METRO POLIS

前編


 俺と暮らす”アンジェリーク”は、レプリカント。
 ふつう”レプリ”は、感情を持ってあるのだが、こいつはそれがまだ目覚めない。
 今や、レプリカントは人間と同じ機能を持ち、人間と結婚する者も少なくない。
 だが、アンジェリークはどこをどう間違ったか、感情がない一昔前の”ロボット”のようなのだ。
 我がアルウ゛ィース財団の英知を集め、人間と寸分違わぬよう設計され、子供すらも宿してしまえる”アンジェリーク”。
 結局、”感情面”が不完全で、今、俺の手元にいる。

「アンジェ、ただいま」
「お帰りなさい、アリオス」
 いつもの感情が籠っていない挨拶にも、アリオスは慣れ始めていた。
「鞄、下さい」
 大きな青緑の瞳を彼に向け、小首を傾げる姿が何とも愛らしい。
 こういう可愛らしさが、コンツェルン総裁であるアリオスが、アンジェリークを側に置こうとした理由だった。
「頼んだ」
 アリオスが鞄を差し出したのと、アンジェリークが手を差し出したのが、ほぼ同時で、二人の指先が、ほんの少し触れ合った。
 その途端、アンジェリークは、びくりと体を震わせ、手を引っ込めてしまった。
 それはアンジェリークが初めて示した”感情”だった。
 その劇的な変化にアリオスは目を見張る。
「アンジェ・…」
 彼が声を掛けると、彼女は初めて不安げな光を大きな瞳に宿した。
「どうした?」
「アリオスと触れ合ったら、びびっと電流が流れた…」
 相変わらず、言葉には感情はこもっていなかったが、それでも大きな変化だった。
「アンジェ、馴れていないだけだ…。俺が馴れさせてやるから…」
「ホント?」
「ああ」
 くしゃりと栗色の髪を撫でてやると、彼女は僅かに頷いて見せた。

 ゆっくりと教えてやれば、目覚めるかもしれねえ・・・。
 こいつは、”愛の営み”によって目を覚ますのかもしれない…

「アンジェ、俺に触れられるのは嫌か?」
「嫌じゃないと思う・・・、けど・・・、判らない…」
 やはり余り判らないのか、アンジェリークは小首を傾げた。
「教えてやるよ・・・、一つずつ」
 彼女の顎を上げると、そのまま唇を近付ける。
「ん・・・?」
 ゆっくりと唇を吸い上げ始めた。
「ふあっ」
 軽く吸い上げただけで甘い声を上げる彼女に、アリオスは満足そうに見つめた。
「この感覚は何?」
 大きな瞳を潤ませて、彼を見つめる彼女に、彼は笑って抱き締めてやる。
「いい気持ちか?」
「いい・・・気持ち? もっと触れて欲しいってこと?」
「ああ」
 彼の言葉に、彼女の瞳は明るく光る。
 そして、いつしかその頬が赤く染められていった。
「だったら、もっと…、触れて欲しい…」
 彼女の変化は、益々、アリオスの気持ちを高ぶらせる。
「可愛いな…? おまえは自分がこうしたいって思うことをすればいい。そうすれば、感情だって、どんなものかわかるようになるぞ?」
「うん…。
 だったら、アリオス、私に触れていて?」
「ああ」
 そのまま彼女を抱き上げると、彼は、寝室へと向かった。
 彼女はそのままベットの上に座らされて、きょとんとしている。
「アリオス、ごはんは? 折角作ったのに」
「メシよりおまえに触れていてえ、嫌か?」
 いつもよりもずっと優しくアリオスに囁かれて、アンジェリークは心の奥底が暖かくなるのを感じた。
 同時に、少し甘くゾクリとする感覚も感じる。
「…うん…、私もそのほうがいい…」
「アンジェ…」
 彼女はこのとき、初めて、自分の意志に忠実になったのだ。
「目、閉じろよ?」
「うん…」
 アリオスに言われた通りに瞳を閉じて、彼女はその唇を待ちわびる。

 俺が作った”人形”のはずなのに…。
 こいつに触れるだけで胸がガキみてえに騒ぎやがる…
 全く罪なやつだ・・

 アリオスは、その柔らかな唇に自分の唇を当て、貪るように唇を吸い上げ始めた。
 感情が未発達なアンジェリークに、彼は少しずる教え始めた。
「ん・・・っ!」
「そうだ…、感じたら素直に声を出せ?」
「感じる…?」
「気持ちよかったらだ…」
 淫らな彼の教育にも、彼女は余りにも従順で。
「気持ちいいから…」
「ああ」
 うっとりと、彼の唇に溺れるアンジェリークに、アリオスのレッスンは続く。
「少しだけ口を開けろ…」
「うん・・・あっ!」
 ほんの少し唇を開ければ、そこに彼の舌が割って入ってくる。
 その余りにもの感覚に、彼女は全身の力が抜け始めた。

 私は…、アリオスに作ってもらったのに・…。
 どうしてこんなに感じてしまうの…?

「はあん」
 彼に口腔内を愛撫されると、何も考えられなくて。
 もっと彼が与えてくれる刺激が欲しくなってしまう。。
 甘い吐息が何度も漏れて、彼女は誰にも教わっていないのに、アリオスの服にしがみつく。
 突然、彼の唇が離されてしまって、彼女は講義の声を上げた。
「ダメ…」
「ダメじゃねえよ…」
 彼は、彼女の唇の周りについた、どちらかともわからない唾液をぺろりとなめ上げて、彼女はそれだけで彼にもたれかかってしまう。
 まだなれていない証拠。
 彼によって、ようやく感情が湧き出始めているのだ。
「おまえ…、すげえ可愛いぜ?」
「最高?」
「ああ、最高だ」
 そのまま、アリオスは彼女に顔を近づける。
「今度は俺が舌を入れたら、おまえも俺の舌に自分のをからませろ」
「ん…」
 少しはにかんではいるものの、彼女は従順だ。
 その総てが可愛くて、たまらなくて、アリオスは再び夢中で彼女の唇を貪った。
「ああ・・・」
 最初はぎこちなかった彼女の舌も、彼に誘導されるたびに上手く動くようになる。
 経験豊富なアリオスですらも、その絡み合いに、夢中になってしまう。

 こんなに夢中になれるなんて…
 もう、俺はこいつを離せねえ…

 二人は互いの赴くままに唇を貪りあい、舌を絡ませあう。
 ようやく唇が離されたときは、二人の唇の周りは、唾液で光っていた。
「アリオス…」
「ん? 何だ?」
 おずおずとアンジェリークはアリオスの唇のまわりに舌を這わせ、それを舐めとってゆく。
「アンジェ!」
 彼はもうたまらなくなる。
 欲望を押さえることなんて出来ない。
「おまえが欲しい…」
「ああっ」
 そのままアンジェリークはベットに押し倒されて、目くるめく、”レッスン”の時間が訪れた---- 

コメント

本館30000番のキリ番を踏まれたさくら様のリクエストで、
『アンドロイドのアンジェリークが、アリオスに教えられて感情に目覚めてゆく』です。
丁度タイムリーなことに衛星で『ブレードランナー』をやっているので、脱線しながら書かせていただきました。
ちなみに『レプリカント』って造語なんですよ〜。