「今日はレヴィアス帰ってくるのが早いって言ってたわよね。今日が夜勤明けで、明日はお休み…」 アンジェリークは、幸せそうにふふっと笑うと、買い物カゴに夕食の食材を入れる。 夫のレヴィアスとは、紆余曲折を経てようやく掴んだ幸せである。 その幸せが、嬉しくてたまらない。 彼のために食事を作ってあげて、いろいろとこまやかな世話をする。 それだけでも、アンジェリークは幸せだった。 夕食の材料をスーパーで買い込んだ後、アンジェリークはゆっくりと自宅マンションまで歩き始める。 暫く、歩いていると、不意に遠くに見慣れた後姿が見えたので、思わず立ち止まって、目を凝らした。 レヴィアスだ! 荷物持ってもらおうかな〜。 そう考えて一歩踏み出したとき、アンジェリークははっと息を飲む。 レヴィアス・…。 先ほどまで機嫌のよさげな彼女の表情が、一気に暗くなり、蒼白になった。 そこにいたのは、レヴィアス。 そして仲の良さそうに話す美しい大人の女性。 全身に震えが走る。 悔しさと裏いられた気分と嫉妬が渦巻いて、アンジェリークの大きな瞳から涙が零れ落ちる。 レヴィアスのバカ!!! アンジェリークは踵を返して、マンションとは反対方向に歩き出す。 戻らないもん…!!! 鼻をすすりながら、アンジェリークは肩を引き攣らせて歩く。 人々が見ていても、構わずにアンジェリークは泣いていた。 「すまなかった。これで妻も喜ぶと思う…」 「レヴィアス先生は奥様孝行なんですね?」 くすっと笑う同僚の看護婦に、レヴィアスは心地悪かった。 少し恥ずかしいというのが本音だが。 信号を渡ろうとして待っていると、レヴィアスの視界に、泣きながら歩く栗色の紙の少女が入ってきた。 その華奢な体つきから見て、間違いなく自分の妻だということがわかった。 アンジェ…。 どうして泣いている…。 「すまない。妻がそこで歩いているようだ。先に失礼していいか?」 「はい、先生!」 信号が変わるなり、レヴィアスは渡り、アンジェリークに向かって走り始めた。 「アンジェ!!」 聴きなれた艶やかな声が背中から聞こえてくる。 思わず彼女は早歩きをする。 「おい、待て」 その声にも、彼女は首を振るだけ。 「アンジェ」 やはり彼は背が高く、足が長いせいで歩幅も大きいせいか、すぐにアンジェリークに追いついてきた。 肩を持てば振り切られる。 「アンジェ?」 何度も名前を呼んでも彼女は答えない。 「重いだろう」 そう言って荷物を持とうとすれば、それらを押しつけられる。 「アンジェ、マンションはあっちだ。そこに車も止めてある。帰ろう」 ぐいっと腕を掴めば、ようやく涙目のアンジェリークが、振り向きレウ゛ィアスをキッと睨んだ。 「帰らない! 実家に帰るの! 離して!」 「アンジェ!」 彼はさらに彼女をぐっと引き寄せる。 「離してよ〜! レウ゛ィアスなんか、あの女の人とどこかへ行っちゃえばいいでしょう〜!!!」 「!!!」 その一言で全てが読めた。レウ゛ィアスは、よく独占欲が有り余って、嫉妬をして彼女を困らせたりするが、アンジェリークがそうするのは初めてだった。 その拗ねる彼女がどうしようもないほど可愛らしい。 アンジェ・・! なんて可愛い!! 「あいつは、ただの後輩だ。ちょっと用事をしただけだ」 「”あいつ”だなんて、随分親しそうじゃない!!」 もがきながら、彼の腕を振り払おうとするアンジェリークを、彼はさらに力を込めて制した。 「ヤダ! 痛いってば!」 「すまん」 少し彼が力を抜いた途端、彼女は腕からすり抜ける。 「待て!」 「きゃっ!」 そのままレウ゛ィアスの腕の中に閉じ込められてしまい、アンジェリークは甘い悲鳴を上げた。 「離してよ! 実家に帰るんだから!」 「おまえは俺と一緒に帰る」 抱き上げられて、アンジェリークは真っ赤になる。 「下ろして〜!」 「抵抗するからだ」 低く甘い声で囁くと、レウ゛ィアスはアンジェリークを駐車場まで運んで行った。 流石に、この恥ずかしいシチュエーションで、暴れたり叫んだりするわけには行かなくて、アンジェリークは少しだけおとなしくなった。 だが、車に乗せられるなり、ドアを開けて、出ようとする。 「アンジェ!」 「イヤ! 家には帰らないもん! 離婚するんだから!」 泣きながら拗ねる彼女が可愛くてしょうがない。 腕の中に華奢な体を閉じ込めながら、レウ゛ィアスは魅惑的な笑みをこぼしたそれがアンジェリークの目に止まる。 「何笑ってんのよ!! バカ! レウ゛ィアスのすけべ〜! 放してよ!! バカ〜!! もう! 離婚よ〜!!」 暴れる彼女を、レウ゛ィアスは強くしっかりと抱き締めて、離さないようにする。 可愛くてたまらなくて、流れ落ちる涙を、唇で受け止めてやった。 「アンジェ」 「レウ゛ィアスの浮気者〜!! 離してよ!」 「浮気はしていない!」 「だってさっきの女の人・・・んっ!!」 そのまま、優しく塞ぐようにキスをされて、アンジェリークから力が抜けていく。 本当に、壊れ物を扱うかのように優しくしたで愛撫され、宥められて行く。 「アンジェ・・・、可愛いな? おまえは」 「そ、そんなんじゃ、だまされないんだから・・・」 柔らかに笑うと、レウ゛ィアスは、車のエンジンを掛ける。 「ちょっと、待って、イヤだってば〜!!」 まるで幼子のようにいやいやとするアンジェリークに、レウ゛ィアスは目を細めて愛しげに見つめ、肩を抱く。 「やだもん! 嫌いよ! レウ゛ィアス」 やきもちを嫉く彼女が凄く可愛くて、レウ゛ィアスは、ハンドルを握りながら、彼女を抱いて離さない。「アンジェ、子供ができたら、ふたりも子供が増えると、困る」 「またそうやって子供扱いする〜! どうせ私は、さっきの女の人に比べて子供よ〜!」 さらに拗ねる彼女を抱き締め、彼は優しく宥めた。 「こら、おまえのことじゃない。俺たちの子供のことだ」 「え?」 涙で濡れた瞳を、彼女は彼に向ける。きょとんとしたまなざしが可愛くて、彼を惹きつけてやまない 「エルンストと相談して、そろそろ子供を作ってもいいだろうということになってな? おまえも欲しがっているし・・・」 その言葉に、アンジェリークは少しはにかんだ笑顔を浮かべた。 今日のアンジェは可愛すぎる・・・。 駄目だ、早く連れて帰らないと、襲ってしまう・・・。 先程の言葉でアンジェリークはうっとりとしている。 その隙にレウ゛ィアスは抱擁を解くと、ハンドルを握り、車を発進させた。 「ちょっと、レウ゛ィアス」 発車したことにうろたえながら、アンジェリークはレウ゛ィアスを見つめる。 「家で、俺が浮気してないことをたっぷり、おまえの体に教えてやる・・・。子づくりにもなる」 真顔で言われて、アンジェリークは再びぷんすかモードに入った。 「もう! レウ゛ィアスのスケベ〜!!!」 彼女の言葉にも、レウ゛ィアスは微笑んでいるだけ。 車は、一路官能が待つ場所へと向かっていた。 |