「どうしよう・・・、音楽室が判らない・・・」 おろおろとあたりを見渡しながら、アンジェリークは必死になって音楽室を探す。 いくら見ても判らない。 休み時間はもうすぐ終わる。 彼女は入学して来たばかりで、右も左も判らなかった。 「おい、どうしたんだ!」 突然、少し冷たいテノールが耳に入り、彼女は栗色の髪をびくりと揺らした。 「おいおい、何をそんなに怖がるんだ? おまえさんが何か探しているみてえだったから、声をかけたのによ」 「え?」 その声に導かれて、彼女はふわりと柔らかく栗色の髪をなびかせて振り返る。 そこにいたのは、銀の髪を艶やかに揺らした長身の青年。 翡翠と黄金の瞳を持ち、少し着崩して制服を着ている。 完璧ともいえるほどの美貌の持ち主で、アンジェリークは全身が鳥肌が立つのを覚えた。 彼はそれほど素敵だった。 「おまえ・・・、見かけねえ顔だが、新入生か?」 彼女は、余りにも彼が素敵過ぎて、まともに顔を見ることなど出来ずに、恥ずかしそうに頷く。 「いったいどこに行きたい?」 「音楽室です・・・」 「着いて来い」 「はい」 長いスタンスで歩く彼の後を、アンジェリークはおたおたと着いて行く。 誰もが羨望の眼差しを彼女に向けているのがわかる。 そうか、とてもカッコいい方だもんね・・・ 「着いたぜ」 「はい!」 彼が指差す先には、確かに音楽室があり、彼女は少し残念のような気がした。 もう少し彼の隣で歩いていたかった。 「有難うございました!」 輝くような、心からの感謝が溢れる、温かな笑顔を彼女は青年に向ける。 彼はその笑顔に、眉根を寄せている。 怒ったのかな? 「おまえさん・・・」 「はい?」 「名前とクラスは?」 「1年B組のアンジェリーク・コレットです」 名乗ると途端に、彼は深い微笑を浮かべた。 「アンジェリークか・・・」 彼はかみ締めるように言う。 「俺は3年C組のアリオスだ。またな、アンジェリーク」 彼はぽんと彼女の華奢な肩を叩くと、そのまま横の階段を駆け上がった。 その後姿を見つめながら、彼女は彼に恋をした。 桜の季節。 丁度、二月前のことである---- ----------------------------------- 「ねえ、アンジェ、頼みたいことがあるんだけど!」 「何、レイチェル?」 入学して二ヶ月が過ぎようとし、アンジェリークにも素敵な友人が出来た。 彼女はレイチェル・ハート。 入学後、すぐに生徒会執行部入りをした行動力と頭脳を持っている。彼女は現在、会計の職についている。 「あのね・・・、生徒会の書記の子が転校した話は、知ってるわよね?」 アンジェリークはしっかりと頷く。 「それでね、新しい書記が決まるまで、あなたにサポートしてもらいたいってことに、生徒会でなったんだけど・・・、どう?」 「わ、私には無理よ」 栗色の髪を揺らして彼女はすぐさま否定をした。 「そこをどうにかお願い! 会長が自らあなたを推薦したんだし」 「アリオス先輩が・・・」 その名前を聞くなり、ピタリとアンジェリークは首を振るのを止めた。 「そうよ、アナタの大好きなアリオス先輩がね〜」 「あ、もう、レイチェルっっ!!」 彼女は慌てて親友の唇を押さえ、レイチェルはそれにいかにも楽しそうに笑う。 「チャンスだよ? ね」 何もかもを知っている親友にウィンクされると、彼女は耳まで真っ赤にしながら頷く。 「・・・やるわ・・・」 「そうでなくっちゃ! ね?」 あくまでレイチェルは楽しそうにアンジェリークの肩を抱く。 「放課後、一緒に生徒会室に行こう?」 「うん・・・」 アンジェリークは、放課後が来るのが待ちどうしく、胸の高まりを感じる。 逢えるんだ・・・先輩に・・・ 彼女にとって、それはとてつもなく、嬉しいことだった---- --------------------------------------- その指導力、カリスマ性で、生徒会長であるアリオスは、生徒から、絶大の信頼と人気を得ていた。 また艶やかな容姿ゆえに女生徒のの人気は特に高く、取り巻きも多く、プレイボーイとしても知られていた。 