Hot Blackout


「アリオス、ちゃんと真面目に答えてる!?」
「ああ。ちゃんと、お子様の文芸紙にはぴったりの受け応えをしているとおもうぜ?」
 余裕を持ったアリオスの言葉に、アンジェリークは唇を尖らせる。
 子供のようなしぐさもまた魅力的な少女。
 それがアンジェリークだ。
「アリオス、これは真面目な文芸部の機関紙なの! ちゃんと答えてよ」
「はいはい。大体、おまえも俺がたまたまおまえの幼馴染みだからって、インタビューを企画するのは安易なんだよ」
「だって知っている作家ってアリオスしかいないもの・・・」
 拗ねていると、不意に辺りが真っ暗になった。
「いやっ! 何したのよ! アリオスっ!イタズラは禁止よっ!」
「ちげえよ。停電だ」
「て、停電!?」
 アンジェリークは怖くて、手探りで窓の外を見に行こうとする。
「おいっ、どこ見てんだよ!? その視野の狭さは問題だぜ?」
「・・・だって、真っ黒で何にも見えないんだもん・・・」
 アンジェリークはすっかりべそをかいてしまい、いつもの元気はから元気になってしまっている。
「ほら、停電かどうか外を見せてやるよ。暑いから窓を開けねえといけねえし・・・」
「きゃっ!」
 アリオスはアンジェリークを抱き上げると、広い広いバルコニーに面する場所まで歩いていき窓を開けた。
「ほら、どこも電気はついていねえ。街灯すらな」
「ホンとだ・・・」
「こうしていると、まあまあ涼しいよな」
 アリオスの腕だけが熱くて、アンジェリークは甘く心をかき乱された。
「少し座ってやりすごすか。窓際にいたほうが涼しいらしいからな」
「うん」
「こんなんだと、おまえを家まで送っていってやれねえからな。危なくて」
 頷きながら、暗闇の中では妙に意識せずにはいられなかった。
「ラジオと懐中電灯取ってくるか?」
「うん・・・あ、待って!」
 単独で立ち上がったアリオスを、アンジェリークは思わず引っ張る。ひとりにはなりたくなかった。
「一緒に行く・・・」
「しょうがねえな」
 アリオスは苦笑すると、アンジェリークの小さな手を繋いでやってゆっくりと歩いて、懐中電灯とラジオを取りにいった。
 アリオスはきちんと整理が出来ているので、すぐに目的のものは調達出来る。
「アリオス、以前上げたアロマキャンドルも明かりとして使おうよ」
「そうだな」
 アリオスは寝室に向かいサイドボードから、アロマキャンドルを取り出してくれた。
「おまえ、ガキの時と同じだな? 雷とかの時もいつもこうやってくっついてよ」
「だって、怖いものは怖いんだもんっ!」
 アンジェリークはアリオスのシャツを握り締めたまま、ちょこまかと着いていく。
「窓際に行くと、すごく涼しいかもしれねえぜ」
「うん、そうする」
 リビングの窓際にふたりは座りこんで、夜風に当たって涼んでいる。
「もうすぐ秋ね。涼しい風になってきたもんね」
「そうだな・・・」
 まだ停電になったのが夜で良かったと感謝しながら、ふたりは風に吹かれていた。
「明かり点けるか」
「うん」
 停電の日に、こうしてアリオスと一緒にいられるのが凄く嬉しかった。
 アロマキャンドルを点し、ふたりは幻想的な炎を見つめる。
「綺麗ね」
「空も見てみろよ。すげえ星が綺麗だぜ」
 アリオスに導かれて、外を見上げると、いつもは見えないあまたの星が見える。
「ホント綺麗だわ・・・」
 まるで子供の頃と同じように、ふたりは膝小僧を抱えて空を見上げる。
「停電終わったら送ってやる。最悪、うちに泊まらなくっちゃならねえが・・・」
 泊まる。
 その響きに、アンジェリークはドキリとした。
「部屋は複数あるから、変な心配はすんな」
 くしゃりと髪を撫でられて、アンジェリークは少し切なくなる。

 アリオス・・・。
 私、もう子供じゃないのよ・・・。
 女なのよ・・・。

 切ない気分を知られたくなくて、アンジェリークはわざと空を見ることに集中する。
「なかなか停電は治まらないね」
「だな。まあ、俺としたら良い言い訳になるからな。停電で暗すぎて原稿が書けなかったってな」
 アリオスは少し含み笑いを浮かべながら、煙草を宙にふかした。
 ふたりで他愛のないことをぽつぽつと話しながら、時間をやりすごす。
「何だかね、こうしているとアリオスと私しかこの世界にはいないんじゃないかって思っちゃう・・・」
 ロマンティスト過ぎるとアリオスが思うんじゃないかと思いながら、アンジェリークはぽつりと呟いてみた。
「この世界に俺たちだけか・・・。マジそんな気分になるな・・・。俺たちがこの宇宙のアダムとイウ゛みてえだな」
 それだったら、どんなに嬉しいことだろうか。
 アンジェリークははにかみながら頷くと、アリオスの指先がアンジェリークのそれに触れてくる。
「俺たちが本当のアダムとイウ゛になるか?」
「あ・・・、またからかって・・・」
 アンジェリークは恥ずかしそうに俯いた。
 指先が触れ合うだけで、アンジェリークの心臓は何度も音を立てて、アリオスへの想いを刻んでいる。
「試してみるか? アダムとイウ゛」
「えっ!?」
 アンジェリークが息を飲むと同時に、アリオスが抱き締めてきた。
 熱い肌がとても甘く乱してくる。
「アリオス・・・」
「停電が終わったとしても、アダムとイウ゛になろうぜ」
 アリオスのしっとりと甘い唇がいきなり迫ってきた。大好きな男性の唇はとてもしっとりと包みこんでくる。
 甘いキスは極上のワインと同じ味がしたような気がした。
コメント

NYで大停電があったので、タイムリーに(笑)
停電の時って出生率が上がるそうです(笑)
おもろいなあ。
10パーセントぐらい上がるそうです。
ふたりも子作りか(笑)






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