三年生の卒業式も無事に終わり、いよいよ今日は外部の国立大学の合格発表。
報告するために、土曜日の放課後、多くの卒業生たちが学校に訪れている。
朝からアンジェリークはそわそわとしていた。
それは、愛する彼の発表の日でもあるから。
アリオス…、大丈夫かな・…
保健室の窓からぼんやりと外を見つめながら、彼女は祈るような気持ちだった。
本当は、学年末試験の直前でクラブのない今日は、彼女はもう帰ってもよかった。
だが、一人の生徒を待って、こうして残っている。
ふいに、聞きなれた足音が聞えて、彼女は思わず椅子から立ち上がる。
長いスタンスがわかる、軽やかでクールな足音が廊下に響いている。
「アリオスくん!」
可愛らしい声が聞えて、アンジェリークは思わず耳を欹てた。
「話が…、あるんだけれど・…」
はにかんだような声が聞え、その後に二人が一緒にどこかへ行く足音が聞えた。
もてるんだな…、アリオス…
そう思うと急に寂しくなり、彼女は思わず切ない溜め息を漏らす。
もし、彼が私に飽きたら、私はどうしたらいいんだろう…
だって、本当は、彼に相応しいのは、もっと若い、年相応の女の子だから…
自然と頬に涙が伝い、彼女はそれをごしごしと拭った。
私ってば、子供みたいね・…
「先生!」
聴きなれたテノールと共にドアが開き、彼女は潤んだ瞳のまま、顔を上げる。
「アンジェ!!」
その儚げな表情を見た瞬間、アリオスはそのまま彼女に駆け寄り、華奢な身体を抱きしめた。
「あ、アリオス…」
「どうした、何かあったのか?」
「…何でもない…」
視線を逸らそうとした彼女の顔を、彼h強引に両手ではさみこみ、見つめる。
「何にもない、じゃねえだろ! こんな顔して!」
「----アリオスは…、本当に私なんかで言いのかなって…んっ!」
そのまま激しく口づけられ、彼女は彼にしがみつく。
彼の舌が、彼女の舌や唇を丹念に愛撫し、味わい尽くす。
その深い口づけに、彼女はいつのまにか溺れていた。
ようやく開放されて、彼女は名残惜しげにそっと溜め息を吐く。
「おまえしかダメなのに決まってるんじゃねえか」
「だって。さっき・・・」
言いかけて、止めてしまった彼女の言葉に、アリオスは総てを悟った。
「----告白されたが、断ったぜ、ちゃんと。俺には大事な女がいるからってな」
「アリオス…」
涙の後に軽く唇を当てられ、彼女はその唇の温かさに、身体に甘い旋律を感じ、震える。
「ね、大学どうだったの?」
「俺が落ちるわけねえだろ?」
甘くて、少しクールな笑みを浮かべられて見つめられると、アンジェリークは胸の奥が甘い思いで満たされるのを感じる。
「よかった!!」
心から喜んでいるというのが伝わる、本当に嬉しそうな笑顔に、 アリオスは愛しげに目を細める。
アンジェリークのこういうところも、愛しくて堪らない。
彼はフッと愛しげに笑って、彼女の首筋に顔を埋めた。
「アリオス!?」
突然の彼の行動に、彼女は顔を真赤にさせて、恥ずかしさのあまりに身体を捩る。
「----あの約束覚えてるか?」
低く艶やかな声で囁かれて、アンジェリークの呼吸は何時しか早くなっていった。
「覚えてるわ…」
喘ぎながら囁かれる甘い声に、アリオスは強い欲情を覚える。
「だったら話は早えよな?」
そう言った瞬間、彼は彼女の首筋を音を立てて吸い上げ、そこに真赤な所有の痕を刻み込んだ。
「あっ! アリオス…、ダメ・…、ここじゃ・…」
彼の唇にうっとりと溺れながら、彼女は触れていて欲しい意志とは裏腹に、理性を振り絞って、なんとか彼の精悍な腕に掴まり、唇から逃れようとする。
「ダメじゃねえだろ? 俺は入試のせいで、折角思いの通じたおまえに触れることも出来ずに、禁欲生活を送ってたんだからな…」
繊細な指が白衣の上からアンジェリークの胸を大きさを確かめるかのように持ち上げる。
