Nothig Compares To You

CHAPTER 1


「コレット、そなたは、イェール大学をオールAで卒業し、FBIアカデミーでも優秀な成績だったらしいな?」
 配属先の上司であるジュリアスに、書類を見ながら言われて、アンジェリークは少し緊張な面差しでそれを聞いていた。
「いえ…、2,3個、Aマイナスはありましたが…」
「だが、優秀なのには違いない」
 かみ締めるように呟くと、ジュリアスは席から立ち上がった。
「早速だが、任務についてもらうことになる。----そなた、アリオスという名を聞いたことがあるか…」
「ええ。ハリウッドすらも牛耳るという凄腕マフィアのボスですね」
 優等生らしい答え方を、彼女はする。
「そなたには、アリオスをマークする任務を命ずる」
 一瞬、驚愕の余り、彼女は息を飲んだ。
「私に…、そんな大役が務まるんでしょうか…」
 僅かに声を震わせて呟く彼女に、ジュリアスはふっと深い微笑を浮かべる。
「そなたが出来ると思ったからだ」
 言って、ジュリアスは彼女の前に、携帯電話と銃、そして車のキーを差し出した。
「携帯は連絡のときに使え。一日一度は必ず私に連絡をすること。銃は、まあ、危険はないと思うが、一応携帯しておけ。そなたの任務はあくまで、アリオスの行動を見張ることだけだ。それ以上のことはしてはならぬ」
 ジュリアスの鋭い刺のある視線を送られて、アンジェリークは思わず身体をびくりとさせる。

 ジュリアス支局長の眼差しって苦手だな…

「以上だ。おまえの車は、白いトーラス。駐車場においてある。それを使って、アリオスを尾行しろ。これがやつの潜伏しそうな場所だ。ほとんど女のところばかりだ。参考にしろ」
「はい」
 アンジェリークは、仕事にかかわる七つ道具をジュリアスから受け取ると、それをしっかりとバックに詰め込む。
「しっかりな。おまえの任務は重要だ」
「はい」
 凛とした声で挨拶をし、アンジェリークは敬礼すると、背筋を伸ばし支局長室から出てゆく。
 その華奢だが、強さを秘めた背中を見送りながら、ジュリアスは心の中で呟く。

 コレット、おまえの任務は重要だ…。
 あいつの尻尾をつかむいいチャンスなのだ…。
 非情と言われても、私はそなたを信じて使う。
 ----おまえは、きっとやつの心をつかんでしまうだろうから…

 ジュリアスの思惑など、露知らずのアンジェリークは、初任務に緊張を覚えながらも、どこか期待をしていた。

 初仕事で、あのアリオスにお目にかかれるなんて、私はついているのか、いないのか…。
 プレイボーイで、どうしようもないたらしだって聞いた。
 まあ、男前みたいだから、目の保養にはなるかしら?

 駐車場に向かうと、彼女は自分に与えられた車へと乗り込む。
 そこで銃をホルスターに直し、ジュリアスから渡された資料の中のアリオスの写真を見つめる。
 サングラス姿だが、銀の髪をしていて、整った顔立ちなのがわかる。

 女の人の人生を狂わせるような男性ね…

 しげしげと写真を見つめながら、彼女はふっと微笑む。

 まあ、私は狂わせられることはないけどね。

 人差し指で写真をピンと弾く。
 だが彼女は知らない。
 彼が"運命の恋人”になることを----
 そんな未来なぞ露知らず、アンジェリークは車をゆっくりと発進させた----

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「ひょっとして、彼かしら…」
 アリオスの"情婦”あるいは、”側近”と呼ばれる部下たちの自宅や、会社と称する実質は”乗っ取り屋”の本社などを回り、彼を見つけたのは、やはり、女の家。
 そこから出てきた彼は、とても危険な魅力がまとわりつき、野性的で、くらくらするほど素敵だ。
 まさに彼の別名である、”銀の狼”という表現がぴったりとはまった。
 写真で見るよりも、実際の彼は、かなり格好良かった。
 相変わらずサングラスをしていたが、それが憎らしくも良く似合う。
 アンジェリークは、思わず見惚れてしまう。
 彼が一瞬こっちを見たような気がしたが、そのままどこかへ歩いてゆく。
 長身の彼が歩く姿は、とてもクールで、長い足を強調するかのように、長いスタンスで歩いている。
「あっ、追いかけなくっちゃ」
 ぼうっと見とれていた彼女は、慌てて車のエンジンを掛ける。

