「コレット、そなたは、イェール大学をオールAで卒業し、FBIアカデミーでも優秀な成績だったらしいな?」 配属先の上司であるジュリアスに、書類を見ながら言われて、アンジェリークは少し緊張な面差しでそれを聞いていた。 「いえ…、2,3個、Aマイナスはありましたが…」 「だが、優秀なのには違いない」 かみ締めるように呟くと、ジュリアスは席から立ち上がった。 「早速だが、任務についてもらうことになる。----そなた、アリオスという名を聞いたことがあるか…」 「ええ。ハリウッドすらも牛耳るという凄腕マフィアのボスですね」 優等生らしい答え方を、彼女はする。 「そなたには、アリオスをマークする任務を命ずる」 一瞬、驚愕の余り、彼女は息を飲んだ。 「私に…、そんな大役が務まるんでしょうか…」 僅かに声を震わせて呟く彼女に、ジュリアスはふっと深い微笑を浮かべる。 「そなたが出来ると思ったからだ」 言って、ジュリアスは彼女の前に、携帯電話と銃、そして車のキーを差し出した。 「携帯は連絡のときに使え。一日一度は必ず私に連絡をすること。銃は、まあ、危険はないと思うが、一応携帯しておけ。そなたの任務はあくまで、アリオスの行動を見張ることだけだ。それ以上のことはしてはならぬ」 ジュリアスの鋭い刺のある視線を送られて、アンジェリークは思わず身体をびくりとさせる。 ジュリアス支局長の眼差しって苦手だな… 「以上だ。おまえの車は、白いトーラス。駐車場においてある。それを使って、アリオスを尾行しろ。これがやつの潜伏しそうな場所だ。ほとんど女のところばかりだ。参考にしろ」 「はい」 アンジェリークは、仕事にかかわる七つ道具をジュリアスから受け取ると、それをしっかりとバックに詰め込む。 「しっかりな。おまえの任務は重要だ」 「はい」 凛とした声で挨拶をし、アンジェリークは敬礼すると、背筋を伸ばし支局長室から出てゆく。 その華奢だが、強さを秘めた背中を見送りながら、ジュリアスは心の中で呟く。 コレット、おまえの任務は重要だ…。 あいつの尻尾をつかむいいチャンスなのだ…。 非情と言われても、私はそなたを信じて使う。 ----おまえは、きっとやつの心をつかんでしまうだろうから… ジュリアスの思惑など、露知らずのアンジェリークは、初任務に緊張を覚えながらも、どこか期待をしていた。 初仕事で、あのアリオスにお目にかかれるなんて、私はついているのか、いないのか…。 プレイボーイで、どうしようもないたらしだって聞いた。 まあ、男前みたいだから、目の保養にはなるかしら? 駐車場に向かうと、彼女は自分に与えられた車へと乗り込む。 そこで銃をホルスターに直し、ジュリアスから渡された資料の中のアリオスの写真を見つめる。 サングラス姿だが、銀の髪をしていて、整った顔立ちなのがわかる。 女の人の人生を狂わせるような男性ね… しげしげと写真を見つめながら、彼女はふっと微笑む。 まあ、私は狂わせられることはないけどね。 人差し指で写真をピンと弾く。 だが彼女は知らない。 彼が"運命の恋人”になることを---- そんな未来なぞ露知らず、アンジェリークは車をゆっくりと発進させた---- ------------------------------- 「ひょっとして、彼かしら…」 アリオスの"情婦”あるいは、”側近”と呼ばれる部下たちの自宅や、会社と称する実質は”乗っ取り屋”の本社などを回り、彼を見つけたのは、やはり、女の家。 そこから出てきた彼は、とても危険な魅力がまとわりつき、野性的で、くらくらするほど素敵だ。 まさに彼の別名である、”銀の狼”という表現がぴったりとはまった。 写真で見るよりも、実際の彼は、かなり格好良かった。 相変わらずサングラスをしていたが、それが憎らしくも良く似合う。 アンジェリークは、思わず見惚れてしまう。 