Voices Of Love

1


「アンジェ、新しいナイティとランジェリーのカタログが来たよ!」
「ホント!?」
 補佐官レイチェルの言葉に、女王アンジェリークの仕事の手が止まった。
「ちょうど休憩時間だから、カタログ見ながらお茶しようよ」
 補佐官の粋な計らいに、アンジェリークにも笑顔が零れる。
 ふたりは一旦仕事の手を止めると、カタログを見ることにする。
「とっておきのクッキーがあるのよ」
「それは楽しみ☆アンジェ、自分で焼いたんでしょ?」
「うん。とっておきの紅茶もあるよ」
 ふたりは貴重なティータイムを準備すると、テーブルの上にカタログを広げた。可愛いものから少し刺激的なものまで、色々ある。もちろん、アンジェリークはどちらかというとスウィートなものが好みで、レイチェルはスパイシーなセクシータイプのものが好みだ。
「これ可愛い〜!」
 アンジェリークが声を上げたのは、薄いピンクのナイティ。赤いリボンも付いていてとってもかわいらしい。
「可愛い! 気に入っちゃった!!」
 アンジェリークの蒼緑の瞳がきらきらと宝石のように光り輝いた。さっそくそのナイティにはチェックを入れている。
 レイチェルもセクシータイプなヒョウ柄ナイティを選び、チェックをした。
「えっと、ランジェリー、ランジェリー」
 一瞬開けた所がとてもセクシーなページだったので、アンジェリークは慌てていつものロマンティック系のページをめくろうとして、レイチェルに制された。
「アンジェ、たまにはさ、もっとセクシーなランジェリーを着けてみようよ。可愛いナイティの下がセクシーランジェリーだったらアリオスも凄く慶ぶんじゃない?」
 レイチェルににやにやと意味深に笑われながら言われ、耳まで真っ赤になる。
「…レイチェルのバカっ…!」
 俯く視線の先にあるのはセクシィなランジェリー。こんなものを身につけると、アンバランスな気がする。アリオスの妙な表情を思い浮かべてしまう。
「…こんな大人っぽくって、セクシィなのは私には似合わないわ…。下着に着られている感じがするもの」
「アナタは自分の魅力を全く解ってないわよ!」
 親友は呆れたとばかりに溜め息を付くと、声を大きく上げる。
「あのね、アナタは胸が大きいし、スタイルも良いから、可愛い系でお茶を濁すなんて、凄く勿体ないのよ! もっと胸を強調する下着とか着けると凄くセクシーだし、世の男の夢みたいなのに! すごく勿体ないよ! 誰だって純情なアンジェの容姿とのギャップに夢中になるって!!」
 レイチェルの力説は相当に説得力のあるものだった。
「ホント…?」
 嬉しさと恥ずかしさではにかみながら、アンジェリークはレイチェルを見る。無意識でする可愛い表情に親友ですら骨抜きになる。
「ワタシが言ってるんだから間違いないって! アリオスも気に入るよ!!」
「アリオスが…」
 アンジェリークの表情が一気に華やいだものになる。

 このこはアリオスが絡むと凄く良い表情をするんだよね…。凄く悔しいけれどね。

「…アリオスも私に夢中になってくれるかな…」
 小さな声で願を込めて呟かれた言葉は、恋する少女の甘い切ない気持ちが沢山詰まっている。
 ”これ以上夢中にさせてどうするの”と心の中でツッコミを入れながら、レイチェルは笑顔で頷く。
「アリオスも気に入ってくれるわよ! 夢中になってくれるのは間違いないからさ!」
 親友の言葉は勇気百倍! アンジェリークもその気になってくるのが不思議だ。
「まぁもっとも、アリオスだったら、アンジェが裸に甘い香水を着けているだけでも興奮すると思うけれどね」
 流石にここまでは出来ないと、アンジェリークは更に恥ずかしそうな表情をした。
「…もう、バカ…」
 はにかむその表情がとても愛らしく艶やかであった。
「私でも大丈夫なのを選ぼうかな」
「アナタだったら何でも大丈夫だけれどね、例えばこれなんかはどう?」
 指差された下着に、アンジェリークは度肝を抜かれた。
「…こ、こんなの着けたことないし…」
 見るだけでもどぎまぎとしてしまう。それは今まで着けたことのナイガーターベルトタイプの黒い下着。乳首も下半身の秘密の場所もレースの上から透けて伺える。
「まだまだ過激なのはいくらでもあるからさ。取りあえずは入門編ということでさ」
「…うん」
 じっと見つめてみる。可愛いことは可愛いのだが、アンジェリークは自分には大胆過ぎやしないかと思う。レースはどちらかと言えば優美な作りになっている。
「アナタに似合うと思うよ。胸をかなり強調するバストラインだしね。四分の三カップだから、凄く良い感じじゃない」
確かに他のと比べると、セクシーラインの中では品があると言ってもいいし、何よりもとても艶やかで愛らしい。アンジェリークの気持ちはもう買いたい方向に走っていた。
「これにしようかな」
 真っ赤になりながらも決断をしたアンジェリークが愛らしくてしょうがない。レイチェルは満足した笑顔を浮かべる。
「これでアリオスもイチコロよっ!」
「だったら嬉しいけど!」
 明るいアンジェリークの笑顔はそれを望んでいる証拠だ。
「アリオスも絶対に気に入るからさ」
「うん、ありがとうレイチェル!」
 アリオスが夢中にならないわけがないとレイチェルは思う。誰が見てもアンジェリークに夢中になっているのは解る。
 そこまで考えてレイチェルははっとする。