 さっき、こっちを見られたような気がして、一瞬、ドキッとした…。
 憎らしいけれど、なんて素敵なんだろうか…

 そう思わずに入られない。
 着任早々、彼女は、アリオスの姿心奪われてしまった。

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 それから一週間。
 彼女は相変わらずアリオスの後を追っては、ジュリアスに報告する日々を続けていた。

 あ〜、お尻痛い…。もう何日もこの状態…。
 しかし…。

 ちらりと、もう何人目か判らない情婦の家から出てきたアリオスを、彼女はちらりと、少し恨めしそうに横目で見やる。
「だけど、お盛んよね〜」
 なんだか悔しくなってきて彼女はため息を吐いた。
 この一週間、彼を監視していて判った事は、彼は昔のマフィアとは違い、微視ネスを優先させている新型のマフィアだと言うことだった。
 アル・カポネしか知らなかったアンジェリークびとってはこれは驚きだった。ただ、やっていることと言えば、"企業の乗っ取り"だから、全く健全ではないのだが…。
 その上、あっちもお盛んだと言うこと。
 ところ構わず情婦を囲い、通っていると言ううことを。
「あ、また動いたわ。この人は、休むことを知らないのかしら…」
 彼女はそのまま、アリオスの愛車であるインターン・コンチネンタルの後を、すごすごと進んでゆく。
 二台の車は、都心を駆け抜け、郊外にある小さな教会の前で止まった。
「あれ…、ここは…!!」
 その場所は、アンジェリークが中学までいた、教会の付属の孤児院だった。

 どうしてこんなところに…

 考え込んでいると、不意に車のウィンドウを叩かれ、彼女ははっとした。
「…!!!」
 そこにいたのは、彼女が確かに追いかけているアリオスだった。
 いつもと違って、サングラスを掛けず、甘さを滲ませた微笑を浮かべてる。
 彼女は驚きつつも、つい彼の不思議な眼差しに見入ってしまう。
 黄金と翡翠が対をなす異色の瞳は、とても神秘的で美しい。
「おい、開けろ?」
 口の動きでそうだと判ったが、彼女は恐ろしくて窓を開けることなんて出来ない。

 や〜ん、ばれちゃった〜

 背中に冷たいものが流れるのを感じ、彼女は栗色の髪を何度も振って否定する。

 彼はあきらめたのか一瞬肩をすくめる。
 だが。
 持っていた、針金のようなものをドアの鍵穴に入れて、彼はあっさりロックを解き、いきなりドアを開けた。
 途端にアンジェリークは身体を小刻みに震わせながら固くし、その表情を強張らせる。
「おい、そんな顔をするな? FBIのペーペーさん?」
 イメージどおりの艶やかなテノールに彼女は惹かれる衝動を何とか抑えながら、彼の言葉に驚きを隠せない。

 どうして私のことを…

 目を丸くする彼女に、彼はクッと喉を鳴らして笑う。
「FBIアカデミーを出たばかりの新人さんには、俺の鼻腔は役不足だぜ?」
「ど、どうして、それ…、ん…っ!!」
 いきなり細い腕をつかまれたかと思うと、次の瞬間には、彼に深く唇を奪われていた。
 何とかアリオスから逃れようとして、彼女は身体を捩ったが、彼の力の前ではあっさり屈する。
 深く吸われ、舌で十分に口腔内を愛撫されて、身体から力が抜けてくる。
 ようやく離されたとき、彼女は思わず身体から力が抜けるのを感じた。
「俺を尾行してたら高くつくぜ? FBI捜査官さん?」
TO BE CONTINUED…




コメント
500番のキリ番を踏まれたユーリ様のリクエストで、、「マフィアのボスのアリオスと、彼を追う新米女刑事アンジェ」です。
まだまだ、長くなりますので、ユーリ様も皆様もよろしくお願いします!!
まだぜんぜん、それっぽくないですが…(笑)