「おっと!」 アンジェリークは階段から転げ落ちるところを、危うく銀の髪の青年に助けられた。 「気をつけるんだな・・・」 「はい・・・」 青年は、アンジェリークをまっすぐに立たせると、そのままエレベーターホールへと歩いていく。 その颯爽としていて、どこか寂しげな姿が印象的だった。 アンジェリークは父親に呼ばれて、本社ビルに来ていた。 彼女の父親は、大グループ企業、コレットグループの創始者で、一代でここまでにした大立者である。 「失礼致します、お父様」 「ああ。アンジェリークか、入りなさい」 父に促されて中に入ると、そこには先程彼女を助けてくれた、銀の髪の青年が立っていた。 再び逢えた喜びに、アンジェリークは立ち尽くしてしまう。 「あなたは・・・」 「何だ、知ってるのか?」 「いえ、先程、階段から落ちそうだったところを、助けていただいたんです」 父親は安心したように大きく頷いた。 「アリオスだ。今日からおまえのボディガード兼運転手として働く」 父親に紹介されて、アンジェリークはじっと彼を見つめた。 「アリオスだ。よろしく」 低いテノールは甘くて心地が良い。 「よろしくお願いします・・・」 差し出された手を握り、アンジェリークはその異色のまなざしを魅入られるように見つめることしか出来なかった。 思えば、最初に逢った時の彼の寂しく危険な瞳に惹かれていたのかもしれない・・・。 ----------------------------- 「これからショッピングか?」 「うん」 「オッケ」 学校の前で待ってくれていたアリオスは、無関心なように答えると、事務的に彼はアンジェリークを車に案内した。 「有り難う」 礼を言っても、アリオスはわずかに眉を動かすだけである。 車に乗り込み、アリオスは煙草を銜えながら、無言で出発させた。 「ねえ、アリオス、ずっとボディガードをしているの?」 「まあな。俺にはしょうにあってるからな・・・」 話しかければ、どこかぶっきらぼうでありながら、彼はちゃんと答えてくれる。 まだ、出逢って一月しか経ってはいないが、アンジェリークはアリオスに淡い感情を抱くようになっていた。 アンジェリークはこの一時が何よりも好きで。 「今まで沢山の人を守ってきたの?」 「ああ」 「女の人は・・・」 探るように聞く彼女が可愛い。 おもわず彼は笑みを浮かべる。 「クッ、ガキはおまえだけだ」 その一言が気にいらなくて、アンジェリークはむくれた。 「しらないっ!」 アリオスは笑うだけで、何も答えなかった。 車は、ショッピングモール駐車場に入り、そこで止められる。 「行きましょう!」 「ああ」 アンジェリークが先に勢い良く車を降り、アリオスも続こうとした瞬間----- 「きゃあっ!」 アンジェリークは突然、襲われ、数人の男たちに連れ去られようとしていた。 「アリオス!」 だが、彼はあくまでも冷静だった。 着崩したスーツから直ぐに銃を取り出すと、そのまま正確に男たちの肩を撃ち抜いて行く。 表情がまるで動かない。 アンジェリークは恐ろしくて動くことが出来ない。 アリオス… 男たちが全員地面にうずくまっている隙に、アリオスはふらりとバランスを失って倒れこもうとしているアンジェリークを抱きあげ、そのまま車の中に運び込む。 「平気か!?」 「…うん…」 彼女は身体を震わせて、アリオスに縋りつくばかり。 「とりあえず車を出すぞ。どうせここはおまえの親父の所有のモールだ。上手く処理をするだろうよ」 アリオスはそういって、従業員専用口から車を出した。 「でも…、どうして、私は狙われたの!? お父様が私にボディガードをつけたのも、判らないわ…」 何度も胸をしゃくりあげさせながら、彼女は切なげにアリオスを見つめる。 アリオスの表情は引きしまり、何の感情も感じられない。 「-----おまえの父は色々な奴に狙われているからだ… 「嘘…!?」 大きな瞳には動揺の色が隠せず、アンジェリークは責めるようにアリオスを見た。 だが彼の表情は相変わらず冷静で。 「おまえの親父は、一人で会社をここまでしただけに、たくさんの奴らに恨まれてる。あいつのお陰で自殺をした奴もいる。 だからおまえには気の毒だがな・・・」 「嘘!? 父はそんな人間じゃない!」 アンジェリークはさらに強い調子でアリオスを見つめ、彼の腕を強く掴んだ。 「あの男が、娘に本性を見せるわけはねえだろ。あいつのあくどさは、今に始まったことじゃねえからな」 あくまで冷静なアリオスに、アンジェリークは頭まで血が上った。 「降ろして!! あなたなんか…、あなたなんか…!!!! クビよ!!」 急に暴れらしドアを開けようとした彼女を、アリオスは腕ずくで押さえつけた。 「暴れるんじゃねえ! このままだと俺とおまえは心中だぜ!?」 低くキツイ声はアンジェリークを黙らせるのに充分な迫力があり、彼女は心の底から震え上がる。 アンジェリークは暴れるのを止めたが、アリオスを恨みがましく見ていた。 「・…あなたなんか…」 声を震わせるくせに、アンジェリークは恨み言をいうのを忘れない。 自分を睨みつける真っ直ぐな瞳すらも 、彼女は清らかで凛としている。 こんなに強い眼差しを持ったものを見るのは初めてだな…。 「強がりを言っているのも今のうちだ…。 少し早くなったが…、おまえには俺と一緒に来てもらう…」 「そんな!」 叫び声も空しく、アリオスは車のスピードを速めて、そのまま町を駆け抜けてゆく。 アリオス…あなたはいったい何を考えているの!? あなたは何者なの!? どうして父に近づいたの!? 様々な疑念が彼女の脳裏を駆け巡ってゆく。 だけど…。 私は心のどこかで彼と一緒にいたいと思っている…。 彼に惹かれている アンジェリークは不安と、そしてどこか心の奥で彼とともにありたいと願っている自分がいることを、否定できないでいた---- |
コメント
53000番のキリ番を踏まれたnatsu様のリクエストで、
「不良アリオスとお嬢様アンジェリークの身分違いの恋で、アリオスは鬼畜で野獣」です。
一応は、お嬢様とそのボディーガードです。
スミマセン…。
次回野獣…。