可愛くセクシィなアンジェを見たら、あの狼男のことだから、アンジェに際限なく襲い掛かるのは目に見えてるわ!! オールでやられた日には、アンジェは仕事が出来ないどころか、朝になっても攻め立てられてえらいことになるわ! アイツすっごく絶倫男だから…!!

レイチェルは自分が勧めたことを、ほんの少し後悔する。
「…あの男のことだから、底無しにアンジェを攻め立てると思うのよね。アンジェだけに限ってだけれど、かなりのスキモノだものね…」
 などとレイチェルがぶつぶつと独り言を言っているときだった。
「おい、女王とその補佐官殿、言われた書類が出来たぜ」
低い聞き慣れた甘いテノールにふたりは心底驚いた。
「アリオス…!! あ、いつ!!」
アンジェリークは慌ててテーブルの上にあるカタログを片付け、何もなかったことのようにする。
あたふたとする女王を、アリオスは冷静な視線で見つめている。
「ほら、書類だ」
「…あ、有難う…」
 ぽんと手渡されて、アンジェリークは何とか御礼を言うことしか出来なかった。
「陛下も補佐官殿も優雅にティータイムですか?」
 呆れたような視線を送られて、アンジェリークは少しむずむずとした。
「たまには良いでしょ。夜は少なくても、アナタはアンジェを好きにしているんだから」
 いつものようにレイチェルはアリオスに喧嘩腰に言う。ふたりはいつもこうなので、アンジェリークが戸惑ってしまうのだ。
「コイツが慶んでくれるからな。俺としてもやりがいがあるぜ? コイツを本当に慶ばせることが出来るのは、俺だけだからな」
「…アリオスっ!」
 アリオスは正装のままアンジェリークを背後から甘く抱きしめてしまい、離さない。レイチェルにはそれが非常に気に入らない。
「ったくスキモノのくせにっ!」
「スキモノで結構。スキモノじゃねえとアンジェを喜ばすことは出来ねえからな」
 余裕をこくアリオスが本当に憎らしい。
「------とにかく。これでワタシたちティータイムもおしまい! アナタも女王陛下から手を離して、とっとと仕事して」
 レイチェルが強めに言うものの、アリオスは離そうとしない。
「女王陛下、このまま、”シエスタ”に行こうぜ?」
「…あ、アリオス」
 アリオスは当然のようにレイチェルには挑戦的な表情で見てくる。
「ダメ! 仕事は溜まってるんだから!」
 ふたりの間には明らかに火花が飛び散っている。
 アンジェリークはおろおろとしながら二人を見た。
「ア、アリオス、仕事しなくっちゃ…」
「しょうがねえな」
 しぶしぶアリオスは躰を離してくれたが、耳元に一瞬唇を近づける。
「-------今夜、覚悟してろよ?」
「…もう」
 アリオスは勝ち誇った表情をレイチェルに浮かべると、執務室を出て行く。
 女王を巡る一戦の後、再び新宇宙聖地は忙しい午後を迎えた------
コメント

この間のONLYで非常に素敵なスケブを頂きました。
そのスケブを見て、思いついたお話です。

阪神日本シリーズようやく買って嬉しい一日です。
ムーア、吉野、よくがんばりました!




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