Sweet Valentine


「妊娠してますよ。四ヶ月」
「え!?」
 最近からだの調子が悪いので、病院に行ってみると、いきなりの診断結果にアンジェリークは目を丸くした。

 気分が悪いと思ってたら・・・。
 そういえば・・・。
 見に覚えは…、ありすぎ…

 病院から出て、アンジェリークはおなかを触ってみる。
 そうするとなんだか嬉しくなって、スキップさえしてしまう。
「いけないこんなことをしたら」
 アンジェリークは、薬と笑うと、幸せそうに青空を仰ぐ。

 お腹の中にアリオスの赤ちゃんか・・・。
 嬉しいな…。
 やっぱり、大好きな男の人の子供は、女の子なら絶対産みたいって思うわ・・・。
 ヴァレンタインデーに判るなんて、なんだか、運命かしら?

「おうちに帰って、チョコレートを作らなくっちゃ! 今夜は少し遅いって言ってたわね」
 くすっと笑った後、アンジェリークは、家へと向かう。
 愛するアリオス同棲中の、愛の巣へと。



 家に帰り、アンジェリークは先ずチョコレート作りからはじめた。
「甘いのが嫌いなアリオスが食べてくれるように、ちょっとビターに、中身は、お酒♪ ウォッカもね」
 アンジェリークはひとつづつに愛情を注ぎながら、しっかりとチョコレートを作り上げる。
「味見は・・・、あ、赤ちゃんがお酒はびっくりしちゃうからだめか?」
 幸せな、幸せな表情をしながら、アンジェリークはとろけるようなチョコレートを作り上げ、冷蔵庫に冷やしにかかった。
 その間、彼女は、夕食のご馳走に取り掛かる。
 本当は、外でデートをするプランも持ち上がったのだが、彼の仕事が都合がつかず、家でまったりとお祝いをすることになったのである。
 食事は、ヴァレンタインとお腹の子供の祝福をかねて、アンジェリークは腕によりをかけて作った。
 アリオスの大好きな子羊をやわらかく煮たシチューや、特製サラダ、サーモンのムニエル、デザートなど、かなり気合を入れて作った。
 食事を作った後、アンジェリークは、チョコレートが綺麗に固まっているのを確認してから、ラッピングをしながら、アリオスが帰ってくるのを待つ。
 少しどきどきしながら、彼のどういうう風に打ち明けようと思いながら。

 アリオス、喜んでくれるかな?
 きっと喜んでくれるよね?
 うん、喜んでくれる・・・
 せっかくのヴァレンタインに授かった子供だもの・・・

 なぜか姿勢を正して、アンジェリークは、アリオスを待った。

 インターホンの音がして、アンジェリークは慌てて受話器を上げて出る。
「はい?」
「俺だ。開けてくれ」
「うん!!」
 アンジェリークは頬を染めて、ドアを開けると、彼の姿が見えるなり、抱きついた。
「お帰りなさい! アリオス」
「ただいま、アンジェ」
 アンジェリークが、アリオスの精悍な首に手を回せば、彼はそれに答えるかのように彼女を抱き上げて、そのままダイニングに運んでいく。
「今日はご馳走だからね?」
「ああ楽しみだな」
 アンジェリークは、嬉しそうに笑うと、彼にぎゅっと抱きついて甘えた。
 アリオスは、アンジェリークの"城”である、システムキッチンの前に彼女を降ろすと、彼女を覗き込んだ。
「何か手伝うことはねえか?」
「うん。大丈夫。出来るから」
「そっか」
 アリオスは、ここはアンジェリークに任せることとして、とりあえずは、リビングのソファの上にカバンを置き、コートとジャケットを脱ぎ捨て、ダイニングの席に着く。
「出来たわ!」
 アンジェリークはサラダやアツアツのシチューや、ムニエルをワゴンで運んでテーブルに運び、それをアリオスが手伝った。
 ようやく席に着くと、二人は見つめあい、料理に舌鼓を打つ。
 アンジェリークが心を込めて作ったもののせいか、どの味も申し分なく、とても美味しい出来となっていた。
 食事も終り、二人は食後のコーヒーをということになり、アンジェリークは、アリオスだけにコーヒーを淹れてやり、自分はホットミルクにした。
「アリオス…、これ…。私の気持ち・・・」
 綺麗にラッピングをしてあるチョコレートを、アンジェリークはアリオスに差し出す。
「サンキュ」
 アリオスはアンジェリークの心にこもったそれを受け取ると、彼女を抱き寄せ甘くキスをしてやる。
「おまえのは全部食うからな?」
「うん、有難う・・・」
 アリオスは、アンジェリーク以外には決して誰にも見せない優しい表情をしながら、箱のリボンを解いた。
「アリオス、あのね・・・?」
「ん?」
 アンジェリークは、少し頬を染めながら、上目遣いで、彼を見上げた。
「お腹に赤ちゃんがいるの…」
 アリオスは少し眉を動かすと、彼女を見つめる。
「だったら結婚するか? ガキが出来たんなら、けじめがいるだろ」

 ・・・今なんて・・・・

 アンジェリークはショックだった。
 アリオスは喜ぶ風もなく、ただ淡々と冷静に呟いてるのが、堪らなく辛い。
「・・・嬉しくないんだ・・・」
 アンジェリークに俯き、肩を落とす。
「そんなわけねえだろ」
「…だったらどうして嬉しそうな顔をしてくれないのよ!!」
 アリオスは答えない。
 沈黙が二人を覆い、気まずくする。
 とうとう彼女は堪らなくなり、肩を震わせて彼を見た。
「出て行く・・・!!」
 アンジェリークはなきながら立ち上がろうとしたとき、アリオスにその細い腕を掴まれた。
「いやっ!」
「どうして、そんな思考になるんだおまえは!」
 先ほどまで落ち着いていたアリオスの論旨がにわかにいきり立つ。
「普通なら、もっと喜んでくれるでしょ! なのにアリオスったら、、事務的だし・・・!」
「俺がちゃんとよろこんでいるかいねえか、その身体で判らせてやる。来い!!!」
 アリオスはそのままアンジェリークを強引に抱きかかえると、寝室へと連れて行った-----   

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とんだヴァレンタイン(笑)