彼が一瞬こっちを見たような気がしたが、そのままどこかへ歩いてゆく。 長身の彼が歩く姿は、とてもクールで、長い足を強調するかのように、長いスタンスで歩いている。 「あっ、追いかけなくっちゃ」 ぼうっと見とれていた彼女は、慌てて車のエンジンを掛ける。 さっき、こっちを見られたような気がして、一瞬、ドキッとした…。 憎らしいけれど、なんて素敵なんだろうか… そう思わずに入られない。 着任早々、彼女は、アリオスの姿心奪われてしまった。 ------------------------------- それから一週間。 彼女は相変わらずアリオスの後を追っては、ジュリアスに報告する日々を続けていた。 あ〜、お尻痛い…。もう何日もこの状態…。 しかし…。 ちらりと、もう何人目か判らない情婦の家から出てきたアリオスを、彼女はちらりと、少し恨めしそうに横目で見やる。 「だけど、お盛んよね〜」 なんだか悔しくなってきて彼女はため息を吐いた。 この一週間、彼を監視していて判った事は、彼は昔のマフィアとは違い、微視ネスを優先させている新型のマフィアだと言うことだった。 アル・カポネしか知らなかったアンジェリークびとってはこれは驚きだった。ただ、やっていることと言えば、"企業の乗っ取り"だから、全く健全ではないのだが…。 その上、あっちもお盛んだと言うこと。 ところ構わず情婦を囲い、通っていると言ううことを。 「あ、また動いたわ。この人は、休むことを知らないのかしら…」 彼女はそのまま、アリオスの愛車であるインターン・コンチネンタルの後を、すごすごと進んでゆく。 二台の車は、都心を駆け抜け、郊外にある小さな教会の前で止まった。 「あれ…、ここは…!!」 その場所は、アンジェリークが中学までいた、教会の付属の孤児院だった。 どうしてこんなところに… 考え込んでいると、不意に車のウィンドウを叩かれ、彼女ははっとした。 「…!!!」 そこにいたのは、彼女が確かに追いかけているアリオスだった。 いつもと違って、サングラスを掛けず、甘さを滲ませた微笑を浮かべてる。 彼女は驚きつつも、つい彼の不思議な眼差しに見入ってしまう。 黄金と翡翠が対をなす異色の瞳は、とても神秘的で美しい。 「おい、開けろ?」 口の動きでそうだと判ったが、彼女は恐ろしくて窓を開けることなんて出来ない。 や〜ん、ばれちゃった〜 背中に冷たいものが流れるのを感じ、彼女は栗色の髪を何度も振って否定する。 彼はあきらめたのか一瞬肩をすくめる。 だが。 持っていた、針金のようなものをドアの鍵穴に入れて、彼はあっさりロックを解き、いきなりドアを開けた。 途端にアンジェリークは身体を小刻みに震わせながら固くし、その表情を強張らせる。 「おい、そんな顔をするな? FBIのペーペーさん?」 イメージどおりの艶やかなテノールに彼女は惹かれる衝動を何とか抑えながら、彼の言葉に驚きを隠せない。 どうして私のことを… 目を丸くする彼女に、彼はクッと喉を鳴らして笑う。 「FBIアカデミーを出たばかりの新人さんには、俺の鼻腔は役不足だぜ?」 「ど、どうして、それ…、ん…っ!!」 いきなり細い腕をつかまれたかと思うと、次の瞬間には、彼に深く唇を奪われていた。 何とかアリオスから逃れようとして、彼女は身体を捩ったが、彼の力の前ではあっさり屈する。 深く吸われ、舌で十分に口腔内を愛撫されて、身体から力が抜けてくる。 ようやく離されたとき、彼女は思わず身体から力が抜けるのを感じた。 「俺を尾行してたら高くつくぜ? FBI捜査官さん?」 |
コメント
500番のキリ番を踏まれたユーリ様のリクエストで、、「マフィアのボスのアリオスと、彼を追う新米女刑事アンジェ」です。
まだまだ、長くなりますので、ユーリ様も皆様もよろしくお願いします!!
まだぜんぜん、それっぽくないですが…(笑)