もちろん成績はトップで、しかもスポーツも隙なくこなす。 誰もがあこがれて止まない存在。 彼がこのような立場だと知ったのは、アンジェリークは随分経ってからだった。 それゆえに、恋心を抱いても、この控えめな少女はそっと見つめることしか出来なかった。 放課後、アンジェリークはレイチェルに連れられて、生徒会室へと向かった。 「失礼しま〜す、会長、連れてきました」 入るなり、すこしはにかんだ少女をレイチェルはアリオスの前まで連れてゆく。 「よくきてくれたな、アンジェリーク」 「お世話になります・・・」 彼女が深深と頭を下げると、アリオスはクッと喉を鳴らして笑った。 「会長!?」 彼女はなぜ笑われたのかが判らず、きょとんとしている。 「おまえな〜、こっちがおまえに世話になるんだぞ? 普通逆だろうが?」 「あっ! そ、そうですね・・・」 耳たぶまで真っ赤にして恥ずかしそうに笑う天子が、可愛らしく、彼から自然と甘やかな微笑が浮かぶ。 「こちらこそ、よろしくな?」 「あ、はい。よろしくおねがいします」 差し出された繊細で大きな手に、彼女は戸惑いながら手を伸ばした。 しっかりと握手がされる。 そのしっかりと力強い感触に、彼女は甘いめまいを覚える。 少し緊張しているのが、アリオスの手にも伝わってきて、彼は深い微笑をこぼす。 それを傍らにいたレイチェルは見逃さなかった。 会長のあんな笑顔を見たのは始めて・・・。 これはひょっとして・・・かも♪ レイチェルは、二人の様子を見ながらほくそえむ。 とても楽しくも嬉しい思いが彼女の心を満たしたのは言うもでもない---- ---------------------------------------- その日から、アンジェリークは、しっかりと与えられた仕事をこなし始めた。 元々能力が高い彼女なだけ有り、完璧に仕事をこなす。 その隠れた実力は、レイチェルですらも舌を巻くほどであった。 もちろんアリオスが満足したのは言ううまでもなかった。 この日も、アンジェリークは、遅くまで、アリオスに頼まれた資料をパソコンに入力をしていた。 「おい、もう六時だ。そろそろ止めるか?」 「はい」 二人は、ここ数日間、一緒に、生徒会の仕事をしている。 もちろん二人きり出ないことが多いが、今日と明日は二人で作業をしなければならなかった。 彼女は入力を止め、文章を保存すると、ようやくパソコンの入力を切った。 「すまねえな。クラブの夏季合宿の書類の一覧作りがたてこんでるんでな」 「大丈夫です。私は元々帰宅部ですし」 ふんわりと優しい微笑を浮かべられると、アリオスは優しい気分になる自分を、強く感じていた。 ここのところ、彼女の笑顔を求めない日はなかった。 そう、あの日から。 「送っていく」 「有難うございます」 この瞬間が、彼女には何よりも嬉しかった。 恋する人と、たとえひと時でも共に歩くことが出来るのだから。 「よくやってくれてんな。感謝してるぜ?」 「私なんかいたらないことだらけです。早く、代わりの方が見つかるといいですね?」 「おまえがいいんだけれどな。俺は?」 「会長・・・」 二人は、まるで恋人同士のように並んで歩き、さまざまなことを話しながら帰る。 楽しくも甘い時間。 だがそんな時間は長く続いてはくれない。 二人は名残惜しむように駅で別れる。 「またな?」 「はい有難うございました!」 彼女は深々と一礼をすると、ホームを駆け上がっていった。 俺としたことが、本気みてえだな・・・ あいつが、欲しくてたまらない・・・ -------------------------------- 翌日の放課後。 いつものように、アンジェリークは生徒会室の奥、生徒会長室へと入っていった。 「会長?」 その瞬間、彼女はアリオスに背後から抱きすくめられた。 会長!? |
コメント
1122のキリ番を踏まれた雫様のリクエストで「先輩生徒会長アリオスと後輩アンジェリーク」のお話です。
リクエストどおり、次回は「激しく」いきますので、よろしくお願いします!!