適です。 公園に昼休みに本を読むのは最高。 ゆったりと秋を感じることが出来ます。 スターバックスでローストミルクを買ってほっこりしながらなんて、凄く幸せだと思いませんか? 栗猫 にっこりと笑うと、アンジェリークは送信ボタンをクリックする。 何よりも幸せな瞬間。 今日も、充実した一日が始まる予感がした------- ------------------------------- アリオスはまずメールをチェックする。 すると、お目あての名前を見つけて、笑みを浮かべた。 栗猫。 そのメールをまっ先に開けるのは、待ちどおしかったから。 来たメールは、穏やかな秋について書かれた他愛のないものだ。 だが、アリオスにとっては心を癒してくれる、大切なひとときをいつもくれるものだった。 メールを読んで、アリオスの昼の過ごし方は決まった。 今日から当分の間、グループ傘下の巨大ブックチェーンが、出店し、その準備の指揮を取る為に、出勤場所が変わる。 世界でも類をみない大型ショップなので、この店だけは総帥自らが指揮を取ることにしていた。 アリオスは、さっそくメールに返事を書く。 subject:昼の過ごし方。 今日から新しい仕事場で環境が変わる。 早速、昼休みに同じように過ごしてみようと思う。 今朝は光で秋を感じた。 夜もまた闇の濃さで、秋を感じるから、今度は闇をみてくれ。 闇は優しく包みこんでくれる。 きっと心が落ち着くこと請け合いだ。 狼 ------------------------------- 少ししてから、アンジェリークはメールチェックをし、”狼”からのメールを受け取る。 心の奥がとても幸せな気分になる。 ”狼”とメールのやり取りをするようになってから、とても明るくなったとみんなにも言われるようになった。 これもメールが心を癒してくれるからだ。 気がつかなかったな・・・。 闇が優しいか・・・。 今まで闇は怖い対象でしかなかったから・・・。 ”狼”さんがそう言ってくれたら、そう思えるかもしれないわ・・・。 優しい気持ちになれる。ミルクティを片手に、アンジェリークはとても気分がよかった。 ------------------------------- 朝から気持ちよく出かけることが出来る。 時計を見ると、出勤時間が迫っていた。アリオスもすばやくビジネスライクな表情になる。 女もぴしりとした弁護士としてのスタイルを決め、アリオスと一緒に出ていった。 彼は駐車場から車を出し、新たな職場に向かう。 昼休みのことを考えるだけで顔が綻んでしまうのだった。 同じ時間、アンジェリークもまた駐車場で車に乗り込んで、職場に向かう。 彼女の車は車椅子用になっており、乗りやすくなっている。 車に実に上手く乗り込んだ後、車椅子を折り畳んで後ろに乗せた。 「さあ、いきましょうか」 車に乗れば、壮快で暗い落ち込んだ気持ちが消えていくのもいい。 車に乗れば誰とでも対等だから。 アンジェリークはまず店に向かうために、車を走らせた------ 2台の車が、違った道から合流してくる。 シルバーメタリックのスポーツカーと赤いセダン。 同じ道をまっすぐに走っていく。 お互いに、まさかメールをやり取りをしている相手とは思わない。 再び分岐点に差し掛かったので、別れていく。 アリオスは先にある、巨大ブックストアーへ、アンジェリークはその手前にある、小さいが趣のある店に向かう。 運命が引き寄せるふたりは、出会いの瞬間を待ち構えていた--------- |
コメント 『愛の劇場』シリーズです。 今回は、アンジェとアリオスは・・・!!です。 二人の出会いは次回です〜。 |