「やだっ! アリオス…! ここじゃ、お願い…!」
余りにも彼女が懇願するので、アリオスは仕方なく体を離す。
彼の愛撫に彼女の身体はすっかり熱くなってしまい、双丘の頂が張り詰めて、ブラウスの上からでも勃っているのがありありとわかる。
彼は、その身体に際限のない欲望が体の奥底からつきあがってくるのを感じたが、何とか理性で押さえ込もうとした。
「だったら、どこだったらいいんだよ? どこでもおまえと行くぜ? 但し、あんまり待ってやらねえからな・・・」
欲望に煙った翡翠と黄金が対をなす異色の瞳が、彼の我慢の限界を現している。
そして、アンジェリークも。
彼女の蒼い瞳が彼を求めるあまり深い色になってゆく。
お互いにもうこれ以上間があいたら、それこそその熱で焼かれて死んでしまうかもしれない。
「----すぐ着替えて追いかけるから…、この駅で待ってて。ここに私のアパートがあるから…」
彼女はさっとメモをかいて彼に渡す。
それは、彼の征服欲をさらに満足させる。
「サンキュ」
メモを大事そうに強く握り締めると、しっかりと頷く。
もうすぐ、おまえを俺のものにすることが出来る・…
彼の心の中は、期待と欲望、そして喜びに裏打ちされて、踊り出さんばかりになっている。
「待ってるから、絶対に来いよ。おまえなしじゃ俺がダメだってことを、その身体に刻み付けてやるからな」
「ん、私も、刻み付けてあげるわ・・・。私もあなたなしじゃダメだってことを…」
はにかんで、恥ずかしさの余り消え入るように笹やウ彼女に、アリオスは満足げに咽喉を鳴らして笑う。
「後でな?」
ついばむような口づけを彼はすると、そのまま保健室から出てゆく。
「さあ、私も帰る仕度をしなくちゃ・…」

アンジェリークは手早く保健室の片付けと、戸締りを済ませ、身支度もそこそこに学校を出た。
それでもアリオスよりも30分ほど遅く出ることになった。
アリオス、待っててね・…
愛しい彼のことを思うだけで、心臓の鼓動は早くなる。
彼のために、アンジェリークは素早く電車に飛び乗った。
最寄の駅に着くと、アリオスが待っていたとばかりに、彼女が改札から出てくるなり、その華奢な腰を抱いた。
「アリオス・…」
顔を赤らめて恥ずかしがる彼女にはお構いなしで、自分の所有欲をあからさまに彼女に突きつける。
「行こうぜ? 早くおまえを食べたい。覚悟しとけよ?」
一瞬のの隙をついて、彼は彼女の耳を甘く噛むと、わざと艶やかに囁く。
「もう…、バカ…」
その婀娜めいた彼女の表情が見たくて、彼はついついからかってしまうのだ。
二人は、彼女のアパートにつくまで、お互いの身体を離すことなく、砂糖菓子すらとろけるようなやり取りを繰り返していた----
「ここが私の部屋なの、入って?」
照れくさそうにアンジェリークは自室のドアを開けると、彼を中に迎え入れた。
部屋はTDKの小さなものだったが、シンプルにすっきりとまとめられたインテリアは彼女らしくて、彼は嬉しかった。
「ベットはどこだ?」
「ちょっといきなり、きゃっ!」
玄関先で抱きかかえられ、彼は中へと入る。
彼女は恥ずかしくなって、彼の首筋に顔を埋めながら、 震えるような小さな声でベットの位置を教えた。
彼女のベットは、綺麗にベットメイキングがしてあった。
黄色いリネンが掛けられた、女性用の小さなシングルベット。
それは、アリオスをこの上なく満足させる。
少なくても、このベットは他の男の形跡はねえな・・・。
言っても、きっと、俺が初めての男だろうけどな・…
「アンジェ・…」
彼女を優しくベットに寝かしつけると、彼もその上に覆い被さる。
部屋にはベットのスプリングが軋む音だけがする。
彼が彼女の唇に口づけた瞬間、二人の愛の時間は幕を開けた-----