お父様はもういないのね・・・。 アンジェリークはとぼとぼと歩きながら、森の中を彷徨っていた。 継母が、アンジェリークと母親への嫉妬から、彼女を殺そうとしたのである。 幸い、心が美しい狩人ウ゛ィクトールが逃がしてくれたために、助かったのだ。 「歩き疲れたわ・・・」 そう考えたとき、アンジェリークの目の前に、古びた屋敷を見つけた。 「ちょっとだけね・・・」 中に入ると、丁度頃合の良いベッドが九つ並んでいる。 「ちょっだけ・・・」 そのなかで大きさが良さそうなベッドがあり、アンジェリークはそこに横になると、そのままうとうとし始める。 「へえ・・・、”本日の格言・早寝早起き”。良いこと書いてあるわ・・・」 そのままぐったりとアンジェリークは眠ってしまった。 仕事を終えて戻ってきたのは、九人の守護聖と呼ばれる人達。 ”陛下”とだけ呼ばれる、金の髪の天使が従えて、屋敷に戻ってきた。 「あ〜! 僕のベッドに誰か眠ってる〜!!」 最初に声を上げたのは、マルセルだ。 だが、ベッドに眠る栗色の髪の天使に、マルセルは穏やかな笑みを漏らす。 「この子とっても可愛いよ、陛下」 「まあホントに愛らしい」 金髪の少女は、アンジェリークを見つめるなり、にっこりと微笑む。 「・・・んんっ…」 同時に、アンジェリークの瞼が僅かに動き、大きな青緑の瞳が見開かれた。 「あ、あの・・・」 十人もの知らない者たちに囲まれ、アンジェリークは戸惑いと、恐怖感を拭い去ることは出来ない 「ようこそ! ”聖地”へ!」 ニッコリと笑う金髪の少女に、アンジェリークはぎこちない笑顔で返す。 「ここに迷い込んだわけを教えてくださるかしら?」 無下にアンジェリークをしたりしない天使に少しホッとしたのか、アンジェリークは咄々と話し始めた 父親が亡くなり、継母と二人きりになり、その継母に命を狙われたこと。 狩人の計らいで命を助けられたこと。 「まあ、なんてことでしょう!」 金髪の天使は気の毒そうに眉を寄せると、華奢なアンジェリークの肩を抱いた。 「ここにいなさい、あなたが幸せを掴むまで」 アンジェリークは、明るい表情になり、彼女は嬉しくて涙ぐむ。 人のぬくもりを感じ、とても幸せであった。 翌日から、アンジェリークは、館の掃除や細々とした世話をし始めた。 下働きだが、強制ではなく、アンジェリークはとても快適に過ごしている。 聖地の皆さんはなんて素敵なのかしら・・・! いつも感謝しながら、アンジェリークは過ごしていた。 その頃、アンジェリークの継母は、今や「女王」と名乗り暴君ぶりを発揮している。 「鏡よ、鏡、この世で一番美しいのはだあれ?」 「はいそれは、ここから七つの山を超えた”聖地”に住む、アンジェリーク様です」 その瞬間、継母は修羅の顔になり、鏡を叩き潰した。 おのれ〜、アンジェリークめ・・・!! 継母は魔女に姿を変えると、呪いのリンゴを作り始めた。 三日三晩煮たリンゴは、不気味なほどの照りがあり、美味しそうにみえる。 継母はそれに満足をすると、七つの山を超えて、アンジェリークの元に向かった。 毒リンゴを大切に持って。 アンジェリークは、金髪の天使と守護聖に感謝をしながら、今日もいそいそと働いていた。 下働きだが充実している。 不意に、勝手口からノックをする音が聞こえ、アンジェリークは、何だろうとドアを開けた。 「こんにちは、お嬢さん」 見るとそこには、優しそうな老婆が立っている。 何やら行商の者のようで、アンジェリークは優しいまなざしを老婆に向けた。 「お嬢さん、リンゴはいかがかね? とっても美味しいリンゴだよ」 「まあ・・・、とっても美味しそうだわ」 彼女は毒リンゴだとは知らずに、うっとりと呟く。 「ちょっと味を見てみたいと思わないかい? それで美味しければ、買っておくれ」 「じゃあ、遠慮なく」 老婆なので無下にするのは可愛そうなので、アンジェリークはリンゴを食べることにする。 それが罠だとは知らずに。 「いただきます〜!」 美味しそうに口に含んだ、その時。 「・・・んっ・・・!!」 その瞬間、アンジェリークは、喉を裂くような痛みを味わったのと同時に、そのまま息苦しくなり、その場で倒れてしまった。 顔色が、全く無くなってしまったのを確認してから、老婆は魔女である彼女の継母の姿に戻る。 「アンジェリーク、これでおまえも最後だよ」 高笑いを上げると、満足そうに城へと帰っていった。 「アンジェリーク!!!」 床に倒れ、ぐったりとしている彼女を、金髪の天使は発見し、その呼吸を確かめた。 「だめだわ! 息をしていない! 早くベッドに寝かせて頂戴」 金髪の天使は、オスカーにすぐに指示をし、アンジェリークはベッドに寝かされる。 肌には何の生気もなく、暖かさも感じられない。 「・・・私の水晶球が反応している。栗色の髪の少女を見てみよう・・・」 「お願いね、クラウ゛ィス!」 金の髪の少女に穏やかに微笑むと、クラウ゛ィスは水晶球に気を集中させた。 「銀の髪の騎士がやってきて、アンジェリークに、キスをすれば目覚めはする。 だが彼女には、”呪い”が残っており、それを解くことが出来るのは、銀の髪の騎士しかいないだろう・・・」 「どうやって呪いを解くのだ」 守護聖のリーダーであるジュリアスが踏み込むように訊く。 「-----男女の営みだ」 「え!?」 誰もが声を上げて驚いたのはいうまでもなかった。 クラヴィスの占いのとおり、ガラスの棺に入れて、全員でアンジェリークを森の湖近くまで運び、木陰に隠れて、監視することにした。 -----しばらくして、白馬に跨る、艶やかな銀の紙を持った青年が、颯爽とこの前を通りかかる。 黄金と翡翠が対をなす、不思議な瞳の持ち主だった。 「恐らくこのものだ・・・」 クラヴィスの言葉は、神聖に響き渡っていた----- |
コメント 35000番のキリ番を踏まれた、銀柳月鈴様のリクエストで、 『白雪姫』です。 次回から勿論・・・です!!(笑) |